武士が突っ込み、魔女がぶっ飛ばす

闘技場出身者が勉強するようです
Shiki S
Shiki

第二話 学園入学及び初仕事

公開日時: 2020年9月4日(金) 09:00
文字数:8,237


 俺の名前はザ・マンクラッシャー……間違えたコレ芸名だ。本名はセリカだ。

 元奴隷闘技者。今年晴れてカタギになったのは良いんだが生まれてこの方まともに闘技場の外には引っ越しや遠征試合を除けば一度も出たことのない生粋の奴隷だった俺だ。それがいきなり自由の身になれたんだが、何だ? 困った。わかっていた事だが、いざなってみると何をしたら良いか思いつかなかった。

 だけど挑戦者達を殴っている内に気付いた。俺ってまともな教育受けてねえって。それで偶々出会った外国で学校の先生をやっている人に教育機関を紹介してもらった。他国の学校だけど、地元(住んでた闘技場のあった街)だと試合を申し込まれやすいし、心機一転で良いかなって思った。

 しっかし、道中戦ってた記憶しかない。旅って大変なんだな。

 列車での騒ぎの後、歩いて街に到着した俺は例の先生から貰ったメモを頼りに道を歩く。向かうのは勿論、街と同じ名前で俺が今日から通うことになるエンリドゥ学園だ。

 駅の方が騒がしく通行人がそっちに行く中で俺はメモを片手に進んでいく。


「おいこのアマ待ちやがれ!」


 前方から、変わった服を着た真っ赤な髪の少女とそれを追いかける厳つい顔の男達が走ってきた。

 目だけ動かしそれを見送ると、変な服の少女と目が合った。それも一瞬で、少女は角を曲がって路地の奥へと進み、男達もそれを追いかけて姿を消した。。

 外国でもあんなのがいるんだな。違う国と言っても人はそう変わらないらしい。

 絡まれても面倒なので早足で学園に向かう。メモに拠ればデカい鐘の付いた塔がある場所が学園らしい。

 ……あるな、鐘。街どの建物よりも高い二つの塔の間に鐘はあった。塔の数は書いてないから二つでもおかしくないんだが、何か思い浮かべていた学園のイメージと違う。まぁ兎に角行ってみよう。違ったら誰かに聞けばいいのだから。


 結果を言うと、馬鹿デカい目印に向かって進んだ俺はちゃんと学園に到着できた。あの高い二つの塔が校舎らしい。もっと豆腐を並べたような建物が俺のイメージだったんだけど間違っていた。塔周辺も学園の敷地らしく囲む壁と門にいた警備の人間に声を掛けると通してくれた。

 右側の塔に入って昇降機で上がった先に事務室があってそこに向かえば良いとの事なのでそれに従う。

途中、男女でデザインの違う格好をした少年少女達を何度か見かける。あの服、街ですれ違った少女と同じだった。ここの生徒だったのか。

 どうでもいいな一生徒の事なんか。それよりもこの昇降機、デカい上に壁の一面がガラス張りで塔の外が良く見えて絶景だ。向こう側の塔は勿論、街を見下ろせる。こんな高い場所から安全に下の景色を見られるなんて人生初だ。

 ガラスに張り付いて外の景色を眺めているといきなり向こう側の塔から爆発が生じた。塔の大きさから大した爆発ではないが、黒煙が上がる開いた穴から大きな火の塊が顔を出す。

 特定の属性のマナが集まり何かのキッカケで誕生する精霊だった。火の精霊は外に飛び出すと縦横無尽に空を飛び回り塔の壁に何度かぶつかる。防護結界が塔全体に張り巡らされているようで精霊を弾いているからコレ以上壊れる事はなさそうだ。

