明日告白する予定でしたが、何故か彼女(×3)が出来ました

上月司
上月司

1-4

公開日時: 2020年11月27日(金) 00:02
更新日時: 2020年12月2日(水) 03:01
文字数:2,953

覚えられていなかった。アイリーン、ショック。

 また丸まってしまったアイリーンさんに、掛ける言葉が見つからない。下手に慰めたら墓穴掘りそうだ。

 とりあえず、関係性は分かった。俺の世界だと大した付き合いもないまま引っ越していった家族が、別の並列世界では引っ越さないまま親交が続いていて、ちょっとした幼馴染みみたいになっていたんだろう。それでなんやかんやで付き合うに至った、と。

 ……付き合うまでの過程が本当に謎だけど、まあひとまずは置いておこう。プルプル震えた背中にこれ以上声を掛けるのは躊躇われるし。

 それに、まだ最後の一人が控えている。関係性なら彼女とか幼馴染みとかよりもずっと問題になりそうなのが。

「……で、そっちの露出魔さんの番ですが」

「ちょっと兄さん、人聞きの悪いこと言わないでください。みぃがこんな積極的な姿になるの、兄さんの前だけですよ?」

 くてんと小首を傾げ、可愛いアピールをするシーツを纏った半裸の女の子。ある意味、これが一番問題だ。

 綺麗というより可愛い系の美少女で、やや小柄だけど密着したシーツで露わになったボディラインを見るに、胸もそこそこある。黒髪おかっぱなら普通は硬いイメージになるのに、表情が柔らかいからかむしろ取っ付きやすい雰囲気だ。同じクラスにいたら、間違いなく男子人気一、二を争うレベルだと思う。

 この子が彼女というのも信じ難いけど、それよりもっと問題なのは……

「……俺、一人っ子なんですけど。妹なんていないよ……?」

 そう。いきなり歳の近い美少女に妹とか言われても、まるで覚えが無いから超困る。嬉しさよりも戸惑いと怖さの方がずっと強い。

 可能性があるとすれば、

「もしかして母さんが再婚したとか? それで妹が生えたってことか?」

「たけのこや椎茸みたいな扱いは止めて欲しいところです。でも、そうですか。兄さんの世界では、再婚しなかったんですね」

「んじゃ、やっぱり……」

「みぃのお父さんは五年前に再婚して、それから兄さんと家族になったんですよ。青峰あおみねって名字に覚えないです?」

「ちょっとタイム…………あー………………そういえば……」

 母が転職する前の仕事場で、そんな名字の部下がいるって話を聞いた気がする。

「なんか送別会の時に告白されたって言ってた、ような……断ったって聞いたけど」

「転職したんですか。みぃの知る限り社内結婚してそのまま退職していないので、その辺りが分岐点なんですかねぇ」

「再婚したのかぁ……え、じゃあ俺の名字も青峰になってんの?」

「いえ、お父さんが婿入りした形ですよ。家とか保険とかの名義変更が面倒だからって」

「うっわ、うちの母親が言いそうなことだなぁ……」

 仕事は出来るが基本的に雑な母親なので、本心からそう言ったんだと確信出来る。個人的には板倉より青峰の方が格好良いから、そっちになりたかった。

 けど、母が転職したのは七年か八年前のはず。確か小学三年生の時だったから、もっと長く同じ会社で働いていたら告白タイミングも返事の結果も変わっていた、ってことなんだろう。今でも独り身だから、そっちの世界の方が良かったんじゃ――って、待てよ?

