明日告白する予定でしたが、何故か彼女(×3)が出来ました

上月司
上月司

1-7

公開日時: 2020年11月28日(土) 02:14
更新日時: 2020年12月2日(水) 03:02
文字数:2,767

彼女達の判断は……?

 さっきまでどんより絶望色の表情だったアイリーンさんは「……ううーん」と唸り思案顔になるものの、俺のことを目はまだ潤んだままだった。罪悪感を掻き立てられて、何だか物凄く言い辛い。というか、どうして俺は誰にも告白していないしされてもいないのに別れ話を切り出さなきゃならないのか。

 別世界の自分を恨みつつアイリーンさんの返答を待っていると、納得したように小さく頷いて、何故かにっこり微笑んだ。

「うん、別にあたしは構わないよ? カズくんが愛人の一人や二人作ってもヘーキヘーキ」

「愛人て。ドバイの富豪じゃあるまいし……っていうか、平気っていうのが物凄く意外なんだけど……」

「あっ、ただし一番はあたしね? 本命はあたし、これ絶対条件。あと隠すのも禁止。二番さんがいてもちょっと妬いちゃうくらいで済むけど、一番じゃないと……ねっ?」

「いやそこで同意を求められても。怖いし。つーか何故にいきなり病んでる系のキャラになってますのん……?」

「これでも真剣に考えたの! 別れられちゃうくらいなら本命枠確保で許しちゃう度量の広いお姉さんになるの!」

 全然お姉さん系のキャラじゃない人がなんか言い出した。今のところネトゲやってるインドアな躁鬱激しい人って印象しかない。見た目は物凄く良いと思うけども、そこを塗り替えるだけの駄目さが溢れてるし。

 素直な感想を言うと傷つきそうだから言葉に悩んだものの、とりあえず訊いておかないといけないことが一つある。

「……お姉さんって、アイリーンさんはいくつなんで?」

「花も恥じらう二十一歳です! お酒も飲める立派な大人だよ?」

 やっぱテンションの上下が超激しい。俺も似たようなところがあるけど、知り合いにいないタイプだ。

 にしても、予想外だった。アイリーンさんなら二股なんて許せないと激ギレして、誠意を持って別れる展開になると思っていたのに。それがよもやの容認とは。

 こうなると残りは明らかに強かそうな自称妹だけ。攻略は難しいだろうから、何一つ解決しないままに……

「兄さんが本当に困るのだったら、みぃは別れてあげてもいいですよ?」

「えっ?! マジで、本当にいいのかっ!?」

 空気を察したのか、まさかの向こうから提案してくれる展開がきた。

 義理の兄妹なのに迫ってきたクレイジーな子だと思っていたけど、全然そんなことなかった。可愛いし気を遣えるし、物凄くいい子だ。

 優しい微笑みを浮かべた未依那は下唇に添えるように中指を当てて、

「だってみぃは妹ですから。彼女と違ってその関係性は変わりませんし。告白するという好きな先輩さんも兄さんが妹と爛れた関係だって知ったらどう思うか……」

「爛れた関係にねぇよ! 健全で至極真っ当な関係だよ! だってほら、未遂だってさっき言ってたじゃん!?」

「今のところは、でしょう? 時間はありますから、じっくりねっとり攻めていきたいと思ってます。肉体関係さえ持ってしまえば後はどうにでも出来そうですし」

 ……予想外だと思いきや、案の定厄介極まりない子だった。まだ中学生のはずなのに、何というえげつない発想。

 手を出したら終わりだと分かっていてやるわけがない……と思いはするものの。目の前で半裸&シーツに包まって生々しいボディラインが浮き彫りになっている美少女を見てしまうと、自信なんて木っ端微塵だ。一日二日なら耐えられるかもだけど、果たして我慢が何日続くか。もしくは全然続かないであっさり陥落するか。

 それを理解した上で言っているのは、あの可憐な小悪魔フェイスを見れば一発で分かる。俺より年下で女の武器を使いこなすって、将来どんな悪女になるのか不安すぎる。そしてそんな子が妹で、かつ好かれているらしいという俺の身も不安だ。

 ……ともあれ、結局は三人とも説得失敗してしまった。完全に想定外だ。つーかこの三人がどうして俺なんかと付き合う流れになったのかも全然分からないままだし、同一人物だけどまるで違う俺と付き合い続ける選択をしたのも分からない。

 でも、こっちにだって退けない理由がある。先輩に告白すると決めた以上、どうにかして別れて貰わないと。

 問題は、どうすれば納得して貰えるか全然アイデアが浮かんで来ないってことだ。

 頭をくしゃくしゃに掻き毟って悩んでいると、小さなため息が聞こえて来た。

「……もういい。揉めて堂堂巡りになるのなら、フェアに解決する」

 言ったのは瑠菜で、怒っているような不機嫌な表情のままだ。ツンとした態度で仕方なしに、と言わんばかりの様子だけど、諦めて俺の言い分を受け入れてくれた感じでもない。

「何かいいアイデアでもあるのか?」

「良くはないけど、フェアな方法ならあるよ。『世界変蝕婚姻余地法』って知ってる?」

「……何それ? 初めて聞いたような、昔ほんのり聞いたことがあるような……?」

「あたしも聞いたことある気がする…………えっと、いつだったっけ……?」

 俺とアイリーンさんが微かな引っかかりに頭を捻っていると、ベッドの上から「ああ」と納得の声が聞こえてくる。

「現社の授業で習いました。十二年前に制定された救済法でしたよね?」

「そうよ。『世界変蝕の影響で望まない婚姻を為していた場合、世界変蝕から一ヶ月以内であれば片方の希望で婚姻の仮解除が出来る』――細かい条件はあるけど、だいたいそんな感じ。高校受験では出題の定番だけど」

 暗に『なのに覚えてないんだ?』と言いたげな瑠菜の視線に、俺はそっと目を逸らす。同じ反応をしたらしいアイリーンさんと目が合ったけど、超気まずい。

「……婚姻関係解除を希望してから九十日の猶予期間を挟んで、気持ちに変わりなければ別れることになるの。これは結婚している場合のみ申請が必要なのだけれど、結婚に至っていないカップルが特設窓口に相談に来る場合も多いし、海外ではこれを基準に裁判を行ったケースもある」

「はー……博識だなぁ。それで、ざっくりまとめるとどうするっていうんだ?」

「……とりあえず全ての関係は保留にして、九十日後に正式に決めればいい、って話をしているの。誰と付き合うか、それとも誰とも付き合わないか。時間を置いてその間に判断する方が互いに公平だから」

 その申し出は、俺としてはかなり有り難い。正直、今は頭の中がぐちゃぐちゃで、整理する時間は喉から手が出るほど欲しい。

 というか、いきなり世界が変わって彼女が三人出来ているとか、意味不明すぎる。普通ならラッキーなのかもだけど、先輩に告白する気満々だった俺には最悪のタイミングだ。

 ……ただ、ちょっと不思議なのは、

「その申し出は超絶ありがたいけども……あんた――じゃなくて、瑠菜はそれでいいのか? さっきまで絶対別れない雰囲気だったじゃんか」

 まだ名前で呼ぶのに抵抗があったから適当に呼ぼうとしたら、思いっきり睨まれた。超怖い。これが本当に彼女の眼光なのかと訊きたくなる。

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