告白のことを告白する和己。
よし、と意を決した俺は立ち上がって、壊れたスマホを机に置いてから、
「……そうだよ! 俺は明日、先輩と会って告白するつもりだったんだ! 世界変蝕が起こる前にって、夕方に興太郎にも宣言したし……」
「なるほどなるほど。ちなみにその先輩のどういう方です?」
恥ずかしいから『何でそんなことを答えなきゃいけないんだよ』と返そうとしたけど、訊いてきた自称妹が笑顔なのに殺人鬼バリの威圧感を放っていたので、そっと目を逸らし……たら絶望顔をしたジャージさんと目が合ったので、それもスルーして窓の方を向き、仕方なしに少しだけ話す。
「あの、あれだよ。先輩は同じ高校に通っている中学からの先輩で、俺がずっと好きだった人だよ」
ちょっと喋っただけで顔が熱くなってきた。初対面の女の子達にこんなこと暴露しなくちゃならないのが物凄く恥ずかしい。
唯一の救いは、先輩の話をしたところで誰も面識はないだろうし余計な情報は持っていないだろうから、すぐに興味を無くして――
「先輩…………もしかして、あれかな……? あたしが冗談っぽく『カズくんの初恋の相手って、あたしだったり?』って訊いたら、同じ中学の先輩って言ってて…………ショック過ぎてあんまり詳しくは覚えてないけど……」
たったあれだけの情報で、アイリーンさんは何やらヒットするものがあったみたいだ。そういや俺は知らないけど、この人はちょっとした幼馴染みみたいな関係だったはず。なら先輩のことを相談するくらいしてもおかしくない。
だとしたら、義妹にも恋愛相談とかしている可能性も――
「……みぃも聞いたことがあります。高校受験の時、兄さんが随分と頑張って勉強している上に理由をぼかすものだから、怪しいと思って問い詰めてみたら、好きだった先輩と同じ高校に行きたいって……落ちて本命とは違う高校に入りましたけど」
恋愛関係無しに衝撃ニュースがきた。妹がいる世界の俺、高校受験失敗してどうする。先輩と同じ学校に行く為に無理して超頑張ったのに。
だが、落第よりもっと破壊力のあるニュースが瑠菜の口から飛び出した。
「……そういえば私も聞いたことがあるわ。同中の先輩が好きだったけど、振られたって」
「はぁ!? 俺フラれたの!? いつよそれ、フラれたっていつの話だよ?! つーか本当に先輩にフラれたんか!?」
「声大きすぎ。バイトに泣き腫らした目で来て、休憩時間も噎び泣いていたから『鬱陶しい』って言ったら勝手に話しだしたの。名前は聞いてないから知らないけど、たぶんその先輩だと思うよ。初恋がどうとか追っかけて高校に入ったとかうじうじ言ってたから」
「………………マジで…………マジでー……?…………何勝手にフラれてんの、俺……?」
思わず膝から崩れ落ちて、気付いた時には床に頭突きをかましていた。ゴチッといい音がしたけど、痛みがまるでない。視界もぼやけて気が遠くなる。
これは、あれだ。今のは夢で、起きたら今度こそ世界変蝕が終わった後の状態で、俺は無事だったスマホで先輩に連絡を取って明日のことも確認して……
「一応、言っておくけど。告白して振られたんじゃなくて、暗に振られたってことみたい」
「…………なにそれ。どういう意味なん?」
現実逃避に忙しかったけど、聞き逃せない内容っぽかったので意識を戻す。
全然聞きたくない『振られた』って言葉が二回も含まれていたが、今の感じからすると、
「告白はしてないんだな? 面と向かってフラれた訳でもないんだな?! ここ超大事なところだよ!?」
「そんなにがっつかないで。確か友達の恋愛相談の流れから上手い具合に告白しようとしたら、その先輩って人に『来年受験だし今は恋愛より勉強』とか『和己くんは弟みたいに思っているからずっと仲良くして欲しいな』とか言われたって」
「…………それほぼフラれてんじゃん! 何が来るか察しちゃって告白先行キャンセル入れられてんじゃんかぁぁぁぁぁ!?」
「近くで叫ばないで。だから暗に振られたって言ったよ」
「全然オブラート感ないよ! もっと手厚く包み込んで優しく伝えておくれよ! いや違うそもそもフラれたくないんだけどさあ?!」
「私に言われても困るし……あの時も慰めるの面倒だったの思い出した……」
瑠菜は物凄く嫌な顔をしてるけど、絶望真っ直中の俺にもうちょい優しい態度でも良くなかろうか? 一応俺と恋仲になってたはずなのに。見た目通りクールな対応すぎる。
あと並列世界の俺、ズタボロ過ぎ。高校受験に失敗したり先輩にフラれたり、ろくな展開がない……もっと出来る子だと思ってたのに……
俺の先輩への告白計画も一気に暗雲が立ち籠めてきた。元々成功する可能性はそんなに高くないと思っていたけど、三割くらいはもしかしたらって期待もあったのに。今は九割八分くらいで失敗するイメージしか持てない。
……けど。だとしても、だ。
なら止めるのかといえば、そんなの有り得ない。やっぱ先輩が好きだし、やると決めたらやるのが俺だ。
「――こうなったら当たって砕けろの精神だな。明日は状況確認だけにするとしても、近いうちに初志貫徹で先輩に告白しないと……!」
決意を新たにし、ギュッと両手を強く握る。今までにない大規模な世界変蝕が起きたくらいで俺のやる気を消せはしない。
そう、煮えたぎるようなこの想いを先輩に伝えて、出来れば念願の恋仲に――
「へぇ。告白するの。そう」
……体温が上がるくらいのテンションを一瞬にしてゼロ以下まで落とす、氷点下の呟きが聞こえて来る。
恐る恐る首を動かしてチラ見すると……無表情なのにとても感情が露わになっている瑠菜が、腕組みして真っ直ぐにこっちを見据えていた。
その向こうにまた半泣きになっているアイリーンさんと、可愛く微笑んでいるのに全然笑顔に見えない未依那もいる。心境的にはゲームで絶対勝てないだろこれって敵と逃げることも出来ないイベント戦闘になった時と似ていた。『あ、これ死んじゃうヤツだな』って一瞬で諦めさせられる感じが。
……けど、ここで折れないのが今の俺だ。この状況でへこたれているようじゃ、先輩に告白なんて出来やしない。
それに告白するとなったら、この状況はとんでもなくまずい。先輩に『なんか知らない内に彼女が三人いたんですけど、それはさておき好きなので付き合ってください!』と言ったら、温厚なあの人でもキレる。もしくは人に非ずみたいな顔をされる。どうにせよ受け入れて貰える訳がない。
三人には悪いと思うけど、ここでハッキリ関係性に蹴りをつける……!
「あのっ、今言った通りで! 俺は先輩に告るつもりだから、三人とは付き合えな、」
「却下。無理。寝言は死んでからにして」
「最後まで言い切る前に!? しかも超辛辣なんですけど?!」
「うるさい。告白された私の方が振るのならともかく、和己にそんな権利与えてないから。そういう条件だったし」
「ちょっとどういう契約だったか教えてくれよ!? 何その圧倒的な上下関係!」
まさか拒絶の上に権利すらないとか、不公平にも程がある。本当にどうしてこのギャルと付き合うことになったんだか全然分からない。
「ならっ、アイリーンさんはどうよ!? 他の女が好きだって言ってる男なんて最悪だと思うんですが?!」
とりあえず手強そうな瑠菜は後でしっかり交渉と説得を行うとして、三人の中では比較的難易度が低そうなジャージさんにターゲットを移す。
ここに来てから泣いてばかりのこの人をフるのは心苦しいものがあるけど、逆に言うとこの人も頷かせられないなら説得は諦めるしかない。
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