その劣等生、実は最強賢者

未来人A
未来人A

第7話 模擬戦

公開日時: 2020年10月27日(火) 17:02
文字数:3,421

 模擬戦を行うため、中庭に一年生が集合していた。


 なぜか全員が、先端に拳くらいの大きさの丸い宝石が付いた、大きな杖を持っている。

 登校時には持っていなかったが、配られたか、休憩時間中、寮に戻り持ってきたのか分からないが、とにかく俺以外の生徒は杖を所持していた。


 杖は魔法を使うのに必須のものなのだろうか。

 周りにいる生徒たちは、こいつなんで杖持ってないんだ的な視線を浴びせてくる。


 前世の魔法を使うのに、杖はいらないしな。

 この時代の魔法は使い方を覚えていなから、模擬戦は前世の魔法を使うことになるだろう。


「全員集まったな。では模擬戦の説明を始める。私は、トリヴァス・グランフォード。Aクラスの担任である」


 背の高い男の先生が生徒たちの前に出て、話し始めた。


 彼の行なった模擬戦の説明によると、まず一年で七十五回行われるらしい。

 三百六十五日中の七十五回なので、約五日に一回模擬戦が行われるという事になる。


 模擬戦相手はランダムに決められる。

 名前の書かれた紙が箱に入っており、それを先生が二枚引いて対戦相手を決定するようだ。

 中庭は結構広く、模擬戦は同時に四回行われる。


 ルールは一対一での魔法戦闘であり、相手を戦闘不可能な状態にして追い込んだら、勝利。

 殺すのは当然駄目らしい。

 多少の怪我はセーフだ。

 制限時間が五分で、それで決着がつかなかった場合、審判の判定で勝敗を分ける。


 模擬戦での成績が良いものは、上のクラスに上がる。

 逆に悪すぎるものは、退学になる。

 どんだけ実戦以外で魔法をうまく使えるものでも、実戦でまったく駄目なら、見込みなしとして退学になるようだ。


 対人戦は独特の緊張感があり、向いていない奴には絶対に無理だからな。

 模擬戦も無理なものに、本当の命のやり取りなど確実に不可能なので、その判断は間違っていないだろう。


 先生が説明を終えたら、早速模擬戦が開始される。

 くじが八枚引かれて、最初に行われる四戦の組み合わせが決定した。


 各クラスの先生が審判として、近くで模擬戦を見ている。


 少し遠くから俺は魔法を使う場面を見ていた。



 これが……この時代の魔法か……。



 記憶がだいぶ抜け落ちていたので、この時代の魔法については分かっていなかった部分も多かったが、何試合か観察して、どんなものかがだいたい分かってきた。


 

 正直、前世の時代の魔法より、遥かに弱くないか?



 まあ、子供使っている魔法なので、もっとハイレベルなものを見ないと分からなくはあるが。


 まず、全員が持ってきていた大きな杖。

 魔法は全て、杖の先端の宝石から発せられている。魔法を使うのには、やはり杖は必須の物のようだ。


 そしてこれは記憶にもあった事だが、全員魔法を使う時、呪文を唱えている。


 呪文を唱え、杖の宝石を相手に向けて、そこから魔法が出る、という感じである。


 呪文は意外と長く、小さい火の玉を放つ魔法で、「火よ、弾丸となり敵を焼け!」と、言い切るのに二秒半くらいかかる。


 無駄に時間をかけて使ったのにもかかわらず、威力も微妙だし、そもそも、杖を人に向けて打つから、どこにくるか分かりやすく、いとも簡単に避けられるだろう。


 極め付けは、マナの解放をしたときのように、攻撃力や防御力が上がっていない、という点だな。


 これでは前衛で戦うのは危険だから、必然的に後衛になるのではないか?


 前世の魔法使いは、戦闘においては絶対的な存在だったが、正直この子たちが子供だという事を差し置いても、この時代の魔法使いが絶対的に強い存在であるという可能性は低いように思える。