 その時、頭上から影が通り過ぎて精霊に向かって行った。影の正体は背中から炎の翼を生やした少女で精霊と空中戦を始める。


「……何だここ?」


 世間に疎い俺でも変だと分かる。

 騒ぎの方は火の鳥少女が優勢でどうにかなりそうなので放っておいて、俺は目的の階に到着し止まった昇降機を降りて事務室とやらに向かう。

 そこで入学手続きを行うらしいのだが、多少問題が起きた。


「イーディ先生からお話は伺っています。手続きはほとんど終わっているのでこちらの書類の必要事項に記入いただければ入学完了です」

「すいません、文字書けません」

「………………はい?」

「あと読めないんで代わりに読んで貰っていいですか?」

「………………え?」


 大分時間は掛かったが、幸い自分の名前は絵として覚えているので描けた。


「はい、これで全ての手続きは完了しました。セリカさんはこれから寮住まいになるのですが、同室の人をお呼びしますのでその生徒さんから学園の案内を受けてください」


 最初の時より疲れた顔をした事務員が書類を持って席を外す。事務室の待合の椅子に座って待つ事暫し、男子の制服を着た若者が一人現れる。


「君が新入生? 僕はマオ、君と相部屋になる一回生です。よろしくお願いします」

「セリカだ」


 手を差し出してきたので握手に応じる。線の細い中性的な外見に対して掌は硬く鍛えられたものだった。


「学園を案内しようと思っているんですけど、その前に荷物を部屋に……」

「荷物はない。着の身着のままだ」

「え? 外国から来たって聞いたんですけど、旅の間着替えとかはどうしてたんです?」

「洗濯するの面倒だから街に着くたびに新しい服買って古いのは売った」

「へ、へぇ、独特ですね」


 そうかも。他の人らは大きな荷物を引き摺ったり抱えたりしている中でほぼ手ぶらなのは俺だけだった。子供でも色々持っていたのに。でも長い旅になるからこそ荷物は少ない方が楽だと思う。と言っても服と金ぐらいしか俺は元々持っていないのだが。

 最後に寮に行くとして、先ずは授業で使う各教室や訓練場を案内してくれるといことで隣の塔へと続く渡り廊下を歩く。そこで先程の火の精霊の騒ぎを思い出す。


「さっき爆発して生徒が精霊とやり合ってたが、ああいうのってよくある事なのか?」

「まぁ、気持ち多めかなって……」

「気持ち……」


 思わずオウム返しした俺にマオは慌てて首を横に振る。


「いや、学園全体がそうじゃないですから! ただ一部の生徒が騒ぎをよく起こしているだけなので勘違いしないでください!?」

「ふーん、問題児って奴か」


 闘技場にもそういう奴はいた。時々俺はオーナーに頼まれて問題児を殴って黙らせていたけど、勝ったところで勝ち星が増えるわけでもないので正直嫌だった。


「事務室があったのが月の塔。食堂や寮も月の塔にあって、この太陽の塔には教室や訓練場があります。授業関連は太陽、生活関連は月と覚えておくといいですよ」


 マオに案内され太陽の塔内部を見学してまわる。

 なんかカップルのいた座学を行う教室は机と椅子が沢山あったという感想しか出ない。実験室では魔女の生徒達が何か不気味な色の液体を混ぜたり釜で何かを煮て爆発していた。魔術試験場では少女達が怒声を上げて魔術を撃ち合っていて危うく巻き込まれるところだった。

 どれもこれも新鮮な光景で、そもそも歳の近い少年少女がこれだけいるのが自分の中ではかなり異様だ。俺のような小さな頃から闘技場にいた子供は大体死ぬし、生きててもリタイヤして別の業務についているのが多い。十を三つ四つ超えると同年代の闘技者は現れるが、そいつらは表側で裏側の俺との接点は小さい。

 こう十代の若者ばかりが沢山集まっているのは未知と言って良かった。


「ヤベェなここ」

「た、偶々! 偶々ですからね!? 今日は何か偶然にも滅多にない事が起こってるだけで! あっ、そうだ。次は訓練場に行きましょうか! 武士モノノフならやっぱりきになりますよね?」

「え、別に」

「別にって……男の子は誰しも武士を目指して入学するものじゃ」

「俺は違う。ただ勉強したいだけで、ここに入ったのも知り合いの薦めだからだ」


 授業が選択式なら武士の授業を受ける必要がないのは今更ながらありがたい。ああ、そうだ。魔術の授業を受けておきたいな。実践は勿論無理だが、座学で知識を学び直したい。闘技場にいた頃は魔女対策に魔女から教えて貰った知識しかないから偏っているのだ。


「でも案内しておきますね。魔術実験場とか案内したのに訓練場を案内しないのも変ですし、何かの機会で使うかもしれませんから」

「そうだな、頼む」


 マオに案内された先には外に移動してしまったかのような光景があった。訓練場は塔の中だと言うのに床にわざわざ土と芝を敷き詰めていた。

 闘技場も地面だが地上か地下だった。水を満たして海戦を再現したり魔術で極限環境を作り出したりはしていたりもしたが、学園は壁や天井にわざわざ青空を描き植物まで植えている点で細かさが違った。

