それから
私が実際に魔力判定で王宮に呼ばれることは一度もなかった。
王宮はそれどころではなかったのだ。
彼女が国をたって、一週間あまりが過ぎた頃、
地方からの使者が頻繁に王宮にやって来るようになった。
「またか」
「なにかしら」
王都の人々はそんな使者を見て不審がった。
だがこの時、使者がやって来た理由が市民に知らされることはなかった。
でも彼女の魔力を知る私はなんとなく予想がついた。
彼女の不在は静かに、そして着実にこの国に影響を及ぼしはじめたのだ。
それから二ヶ月後、
王都内の市場で売られる食料品の物価が、急激に上がり始めた。なんでも地方からの入手が困難になったそうだ。
私の予想は確信に変わった。そして長老の言う通り彼女の魔力は、やはり偉大であった。
「あちこちで内紛が起きてるんだって」
「えっうそでしょ」
王都にいる人々もこの時期になると、地方の治安が良くないことを知るようになった。
「穀物が育たなくてさ、税が納められなくて、それで領主に反抗してる奴がいるんだって」
ただ正確な情報ではなかった。
確かに内紛は起きていた。
だけど、穀物が取れなくなったことが原因で、内紛が起きているわけはではなかった。
彼女の力は2つあった。
だから不在によって生じる2つの現象は、同時進行によるものだった。
そして
三ヶ月後
とうとう王都でも彼女の不在の影響が現れはじめた。
町のあちこちで言い争う声が聞こえようになったのだ。
その言い争いは夫婦によるもの、仕事の仲間どうしによるもの、子供どうしによるものなど、様々なものであった。
そういった言い争いに何度か仲裁に入ったことがあった。
その原因を聞くと、いずれもささいなことであった。
この国の人達は、
魔力を持つ人間に対して恐怖と怒りを憶え、
他所の町からやって来たばかりの人間には不審感を示してはいたが、
そうでない相手に対しては思いやりのある人達でもあった。
だがもうそうではなくなってしまった。
ただ今思えば、この時はまだましだった。
一ヶ月後
町のあちこちで殴る蹴るの喧嘩が起きはじめた。
中には悲劇的な結末を迎えたものもあった。
市民だけではなかった。王宮内でもし烈な派閥争いが起き、ある朝には近くの川に貴族らしき服装をした者が、死体として浮かび上がっていたという。
思慮のある貴族達が権力闘争するなどありえなかったのに、だ。
この時点で私は家族とともに国を出ることを決めた。
この混乱の中なら監視の目をあざむくことができるのではないかと思ったからだ。
いろいろと準備をし、雪の降る12月のある夜、
夜でも外で喧嘩する人はおり、その人混みの中に紛れ、家族とともに町を後にした。
国を出て、それから二ヶ月後のことだった。
国王が何者かに暗殺された。
亡くなった国王の子はまだ幼い
その幼き国王をかつぎ誰が主導権を握るのか、貴族による権力闘争は激化した。
だけど争う必要はなかった。
彼らはまだ気づいてなかった。
もうすでに王都内の土、そして草木が腐りはじめていたことに。
彼女がいなくなり一年、王国は滅んだ。
それも他国の侵略でもなければ
諸侯の反乱によるものでも
あるいは民衆による革命でも
なかった。
言葉では言い表せない
だけど、確かなことに国は滅んだ。
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