瑠菜と二人での帰り道。何を話そう?
「……なあ、ちょっと訊きづらいこと訊くけどさ」
「そう思うなら訊かないで」
「いや悪いとは思ってるんだって。でも、俺が覚えてないなら瑠菜に訊くしかないじゃんか」
「…………嫌な予感しかしないけど、何?」
「ぶっちゃけた話、俺って瑠菜のどの辺が好きになって告白したんだ?」
デリカシーのない質問に、瑠菜の表情が呆れたように曇り、それからすぐに眉を吊り上げてこっちを睨み付けてきた。うん、明らかに怒ってらっしゃる。
とはいえ、俺だって好奇心だけでこんなリスキーな質問しない。
「や、そっちの世界でも元々は先輩のこと好きだったみたいだしさ。あんま趣味とかも合わなさそうだし、何切っ掛けでそうなったのか知りたくて」
「……信じらんない。それ、告白された側に訊く?」
「告白した側に覚えがないんだから仕方ないだろ。やっぱ顔かな? それとも嵐の山小屋で二人きりみたいなハプニングでもあったとか?」
「…………そんな大きなイベントない。一回だけ一緒にカラオケ行ったけど、それだって四月のことだし」
付き合う前のデートかただの遊びかは分からないけど、それから一ヶ月ちょいで告白したってことになる。出会いはバイトのはずだから、初対面から八ヶ月か九ヶ月くらいか。
好意を抱くには十分な時間……だけど、俺は先輩のことが好きだったから、失恋からはそんなに長く空いてないはずだ。けど、実質フラれたからってすぐに次の相手に走れるような薄っぺらい恋じゃないし、だとすると先輩にフラれたのは…………フラれ……
「……急に辛気臭い顔して、どうかした?」
「………………いや、その…………再確認なんだけど……俺、マジで先輩にフラれたん? 何かの勘違いかドッキリじゃなくて?」
「…………少なくとも、あなたの落ち込みようは酷かったわ。当日なんてボロボロ泣いていたし。しばらくの間は生きた屍状態だったわよ」
「…………そうかー……勝手に失恋とかマジで勘弁して欲しいわ……」
「知らないわよ。むしろ一時間以上も失恋話なんかする方が勘弁して欲しかったわ。聞かされる身にもなって」
「おおう、そんな二次被害が……」
嫌そうな顔で睨まれたが、それは確かに悪いことをした。俺だって他人の失恋話を延々聞かされたら辛い。しかもその手の話って女同士のイメージがあるけど、自分がやらかしたって思うとマジで反省したくなる。
というか、そんな時間の無駄に付き合ってくれたって……もしかすると瑠菜は、見た目の印象と違って良いヤツの可能性が。
「……で、俺の告白ってどうだったん? 瑠菜の好きなところを言ったり思い出語ったりしたんだと予想してるんだけど」
「…………それ、先輩に告白する時にするつもり?」
「へっ? まあ、うん、そうだよ。まだ決めてはないけど、先輩のどこが好きだとか中学の時の話とか、先輩を追っかけて高校選んだこととかも伝えようと……」
「……こんなこと言う義理はないけど、止めておきなさいよ。キモいから。勝手な思い出共有とか何それって感じだし、ストーカー行為を告白されてもキツいし」
「マジで? は、え、本気で言ってる? めっさ真っ当な告白だと思ってたんだけど、これやったらヤバいやつなん……?!」
「それ言われて嬉しいのは相手が好きな人だった場合か、よほどロマンチストな人かのパターンだけよ。大体の人は友達以下の対象から言われても喜ばない、どころかマイナスだから」
「つまり成功するかもしれないものもダメになる、と……?」
言葉の槍がグサグサと刺さったまま聞き返すと、瑠菜は引いた目でこくりと頷く。嫌悪の色がない分、マジな雰囲気が強かった。
思わず歩いていた足を止めた俺は、近くにあった電灯の柱に手を付いて項垂れ、
「えぇー……じゃあ告白ってどうやるんだよ…………俺は何て言ってオッケー貰えたの?」
打ちのめされながら訊くと、こっちに合わせて止まった瑠菜が振り向く。今度は明らかに不機嫌そうな顔をしていた。
「……言わない」
「成功例を教えてくれって言ってるんだよ! 自分から成功率を下げたくないの!」
「どうして私が自分の男が告白する手助けになる真似をしないといけない訳? 大体、和己が私のどこを好きか聞きたかったんじゃないの?」
「そっちも重要だよ! 俺は瑠菜のどこを好きになって告白したんだ?! いつからそんなチャレンジャーになったんだよ!?」
「……は? 私のことを好きになるの、そんなに有り得ないって言いたい訳?」
声の、トーンが。割と高い声なのに、それを全く感じさせないくらい重い。そして怖い。
けど、こっちもテンション上がりまくりでエンジンフル回転状態だ。ちょっとくらいのプレッシャーで物怖じなんてしてられない。
「俺は一目惚れしたり同時に複数好きになったりしたことないんだよ! だからいくら瑠菜が綺麗でも簡単に惚れるとは思えないし、敗戦したばっかで競争率バリ高そうな相手に告白するなんてリスクヤバいことをするとも想像出来ないの! ビビリだからな!」
「…………大声で言うことじゃないし。ばっかみたい」
呆れを多分に含んだ声で呟くと、瑠菜は前を向いてそのまま歩き出す。
置いてきぼりを食らいそうになった俺は慌てて小走りで横に並び、むっとした表情の瑠菜に必死の思いで、
「いやマジで何て言ったか教えてくれって! あれだっ、具体的じゃなくていいからヒントくらい! それっぽいワードとか、ほらっ?!」
「嫌。駄目。絶対言わない」
頑なな瑠菜は、それから駅について別れるまで続けた俺の攻勢に全く取り付く島もなく、結局何も答えてはくれなかった。
……ただ、不思議なことに。
駅前まで来て人が多くなり流石に少し冷静になって、嫌な思いをさせたかなと改札を通る前に謝ろうとした時、瑠菜の方から「それじゃ、おやすみなさい」と言ってくれて、俺はキョトンとしながら「おっ、おやすみな」と返すのが精一杯だったのだけれど。
むっとした表情をしている瑠菜が、何故かほんの少し機嫌を直しているようにも見えた。
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