「よし、出来た」
翌朝、まだ日が上りきっていない時間帯。
自室の中で魔法の練習を行い、見事変化Ⅰを使うことに成功した。
マナを小さな火に変化させた。
ほかにも、水にしたり、鉄にしたりと色々と変化させる。
自室の中なので、あんまり大きなものには変化させていない。
今から庭に出てもっと大掛かりな変化をさせるつもりだ。
俺は寮から出て庭に行った。
すると、
「何やってるんだあいつ、こんな時間に」
「俺たちにとってはラッキーだけどな」
背後から子供の声が聞こえてきた。
だれか付いてきたみたいだ。
今までこの時間に、誰かが来たという経験はないので、若干困惑する。
来たのは三人の少年だ。
昨日の朝、絡んできた生徒たちだ。
それぞれ杖を手に持っている。
自主練でもするつもりなのだろうか。
他人がいる状態だと練習効率が落ちるから、なるべく来てほしくはなかったのだが。
特に今からやろうとしているのは、周囲の人物を怪我させる可能性がある。
完全にマナの変化Ⅰを習得した状態なら、怪我をさせることなどないのだが、まだ習得したばかりで操作に不安があり、怪我をさせる恐れがある。
周囲に子供がいるような状態では、練習は出来ない。
まあ、彼らも何らかの用事があってここに来たのだろうし……どけと言うのも大人げないだろう。
面倒だが、ほかに人気のない場所を探して、そこで練習をするか。
俺が歩き始めると、
「待て!」
呼び止められる。
俺は立ち止まり振り向いた。
恨みを込めながら少年たちがこちら睨んできている。
何だ?
気付かぬうちに何かしたか?
「庭なら好きに使っていいぞ。俺は違う場所に行くからな」
「お前に用があるんだよ、インチキ野郎!」
「そうだ、一人にならないかずっと見張っていたけど、こんな時間に一人になるなんてラッキーだ!」
少年たちの口調は荒い。
「俺を夜の間もずっと見張ってたのか? どうしてまたそんなことを?」
「インチキ野郎を成敗するためだ! お前はクラークを卑怯な手を使って倒した! そうだろ!」
「あれは正々堂々と戦った結果だ。トリヴァス先生も不正はないと言っていただろ?」
「先生に気付かれないようにやったんだ!」
「卑怯な手で学園に残ったお前なら、卑怯な手段何て、いくらでもやれるだろ!」
「難癖をつけるのをやめてもらいたい。具体的にどうやって俺がインチキをしたというのだ」
「今からそれを暴くんだよ!」
「そうだそうだ! お前の正体をここで暴いてやる!」
「覚悟しろ!」
杖を俺に向けてくる。
「こうやって突然やられたら、インチキもできないだろ! クラークとの戦いではインチキが出来るよう準備していたんだろ!」
彼らなりに一応考えて結論を出していたみたいだ。
模擬戦もほぼほぼ当日いきなり行われて、準備するのは難しいだろうとか、そんなことにまでは、子供なので考えは回らないようである。
前は杖を斬る事はやめたが、ここは斬ってしまおう。
少し痛い目に遭わなければ、この子たちはまた絡んでくるだろうからな。
少年たちが同時に呪文を唱える。
それぞれ違う呪文だが、まあ、それはどうでもいい。
マナ操作して、剣の形に変え、それを鉄並みの硬さに変質させた。
それを一閃し、三人の杖の先端を同時に斬った。
地面に杖の先端がポトン落ちる。
「「「なっ!?」」」
マナの見えない三人からしたら、いきなり杖が斬れて地面に落ちたように見えただろう。彼らは目を見開いて驚愕しているが、それも無理はない。
「お、俺たちの杖が……!?」
「な、何で!?」
少年たちは、慌てふためいている。
「これでインチキではないと分かったか?」
「な……」
「お、お前がやったのか?」
「そうだ」
「う、嘘だ! お前みたいな欠陥品が……」
納得していないみたいだ。
もう少し脅しておくか。
「納得出来ないなら、もう一度なにか斬ってやるか。ちょうど斬りやすそうなものが、三つあるな」
三人を見ながらそう言った。
「「「ひ………………ひぃいいいい!!」」」
脅しに屈した少年たちは、男子寮に全力で逃げ去って行った。
