ミーミアからの突然のお願いを聞いて、返答に迷う。
どうやって強くなったか教えてくれとは、正直に言うと前世の記憶を思い出した事を言わなければならないのだが、信じては貰えないだろう。
彼女は、こちらの迷いを察したようで、
「マーズ君とはあんまり話したことなかったけど、実は、気にはなってて。同じ欠陥印だし……。あんまり魔法は得意じゃないみたいだったのに、いきなり模擬戦でクラーク君に勝ったから、驚いて……休みの途中で、何かあって、急に強くなったのかなって……」
顔を真っ赤にして、しどろもどろながらも話す。
あまり人と話すのは得意ではないようだ。
強さの理由が聞きたいのか。
模擬戦の時、表情が変わっていたのは、俺にお願いをすると決めていたからだったのか。
「君は何で俺が強くなった理由を聞きたい?」
「え……?」
ミーミアは返答に戸惑う。
そこまで親しくはなかったみたいなのに、なぜ聞きにきたのかが少しだけ気になった。
話すか話さないのか、ミーミアは迷っている。
「別に話したくないならいいんだ」
「は、話すよ……!」
いきなり大声を出してきたので、少し驚いた。
「私、実は英雄メリストールの子なの……。お父さんみたいにずっとなりたいと思っていたけど、この欠落印のせいで全然ダメで。勉強は頑張ったけど、いくらやっても魔法をうまく使えるようにはならなかったの……。もう無理かなと思ってたら、マーズ君が昨日勝って、もしかしたら欠落印の私でも、強くなれるんじゃないかなって思ったの」
なるほど。
父親みたいに強くなりたいのか。
英雄メリストールとやらの記憶はないが、たぶん口ぶりからして誰でも知っているクラスの大物なのだろう。恐らく今は忘れているだけで、俺も知っていたはずだ。
それを聞いて、ミーミアに古代魔法を教えたらどうだろうかと考えつく。
夢を追う子供の手助けはなるべくしたい。
間違いなく彼女には古代魔法の才能はあるのだから、それが埋もれるのも惜しい。
同じ純粋印持ちであるならば、もしかしたら将来、完全な賢者の石作成の手助けをしてくれるかもしれない。
親切心と、ちょっとした打算心で、ミーミアに古代魔法を教えると決めた。
ただ、転生して前世の記憶を昨日思い出したと言う話は、普通は信じられないと思うので、これを改変しよう。
「教えてもいいぞ」
「本当!? どうやって強くなったの!?」
「休暇が始まった日ぐらいか。とある男に、古代魔法 という素晴らしい魔法を教えてもらった。皆が使っている魔法の才能はなかったけど、古代魔法の才能はあってな。わずか数日で、あそこまで強くなれたんだ」
若干虚構を交えて説明した。
「古代魔法……? それって私でも使えるの?」
「ああ、欠落印と呼ばれている、俺とミーミアにある印なんだが、実は古代魔法を使う人間には純粋印と呼ばれていて、最高の才能を持った人間であるという、証になっているらしいんだ。ミーミアならきっとうまく使えるはずだ」
「じゅ、純粋印……最高の才能……」
ミーミアが、俺の手を握ってきて、
「お、お願い! 私に古代魔法を教えて!」
教えてやるという前に、向こうから必死な表情でお願いしてきた。
あまりの必死さに若干引いてしまう。
よっぽどお父さんみたいに強くなりたいんだな。
「教えるよ。そのつもりで、話をしたんだから」
「ほ、ほんと!? やったー! じゃあ早速教えて!」
ミーミアは手を離して、ものすごく嬉しそうに万歳をする。
「今からか? いや、学園あるからな。終わってからにしよう」
「そ、そうだね」
俺の言葉に、ミーミアは顔を赤らめながら、両腕を下ろした。
○
今日の学園は座学を中心に行った。
有用な情報は得られなかった。
この学園では、座学の成績もある程度重要になるらしく、悪くても模擬戦などの成績が良ければ退学にはならないが、下のクラスになることがあるらしい。
現状、Dクラスで、上のクラスになりたいと思っていない俺にはあまり関係のない話だ。
「マーズ君!」
授業が終わった直後、ミーミアが俺の席へ直行してきた。
古代魔法を教わりたくて、うずうずしているといった様子だ。
元々暗い表情をしていることが多かった気がするが、よほど古代魔法を教えてもらうのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべている。
「古代魔法の練習は集中力が必要となる。ここは少しうるさいから、あまり人のいない場所に行こう」
「うんうん! どこがいいかな?」
学園の敷地に関する記憶は、怪しいところはあるものの、大まかには覚えていた。
その中から、どこがいいか考える。
「学舎裏にある、旧練習場がいいか」
中等部学舎の裏には、昔使われていたが、今は使われていない魔法練習場がある。滅多に人の訪れない場所である。
遠くからでも生徒たちの騒ぎ声は少しは聞こえるだろうが、近くで聞くよりかはいくらかマシであろう。
「うん、わかった行こう」
二人で学舎裏の旧練習場に向かった。
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