【簡単キャラかいせつ】 《僕(亘平)》 猫を拾ってしまった平凡な火星世代サラリーマン/ 《ジーナ》 亘平の拾ったねこ/ 《鳴子(なるこ)さん》 開拓団の占い師/ 《遥(はるか)さん》 鳴子の双子の姉。開拓団のエンジニア/ 《仁(じん)さん》 遥さんの息子でモグリの医者/ 《怜(とき)》 砂漠で出会った謎の美人/ 《珠々(すず)》 資料室で出会った可愛い女性/ 《オテロウ》秘密計画で会社に来ている《センター』の猫
「治安は悪化しています。このあいだも駅の近くで銃撃戦があったばかりです。それでも、『犬』 を怖がって短時間で引き上げていきましたが」
僕がそういうと、オテロウは目を細くして何かを考えているようだった。僕はカマをかけるために付け加えた。
「やはりイリジウムの増産は急がなくてはいけませんよね」
しかしオテロウの反応は僕の予想と違っていた。
「イリジウムは増産体制の目星がついています。フェライトを優先しましょう。これは『センター』の最優先課題です」
僕はあっけにとられた。フェライトがイリジウムの増産より大切だって……? 開拓団地域の併合がそれだけ重要なのか、それとも別の理由があるのか……。
『犬』を増産するためのイリジウムと、開拓団併合のためのフェライト。そして不足するネコカイン。いったいオテロウは、そして『センター』は何を目的に動いているというのか……?
会議が終わって、自分のデスクに戻ると、珠々さんがすぐに僕のところに来た。
「山風さん、異動を希望なさるって……」
「ええ、一か月だけ生産の現場に……」
僕がそういうと、珠々さんは大きな目で僕を見つめた。沈黙があまりに長かったので、僕は困って、つい愛想笑いを浮かべた。すると珠々さんは怒ったように視線をそらして言った。
「オテロウから確認を言いつけられましたから、一か月、どこかで連絡を取らせていただきたいのですけれど」
「ええ、ビジネスリングにちゃんと入ってい……」
珠々さんはほとんど僕の話を聞かずに言った。
「そうですね、山風さんのことは『かわます亭』でつかまえますわ。家もお近いようですし」
僕はあわてて言った。
「いえ、珠々さん、いまあの地域は危険です。どうかいまは火星世代地域から離れないように……」
「危険でも仕事は仕事です。それに山風さんの相手の方も『かわます亭』にいらしてるでしょう? 私だけが危険ってことはありませんわ」
「いえ、あの人はこう……いや僕よりは強……」
「山風さん、わたくしにオテロウに言われた仕事をさせてください。これは重要なプロジェクトです。キャリアにかかわります」
いつもになく強情な言い方をする珠々さんに僕は戸惑った。オテロウは珠々さんに何を指示したというのだろう……。
そのとき、遥さんからビジネスリングに連絡が入った。壊したバイクのことで話したいことがあるという。いい中古車のベースが入ったらローンを減額できると言っていたから、そのことかもしれない。僕は珠々さんに言った。
「わかりました、それじゃあこうしましょう。『かわます亭』の人たちに冠城さんを紹介してよくよく頼んでおこうと思います。僕だってキャリアがある。冠城さんに何かあったら、僕はたぶん会社で(とくに上司と珠々さんにあこがれる若い男たちに)袋叩きにされますよ」
珠々さんはそれを聞いて、なぜか頬を赤らめた。それで、その日の仕事上りは僕と珠々さんが『かわます亭』に行くことになったわけだ。
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