上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第23話(4) 賢さと素早さと粘り強さと

公開日時: 2022年11月9日(水) 08:44
文字数:2,084

「うおおっ!」

「どわっ⁉」

 高松が大声を上げながら振り回すのは包丁である。勇次は金棒でなんとか受け止める。

「高松さん、分かっているかとは思いますが……」

「分がってら! 命ばかりは取らねえ!」

 神不知火の言葉に高松は頷く。勇次が叫ぶ、

「本当かよ⁉」

「ああ!」

 高松は包丁を素早く振り下ろす。勇次はこれもかろうじて受け止める。

「わりと明確な殺気を感じるんだが⁉」

「そんたごど気にするな!」

「気にするって!」

「痛めづげるだげだ!」

「だからそれが嫌だっての!」

 高松の攻撃を勇次は後ろに飛んでかわす。神不知火が呟く。

「思っているよりも動きの質がいい……もっと直情的な戦い方をするかと思いましたけど」

「はあ……はあ……」

「勇次! 『賢さと素早さと粘り強さ』だぞ!」

「! は、はい!」

 御剣の言葉に勇次は頷く。高松が声を上げて飛び込む。

「いつかのヒット曲かよ!」

(まず……『素早さ』! どんなに動きが早い相手でも“始動”というものがある! 異形の相手ならまた別だが、この場合は相手の足に注目していれば……)

「おおっ!」

(右!)

 勇次は左に飛んで高松の攻撃をかわす。

「くっ!」

(来る方向が分かれば、ある程度は反応出来る! 俺自身の素早さも上がっている!)

「調子さ乗るなよ!」

 高松は連続攻撃を仕掛けてくるようになる。勇次は素早く考えを巡らせる。

(次は……『賢さ』! 相手のことを分析……なんて高等なことは今の俺には出来ねえ! だが、観察することは出来る! このロン毛のセンター分けの得物は包丁……長ささえ見極めれば、連続で振り回されても……!)

「むっ!」

 勇次は包丁の先がちょうど届かない位置に立ってみせる。

(こういうことも出来る!)

「舐めるな!」

 高松はさらに攻撃を続ける。勇次は舌打ちしながら考える。

(加速がさらに上がった⁉ しかもさっきよりも連続攻撃を繰り返せるようになっている! ただ、焦るな! 最後は『粘り強さ』だ! どの攻撃をかわすか、受け止めるかを見極める! 無限に続く攻撃なんてあるわけがねえ……)

 勇次は高松の攻撃をかわしたり、受け止めたりしながら、なんとか凌いでいぐ。

「ちっ……」 

 今度は高松が舌打ちして、たまらず動きを止める。勇次が目を見開く。

(ここだ!)

「ぐっ⁉」

 勇次が金棒を振り下ろす。高松はかわしきれず、右肩にそれを喰らう。

「うむ……相手の息切れのタイミングを狙った良い攻撃だ……」

 後方で見ていた御剣が腕を組んで頷く。御盾が叫ぶ。

「いや、呑気に解説しておって良いのか⁉」

「ん?」

「ん?じゃない! 東北管区との戦いが始まってしまったぞ!」

「始まってしまったものは仕方なかろう」

「し、仕方がないって……」

「良い演習だと思えばいい」

「し、しかし……」

「それに思い出したぞ、あの高松とやら……」

 御剣が高松を指し示す。御盾が察して頷く。

「あ、ああ……」

「色々と興味深いではないか?」

「其方は良い趣味をしておるわ……」

 笑みを浮かべる御剣に対し、御盾が呆れる。

「うぐっ……」

 肩を抑えてうずくまる高松に、勇次が声をかける。

「本当は頭を狙ったんですけど、肩にしました。それでも手ごたえはかなりあった。包丁を振り回すことは出来ないはずです。もう終わりにしましょう」

「! ほ、本当は?」

「え?」

「あえて肩を狙ったでいうごどが⁉ 随分とまた舐めぐさりやがって!」

 高松がバッと立ち上がる。

「!」

「こごまでコケにされで、もう我慢出来ね!」

「うおっ⁉」

 高松が叫ぶと、その体全体を包むように桃色の気が充満し、頭部に角が生える。

「……」

「なっ⁉」

「泣く子はいねーがー⁉ 悪い子はいねーがー⁉」

 高松は右手に包丁、左手に背中に背負っていた桶を持ち、勇次に斬りかかる。

「ぬおっ⁉」

「ふん!」

「ちぃっ!」

 高松の攻撃をなんとか受け止めた勇次は後方に飛び、御剣と御盾に視線を送る。

「高松幸楽……奴は『なまはげ』の半妖だ!」

「腕を組んで偉そうに叫ぶな! さっきまで忘れておったろう!」

「な、なまはげ……」

「しかし、体がなんというかこう……ふんわりと桃色だな。あれはラーメン屋というか……」

「違うなにかを思い浮かべますよね」

「うおい! 宿敵も鬼ヶ島も呑気なことを言っておる場合か!」

「鬼ヶ島勇次!」

「っと⁉」

 高松の攻撃を勇次はまたも受け止める。高松が口角泡を飛ばす。

「おめだけは許せん!」

「お、俺、貴方になにかしましたっけ?」

「鬼の半妖のおめが現れたことによって、こっちは多大なる精神的苦痛を受げだんだ!」

「え、ええっ⁉ どういうことですか?」

 勇次は再び高松と距離を取る。高松が話し出す。

「おめの出現によって、やれ『キャラ被っているっすよねw』だどが、やれ『もしかしてジェネリック半妖さんすか?w』だどが言われるようになったんだ! ただでさえ、なまはげと鬼は混同されやすいというのに!」

「……なんだと思ったら……」

「ん⁉」

「単なる逆恨みじゃねえか! 真面目に聞いて損したわ!」

「どおっ⁉」

 勇次の体がほんのりと赤くなり、角が生える。神不知火が目を見張る。

「! 調査報告以上の妖力の高まり……これは……」

「うおおっ!」

「ぐはっ⁉」

 勇次が金棒を一振りすると、高松は吹き飛ばされる。

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