ネコカイン・ジャンキー! ~サラリーマン亘平編~

火星でにゃんこハザード! 魔薬に猫腹に恋に冒険!
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第六十六話 消えたジーナ-2

公開日時: 2020年11月11日(水) 11:12
文字数:1,100

【簡単キャラかいせつ】 《僕(亘平)》 猫を拾ってしまった平凡な火星世代サラリーマン/ 《ジーナ》 亘平の拾ったねこ/ 《鳴子(なるこ)さん》 開拓団の占い師/ 《遥(はるか)さん》 鳴子の双子の姉。開拓団のエンジニア/ 《仁(じん)さん》 遥さんの息子でモグリの医者/ 《怜(とき)》 砂漠で出会った謎の美人/ 《珠々(すず)》 資料室で出会った可愛い女性/ 《オテロウ》秘密計画で会社に来ている《センター』の猫

「ずいぶんな念の入れようね。ひどい焼かれかた」


 いつの間にか怜が僕の後ろにいた。


「見張りは……」


「隣の若い子がやってくれてるわ。……ジーナは……」


 怜は部屋を見回して言った。僕は現実を口に出して言う勇気がなかった。怜は言った。


「とにかく、翻訳機が残っていなければ、ジーナは火事からは逃げおおせてるわ」


「翻訳機は落ちてなかった。だけど、だけどなんだって……」


 怜は言った。


「亘平、あなた狙われてるわよ……。さっき外でチェックしたけれど、並びでやられてるのはここだけ」


 僕は回らない頭で必死で考えた。だけど、ギャングたちの目的がさっぱりわからなかった。ネコカインの支給は数日先だったし、ジーナが目的だとしたらもっと話が分からなくなった。なぜなら『犬』を避けたいギャングが猫をさらうなんて本末転倒だからだ。


 僕がふらふらと外に出ると、外ではとなりのおかみさんが待ち構えていた。


「山風さん!」


 僕が顔をあげると、おかみさんの目は真っ赤だった。その真っ赤な目を吊り上げているので、おかみさんの顔はおそろしい形相になっていた。


「山風さん、こっから出てってください。この団地から!」


 僕は話が呑み込めずにただぼうっとおかみさんを眺めていた。おかみさんは僕をこぶしでどついた。


「うちの子が火傷したんですよ! 『火星世代』のひとがね、ここにいたら、子供が巻き込まれるんですよ!」


 後ろから隣の主人がおかみさんをなだめようとしたが、おかみさんは肩で振り払って聞かなかった。


「ギャングにとっちゃ『火星世代』は格好の獲物だって言ったろう! 迷惑なんだよ! あんたがここにいたら! これからギャングと開拓団の争いになるかもしれない。ここもあんたのせいで、もう安全じゃなくなっちまったんだよ!」


 言われてみればその通りだった。隣の子の火傷は悪いのだろうか。僕は隣の主人の胸で泣き崩れるおかみさんを前に、何も言葉が出てこなかった。

 怜は腕組みをして、僕たちのことをじっと見つめていた。僕は怜に何かを言ってほしかったのかもしれない。けれど怜はそこでだまって見つめているだけだった。


「うちのが済まねえな……」


 隣の主人がおかみさんの肩をさすりながら、僕にそう話しかけた。僕は言った。


「ここを出ます……」


 ご主人は僕を気の毒に思ったのか、最後にこう言った。


「今日だけでもうちに泊まっていくかい。急に行くところもないだろう。玄関先はやられたが、なーに奥の部屋を片しゃ、ひとりぐらい余計に眠れるさ」


 僕はちからなく首を振った。家の中のものはみんな焼けてしまっていたし、ここにいては本当にみんなに迷惑がかかるかもしれない。

それに、ジーナを失った家にはもう留まる理由がなかった。

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