番外編8 可愛くなる魔法
泪が洵と春樹の部屋に乱入し、洵を追い出してから彼女はお揃いの、色違いのワンピースに着替えた春樹をベッドに座らせメイクを施していく。
いつもはどちらかというと濃いめの、どちらかと言えば女ウケするようなクール系のメイクをしている春樹。
昔は男装メイクだったがこれでも女らしくなったつもりだった。
しかし、泪に「まだダメ!全然男ウケしないから!!」とダメだしされてしまう。
泪はライブの時とかは春樹寄りのメイクもするが、でも普段は薄めのナチュラルメイクもする。
「……男ウケナチュラルメイクとか絶対似合わない」
「大丈夫だってー。春樹さん素材がいいんだから」
ルンルンしながら鼻歌でも歌い出しそうな泪に何も反論が出来ない。
似合わないと思いつつ、大好きな洵が喜ぶなら、なんだってしたい。
まず、ベースメイクを塗っていき、続いてアイメイクをする。
いつもはがっつり濃い色のアイシャドウを塗るが今日はそうでもない馴染みのいいブラウンらしい。
落ち着かない。
「……泪は今、幸せか?」
落ち着かないから泪に話しかける。
泪は「なにー?急に」と穏やかに笑う。
「いや、気になってさ」
「……幸せだよ。拓也、変態だけど優しいし、頼りになるし、なんでも我儘叶えてくれるの。いっつも、『仰せのままに、お姫様』って」
「あいつはなんなの?」
「さあ?私の事大好きだからなんだってしたいって言ってたよ。……だから、誰かさんに片想いしてた時よりだいぶ幸せ」
安心した。
春樹も泪が大切な親友だし、唯一の女友達。
傷つけたくなんてない。
でも、無意識に傷つけてしまっていた。
だけど、新たに好きなやつが出来て、幸せなら、春樹は嬉しい。
「春樹さんはどうなの?洵とだいぶイチャイチャしてるけど」
「ま、まあ、幸せ、だけど……」
口ごもる春樹に、泪はまた洵は何をしたんだろうと腹立たしくなる。
泪は春樹が今でも大好きで。
『好き』の形は変わったけど、大好きで。
「……なんかあいつ、私の扱い上手くなったからなんか、モヤる。他所に女できたんじゃないかって」
「馬鹿なの?」
「は?!なんでだよ!私は!!」
ちょうどアイメイクを終え、目を開くと泪は呆れたように笑っている。
「……洵はさー、春樹さんを大好きなんだよ。皆に優しい奴だけど、あの子は春樹さんが特別。群を抜いてね?実架と抱き合ってた件は実架から聞いたらつらいことがあって慰めてくれてただけだって言ってたし」
「でも、さ」
「ホント馬鹿なの?洵を自分好みに調教したの春樹さんでしょ?」
「は!?」
でも、言われてみれば、キスの仕方を教えたのも、女の抱き方や、扱い方を洵に仕込んだのも自分だ。
洵は、春樹を一心に愛しているだけなのだ。
春樹ははぁー……とため息を吐いた。
「具体的には洵、どんな風になったの?」
「何もエロい事知らない童貞だったのにキスしながらケツ揉みしだく変態になった」
「やだ、えっろ!」
春樹と泪はくすくす笑う。
ちなみに隣の部屋で洵は盛大なくしゃみをしていた。
「つーか、さっきやられた。めっちゃ濡れた」
「あらー、私お邪魔だった?」
「いや、助かった」
あの時の洵がいつも行為前に見せる異様な色気を放っていて、春樹はたまらなくなってしまった。
泪が来なかったら今日の予定も忘れて抱き合っていたかもしれない。
何も知らないピュアだった年下彼氏を『男』にしてしまって、少し、いたたまれない。
最後にヌーディピンクの口紅とグロスを塗る。
「はい、出来た」
「…………誰だよ」
「春樹さんだよ」
「化粧ってすげぇな」
いつもとは違うフェミニンな自分に感心する春樹を後目に、泪は春樹の後ろに周り、髪もいじる。
「……泪」
「うん?」
「友達になってくれて、ありがとうな」
「こちらこそよ。大好きよ、春樹さん」
大好きだけど、もう、そういう感情じゃない。
自分には大切な男がいる。
「でーも、洵となんかあったら私は容赦なく春樹さんを奪うからね」
「大好きかよw」
「大好きだよ。私、2人が溺れてたら拓也より春樹さん選ぶわ。春樹さんは大切な親友だもの」
「お前もなんかあったらウチ来いよ。面倒見てやるから」
「ふふ、ありがとう!」
髪のセットも終えて、泪が拓也に連絡すると洵と、拓也が連れ立って入ってきて、春樹の変貌ぶりに絶句した。
ー番外編ENDー
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