 授業中のようで少年達が刃を潰した得物で訓練しており、揃いの服ではなくそれぞれ自分なりのスタイルに合わせた装備をしている。言っては何だが金が無いのか革鎧の少年が多い。

 そんな中で贅沢な装備をしている少年が一人いた。


「ガーッハッハッハッハ! 魔剣ドーン!」


 魔術が使えない男が魔術っぽい事ができるようになる魔剣を持った少年が高笑いしながら魔剣を振り、刃状の衝撃波を発生させて対戦相手を一方的に打ちのめしている。

 魔剣をはじめとした魔導具は物によるが中々の値段をしている。闘技場でも欲しい魔剣があるけど金が足りないという話はよく聞く。それなのに少年は魔剣だけでなく魔導具の鎧も着ているようだった。


「あれは?」

「コウ・クラウド。貿易商の息子で魔導具を沢山持ってるんですよ。あと声が大きい」

「うん、デカいな」


 装備以上に目立ち、はっきりと通る声なのでつい見てしまう。パフォーマンス的に闘技場にいて欲しい類の人間だ。俺はそういうの苦手だったし。

 ついつい闘技者としての目線で見てしまうのは癖か? 学園に入った理由が武士として腕を磨くためではないので、正直誰々が強いとか弱いとか関係ない話ではあるんだけどな。


「次行こうぜ」

「もういいんですか?」


 案内役のマオの確認に首を横に振る。その時、強い金属音がして試合をしていた一人の少年の手から太刀が離れた。上からの掬い上げで弾かれた太刀は勢い良く宙をクルクルと回転し、こっちに向かって落ちてくる。それを視界の端で捉えながらマオに向かって頷く。


「うん、特に興味ないし」


 言いながら手を落ちてくる太刀に向かって伸ばして手の甲で刃の腹部分に触れ、そこから力の向きを変える。刃の腹が肌に吸い付いているように回転し、最後には力の向きを下方向に向けて離せば太刀は地面に突き刺さった。


「他のまだ見てない教室とか見せてくれ」

「…………」

「どうした?」

「ど、どうしたじゃありませんよ! 怪我は!?」

「あー、無いな。じゃ、行こうぜ」

「えぇ…………」


 闘技場の雑多な訓練場で訓練していた時はこの手のトラブルはよくあった。故意だろうとなかろうと怪我をして次の試合に影響が出るのはつまらないので周りを注意深く見る癖がついたと云う訳だ。

 慌てて駆け寄り謝ってきた太刀の持ち主に気にするなと言って学園見学に戻る。

 それからは各授業で使う教室を一通り案内して貰った後、太陽の塔から月の塔に移って生活する寮周りを案内してもらう事になったのだが、何か塔内放送で学園長室に呼び出しを受けた。


「入学書類とかに不備が見つかったんでしょうか? でもそれなら事務の方に呼ばれるような」

「知らないが、取り敢えず行くわ。場所どこか教えて」

「それならこっちです。元々時間があれば場所だけでも教えるつもりでしたから」


 予定を変更し、月の塔にある学園長室前まで案内してもらって俺は一人で部屋の中に入る。


「えーと、失礼しまーす?」


 一声掛けてから入ってまず最初に目についたのはフルヘルメットに前をしっかりと閉めたロングコートを着た人間だった。

 一応、顔と言うかどんな姿をしているのかは聞いていたので彼女がここの学園長だと分かった。


「ノックをした方が良いですよ」


 ヘルメットで多少くぐもってはいるが女の声だ。顔を隠し手袋を嵌めて肌の露出を完全に無くしているのは、魔術を使える女は事故や実験などで体に障害を残す者が多いのでそれ故だろう。


「ああ、そっか。すいません」

「貴方の事情はイーディから聞いています。世間一般的な常識をこれから学んでいけばいいのです」


 イーディとは俺がこの学園に入るキッカケになった女だ。考古学者で世界各地を飛び回っているそうで、闘技場のある街の近くの遺跡を調べるための人足を探していたので俺はそれに参加したのが始まりだった。おかげで古代の遺跡は闘技場とはまた違ったキリングフィールドだと知った。


