その劣等生、実は最強賢者

未来人A
未来人A

第8話 勝利

公開日時: 2020年10月27日(火) 20:59
文字数:2,240

 俺の勝ちを先生が宣言した瞬間、今日最高のざわめきが起こる。


「嘘だろ?」「欠落印のあいつが……クラークに?」

「なんの魔法なの今の」「それよりあいつ、呪文を唱えていなかったよ!?」「む、無詠唱魔法ってこと?」「そ、そんな。無詠唱魔法って伝説級(レジェンドクラス)の魔法使いしか使えないって、お父さん言ってたよ」「な、何かの間違いだよ! あいつ卑怯な手を使ったんだ!」



 純粋に驚く生徒や、何かトリックを使ったのではないかと怪しむ生徒、それぞれ違う反応をしている。


「イ、インチキだ……」


 負けたクラークが、震えながら呟く。




「絶対インチキだ! 欠陥印持ちの欠陥品がこの僕に勝てるわけがない! 僕は十年に一度の天才と言われている魔法使いだぞ!」




 醜く顔を歪めて、クラークが叫ぶ。



 何だこの子。


 いい子だったと思っていたが、いきなり豹変した。


 さっきまでの態度は、いい子の仮面を被っていたのか。

 負けて焦って、その仮面が取れたと。


 十歳で本音と建前を使い分けているとはな。

 こういうのは精神的に進んでると言っていいのだろうか。


 クラークがインチキだと主張すると、ほかの生徒たちもそう思ったらしく、「インチキ!」「卑怯者!」などと、大合唱が起きる。



「静粛に! マーズの行動におかしな点はなかった! 間違いなくマーズの勝利であり、疑いの余地はない!」



 トリヴァス先生が、生徒たちを叱りつけるように叫んだ。


 先生に言われては生徒たちも黙るしかない。

 クラークも諦めたようで、俺から杖を取り返し下がっていった。


 ただ、トリヴァス先生も、俺の勝利は認めても、どうやったのかは分かっていなかったみたいで、


「マ、マーズ。君は今、呪文を唱えていなかったよな?」


 と僅かに震えながら尋ねてきた。


「そうですよ。呪文は必要ないので」


「……無詠唱魔法、ということか? あ、ありえん、しかし現に……。しかも今のは触媒を通して魔法を放っていたというわけでもなかった。つまり無詠唱魔法で、無触媒魔法だということに……。そんな馬鹿なことが……伝説の魔法使いアジル様というわけでもあるまいし……」


 ブツブツと呟きだした。


 この反応を見る限りは、呪文を唱えずに魔法を唱えるのは相当すごいことなんだろう。


 現代の魔法とは、全く別の魔法ですよ、と説明するか悩むが、長く説明しなくてはならないのでやめた。


 別に俺がこの先生を納得させる必要なんてどこにもないしな。


 トリヴァス先生に杖を返す。

 そして、下がって、観戦を再開した。


 クラークを倒した俺は、生徒たちの注目の的になり、中々集中して観戦できない。


 とにかく敵意を持った視線を向けられる。先生の言うことに反論はしなかったとはいえ、納得したものは少数だったようだ。完全にインチキで勝ったと思われているようだ。


 俺の模擬戦の次の次。

 純粋印を持つ少女ミーミアが、模擬戦を行う番になった。


 戦うため前に出てきた彼女の表情を見て違和感を覚える。


 何やら覚悟を決めたような表情をしている。


 教室にいたくらいの時は、不安で潰れてしまいそうな弱々しい表情だったはずだ。


 今はその不安を完全に捨て去り、対戦相手だけを一心不乱に見ている。


 教室で自己紹介をしてから、模擬戦が始まるまで三時間ほどしか経過していない。


 その時間で、こんなに表情が変わるとは。

 よっぽど大きなことが起こったのだろう。何のかは分からないけど。


 模擬戦では、ミーミアは結局あっさり負けてしまう。


 ただそれでも、深く落ち込まず、相変わらず覚悟を決めきった者の目をしていた。




 模擬戦が終了。


 これにて、中等部での最初の一日は終わり。


 とにかく今日得た情報としては、現代で使われている魔法は、かなり弱い可能性が高いということだ。


 近いうちに高等部の生徒の魔法も見に行くけど、あまり期待は出来ないだろう。


 トリヴァスの反応を見る限りでは、無詠唱魔法、無触媒魔法は、伝説の魔法使いしか使えないんだと思う。

 高位の魔法使いでも、呪文を唱えて魔法を使っているのだろう。


 ということは、正直に言って、材料集めの手伝いが務まるほど強い者は少ない可能性が高い。呪文を唱えることでの時間の遅れは、致命的になりかねない。

 戦闘とはハイレベルになればなるほど、コンマ一秒の遅れが、命取りになってくるのだ。


 この時代の魔法をもう少し調べてみて、駄目なら、誰かに前世の時代の魔法を教えるか。


 しかし、なぜ前世の魔法は、この時代使われていないのだろうか。


 前世での魔法使いは、それほど多くないのだが、その強さゆえに絶対的な権力を持っていた。

 一流の魔法使いには、普通の人間が千人束になってかかっても勝てないのだ。

 権力を得るのは、当然だと言えるだろう。


 それが今や見る影もないということは……想像もつかなような出来事が起こったのだろう。



 何となく嫌な予感を感じる。



 前世の魔法が、なぜ使われなくなったのか、そのうち調べる必要がありそうだな。


 この学園には大きな図書館もあるから、調べ物をするのにはうってつけだ。


 転生してから何年経過したか、この国の歴史、この時代の魔法の成り立ちなど、詳しく調べてみよう。


 あと、この時代の魔法とか、前世の魔法とか、名称として微妙に言いにくいな。


 この時代の魔法を『現代魔法』、前世時代の魔法を『古代魔法』と呼ぶことにしよう。


 ほかの人と話す時は、ただの魔法と言う。

 現代魔法しか知らない者に、分けて使う必要は全くないからな。

 あくまで頭で考えるときに、その名称を使うことにする。


 学園は終わったので、さっさと部屋に戻って、変化Ⅰの練習を始めるとしよう。





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