「■■■■■ーッ!!」
ダレラトールは脱力した身体にフッと力を吹き込み、一直線に飛ぶ弾丸となって、パジェットにその角を喰らわさんと駆ける。
「ふっ!」
パジェットは腰を落として構えると、受けの手がそれを受け止める。
ダレラトールの角がパジェットの掌を貫くが、パジェットはそれを気にする事なく突進を受け止める。
「ぐぅぅうッ!! ───ゥゥオオオオオオオッ!!」
パジェットは、地面に向かって霊力を込めた『種』を撃ち込むと茨が彼女をその場に留めようと根を張り、彼女に巻き付く。
「■■ッ!?」
「──征くぞッ!! これなるは地獄の具現ッ!! 不徳なる者への報いッ!!」
パジェットは腰を入れ、構えていた拳を捕まえた頭部目掛け、拳が潰れようとお構いなしに撃ち込む。
すると、傷を知らぬ無敵の鎧は、クリスタル特有の気味の良い音を立てて割れ、隠されていた身を露わにし、そこから茨の『種』を大量に撃ち込まれる。
「春式奥義ッ!! 『四千獄死聖拳』ッ!!」
撃ち込まれた種達は、ダレラトールの体内で発芽し、四千にも及ぶ棘が内側から全身の肉を突き破る。
「──────」
ダレラトールは喉を棘に突き破られ、断末魔を出す権利も与えられず、その魂は肉体を離れる。
「──結局その皮膚を貫くのは叶わなんだ」
パジェットは、棘によって凹凸する皮膚を見て、そう呟くと、
「──また鍛え直しだな」
と、溜息混じりに言うのだった。
「すげぇ……えげつない倒し方だな……」
「よく頑張りましたね、パジェット」
そんな二人の声が聞こえて、パジェットは気を取り直し、彼女達の元へ行き、跪いて謝り出す。
「申し訳ありませんシスター……アナタを危険に晒してしまい……ボクもまだまだ未熟です……」
「ふふっ、いいのですよ、それこそが信仰の道なのですから……」
(……信仰って言うか格闘家の道じゃあ……ってか、暗に俺はどうでもいいって言われたなコレ……)
そんな事をイアンが考えていると、パジェットは立ち上がり、真剣な面持ちで屋敷を見ていた。睨んでいるという方が近い。
「ボクもデクスター達の助太刀をしに行きます、シスター達はここでお待ちを」
「待つのですパジェット、その傷で行くのは────」
シスターがパジェットを引き止めようとした、その時だった。
──キィィンッ、と言う耳鳴りの様な音がすると、身体に重しが付いた様に全員が地面に押さえつけられる。
「ッ!? これはッ──!?」
「『霊障』かッ!?」
『霊障』とは、高位の術式が発動した際に霊力に干渉して起こる現象であり、怪力自慢のパジェットが膝を付くのを見ても、その影響の大きさが測れるだろう。
「うぐッ!? 向こうで一体何がッ──!?」
───その理由は、時間を少し前に遡る。
◆◆◆
「何なんだアイツ!? 全然効いてないぞッ!? 同じ死霊術師なんだから何か知らないの!?」
デクスターは先程から胸を貫かれようが目を貫かれようが、どんな傷も炎で包むと、一瞬で治してしまうのを見て、思わずそう叫んでしまう。
「フン……死霊術ってのは何も死霊を操るだけじゃない、高位の術師はその肉体まで自分好みに変えちまうもんなのさ」
曰く、彼は不死性の研究に執心していた様で、不死鳥の様に自身を火などで熱する事で体内の霊力を活性───修復する身体になっているのだという。実際、それを証明する様に、彼自身の火術(夏式の術師が使う事の出来る術式のこと)が羽衣の様にして常に彼を燃やし続けていた。
「そんな……それじゃあどうやって倒せば……」
「オイオイ、私の戦い方を忘れたかい? 不死身なんて──関係ないッ!!」
