タキオン・ソード

~Tachyon Sword~
駿河防人
駿河防人

序章 蒼い髪の二人~それは衝撃的な出会い~

プロローグ~たわわな果実を手にした瞬間~

公開日時: 2020年10月15日(木) 21:16
文字数:1,765




 その瞬間、彼の手には、たわわに育った『果実』が握られていた!


 彼は刹那の瞬間に……。


――な、なんだコレは! 柔らかいぃ……というか凄えデカいんだけど……え? なにこの人、女の子じゃないかぁぁぁあッ!



 唐突ではあるが……手のひらの感覚というのは、実に繊細である。


 人は、手を使って色々なことをして進化してきた。


 他の動物ならば前足でしかなかったものが、ものを摑むようになり、やがて道具を使いはじめた。それがどんどん進化していくことで、指先の感覚は研ぎ澄まされていく。実際、脳の手の感覚を司る領域はけっこうな大きさを誇っていた。


 そんな繊細な感覚は、状況に応じて、さらに感覚が冴えてしまうことがあり、時に人心を大きく乱し狂わせる。


 例えば――想像してみて欲しい。


 思春期の男子に対して、それはそれは魅力的な美少女が抱き合うかのような距離にまで接近してきたとしよう。


 少女から立ち上るほのかな甘い香りに、鼻腔を擽られたその瞬間、彼女からそっと手を握られてきたら――。


 手のひらからくる触覚情報に、きっと冷静ではいられないのではないか?


 まあ、そんな余談はさておき――。


 整った精悍な顔つき、鍛えあげられた肉体は長身のため、見た目はスラリと引き締まっている。街を歩けば、女性の仄かに熱のこもった視線を、少なからず集めてきたその男。


 だか残念なことに、とにかく鈍くて女性の機微など全くの無理解のため、色恋沙汰などの浮いた話は特になく、剣術一筋で、十七歳の若さで達人の域に達した男――ダーン。


 アテネ王国一の朴念仁とまで称されてきた彼だったが――

 その時は、手のひらに得た感覚のせいで冷静ではいられなかった。


 モンスターに襲われていた人物を、一時的な危険回避のため、よく確認せずに咄嗟に抱き抱えたが、その相手が女で、驚くほどの美少女。


 しかも甘酸っぱいいい匂いがして。


 さらに、手のひらには、初めて味わう柔らかさが、こぼれ落ちそうなほどにたわわに、存在していた。


 薄い布地越しに、指が少しめり込むほどに摑んでしまったものが、少女の乳房だということは、先に論じた冴え渡る手の感覚で理解できていた。


 その後、危険を回避して即座に、強烈な平手打ちを喰らうことになったが、そんな些細な痛みなど、大したものではない。

とにかく手のひらに残った甘い余韻が、彼の脳内を飽和させていた。


――な、何を言えば……そ、そうだ謝らなければ! だ、だが柔らかくって、指の間からこぼれ落ちそうで、いや、とにかくあんなに柔らかいのにどうして、形崩れな……じゃなくて! 謝らないと!


 少女が睨めつけてくる僅かな瞬間、彼の脳内はカオスだった。それでも、なんとか社会的理性が無意識に仕事をし、体がまず頭を深く下げるという行動をとってくれていた。



 一方――。



 咄嗟に平手打ちを放つことが出来た少女の方も、かなり脳内が飽和していた。


 目の前にいる男は、予想していたよりも背が高く、整った精悍な顔つき。とにかく、まあ、見た目はとてもいい男だ。


 そんな彼に、たった今ピンチだったところを救われたわけだが、同時に、生まれてからこれまで、異性には……あの父親すらも触れてないところを、完璧に鷲掴みされた。


 初めて味わう、羞恥と屈辱感。


 危機を救われたという感謝と、すぐには語りきれない事情により、七年間も待ちわびたこの瞬間をこんな形にされた怒り、そんなことはどうでもいいほどの――。


 色んな感情がゴチャゴチャに混ざって、とにもかくにも、その男をひっぱたくしかなかった。


 もっと、色んなことを話したかったのに、それどころじゃない心のざわめきで、頭を下げてきた彼に何を言い放ったか、頭が理解していなかった。


 さらには、容赦なく襲ってくる眼下の危険。


――あー、もう面倒くさい!


 少女は、スカートの中、ふとももに巻いたホルスターから、愛用の大型拳銃を抜き放ち、眼下の危険……花弁の魔物に向けて、引き金を引く。



――どうして、こうなった?



 その夜、二人の出会いは、お互いに衝撃的だった。



 惑星の各種元素に関係する活力マナ、これの研究により生み出され、活力を理力フォースという力に変換し、あらゆるエネルギー源利活用した《理力文明》。その最盛期にあって、その二人は出会った。


 人類が龍との大戦争に勝利して二十三年。


 二人の出会いは、くすぶり続けていた危機の発現と、新たな英雄伝説の幕開けであった。




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