その劣等生、実は最強賢者

未来人A
未来人A

第9話 絡まれる

公開日時: 2020年10月28日(水) 17:27
文字数:3,206

「よし、出来た」


 翌朝、まだ日が上りきっていない時間帯。


 自室の中で魔法の練習を行い、見事変化Ⅰを使うことに成功した。


 マナを小さな火に変化させた。

 ほかにも、水にしたり、鉄にしたりと色々と変化させる。


 自室の中なので、あんまり大きなものには変化させていない。


 今から庭に出てもっと大掛かりな変化をさせるつもりだ。


 俺は寮から出て庭に行った。


 すると、


「何やってるんだあいつ、こんな時間に」


「俺たちにとってはラッキーだけどな」


 背後から子供の声が聞こえてきた。


 だれか付いてきたみたいだ。

 今までこの時間に、誰かが来たという経験はないので、若干困惑する。


 来たのは三人の少年だ。

 昨日の朝、絡んできた生徒たちだ。

 それぞれ杖を手に持っている。

 自主練でもするつもりなのだろうか。


 他人がいる状態だと練習効率が落ちるから、なるべく来てほしくはなかったのだが。


 特に今からやろうとしているのは、周囲の人物を怪我させる可能性がある。

 完全にマナの変化Ⅰを習得した状態なら、怪我をさせることなどないのだが、まだ習得したばかりで操作に不安があり、怪我をさせる恐れがある。


 周囲に子供がいるような状態では、練習は出来ない。


 まあ、彼らも何らかの用事があってここに来たのだろうし……どけと言うのも大人げないだろう。


 面倒だが、ほかに人気のない場所を探して、そこで練習をするか。


 俺が歩き始めると、



「待て!」



 呼び止められる。

 俺は立ち止まり振り向いた。

 恨みを込めながら少年たちがこちら睨んできている。


 何だ?

 気付かぬうちに何かしたか?


