その劣等生、実は最強賢者

未来人A
未来人A

第1話 転生

公開日時: 2020年10月23日(金) 07:59
更新日時: 2021年7月20日(火) 17:50
文字数:2,175

「今回も……駄目か……」


 薄暗い家の中、賢者の石の製作に失敗し、俺はがっくりとうなだれた。

 目の前には大きな窯があり、そこに拳くらいの大きさの石が入っている。


 この位置から見れば赤色だが、少し動けば、青、緑と色を変えていく不思議な石である。


 その石を俺は回収して、じっと観察する。



「やはり駄目だ。これは完全な賢者の石ではない」



 完全な賢者の石。



 それを作成するために、俺はあらゆる手段を尽くしてきた。


 賢者の石とは、魔法を極め、賢者と呼ばれたものがだけが作成することに挑戦できる、究極の魔道具である。


 これを手にすると、森羅万象を自在にコントロール出来るようになる、と言われている。

 すなわち神のごとき力を得ることが出来るのだ。


 完全な賢者の石が作られたことは、今まで一度たりともない。

 近いものはいくつも作られてきた。しかし、不純物が一切入っていない完全な賢者の石となると、誰も作ることに成功していない。


 普通に賢者の石を作ろうしたら、必ず不純物が混入し、効果が落ちてしまう。


 効果が落ちると言っても、十万の軍隊を全滅させるほどの力はある。

 しかしながら、万象をコントロールするほどの力には程遠かった。


 そんな状況で俺は、完全な賢者の石を作る事に成功した、最初の男になると誓い、魔法を極め、賢者と呼ばれるようになり、そして研究に没頭した。


 徐々に、賢者の石に不純物が混ざる事も少なくなり、完全な物に近づいてきた。 

 だが、ある時期からまったく進歩しなくなった。

 確実に一定数の不純物が混ざり、どんな方法を取っても、解決することは出来なかった。



「やはり……。この体ではだめなのか……?」



 既に俺は、不純物が混ざってしまう原因らしきものを突き止めていた。


 全ての人間は、『マナ』という力を所持している。


 これは魔法を使うのに必須となる力だ。

 賢者の石の作成も、魔法を使って行うため、マナを使用するのだ。


 そのマナに問題がある。


 マナには品質があるのだが、俺のマナの品質はあまり良くなかった。


 この品質の悪さこそが、賢者の石に不純物を混ざってしまう原因であると、俺は突き止めていた。


 マナの品質は生まれた時に決定しているもので、変えることは絶対に出来ない。


 つまりこの体を変えて、マナの品質を上げないことには、完全な賢者の石を作り出すのは、不可能なのだった。


 体を変えるなど普通なら絶対に無理な事である。

 しかし、


「やはりここは……、あれを使うしかないのか……」


 俺には出来るのだ。体を変えることが。


 "特殊魔法"というものがある。


 魔法を極めていくと、突如、誰しもが天啓を得たように新しい魔法をひらめく。

 その魔法はひらめいた者以外に使う事が出来ない。故に特殊魔法と呼ばれている。


 俺の使える特殊魔法は、『転生』。

 使ったと同時に、未来の世界に記憶を保ったまま、別の人間として転生するという魔法だった。


 当然一度も使ったことはないが、どんな魔法なのかは詳しく理解している。使ったことはないのになぜ分かるのかと聞かれると、分かるものは、分かるとしか答えようがない。それが特殊魔法というものなのだ。


 転生し来世どういう人間に生まれるのか、一つだけ条件を指定できる。その条件は当然、マナを最高品質状態で生まれると指定するつもりだ。


 確実に最高品質になれるのなら、すぐに使えばいいと思うかもしれないが、転生を使用するリスクは非常に大きい。


 転生して生れた直後から、記憶があるというわけではない。戻るまで結構時間がかかる。


 十歳前後まで、前世の記憶なしで過ごす必要がある。そのあいだは完全な子供状態なので、死んでしまうかもしれない。


 転生先で記憶が戻らないまま死んだら、ただの自殺である。


 成功した時の見返りも大きいが、リスクも大きい、そんな魔法である。



 今まではリスクを恐れて使って来なかったが……。



 俺も、もう齢五十を超える。



 このままリスクばかりを考えて行動しなければ、寿命で死んでしまうかもしれない。


 それだけは避けなければならない。


 何があろうと、完全な賢者の石を作る。

 それは二十歳の時に誓ったことだった。


 最初に作りたいと思ったのは、ただの欲だ。


 万象を操って、いい女を独り占めにして、全世界の人間を支配して、美味い物を食いまくって、欲にまみれた馬鹿な考えで最初は作りたいと思った。二十歳の若造が考えるようなことである。


 歳をとるごとにそのような幼稚な考えは捨てていったが、それでも完全な賢者の石を作るという目標は変わらない。



 ただ作りたいのだ。



 完全な賢者の石という物が、いかなるものか知識だけでなく、実際に持って確かめてみたいのだ。



 この衝動はもはや狂気と言ってもいいかもしれない



 周りの人間には、賢者の石に狂った賢者と評されている。


 実際間違っていない。


 最終的に、仲間も友も恋人も、全て投げ捨て、研究をするようになったのだから。



「……やるか」



 俺は静かに呟いた。


 ここで失敗するのも怖いが、目的が達せられないことの方が、何十倍も怖い。



「転生、発動」



 特殊魔法、転生を発動させた。


 その瞬間、白い光が体を包み込む。


 心地の良い暖かさを感じる。

 幼い頃に戻って、母に抱かれているような気持ちになった。


 あまりに気持ちよくて、強烈な眠気が襲って来た。俺はそれに抗うことはせずにゆっくり目を閉じる。


 起きた時はもう今の俺ではないだろう。


 ジワジワと意識が、深い闇の中に落ちていった。

 

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