ネコカイン・ジャンキー! ~サラリーマン亘平編~

火星でにゃんこハザード! 魔薬に猫腹に恋に冒険!
スナメリ@鉄腕ゲッツ
スナメリ@鉄腕ゲッツ

第六話 火星の窓辺の子猫の夕べ

公開日時: 2020年9月5日(土) 20:33
更新日時: 2020年9月25日(金) 11:13
文字数:2,266

【簡単キャラかいせつ】 《僕(亘平)》 猫を拾ってしまった平凡な火星世代サラリーマン/ 《ジーナ》 亘平の拾ったねこ/ 《鳴子(なるこ)さん》 開拓団の占い師/ 《遥(はるか)さん》 鳴子の双子の姉。開拓団のエンジニア/ 《仁(じん)さん》 遥さんの息子でモグリの医者

 子猫にはどうしても太陽が必要だ。


 なぜって、日向ぼっこがないと生きていけないからさ。

 人間はごく弱い光でもビタミンをなんとか必要なぶん合成できるけど、子猫にはもっともっと安全な太陽の光が無ければならない。


 僕はそんなこと知らなくて(あの『かわいいこねこの育て方』にも太陽のことは載っていなかったんだ。だって、あれは太陽が安全な地球で使われていた本だから)、そのせいでジーナの毛の艶のことも、モグリの仁さんに言われるまで気が付かなかったぐらいだ。


 そのころ、僕は開拓団の街に入り浸っていた。というか、ジーナの『教育』のためには仕方なかったんだ。

 翻訳機は自家製だったから、しょっちゅう故障して遥さんの助けを借りなければならなかったし、ほんとうならセンターによる『猫のための教育機関』に入るのに、ジーナはそこへは行けなかった。

 それで、僕は自分のこどものころの教科書なんかをジーナに使わせることにした。


 僕は会社に行く前にジーナを遥さんのところに預けて、帰りに家に連れ帰るようになっていた。だからジーナは僕の次に遥さんになついているんだ。

 今でも覚えているけれど、ジーナはまだカバンの中にすっぽり収まるくらい小さくて、出かける時間になると

「ふくろにゃ」

 って一こと言ってからカバンの中に自分から飛び込むんだ。

 でも、カバンと袋の違いがわかるまで結構かかったよね。

 狭いところにもぐるのが好きらしいんだよ。

 一度は休日にカバンの中にかくれてて、一日探し回ったこともあったな……。


 まあ、助かったのはいちどでも遥さんのところに行きたくないって言わなかったことだね。

 遥さんの作業場は子猫にとってはちゃめちゃに楽しい場所らしい。

 複雑な機械やら道具やらが積みあがっていて、そこで修理できるものは修理する。

 本当に大きなものはセンターの中まで行って修理するらしいんだけど、たいていは自分で持ち帰ってやっているらしい。

「古いものは設計図も残っていないから、自分で分解して仕組みを理解しないと修理もできないのさ」

 というのが遥さんの説明だった。


『猫のための教育機関』でどんなことを教えているかは誰も知らない。遥さんをはじめ、センターがどこにあって、どういうことをしているのかも誰も話さない。

 唯一みんなが知っているのは、センターは地上のどこかにあるってことさ。

 ジーナは猫のための教育は受けられないで、人間のための教育を受けた。


 鳴子さんたちは、僕とジーナのために本当によくしてくれた。

 理由はずっと分からなかった。

 でもある日、鳴子さんはこういったんだ。


「お前さんたちをなぜ助けてるかってね……? お前さんたちがこの火星の運命を大きく変えるかもしれないからだよ! 具体的にはわからない、でも占いにはおまえさんに会ったときからそう出てるのさ」


ジーナのことをあまり話していないよね。

 いまジーナが僕のところにいないことは話したと思う。


 ジーナは灰色のサバトラだ。僕のところに来たときは、まだとても小さくて、手のひらより少し大きいだけだったのに、僕がさいごにジーナを見たときは鍋よりでかかったよ。

 真ん丸で、いつもご機嫌な顔をしていた。


 開拓団のみんなにも可愛がられてたしね。


 ……誰がジーナのことをバラしたかって……?

 それは分からない。誰もバラしてなんかないのかもしれないし、裏切り者がいたのかもしれない。

 開拓団のみんなのことを疑いたくはないけれど、可能性がないわけじゃない。


 でも今は、犯人捜しをしている場合じゃないんだ。

 僕はジーナを助けなければならないし、そのためには君に助けを借りなくちゃならない。


 僕は君に、2020年の猫ブームを阻止してほしいといったよね。

 それはこういうわけだ。

 2020年、地球では世界的な猫ブームが起こる。


 それまで、人間は猫をペットとして飼っているよね。

 2020年に爆発的に増えた猫の数は、そのまま猫の行動の記録につながっていくんだ。

 24時間、365日、膨大なデータが年々積み重なることになった。


 そして、もう一つ大きな出来事がおきる。

 画像解析で人間の知能をはかっていたAIが、どういうわけか猫を人間として認識し始めたんだ。

 それで、人間たちは何が起こったかを調べはじめた。


【猫たちは人間を思うように動かすぐらいの知能を備えている】

 それがAIの判断だった。驚くべきことに、人工知能によれば、人間は猫に飼われていたんだ!


 しかし、それから数百年はそれは人工知能の大きなミスとして扱われることになった。

 けれど、一部の人間たちはそれをミスとは思わなかった。

 彼らはとても細々と猫の知能が人間を上回っていることを研究していたんだ。


 ……本当に猫が人間よりも頭がいいかって……?

 実は、元データはもういまは失われてしまった。

 なぜなら、『はじめの人たち』が地球を離れて、地球が滅亡の危機に陥ったとき、猫の知能に関する初期データは大きなシステムエラーに見舞われて、消えてしまったからだ。


 けれど、そのAIの判断が猫たちが僕たちを支配する最初の根拠になっている。


 そしてもう一つ、人間には奇妙な習慣ができ始めた。

 イライラしたときや、現実逃避をするときに、猫のおなかを嗅ぐ習慣だ。

 やがて地球滅亡の危機が消え去ったころ、ふたたび、猫の知能に関する研究がもりあがった。

 人々は真剣に『猫の教育』によって猫と人間は協力していけると思い始めた。


 もうなんとなく分かったかな。2020年の猫ブームが作り出した二つの柱だ。

 一つは『猫の教育』。

 そして、つまり、いちばん重要な部分にふれなきゃならない。

「ネコカイン」がなにか、ってことさ。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート