蒼髪の剣士ダーンと銀髪の剣士ルナフィス。
戦いは開始早々から、二人の言葉通り全力の衝突となった。
仕合開始を告げるステフの号令の直後、対峙する二人の剣士は、一瞬だけ躊躇うような動きを見せる。
その一瞬の不自然とも言える沈黙の後、お互いの距離が一気に縮まり、激しい剣戟戦が始まった。
通常、人の感覚では認識しきれない速度の剣戟戦――
二人とも全力の《固有時間加速》を発動し、一気に相手を攻め立てたのだ。
闘気が洗練されて刀身に伝わり、ダーンの長剣が蒼い燐光を、ルナフィスのレイピアが白銀の燐光を太刀筋に淡く煌めかせている。
実際に音速付近にまで加速した剣戟が幾度もぶつかり合い、周囲に連続した金属音が鳴り響く。その甲高い音に時折折り混ざるのは、弱い地鳴りを起こすような爆音。
それは、剣に伝う洗練され破壊力を持った闘気同士がぶつかり合い、弾け合って周囲の空中分子を崩壊させプラズマ化し、大気を膨張させることで起きている衝撃だった。
達人のレベルを超え、闘神の域に踏み込みつつある二人の剣士が、幾多の剣戟の合間に必殺の一撃を織り込んでいる証拠だ。
その二人の剣戟を見守る者達も、同じく加速した固有時間の中にいた。
「素晴らしい戦いですが……早くも力の差が出てきましたわ」
艶やかな黒い髪を揺らして、カレリアが呟くと、隣に立っていた金髪の優男は軽く鼻で笑った。
僅かに不機嫌を浮かべ、ケーニッヒを横目で睨むカレリア。
「失礼、カレリア様。確かに力の差が出てきたけど、貴女には一体どちらが優勢に見えておられるのかな?」
「あいかわらず遠慮のない物言いですわね」
言い返しながら、はしばみ色の瞳は湖上の武道台を激しく動き回りつつ繰り返される剣戟戦を捉える。
その激しい剣と剣のぶつかり合いに、僅かではあるが赤い飛沫が舞う。
致命傷ではないが、肩や足に浅い傷をいくつか受けているのは、蒼い髪の剣士の方だ。
ほんの僅かな差ではあるが、ルナフィスのレイピアがダーンの長剣の速度と手数を上回っている。
すべてを捌ききれないために、致命傷にいたらない程度の攻撃を受けてしまうしかない状態なのだ。
端から見れば、やはりルナフィスがわずかに優勢であった。
「確か……報告ではダーン様の剣士としての実力ならば、問題はないとのことでしたけど? これはどの様に説明されるのです」
「いやぁ。申し訳ない気持ちですね。まさか彼女がここまで力をつけているとは……アッハハ、コレは正直怖いくらいだね。あの場にいたら僕は震えが止まらないよ」
「ちょっと、笑い事ではありませんよ。大丈夫と言うことでしたから、この様な『賭け』に応じたのですからね。あの、私の話を聞いてますか?」
「もちろんさ。でもね、カレリア様、僕は彼女の力が予想以上だったと言いましたが、それだけですよ。何もダーンが彼女に劣るとは一言も言っていない。むしろ、彼女の力が予想以上だったからこそ、僕も気付いてしまった……。僕が怖いと思ったのは、ダーンの方さ」
「え? 何を言って……」
またワケの分からないはぐらかし方をするのだと、非難の視線を向けようとしたカレリアは、ケーニッヒの表情をみて息を呑んだ。
いつも涼しい顔をする金髪の優男が、戦慄を滲ませる表情で額に汗を浮かべていたからだ。
☆
ダーンの蒼穹の瞳に、白銀に輝く剣先が幾多にも重なって迫ってくるように映る。
対峙する銀髪の少女は、武道台の岩床を蹴って、素早くダーンの視界の外へ移動し、死角から間合いを詰めてくる。それを追ってダーンが身体の向きを変えると、正面には無数の銀閃が壁のように迫ってくるのだ。
迫る無数の突きを剣で捌き、腕や太ももに熱い衝撃が何度も走って、ダーンは目の前の銀閃に感嘆していた。
自分に可能な最大の加速度で行っている《固有時間加速》を、相手も同じく加速し、更に元々のレイピアの速度がプラスされて、こちらの剣の速度を圧倒していた。
迫り来る銀閃の猛攻に、防戦一方になりつつあるのは確かだ。
さらに、始めに試したもう一つの秘策 《予知》は、全くもって通じなかった。
発動し相手の動きを先読みした瞬間、それに対応するかのように、こちらの動きを同じく《予知》で先読みされたのだ。
ルナフィスも《固有時間加速》の上位サイキックたる《予知》を使えたのである。
その結果、完全に先の読みあいに陥ってしまい、結局はサイキックのない場合の剣術の駆け引きと同じ状態になってしまった。
そうなると、先読みが無駄になるほどの速度と手数で闘うか、先読みできても防御や避けることができない一撃を放つしかない。
そして今はルナフィスの銀閃が、この剣戟の優勢を保っていた。
時折、実際の音速を突破する高速刺突は、加速状態とあいまって凄まじい攻撃力を誇っている。
気を抜けば、一瞬で心臓や頭部を撃ち抜かれていることだろう。
また、前回アリオスの街において宿屋の一室で闘ったときと違い、今回は障害物のない平場で、ルナフィスの動きは左右上下のどこからでも攻撃が飛んでくる状態だ。
敗色濃厚――
本来ならばそうなるとダーン自身も認めるところだが……。
蒼穹の瞳には、絶対の自信に満ちた闘志。
細かい切り傷を幾筋も受け、僅かに鮮血を舞わせるその肉体には、尽きることのないような膨大な闘気が溢れていた。
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