【簡単キャラかいせつ】 《僕(亘平)》 猫を拾ってしまった平凡な火星世代サラリーマン/ 《ジーナ》 亘平の拾ったねこ/ 《鳴子(なるこ)さん》 開拓団の占い師/ 《遥(はるか)さん》 鳴子の双子の姉。開拓団のエンジニア/ 《仁(じん)さん》 遥さんの息子でモグリの医者
僕をなぜ開拓団が助けてくれたのか……。
その話には、またあの『シャデルナ』の話に戻らなくてはならない。
『シャデルナ』の女主人はあのファッションだからみんな誤解するけれど、とてもやさしい人だった。でも、言葉遣いは荒いし、僕に対しても言いたい放題だったけどね。
ジーナと一緒に暮らし始めて4か月くらいになったころかな。
僕はジーナの『教育』をどうしようか考え始めていた。だって、3020年にはもう猫たちは人間と同じ言葉を話しているのだからね。
そもそも、猫たちはとうの昔に人間の言葉は理解していたんだ。
けれど、それを発音することができなかった。
猫たちはそれを特別な首輪で解決した。
……鈴が付いてる? いや違うよ。鈴じゃなくて、翻訳機がついているのさ。
21世紀の猫は鈴がついているかい? あんまり感心しないなあ。
猫たちは高い音がほんとうは苦手なんだよ。狩りをしたり、母猫を呼んだりするときにだけ使う音だからさ。
まあそれはともかく、猫たちは人間の言葉をはなすために、翻訳機を発明した。
それはこんなメカニズムだ。
猫たちは喉をゴロゴロ言わせるけれど、その音の長さや高さをアルファベットに変換する。
そして、人間語に機械が翻訳するのさ。
……『こねこのジーナ』は実在したかって? 最初に人間の言葉をしゃべった猫だね。
初代ジーナは確かにむかし存在していた猫さ。でも、発明された翻訳機を使った猫じゃない。
教科書には古い初代ジーナを撮影したホログラムが入っているんだけど、初代ジーナは単語カードを使っていた。すごく単純なことさ。
「わたし」「ねむい」「おなかすいた」「おみず」「うれしい」「だっこ」
なんて書かれたカードを、初代ジーナは的確に選ぶことができた。
子猫のころから訓練をはじめて、十歳をすぎるころには
「わたし」「たべたい」「オマールエビ」「ゼリー仕立て」
ぐらいまでは選んだそうだよ。
うちのジーナ二世はどうかって? うちのサバトラの真ん丸お月さんは、翻訳機をつかってそりゃあ面倒なグルメな要求をしたけれどね。
それでまあ、とにかく僕はジーナの『教育』のために翻訳機を手に入れようと決心した。
けれど、例によってすべてを管理しているセンターがこの社会に存在しないはずの『野良』の『子猫』用の翻訳機を製造しているはずがない。
で、また僕は『シャデルナ』を頼るしかなかった。
こんなに話に『シャデルナ』の女主人が出てくるのに、服装以外はたいして話していなかったよね。
『シャデルナ』の女主人は、まあ、服装がヒョウ柄だから、それ以外があんまり目に入らないんだよね。
彼女の名前は鳴無鳴子さんと言った。
よく見ると昔は美人だったんだと思うんだけど、笑い方が豪快だし、あのファッションだしでどちらかというと威圧感というか、こちらを黙らせる迫力のある人だ。
鳴無鳴子さんは、その迫力で占いに説得力を持たせていた。
なんていうんだろう、占いなんて当たるか当たらないかわからない。
でも、鳴子さんはいつだって前向きな言葉で励ましてくれて、最後にこういうんだ。
「この明るい未来は最後は『お前の努力』でつかみ取って行くんだよ! 大丈夫だ、お前にはその力があるんだから」
そう、それが賭け事の勝ち馬予想であっても……。
当てる気はないけれど、励ます気持ちだけは人一倍伝わる、それが鳴子さんなんだよ。
ちなみに、勝ち馬が外れたらこういうんだけどね。
「賭け事になんかあたしの能力を使うわけがないじゃないか! ラッキーは自分でつかみ取らなきゃダメなんだよ、精進おし!」
みんななんだか鳴子さんに叱られたくて、どんないい加減な占いでも相談ごとを持ち込むんだ。
でもあとから知ったんだけど、彼女はほんとうに『初期開拓団』の超能力者の子孫だそうだけどね。
だからといって超能力があるとは限らないよね。
彼女の家は第四ポート駅の初期開拓団の街にあるんだけど、そこはそんなに治安がよくないことで知られている。
ところで、君はジーナを最初にみてくれたモグリの医者は覚えているかい……?
彼の名前は、鳴無仁
おとなし じん
というんだ。……え? なぜ名字が一緒かって?
まあ、開拓団の名字は鳴無が多いんだけれど、この場合は君のカンは正しい。
あのモグリの医者は、鳴子さんの甥っ子なのさ。鳴子さんの夫は若いころに亡くなったらしいんだけど、鳴子さんは夫が亡くなっても、よく甥っ子をあずかっていたんだそうだ。
だから僕のような厄介ごとも無理やり押し付けられたんだね。
開拓団の街はとても古くて、治安も悪い。警察はどうしているかって……?
何もしないさ。人間が猫に歯向かわない限り、警察はなにもしない、それがセンターの方針だ。
開拓団地域には違法ネコカイン(だいたいはセンターから配給されたものを人間が売ったものだけど、ここでもやっぱり警察は何もしない。まあ、管理してるのがそもそも猫だしね)がたくさんあって、依存症者も多い。
違法なものには混ぜ物も多いし、依存症にはいろいろな症状が出るんだけど、基本的にはネコカイン依存症には治療費が出ないから、モグリの医者が主にみることになるんだそうだ。
まあ、のちのち僕と仁さんは友人になるんだけれど、最初は伯母さんにあたまの上がらない甥っ子というイメージだった。
そして、もう一人、まだここに登場していないのが鳴無遥さんだ。鳴無遥さんは……。鳴子さんの双子のお姉さんだ。
いちばん分かりやすく彼女を表現するなら、人の三倍はパワフルな鳴子さんを三割増しで豪快にした人だ。機械のエンジニアで、その人がいなかったら、ジーナはいつまでたっても翻訳機が手に入れられなかっただろう。
でも、ジーナが僕の次になついていたのが遥さんなんだけどね!
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