貴方に溺れて死にたい 番外編

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番外編3 好きなんでしょ?(泪視点)

公開日時: 2020年9月2日(水) 19:07
文字数:2,214

番外編3 好きなんでしょ?(泪視点)



大阪への旅。

秋斗さんと雅さんは一言も話さない、それどころか春樹さんと洵の様子もおかしい。

道中、新幹線の中でそれとなしに洵に問うてみたけど、なぜだか分からないという。


ああ、もう、めんどくさい。

本当に、めんどくさい。

愛し合ってるなら愛し合ってればいい。

好きなら好きだと伝えればいい。

特に春樹さんと洵。

あんた達は『普通』なんだよ??

普通に愛し合ってていいのになんでそんなにギクシャクしてるの??


本当に恋愛って、めんどくさい。


「泪」


「……わかってる」


馬鹿兄も素を出す程にめんどくさく見過ごせない案件に、私はため息を深く深く吐いた。


ねぇ、春樹さん、なんで私が貴方を諦めたか分かる?

好きだからだよ。

貴方に幸せになって欲しいから私は身を引くの。


ねぇ、春樹さん。

好きなんでしょ?

あの子を『あの時』から、好きなんでしょ?


お願いだから、

あの子と幸せになってよ……。



私の願いも虚しく、夕食中もどんよりとしたお葬式のような雰囲気だった。

こんなんでよくライブ成功したよね。

うちのバンドが『幸せ』満載のバンドだったらアウトだったね。


「……じゃあ、また明日」


「……おう」


いつもなら集まってどんちゃん騒ぎのハズなのにその筆頭の春樹さん秋斗さんがまた明日。

あーあ、もう。

本当にめんどくさい。


私と春樹さんの部屋は3部屋のうち最下層で。

一足先にエレベーターを出る。

振り返ると、雅さんなんてもう泣き出しそうじゃん。

……バカみたい。


部屋に戻る。

春樹さんは明るく飲もうといい、買い置きしておいた酎ハイと炭酸ジュースを取り出す。

その明るさが痛々しい。


「……ね、春樹さん」


「んー?」


「洵に告白しないの?」


「んぐっ、げっほっ、ぐほっ……」


春樹さんは飲んでいた酎ハイで噎せ返る。

ねぇ、春樹さん。

このくらいの意地悪は許してくれるでしょ?

だって、幸せになってほしいんだよ。


「……いつから、」


「……だいぶ前」


「はー……」


春樹さんはため息を吐きながら頭を乱暴に掻きむしる。

困った時とかの彼女の癖。

その癖は彼女の片割れもよくしていた。


「……いつ告白するの」


「……しねーよ」


何もかも諦めた顔。

やめて。諦めるのは私だけでいい。

告白する前から諦めないで。

だって、洵は貴方を好きなんだよ?


「なんで!」


「……あいつには実架みたいな可愛い女が似合う。綺麗な、可愛い女が」


「……っ……」


春樹さんはバレンタインの日にたまたま抱き合う洵と実架を見てしまったらしい。

洵は何をしてるんだよ。

アンタの好きな女は春樹さんじゃないの?


綺麗な。

あの子は確かに可愛い。

『綺麗』かもしれない。


でも、


「……っ!!……泪??」


私は春樹さんを押し倒していた。

彼女の持っていた缶酎ハイがベッドに零れる。


もうやだよ。

貴方がつらいのは、もう沢山。


「……泪、何泣いてんの」


「うるさい!春樹さんのバカ!!わからず屋!!」


「えー……」


私は春樹さんの小ぶりな胸に顔を押し付ける。

春樹さんの香り、春樹さんの温もり、春樹さんの、鼓動。

もう、私は要らないから。

もう、何も貴方を望まないから


「好きなんでしょ?!だったらさっさと告白しなさいよ!!何が綺麗?!!何が可愛い?!!私からしたらね、あんた以上にいい女はいないわよ!!!」


さっさと幸せになってよ、バカ。

私は春樹さんを押し倒したまま泣きじゃくる。

19にもなって、ガキかよ。

春樹さんがまたため息を吐く。

笑いながら。


「……なによぉ」


「……いや、ありがとうな。泪。お前は優しいな」


「……っ……」


その声があまりに優しくて、

私はまた泣きじゃくる。

いつも貴方は優しいね。

貴方の笑顔は、眩しいよ。


ああ、好き。


でも、私じゃだめなの。


「……お願い……諦めないで……」


「……俺は、実架に、勝てるかな?」


「……勝てるわよ……バカ」


「……ありがと」


ああもう。

幸せになりやがれ。


「やってらんない!」


私は笑いながら春樹さんから離れて、自分のスマホを取り上げる。


「……泪?」


「拓也って紳士だしいいやつだよね」


「拓也?«ジェミニ»の?」


「そう。アイツに言い寄られてんの。失恋したしアイツに慰めてもらうわ」


「……は?失恋?」


ホント、鈍いんだから。

もうひとつくらい意地悪してもいいよね。


ーちゅっ……


「……っ?!!」


私は春樹さんの頬に口付けをする。

すると彼女は驚いたように目を見開いた。


「先に寝てていいよ」


おやすみ。

私は、部屋を抜け出し、コインランドリーにたどり着く。

もう、涙は出ない。


ープルル、プルル……


『はい?泪、どうしました?』


「相変わらずお早いことで」


彼は2コール目で急な電話に出てくれる。

ああ、つらい。


『それは貴方だからですよ。……泣いてるんですか??』


「……泣いてない」


『泣いてるでしょう。どうしたんです?』


「……失恋、したの」


その優しい声が春樹さんのモノに似ていて、でも彼女のより断然低くて、ああ、違うって思った。


『貴方を振るなんていい身分ですね』


「まあ、あの人だから」


『はぁ……、全く貴方も無謀な恋をしたものだ』


拓也は全てを知っていた。

私が春樹さんを思っていながら諦めていることに。

諦めきれずにいたことに。

でも彼はそれでも傍にいてくれた。


『もう、ボクにすればいいのに』


「……そうしようかな」


ーガタガタガタっ!!


『いってぇ!!』


「どうしたの?」


『……椅子から落ちた』


「はは、バカじゃん」


ねぇ、春樹さん。

私はもう笑えるよ。

だから、貴方も笑ってよ。



貴方の笑顔が、大好きだから。




ー番外編ENDー

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