「え、じゃあ、妹がここにいるってことは、母さんは再婚してるのか?! 俺、全然そっちの記憶ないんだけど……」

「もう、そっちよりみぃのことを気に掛けて欲しいです。こんなに可愛い妹が、義理の家族以上の関係になったんですよ?」

「それも気になるけど! いややっぱそっちの方が気になるな! なんで義理の妹が同じベッドで寝てるんだよ?!」

「義理の兄妹って関係じゃ満足出来なくなったからに決まっているじゃないですか。兄さんもみぃのことを受け入れて、いよいよこれから初めての夜を過ごすところだったんですよ? 世界変蝕が起こるタイミング、最悪すぎです」

 むっとした表情になってシーツで隠れた胸に手を当てる自称妹に、どう声を掛ければいいか分からない。『真っ最中じゃないだけマシじゃ?』って正直な意見を言ったら、どんな恐ろしい反応が来るんだろうか?

 上手い慰めの言葉が思いつかないで俺がまごまごしていると、

「事後に初めての男が別物になっていたよりは良かったんじゃない?」

 腕組みをして聞いていた瑠菜が、真っ正面から切り込んでいった。流石は同性、俺が言ったらセクハラとかモラハラとか叫ばれそうなこともガンガン言う……!

 ギャルの心臓の強さに戦いていると、自称妹は渋い表情のままこくりと頷く。

「そう思うしかないです。初めてをあげたのに、兄さんからそんなの知らないと言われたら……うん、ちょっと絞めたくなりますね。不幸中の幸い、ですか」

「正真正銘身に覚えが無いのに絞められたら、俺可哀相過ぎるんだけど……てか、受け入れてってのは……?」

「言葉通りです。『みぃのこと好きですよね? 妹としてじゃなく女の子として好きですよね? ただの妹相手にこんな風になるド変態じゃないですもんね?』と言ったら、何度も頷いていました。涙まで流して、あれは感動的なシーンでした」

 完全な脅迫シーンだった。しかもただ迫ったんじゃなくてあの半裸姿って、絶対狙ってやってることだし。色んな意味でこの自称妹さんヤバすぎる……!

 俺が恐怖にドン引いていると、シーツを上手いこと体に巻き付けて両手が自由になった自称妹さんは、ベッドの上で座り直してにっこり微笑む。さっきの聞いても尚可愛い。

「――改めまして。どうやら初めまして、みたいですね。兄さんの妹になった、青峰改め板倉いたくら未依那みいな、十四歳の中学三年生です」

「お、おう……そっか、彼女ってのは置いておくとして、妹はやっぱ妹なんだよな……」

「それも置いておかないで欲しいです。でも、みぃがここにいる以上、恐らくは再婚したんだと思います。別の世界で兄さんと家族にならないまま交際に発展したケースがあれば、話は変わってきますけど」

「じゃあ再婚ケースなんだろうな……つーか、もしかして、これ……」

 自称妹こと未依那の発言で、薄々とだけど気付きかけていた事実が確信を帯びてきた。

 世界変蝕が起こってこんなちぐはぐな事態になったのは分かりきっているけど、問題はその中身だ。

 俺と付き合っていると自称する三人の女の子達――普通に考えれば別世界の俺が同時期に三股かけたせいで修羅場った、と思うところだが。

 それぞれの自己紹介を聞いて、総合して考えてみると……

「まさかのまさか、だけど……複数の世界が混ざり合ってるのか!?」

「みたいね。そんなの、聞いたこと無いけれど」

 同意してくれたのは瑠菜だ。進学校に通う彼女は俺よりずっと賢いはずだから、とっくにその可能性に辿り着いていたらしい。

 それは未依那もで、慌てず騒がず「困りましたねぇ」と呟いていた。大胆な行動といいこの落ち着きといい、本当にこの子は中学生なんだろーか?

 そして残ったもう一人、アイリーンさんはいくつか聞いてないけど見るからに年上で大学生くらいだから、当然俺が気付いたことには……

「ふ、え? 三股掛けられていた刺すべき相手が別世界の人になっちゃった、って話じゃないの……?」

 全然ピンときてなかった。あと何気にすげー怖いこと言ってる。泣き腫らした目がマジだと雄弁に語ってるし。

 しかし俺を入れて三対一で、多数派の意見は『有り得ない事態が起こった』だ。

「つまり、これって……四つの世界が混ざった、ってことか……?」

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