 しかしこの時代の魔法使いが弱いとなると、少し困ったことになる。


 賢者の石作成には、魔法を変化Ⅱまで習得し、さらに材料を集める必要がある。

 これが非常に面倒で、強力な敵と戦ったり、そう簡単に行けない場所に行ったりしないと、材料が見つからないのだ。


 前世では一度一人で行って集め切ったが、あまりにも時間がかかったので、次からは強い魔法使いを雇い、協力して集めていた。


 前世の魔法が完全に失われており、さらにこの時代の魔法が弱いとなると、材料集めを協力できる人材が下手したらいない可能性がある。


 いくらマナが最高品質になっているといえ、一度の試行では成功できない可能性が高く、材料集めは何度も行わなけらばならない。

 俺一人で材料を集めていたのでは、果たして生きているうちに作成に成功できるのか、疑問である。


 ここで戦っている子たちは子供である。

 成長すれば、一気に強くなるのかもしれん。

 この学園には高等部もあるし、そこの戦いを見れば、その辺はっきりするかもしれないな。


 仮にこの時代の魔法が、前世の魔法に数段劣るのなら、才能のありそうな子に教えるという選択をした方が良さそうだな。


「マーズ・クリファー!」


 名前をいきなり呼ばれて、思考が途切れる。

 どうやら次の模擬戦は、俺の番みたいだ。


「クラーク・バラモンド!」


 先生がクジを引き、俺の対戦相手を告げた。

 その瞬間、生徒たちがざわめき出す。


「天才クラークの相手が、マーズかよ」


「あいつ運ないな」


「いやいや、別にマーズじゃ、クラークじゃなくても負けるだろうし、一緒だろ」


「そうだ、俺でもあんな奴、五秒で倒せるよ」


「俺なら三秒で倒せる」


 俺の対戦相手は、どうやら優秀な生徒らしい。


 先にクラークとやらが、模擬戦を行うため、前に出ていた。


 十歳にしては背の高い男の子。

 綺麗な短めの金髪。

 顔は整っており、少し大人びている。


 向こうが出たので、俺はクラークと対峙する。


「マーズ、杖はどうした」


 トリヴァス先生に尋ねられた。俺たちの戦いの心配は彼のようだ。


「必要ありません」


「馬鹿を言うな。杖なしで魔法を使うなどという高等技術は、最強格の魔法使いしか使えん。子供のお前には不可能だ」


 杖なしで魔法を使うのは高等テクニックなのか。

 では、子供だけでなく、ほぼ全ての魔法使いがこの重そうな杖を持って魔法を使っているんだな。


「忘れたのなら私のを貸してやる。次忘れたら不戦敗だ」


 トリヴァス先生は、自身の杖を渡してきた。

 いや、こんなもの持っても邪魔なだけなんだがな。

 

 持ってなかったら不戦敗なのなら、一応受け取っておくか。


「あいつ馬鹿だろ? 杖忘れてくるとか」「ふざけてんのか?」「ただでさえ欠落印持ちのゴミなのに、やる気もないとはな」


 生徒たちは俺を馬鹿にしてくる。


 さて、倒し方だが、戦闘不能状態にすればいいんだろ?


 ならば杖を斬ってしまえばいい。

 この時代の魔法を使うのには、杖が必須みたいだからな。

 相手はマナを視認することができないので、いとも簡単なことである。


 そうすれば勝ちだろうが……。


 斬るのは少し可哀想か。

 もしかしたら高価な物かもしれない。

 取り上げるだけでいいかな。


「よろしくお願いします」


 相手のクラークが挨拶をしてきた。

 綺麗にお辞儀をして、非常に礼儀正しい子のようだ。


「よろしく」


 俺もお辞儀をして挨拶を返す。


「正々堂々勝負しよう」


 綺麗な笑顔をクラークは浮かべた。

 育ちのいい子オーラが、全身から出ている。


 俺は、子供を負かしていいのだろうかと思案をする。こんな子を負かすのは、心苦しいのだが、退学になりかねないと先生が言っていた。


 しばらくはこの学園にいた方がいいし、ここは勝つか。


 戦闘開始直前にマナを解放させる。



「それでは、3、2、1始め!」



 決闘が開始された瞬間、俺はマナを操作。

 マナで手を作り、それでクラークの杖を掴む。

 もう一つ手を作り、杖を持っている方の腋に向かわせる。

 

「火よ……」


 クラークが呪文を唱え始める。


 マナの接触で、触れるようにして、クラークの腋をこそぐる。


「うひゃ!?」


 動揺して杖を掴む力を失っているところで、杖を掴んでいたマナの手を上にあげる。


 杖はクラークの手からするりと離れ、宙に浮いた。


 それを自分の手元に持ってきて、手に取る。


「へ……?」


 何が起こったか分からないという表情をクラークは浮かべる。杖はどこにも行ったと、自分の周囲を探す。そして、俺が持ってことに気づき、


「ぼ、僕の杖!?」


 激しく動揺した。


 杖は俺が持っているし、魔法はもう使えないだろうから、相手の戦闘続行は不可能だ。

 

 勝敗が決したら、審判の先生が勝者の名を高々と叫ぶはずなのだが、何も言わず唖然としながら、トリヴァス先生はこちらを見ている。


 どうしたというのだろうか。


「俺の勝ちですよね」


 不審に思って尋ねると、ハッとしたような表情をトリヴァス先生は浮かべて、



「しょ、勝者! マーズ・クリファー」



 俺の勝利を生徒たちに示した。




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