翌朝、定時に出仕した彼は一度近衛騎士団本部に顔を出してから、王太子の執務室に向かった。
「失礼します、王太子殿下。クラウス殿もお呼び立てして、申し訳ありません」
従兄弟同士ではあるが、いつも通り臣下としてジェリドが礼儀正しく挨拶をすると、王太子のレオンと予め本部から連絡を入れた王宮専属魔術長のクラウスが笑って応じた。
「朝からどうかしたのか?」
「特別優先事項、第一位に関する報告です」
そのジェリドの硬い表情での報告で、二人の笑みが瞬時に消え去る。
「すまないが、人払いを頼む」
「畏まりました」
言葉少なに傍らの補佐官に言い付けて下がらせた途端、レオンは顔色を変えて従兄に迫った。
「ジェリド、姉上の手掛かりを掴んだのか?」
「掴んだといいますか……、本人を目撃したかもしれません」
「なんだと!? 詳しく状況を説明しろ!!」
クラウスも驚愕する中、ジェリドが順序立てて昨夜の内容を語った。
「そういう訳で、昨夜遭遇した王都外れの森に、クラウス殿も同行していただきたいのです。恐らく『エリー』と呼ばれていた女性が設置した防御結界を解除した上で、詳細について尋問するべきかと。今現在、国王陛下は視察で王宮外に出ておられますので、王太子殿下にその許可を……。クラウス殿、どうかされましたか?」
「どうした?」
いつの間にかクラウスが片手で顔を覆っていたのに気付いたジェリドとレオンが訝しそうに声をかけると、彼はもの凄く気まずそうに言い出した。
「その『エリー』なら、私に心当たりがあります。既に亡くなっている、友人の養女です。因みにその友人というのは、私の前任者のアーデンの事ですが」
「はあぁ!?」
「しかし今の今まで、彼女はあの家で一人暮らしをしていると思っていたが……」
レオンが驚きで絶句する中、クラウスが自問自答を始めたが、ジェリドだけは冷静に話を進めた。
「それならクラウス殿は、その女性と顔見知りなのですね? それに前魔術師長の養女なら、例の陰謀に関わっている可能性も皆無でしょう。これからすぐに出向いて、その女性に事の詳細を伺いたいのですが」
「そうだな。私も出る」
ここで漸く気を取り直したらしく、レオンが会話に割って入った。しかしジェリドが渋い顔をする。
「殿下。陛下代行の公務はどうされるのですか?」
「そんなのは後回しだ。適当に処理しておくように、補佐官に言いつけておく」
「ですが事情が事情ですから、他に漏れないように護衛は私とクラウス殿だけですよ?」
「国内最強の護衛だな。何か不都合があるのか?」
「全く問題ありませんね」
「それでは急ぎましょう」
レオンが目の前の二人を見ながら不敵に笑ってみせたことで、彼等は顔を見合わせて苦笑いし、小さく頷いてから早速行動に移った。
「シェリル、これからお客が来る事になったわ。その間、いつも通りどこかに隠れていてくれる?」
寝室に飾ってある魔導鏡に通信が入ったのを察知したエリーが、誰かと話をしてから困り顔で戻って来た。そして事情を聴いた黒猫姿のシェリルは窓際に座ったまま快く頷いたものの、不思議そうに首を傾げる。
「それは良いけど、誰が来るの?」
「クラウスおじさんよ。なんだか急に直に確認したい事ができたとか。でも、これまでこんなに急に来る事はなかったのに、どうしたのかしら? 取り敢えず防御結界は、おじさんの気配を察知したら解除しておくわ」
そう言って準備をするエリーを、シェリルは不思議そうに眺めていた。
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