「それでいきなりで申し訳ありませんが急ぎ貴方にやってもらいたい事があります」

「なんですか?」

「貴方を推薦したイーディが危険かもしれません。今日、列車での事故は知っていますか? と言うか乗っていましたね?」

「乗ってました。列車強盗とか忍者とか傀儡兵とか襲ってきたんで倒しました」

「………………」


 学園長が沈黙した。フルフェイスのヘルメットで表情は見えないが何か色々と堪えて飲み込んでいるような気配がする。


「……今はいいでしょう。傀儡兵を操っていた者達がいたはずですが?」

「いましたね。いきなり切り掛かって来たんで殺しました」

「彼らはライトニッツ社の秘密部隊です。彼らはライトニッツの後ろ暗い部分を担当する者達で密輸や犯罪者への武器提供を行っています。忍者は恐らく夜刀虚衆でしょう。テロリストです。列車強盗は知りません」


 列車強盗は多分ただの小物で偶然あの列車に居合わせてしまっただけだと思う。


「イーディはライトニッツを個人的に調査していました。彼女はライトニッツがこの街に何か重要な物を運んでくるという情報を入手しその正体を探ろうとしたのですが、列車が空で爆発する事件が起きたのです」

「忍者がマナ機関に細工して暴走してたんで俺が投げて爆発させました」

「その可能性は考えていましたが言葉にされると訳が分かりませんね。何にしてもイーディはそれをチャンスと捉えたようでライトニッツの部隊の後をつけたそうですが、見つかってしまい現在逃亡中です」


 学園長は一枚の紙を見せてくる。文字は読めないが紙は何度も折り畳まれた跡があり、恐らくは鳥の折り紙を式神として使ったのだと思う。運ぶ役がそのまま手紙になっているので式神を使って伝令などする魔女は多い。


「街の中を逃げ回っているようなので、助けに行って欲しいのです」

「分かりました。そのぐらい別にいいですよ」

「ありがとう。ところでライトニッツが何を運んでいたのか見ていませんか?」

「多分、戦斧じゃないですかね? 傀儡兵にわざわざ取り付けてたし」

「オノですか?」

「人のオド吸ったり喋ったりしてました。古い魔具でしょうね」

「その戦斧についてもっと詳しく!」


 慌てたように聞いてくる学園長に戦斧の外見などを細かく伝えると、学園長は街の地図を机の上に広げた。


「声が聞こえた、と言いましたね? つまり契約をしたのですか?」

「ああ、そういえば契約しましたね。おかげでマナ機関ごと高く列車を弾き飛ばせました」

「………………」


 顔は見えないがこちらに振り向いた学園長から変な生き物を見るような気配が伝わってくる。


「詳しい話は後として、これを持ったまま地図の上に下げてください」


 ダイヤ形の宝石が先端に付いた糸を渡され、言われるままに地図の上で宝石をぶら下げる。学園長が何かブツブツ言って空中で光の文字を綴ったかと思うと宝石が独りでに動いて地図のある一点を指す。