セオドシアはそう言うと、ギガゴダでジェルマを掴んで振り回し、床がぶち抜ける程に強く彼を叩き付け、焼きごての様に青白い炎を立ち上らせる。
「ガァアアッ!?︎ グッ──!? 火術では無い───痛覚を遮断してもこれかよッ!?」
「イヒヒッ!! 君ら三流じゃあ出来ない発想だろう? そらとっとと自決しな! 残暑は見苦しいぜぇッ!!」
「す、凄い……セオドシアが押してる……」
デクスターは、その様子を呆然とただ眺め、持っていた弓を握り締める。
(セオドシアって僕が想像する何倍も凄い人だったんだな……けど……)
だからこそ、こんな状況でも、彼の胸中にはある一つの疑問が芽生えていた。
(一体……セオドシアって何者なんだろう……)
『糸を紡ぐ者』に誘拐され、操られていた時に彼女はこの黒幕がジェルマであると既に予測し、チェリーザは彼女と彼がかつて仲間同士である事を示唆した発言をした時から、疑問は既にあったのだ。
しかし度重なる事件によって、その疑問は最悪な解答をイメージさせて来た為、ずっと奥底に仕舞い込んで、考えない様にしていた。
しかし、五年前に空を朔で覆った彼を追い詰める彼女を見て、再び疑問がぞわぞわと這い出てくる。
(クソッ……何考えてるんだ僕はこんな時にッ……‼︎ 今は戦いに集中しなきゃ……)
そんな事を考えていると、ふと、ジェルマに視線が行き、デクスターは思わず息を飲む。
彼は何度も殴り付けられた事で骨や内臓が露出していたが、それでも数秒後には完治し、立ち上がっていた。
「アイツ……アレだけ受けてまだッ……!?」
「ハァッ……ハァッ……!! フフフハハハハハハッ!! 無駄って奴だぜセオドシアさんッ‼︎ もうアンタの知ってる俺じゃあねぇんだッ‼︎ 尽きた霊力はあの『朔』から受け取ればいいッ!! 滑稽だなッ!! アンタは自分自身に殺されるのさッ!!」
そう高笑いして叫ぶジェルマの彼女が彼女自身によって殺されると言う言葉に、デクスターは胸がギュッと掴まれた様な感覚になって、疑問が口をついて出てしまう。
「自分自身に……? 一体どういう……」
「おやァ? まだそっちの坊主には言って無いのかァ? フフフフッ!! 言える筈もねぇッ!! だったらアンタなんかに着いていかねぇもんなぁッ!?」
「チッ……いい加減おしゃべりはおよしよッ!!」
彼を黙らせようと、セオドシアは焦った様子で青白い炎を放つが、ジェルマは紅蓮の炎で翼を象って展開し、盾とする事でそれを防ぐ。
「フフフフフフッ!! ならこの俺が代わりに言ってやるって奴だ───よく聞けデクスター・コクソンッ!!」
彼は炎の翼で推進力を作ると、彼女を蹴飛ばして遠くの方へやると────彼に向かって最もされたく無い告白をする。
「グッ──よせッ!!」
「セオドシア・リーテッドはかつて俺達と組み───月住人とあの朔を作り出した張本人──全ての『元凶』なんだよォッ!!」
「……──え?」
想像していた最悪の想定を口にされ、うなじの産毛が逆立ち、デクスターは息を呑んだ。
「──ハハッ……う、嘘だ……また僕達を騙そうとしてる……ねぇ、セオドシア? 何で黙ってるのさ? ───ねぇ?」
「………………」
「何で──何も───何も言ってくれないんだよッ!?
セオドシアッ!?」
屋敷には、家屋の燃え上がり崩れる音──真実を振り払おうと叫ぶデクスターの声──それら全てを滑稽だと笑うジェルマの弾ける様な笑い声が響き渡るのだった。
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