貴方に溺れて死にたい 番外編

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番外編7 それぞれの夜

公開日時: 2020年9月2日(水) 19:09
文字数:2,062

番外編7 それぞれの夜



夕飯を終え、各自部屋に戻った後の秋斗と雅はと言うと、ベッドのフレームを背に2人並んで座り、秋斗の肩に雅が擦り寄っていた。

秋斗はそんな雅の頬を優しく撫でる。


「あ、涼太くんに言わなくていい?」


「げっ、今言うのか?」


「どうせ後回しにしたら言わないだろ」


図星なだけに、言い返せない。

涼太の事は信頼しているし、嫌いではないのだが如何せん「友人」という部類でも「親友」と呼ばれる位置にいる彼との距離を秋斗は取りあぐねている。

どうしても遠慮してしまったり照れくさくなってしまう。

そういう大切な関係のやつはあいつしか居ない。


言い難いのは今回の案件がまた特別に気恥しいものだからというのもあるが。


「はー……、仕方ねーか」


秋斗は観念してiPhoneを操作する。

涼太とのチャットルームを開いて、『今、時間あるか?』と送ると、間もなく『大丈夫!!どした??つーわする??』と騒がしいスタンプと共に返信が来る。


秋斗は『かけていいか?』と送り、涼太から『いーよ!!』とスタンプが来たのでスピーカーにして通話を開始した。


『秋斗、どしたん?』


「いやー、あのさ、今沖縄旅行来てんだけどなんかいる?」


『え!まじ?!いいな!!じゃああれとかかなー、サーターアンダギーとか紅芋タルト!!』


涼太が近くにいた嫁に「娘ちゃん、紅芋タルトとか食べれるかな?!」と声をかけると、少し遠くで「もう3歳だし大丈夫よ」と答えが返ってきた。

しかし涼太はサーターアンダギー(黒糖味)が食べたい。でも娘には早いかもしれない。と唸る。


「しゃーねーな。両方買ってやるよ」


『え!まじ!?やった!!』


電話越しに娘(3歳)とはしゃぐ涼太の無邪気さは本当に22歳なのかと疑問に思え、笑えてきた。


『それだけ??』


「あー、いや、うーんとなぁ……」


言い淀む秋斗に痺れを切らし、雅は「俺が言おうか?」と問う。

その雅の声に涼太は「あ!雅先輩と行ってんのか!!」と楽しそうに笑った。

秋斗は「いい、オレが言うから」と雅を阻止し、1つ決意のため息を吐いた。


「涼太、俺さ、雅とパートナーシップっつー、まあ、なんだ。同性間の結婚みたいなんする事にしたから」


『………………』


「涼太?」


涼太は自分たちの関係に否定はしていなかったし、むしろ応援してくれていたはずだったが、彼はそれを聞くと黙りこくってしまう。


さすがに、結婚……のようなものとなると、気持ち悪かったり、するのだろうか。


『……お、』


「お?」


『おめでとぉぉおおお!!まじか?!大丈夫??あの人とかに殴られない??大丈夫なのか?!!』


無言だった電話越しの涼太は、驚きのあまり声が出ていなかっただけだった。

茉妃奈さんのことも知っている涼太はそれをまず心配した。


「あの人はもう大丈夫だよ。雅と、あと春樹の彼氏が何とかしてくれた」


『え!春樹ちゃん彼氏できたの?!』


「俺の従兄弟でね。いいやつなんだ。今日あいつらもいるよ」


『ほえー!!』


涼太は自分の近くにいる娘に「すげーな!皆幸せになったんだって!!」と興奮気味に言っていたのかそんな微笑ましい声も聞こえてきた。


『皆が幸せでよかった!灰先輩も結婚したんだよな?あと泪ちゃんは?』


「泪も彼氏と一緒にオレ達と沖縄来てる」


『やべーじゃん!!じゅんぷーまんぱんじゃん!!』


「お前、絶対今、順風満帆を平仮名で言っただろ」


あはは!と涼太は笑い、そして、近々本社に戻るからまた会いに行くよと秋斗と雅に伝え、娘がおネムだからまたな!と通話を切った。


「はー、疲れた」


「お疲れ様。よかった。やっぱり涼太くんは受け入れてくれたね」


「ん」


秋斗はまた肩にもたれ掛かり擦り寄ってきた最愛を抱き寄せて、こめかみに口付けをする。

雅はくすぐったくて身を捩った。


「……みやび」


「うん?」


「幸せにする」


「うん、俺もお前を幸せにする」


2人は明日も早いしいやらしいことはせず、素直に抱き合って夢の中に旅立った。




そんな出来事があった時間帯、拓也と泪の部屋では。


「………………」


「どうしました?」


泪はベッドに腰掛けた拓也の背中にただ無言でしがみついていた。

拓也はそんな泪をあやす様に腰に回された腕を摩り優しく声をかける。


「……春樹さんと、洵、結婚したいはずなのに」


「……そうですね。彼らもずっと互いを愛していたいはずなのに何故あんな顔をしたんでしょう?」


泪は、なんとなく気づいていた。

その2人の表情の理由を。

きっと、自分の親の過ちを理由に愛する人との結婚という手段に至れないのだ。


「…………2人が幸せなら、いいのに。私は、それがいいのに」


「……泪は、ボクとは結婚したくないですか?」


「そんな事言ってないじゃん馬鹿なの?」


「おや、相変わらず手厳しい」


むくれる泪とは正反対に拓也は満面の笑みを浮かべる。


泪は拓也といれて、幸せで、生きていられて、とても、幸せで。

でもそれよりも大好きなお姉さんとその恋人が幸せであればと願う。


「2人が幸せになれるようにボクたちも応援しましょう」


「うん」


2人はお兄さん達の言いつけを守りただ寄り添って夢を見た。



ー番外編ENDー

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