これで俺に絡んでくることはないだろう。
ちゃんとした大人であれば、説教でもしてやるのかもしれないが、そういったことが向いている性格ではないしな。
それに、彼らの教育はここの先生の仕事であって、俺がやるべきことではない。
追い払ったし練習を始めたいけど、やたら大声を出して逃げていったので、寮にいる生徒が起きたかもしれない。
そうなると騒ぎになって、練習は出来なくなってしまうが……。
しばらく待ったが騒ぎは起きていないようだ。
練習を続行する。
部屋の中ではできなかった、マナを大きく変化させてみる。
空に向かって火柱を立ててみよう。
マナを変化させる。
目の前に大きな火柱が数秒間できて、消滅した。
ふむ、少しだけマナの『変化効率』が前世よりも落ちているな。
マナを別の物質に変化させる際、人によってマナの消費量が変わる。これをマナの変化効率と呼ぶ。
技量の高いものは、より少ないマナ消費で、変化をさせることが可能だ。
マナの総量というの実は人によって、そう変わらないものなので、この変化効率はかなり大事になってくる。
マナの単位をMとして、一人のマナ総量を100Mとしよう。
さっきの火柱でいうと効率の悪いものなら、10M使うが、効率の良いものなら1Mの消費で、同じ規模の火柱を起こせる。
ちなみに前世の俺は、この変化効率に関しては、我ながらかなり自信があった。
自分以上に良いものは見たことがない、と言ってもいいくらいだ。
体が変わったことで、少し落ちているが、本来マナの質が良ければ、変化効率は高くなりやすい傾向にある。
もっと練習を積めば、前世を越えることが出来るかもしれない。
まあ変化効率を上げるより先に、次の魔法を習得していかなければならないがな。
次は付与。
変化よりかは簡単に習得可能だ。
部屋でも出来るため、わざわざ外に出る必要はない。
自分の部屋に戻った。
それから少しだけマナの付与の練習をする。
本来マナは、自分以外を強化しないが、付与を覚えれば、マナに纏われているものすべてを強化することが可能だ。
現在俺は、現代魔法を使うための杖を手に持っている。
深い理由はなく、ちょうどそこにあったからだ。
マナを操作して、杖全体に纏わせる。
付与が使えない今の状態では、ただの木の杖でしかないが、付与が効果を発揮すると、まるで鋼鉄のように杖が硬くなる。
いつも通り、前世と同じ感覚で、付与を使ってみるが、発動しない。
手で軽く叩けば、硬くなっていないことはすぐにわかる。普通の木の感触である。
色々試行錯誤したが、成功せず、学園に行く時間帯になった。
とりあえず今日のところは諦めて練習をやめるか。
俺は制服に着替え、食堂に行き、軽く朝食をとったあと学園に向かった。
学園に行く途中、生徒たちから睨まれる。
睨んできた生徒たちは、比較的幼い生徒たちだ。恐らく学年が俺と同じ子が、睨んできているのだろう。
どうも昨日の俺の勝利が、何らかの反則によるものだと、ほとんどの生徒たちが信じているみたいだな。
一晩明けたら、少し冷静になるかと思ったが、子供だからな。
今日の朝来た子たちは、変わった考えを持っていたというわけではなさそうだ。
わざわざ弁明しないでいいか。模擬戦は何度も行われるようだし、何度も勝っていれば、反則ではないと理解することだろう。
朝みたいに、卑怯な手段で攻撃を加えてくる子には、きちんと対応はしよう。
結論を出して、視線を気にすることなく歩いていると、
「あ、ああああの!」
背後から少女に声をかけられた。振り向く。
顔を少し俯かせている女子生徒の姿が。
この子は……確かミーミアだ。
例の純粋印の少女。
「何か用か?」
「え、えと、その、あの、えと……」
かなり歯切れが悪い。
顔は赤いし、汗を流しているし、緊張でもしているのか。なぜ緊張しなくてはならないのか、理由は見当がつかなかった。
「マーズ君がどうやって強くなったのか教えてください!」
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