 失せ物探しの魔術か。闘技場だとあまり見ない類の魔法で新鮮だ。


「森林公園ですか。セリカくん、急いでここに行ってその契約した戦斧を回収してきて下さい。というか何故放置を?」

「マナ機関の爆発で壊れたと思って忘れてました。で、イーディ……先生の方はどうします?」

「戦斧を優先してください」

「いいんですか?」

「優先順位は戦斧で。それにどうせ呼んでもいないのに古代魔具の臭いに釣られて合流できます」


 学園でのイーディの扱いが分かった気がした。まあ、一緒に遺跡に行った時も凄いバイタリティと悪運を発揮してたから大丈夫そうだしいっか。


「じゃあ、行ってきます」

「これを。護身用です。そのまま差し上げます」


 渡されたのは刀だ。魔剣らしく取説も一緒に付いてきた。


「ああ、ライトニッツ、社? が狙ってるんですよね。生死はどうします? つっても列車で何人か斬っちゃいましたけど」

「街中です。正当防衛程度に」

「分かりました」


 斬り伏せて放置でいいか。生死は運次第で。

 地図も借り、学園長室を出て待っていたマオに用事ができたと伝える。


「悪いな」

「僕は構いませんけど……窓を開けてどうする気なんです? 嫌な予感がします」

「どうするって、こっちからの方が早い」


 窓から外へと飛び降りる。頭上からマオの叫び声が聞こえた。

 落下途中、まだ空を飛んでいた炎の翼の少女を発見する。一度目が合って、二度見される。


「――は?」


 そんな唖然とした少女の顔を見れたのも一瞬で俺の体は世界の法則に従って俺は落ち続ける。


「ちょっと貴方何やってるの!? 掴まりなさい!」


 何かさっきの少女が急降下して手を伸ばして来ているんだが。俺を助けるつもりなんだろうが、正直言って邪魔である。


「大丈夫大丈夫。慣れてるから」

「何をふざけたことを!」


 少女を無視して貰った刀を収めた鞘の先端を塔の壁面にぶつける。炎の精霊を弾いた障壁が一瞬現れて衝撃を跳ね返した。今の感触でどのような結界か大凡掴んだ。

 外からの圧や熱が一定以上になると発動して跳ね返す結界らしい。俺はその性質に合わせた力加減で柄でぶつけ続ける。反動を減速に使用し、地上が近付いてきたところでより強く鞘を結界に押し付けて今度は反動のベクトルを外に向けさせると同時に俺自身はその力の流れに逆らわずに横方向にむかって飛ぶ。

 そのまま自由落下し、地面に足から着地する。足が地面に付いた瞬間に膝の力を抜いて倒れるようにして転がり、地面に手を何度か付いて衝撃を逃していく。ある程度逃したら起き上がりつつ走り出す。

 さあて、北はこっちだから地図だと森林公園はあっちか。

 貰った地図を見て、向かうべき方向に見当を付けると俺はその方角に真っ直ぐ進む。途中で建物に突き当たるが、壁を登り屋根の上を道としてほぼ直進で向かう。

 移動しながら貰った刀型の魔剣の取説を読んでいる間に森林公園の前に到着する。


「ここは緑豊かだな」


 街の中にこんな森同然の公園を作るなんて凄いという感想と何の意味があるのかと不思議に思う。それを言ったら闘技場の地下に闘技場を作って違法スレスレの見世物をする場所の俺は何だという話でもあるが。


『やっと来た! ちょっとあなた、遅いわよ!』


 突然頭の中で聞き覚えのある声が響いてくる。


『投げたのは百歩譲って良いとしてそのまま放置ってどういうこと!?』


 投げるのは良いのか。


「悪い。忘れてた。で、何処にいんの?」

『忘れてたって……もう、契約した以上縁を辿れば分かるわよ。慣れれば其処からでも引き寄せることができるんだけど』

「ふーん」


 学園長の失せ物探しの魔術の効果がまだ僅かに残っているのか、言われて意識すれば確かに戦斧の場所が分かる。


「じゃあ今からお前のトコに行くから」

『早く来てね。頭から地面の中に半分埋まってる状態なのよ』

「戦斧に顔なんてあるのか?」

『ないけど気分よ。それと戦斧じゃなくてレイって呼んで。ところであなたの名前は?』

「セリカ」


 名乗ってから俺は森林公園に足を踏み入れた。空が赤くなりつつあり、間も無く夜になってしまう。飯の時間に遅れないようさっさと片付けるか。

 進むべき方向は分かっているので、中から公園の外が見えなくなったあたりから走り出す。

 案の定、潜んでいたらしく僅かに動揺する気配を周囲から感じた。森の影に隠れて気配を消すこの感じは忍者か。そして忍者と言えば列車で戦ったあの忍者集団だ。

 俺が通り過ぎた後ろの方から笛の高い音が聞こえ、応えるように前方から火の光と共にあの爆発を起こすクノイチの姿が見えた。

 俺がクノイチの姿を視認した直後に頭上から葉の揺れる音がして忍者が飛び降りてくる。


「はいはい、不意打ち不意打ち」


 刀を頭上に向けて抜き放つと同時に鞘を逆手に後ろへ突き出す。それぞれの手に肉を斬る感触と骨を砕く感触がした。

 前方に意識を向けさせ頭上からの不意打ち――と見せかけ音も無く背後から低い姿勢で接近してきていた。手の込んだ不意打ちではあるが、正面から不意を突けない程度で俺に一撃入れるつもりとか甘い。

 腹を斬られたのと頭蓋骨が陥没して動けない忍者二人を放置して前に出る。クノイチが迫っていた。


「またお前かッ!」

「それはこっちのセリフなんだよなぁ」


 クノイチが手から炎を生み出して俺に向け放つ。丁度良いから貰った刀の機能を試す為に間合いの外から振る。

 すると斬撃が飛んでクノイチの炎を切り裂いた。使えるな、コレ。


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