ネコカイン・ジャンキー! ~サラリーマン亘平編~

火星でにゃんこハザード! 魔薬に猫腹に恋に冒険!
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第十四話 縞々をさがせ!-3

公開日時: 2020年9月9日(水) 19:50
更新日時: 2020年9月25日(金) 11:07
文字数:2,082

【簡単キャラかいせつ】 《僕(亘平)》 猫を拾ってしまった平凡な火星世代サラリーマン/ 《ジーナ》 亘平の拾ったねこ/ 《鳴子(なるこ)さん》 開拓団の占い師/ 《遥(はるか)さん》 鳴子の双子の姉。開拓団のエンジニア/ 《仁(じん)さん》 遥さんの息子でモグリの医者/ 《怜(とき)》 砂漠で出会った謎の美人

「玄関の外をみて。通路の通風孔のところに、ジーナの毛が付いてたわ」


 僕は急いで外にでて、玄関の左横にある、通風孔を見た。火星の都市は大部分が地下にあるから、循環ステーションから通風路がくまなくめぐらせてある。もちろん通風孔には格子がはまっているけれど、それは猫にとっては難なくくぐり抜けられる大きさだった。

 そして、その格子には確かに『何か』がくっ付いて空気の流れにそってたなびいていた。それをつまみあげると、確かにジーナの縞々の毛だった。

 

「ジーナは通風孔からどこかへ逃げたのか」


 部屋で待っていた怜はにっこりとほほ笑んだ。


「たぶん、ジーナは誰にも見られていないわね」


 僕もその点では安心できた。ジーナはとりあえずは安全だと思えた。けれど問題は、ジーナが通風孔からどこへ逃げたかだった。怜は言った。


「とにかく、ポイントは通風孔は通路側へ風が吹くってことよ」


 僕がいまいち飲み込めないでいると、怜はメモに通風孔の簡単な図を描いて見せた。


「ジーナが動けば、ジーナの毛が風で通風孔に引っかかる。ってことは、片っ端から通風孔を調べれば、ジーナがいそうな場所には毛が付いてるってこと」


 僕はうーん、とうなった。すぐにそんなことを思いつく怜に舌を巻いたし、一方で何か怖いような気がした。それでも、とにかくジーナを見つけるにはやってみるしかない。


僕と怜は通風孔の点検役と見張り役に分かれて、あたりの通風孔を片っ端から調べて回った。ジーナの毛が見つかったのはやはり第五ポート駅に向かってで、けれど駅に近づくにつれ通風孔の数も増えて追いきれなくなった。それでもともかく、ジーナは第五ポートに行こうとしたのだろう。

ジーナは食べるものはどうしているのだろう。もうそろそろ日光浴をさせないといけないことや、急に買ってきたジーナの好物のことなんかが思い出されて悲しくなった。怜の前だからつとめて平気なふりをしたけれど、実際かなり落ち込んでいた。


「まあ、見つけようはあるわ」


 怜はそんな僕の心を見透かすようにそうつぶやいた。


「いろいろ、ありがとう、怜さん」


 考えることが多すぎて、僕は怜に向かって笑って見せるのが背いっぱいだった。

 怜は言った。


「……あなたはいい人だわ。明日、『かわます亭』で、落ち合える? ちょっとアイディアがあるんだけど」


 僕はうなずいた。


「とにかく、もういちど『かわます亭』に戻らなきゃ……マスターにも謝らなきゃならないな」


僕は一人で『かわます亭』に帰った。鳴子さんはすでに戻ってきており、マスターは僕にカンカンに怒っていた。当たり前だよね、鳴子さんの代わりの人間までいなくなってちゃ。

それでも、あの氷さわぎの犯人は分っていないようだった。僕はマスターに申し訳なくなって、高めのボトルをキープしてもらうように頼んだ。

「で、いったいどこ行ってたんだいあんたは」


鳴子さんはあきれ顔で言った。


「怜(とき)が来たんだ」


 怜の話が出たとたん、鳴子さんの顔色が変わった。


「怜にジーナの話をしたのかい?」


 僕はうなずいた。鳴子さんはきびしい顔をした。


「亘平(こうへい)、あんたあの娘に……。あの娘はやめとくんだね。おまえの手におえる玉じゃないよ。なにかあるよ、あの娘には……」


 僕は鳴子さんを黙って見つめていた。そのとき、僕は自分がどんな顔をしていたのかはわからない。けれど、鳴子さんは軽くため息をついてこう言った。


「最近、怜は開拓団に入り浸っているけれど、どうやら商売が理由だけでもなさそうだ。だいたい本当に怜がセンターの人間だったらどうするんだい、ジーナのことなんか話ちまって……」


 僕は軽く肩をすくめて一気にグラスをあおった。


「彼女がだれだろうと、人間には『気の合うやつ』と『気の合わないやつ』しかいないんだろ? 鳴子さん。僕だってここに入り浸ってるけど、『火星世代』じゃないか」


 鳴子さんはもういちど盛大にためいきをついた。


「亘平、あんたはいいやつだ。姉さん(遥)も仁もみんなお前を気に入っている。あたしだって若けりゃお前を婿さんに迎えたっていいぐらい信用してるんだ」


 鳴子さんに思わぬプロポーズをされて、僕は思わず吹き出しそうになったけどこらえた。鳴子さんはそれを待ってたように僕の背中をどんと叩いた。


「お前はいいやつだ。だから心配なんだよ」


「鳴子さん、僕はただの平凡なサラリーマンだよ……」


 僕がそういうと、鳴子さんはおおきくかぶりをふった。


「ただの平凡なサラリーマンがあんたみたいに真っすぐでいられるのが凄いのさ。あんたは自分のことを何にもわかっちゃいない。いいかい、確かに怜はそんじょそこらの玉じゃない。美人だし肝も据わってる。女のあたしだって感心しちまうくらいだ。でも亘平のまっすぐさが通じる相手じゃない気がするんだよ」


 僕は鳴子さんの言うことが正直、よくわからなかった。そもそも怜のこともよくわからないのに、どう返事をすることもできなかった。ただ理解したよ、というかわりに鳴子さんの肩をポン、とたたくだけしかできなかった。


「それでねえ、実はきょう、姉さん(遥)に『犬』を借りられないか聞きに行ったんだよ」

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