奴隷日記。

私はエルフに転生して奴隷成金令嬢に仕えることになりました。
クラウス-小説家兼起業家
クラウス-小説家兼起業家

そして、アレルガルドへ

公開日時: 2020年10月7日(水) 01:33
文字数:2,053

(この人今、私の名前を呼んだ? だれ……)


「驚かせてしまってごめんなさい。私は生命を司る神ファレルシーナです」


(神様? 何を言ってるの、この人……。まるで全てが夢のようだ。夢ならなんで覚めないの。お兄ちゃんに会いたいよ)


 私の目からは、涙が溢れ出していた。


「お兄ちゃん……、一体どこにいるの」


「……お兄様は最後まで立派な方でしたね。本当に残念です」


 私を守ってくれるたった一人の家族だったのに。お兄ちゃんともう会えないんだ……。そう思うと涙が止まらない。神様と名乗る人は、私の背中をさすってくれていたけど、お兄ちゃんみたいに「大丈夫」って言ってくれなかった。



 * * *


 長い時間、泣いていたと思う。私は、ずっと寄り添っていてくれた神様に尋ねた。


「あの……、ここは天国ですか」


「ここは、神々が住む天界です。魂の行先をここで決めています」


「それじゃあ、お兄ちゃんの魂もここに来ているのですか!? あの時、お兄ちゃんも車に……」


「それは、私にも分かりません。天界には杏奈さんが暮らしていた地球の他に、様々な星から数多くの魂が集まります。その中でお兄様を探すのは……ごめんなさい」


「そうですか……。お兄ちゃんは、天国に行けるんでしょうか」


「ええ、きっと。そう思います」


「そうですか……。それじゃあ、私はどうなるんでしょうか。お兄ちゃんに会えるのなら……私も天国に行きたい」


「天国に行くと、魂は記憶を消失し、新たな魂となって転生することになります。ですから、天国に行ってもお兄様に会えるわけではないのです」


(お兄ちゃんのことも忘れてしまうなんて……。いやだよ……)


「杏奈さん。お兄様のこと、忘れたくありませんか?」


「はい、もちろんです……」



 神様は、私の暮らしていた世界とは異なる世界、アレルガルドの話をしてくれた。


 アレルガルドには人間、エルフ、獣人、ドワーフのような、私の見たことがない人種が暮らしているらしい。それに、魔法を使える種族がいるそうだ。その世界に転生するのなら、特別に今の記憶を持って転生させることが出来ると言ってくれた


(違う世界に行けば、お兄ちゃんのことを忘れることはないって言われても……。でも、怖いよ。またひとりだなんて……)


「杏奈さん、もしアレルガルドに転生するのでしたら、エルフ族に転生してはどうでしょうか」


「エルフ……?」


「はい。エルフは戦いを好まず、森の妖精たちと共に暮らしています。戦いを好まないと言っても、魔法を使うことが出来るので、とても強い種族です。人間に転生した場合、その生活は大変かもしれません。でも、エルフなら強い同族の絆によって支えられ、安心して生活できるかもしれません」


「あの……、私も魔法を使えるようになるんですか?」


「もちろんですよ。魔法に興味がありますか?」


「はい……。お兄ちゃんと一緒に、よく勇者が出てくる本の話をしていました。勇者の仲間には魔法を使えるエルフがいて、そのキャラクターが私みたいだって言ってくれて。私もその本が好きになって……」


「そうでしたか、それは素敵なお話ですね。それでは杏奈さん、どうされますか?」


(このまま天国に行けばお兄ちゃんにも会えず、記憶はなくなって、お兄ちゃんのことも忘れてしまう。それだけは、絶対に嫌だ)



「私、アレルガルドに行きたいです」


「分かりました。よく決断されましたね。それでは、アレルガルドへ行きましょう」


 神様が何かを唱えると、私と神様は一瞬で別の場所へ移動した。


「ここがアレルガルドへ繋がる場所です。心の準備はいいですか?」


「えっ、あ……はい。大丈夫です。あの、絶対にお兄ちゃんのこと、忘れないんですよね」


「はい、記憶は全てそのままですから、安心してくださいね」


「分かりました。魔法も使えるんですよね?」


「はい、ご心配でしたら、特別に魔力量を上げておきますね。魔法は生まれ持った魔力によって比例します。少しの

特訓で、魔法が使えるようになりますよ」


「あ、ありがとうございます。いろいろ、ごめんなさい」


「大丈夫ですよ。では、アレルガルドへの道を開きます。Allelegardeアレルガルド Vieヴィエ Saristhirtyサリスサーティ


 すると、目の前に真っ白な入り口が出てきた。


「この道をまっすぐに行ってください」


「分かりました。いろいろありがとうございます。私、行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい。杏奈さん。」


 私は中に入り出口を目指して歩いた。中はとても眩しい。その途中で、神様の名前を聞くのを忘れていたことを思い出して戻ろうとしたけど、戻ってしまうとアレルガルドへ着かなくなるかもしれないのが怖くて、戻れなかった。


(はじめに名前を教えてくれた気がするけど、あの時は覚える余裕がなかったから。また会えるかな、神様)


「あのね、お兄ちゃん。私神様に出会って違う世界に行くことになったんだよ。お兄ちゃんが好きって言っていた獣人やドワーフ、エルフもいる世界なんだよ。私はエルフになって魔法も使えるんだよ……」


(お兄ちゃん。大好きだよ。私、お兄ちゃんのこと絶対に忘れない)

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