「庭なら好きに使っていいぞ。俺は違う場所に行くからな」


「お前に用があるんだよ、インチキ野郎!」


「そうだ、一人にならないかずっと見張っていたけど、こんな時間に一人になるなんてラッキーだ!」


 少年たちの口調は荒い。


「俺を夜の間もずっと見張ってたのか? どうしてまたそんなことを?」


「インチキ野郎を成敗するためだ! お前はクラークを卑怯な手を使って倒した! そうだろ!」


「あれは正々堂々と戦った結果だ。トリヴァス先生も不正はないと言っていただろ?」


「先生に気付かれないようにやったんだ!」


「卑怯な手で学園に残ったお前なら、卑怯な手段何て、いくらでもやれるだろ!」


「難癖をつけるのをやめてもらいたい。具体的にどうやって俺がインチキをしたというのだ」


「今からそれを暴くんだよ!」


「そうだそうだ! お前の正体をここで暴いてやる!」


「覚悟しろ!」


 杖を俺に向けてくる。


「こうやって突然やられたら、インチキもできないだろ! クラークとの戦いではインチキが出来るよう準備していたんだろ!」


 彼らなりに一応考えて結論を出していたみたいだ。

 模擬戦もほぼほぼ当日いきなり行われて、準備するのは難しいだろうとか、そんなことにまでは、子供なので考えは回らないようである。


 前は杖を斬る事はやめたが、ここは斬ってしまおう。

 少し痛い目に遭わなければ、この子たちはまた絡んでくるだろうからな。


 少年たちが同時に呪文を唱える。


 それぞれ違う呪文だが、まあ、それはどうでもいい。


 マナ操作して、剣の形に変え、それを鉄並みの硬さに変質させた。

 それを一閃し、三人の杖の先端を同時に斬った。

 地面に杖の先端がポトン落ちる。


「「「なっ!?」」」


 マナの見えない三人からしたら、いきなり杖が斬れて地面に落ちたように見えただろう。彼らは目を見開いて驚愕しているが、それも無理はない。


「お、俺たちの杖が……!?」


「な、何で!?」


 少年たちは、慌てふためいている。


「これでインチキではないと分かったか?」


「な……」


「お、お前がやったのか?」


「そうだ」


「う、嘘だ! お前みたいな欠陥品が……」


 納得していないみたいだ。

 もう少し脅しておくか。


「納得出来ないなら、もう一度なにか斬ってやるか。ちょうど斬りやすそうなものが、三つあるな」


 三人を見ながらそう言った。



「「「ひ………………ひぃいいいい!!」」」



 脅しに屈した少年たちは、男子寮に全力で逃げ去って行った。

 これで俺に絡んでくることはないだろう。

 ちゃんとした大人であれば、説教でもしてやるのかもしれないが、そういったことが向いている性格ではないしな。


 それに、彼らの教育はここの先生の仕事であって、俺がやるべきことではない。


 追い払ったし練習を始めたいけど、やたら大声を出して逃げていったので、寮にいる生徒が起きたかもしれない。

 そうなると騒ぎになって、練習は出来なくなってしまうが……。



 しばらく待ったが騒ぎは起きていないようだ。



 練習を続行する。



 部屋の中ではできなかった、マナを大きく変化させてみる。

 空に向かって火柱を立ててみよう。


 マナを変化させる。


 目の前に大きな火柱が数秒間できて、消滅した。



 ふむ、少しだけマナの『変化効率』が前世よりも落ちているな。



 マナを別の物質に変化させる際、人によってマナの消費量が変わる。これをマナの変化効率と呼ぶ。


 技量の高いものは、より少ないマナ消費で、変化をさせることが可能だ。


 マナの総量というの実は人によって、そう変わらないものなので、この変化効率はかなり大事になってくる。


 マナの単位をMとして、一人のマナ総量を100Mとしよう。


 さっきの火柱でいうと効率の悪いものなら、10M使うが、効率の良いものなら1Mの消費で、同じ規模の火柱を起こせる。


 ちなみに前世の俺は、この変化効率に関しては、我ながらかなり自信があった。

 自分以上に良いものは見たことがない、と言ってもいいくらいだ。


 体が変わったことで、少し落ちているが、本来マナの質が良ければ、変化効率は高くなりやすい傾向にある。

 もっと練習を積めば、前世を越えることが出来るかもしれない。


 まあ変化効率を上げるより先に、次の魔法を習得していかなければならないがな。



 次は付与。

 変化よりかは簡単に習得可能だ。

 部屋でも出来るため、わざわざ外に出る必要はない。


 自分の部屋に戻った。




 それから少しだけマナの付与の練習をする。


 本来マナは、自分以外を強化しないが、付与を覚えれば、マナに纏われているものすべてを強化することが可能だ。


 現在俺は、現代魔法を使うための杖を手に持っている。


 深い理由はなく、ちょうどそこにあったからだ。


 マナを操作して、杖全体に纏わせる。


 付与が使えない今の状態では、ただの木の杖でしかないが、付与が効果を発揮すると、まるで鋼鉄のように杖が硬くなる。


 いつも通り、前世と同じ感覚で、付与を使ってみるが、発動しない。


 手で軽く叩けば、硬くなっていないことはすぐにわかる。普通の木の感触である。


 色々試行錯誤したが、成功せず、学園に行く時間帯になった。


 とりあえず今日のところは諦めて練習をやめるか。


 俺は制服に着替え、食堂に行き、軽く朝食をとったあと学園に向かった。



 学園に行く途中、生徒たちから睨まれる。


 睨んできた生徒たちは、比較的幼い生徒たちだ。恐らく学年が俺と同じ子が、睨んできているのだろう。


 どうも昨日の俺の勝利が、何らかの反則によるものだと、ほとんどの生徒たちが信じているみたいだな。


 一晩明けたら、少し冷静になるかと思ったが、子供だからな。


 今日の朝来た子たちは、変わった考えを持っていたというわけではなさそうだ。


 わざわざ弁明しないでいいか。模擬戦は何度も行われるようだし、何度も勝っていれば、反則ではないと理解することだろう。


 朝みたいに、卑怯な手段で攻撃を加えてくる子には、きちんと対応はしよう。


 結論を出して、視線を気にすることなく歩いていると、



「あ、ああああの!」



 背後から少女に声をかけられた。振り向く。


 顔を少し俯かせている女子生徒の姿が。


 この子は……確かミーミアだ。

 例の純粋印の少女。


「何か用か?」


「え、えと、その、あの、えと……」


 かなり歯切れが悪い。

 顔は赤いし、汗を流しているし、緊張でもしているのか。なぜ緊張しなくてはならないのか、理由は見当がつかなかった。



「マーズ君がどうやって強くなったのか教えてください!」




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