番外編5 つらい恋 R18
拓也は、ライブハウスで顔合わせをしたあの時から泪を欲していた。無性に、求めた。強く、強く、求めてた。
自分は無欲な方だったはずなのに。どうしてこんなにも欲しいのか。
賢い頭で考えても、考えても、考えても、分からなかった。
「泪さん、ボクと出かけませんか?」
初めて通話に持ち込んだ日に、拓也は泪をデートに誘った。
『……嫌』
少しの間の後、泪はそれを拒絶した。
簡単に落ちない方が、燃えた。
拓也は周りが知らない所で泪を構い倒した。
泪はそれが鬱陶しくもあり、でも、そうでもなかった。
拓也はアタックしまくった。
何回か、玉砕して、ようやく、
『……仕方ないな』
と、デートに漕ぎ着けたのである。
拓也は気取らないで、尚且つ安っぽくないデートプランを考えて、実行した。
デートプランを考えている間、弟の和也に「必死すぎ引くわ」と罵倒されたが、気にしなかった。
でも、泪は、笑わない。
あの、«sins»といる時みたいな、愛らしい笑顔はない。
「……楽しくないですか?」
「……楽しいよ。ただ、」
泪は真っ直ぐ前を見たまま、呟く。
「……違うなって。『あの人』とは」
『あの人』。
それは«sins»の、秋斗か、それとも、作詞家の雅か。
拓也は簡単に、安直に、勘違いした。
報われない恋ならやめて、ボクと。
「……『あんた』は、男だ」
そして、泪の片想いの相手が春樹かもしれないと、気づく。
拓也は泪を抱きしめた。泪も嫌がらない。
「……ボクにすればいいのに」
「……あんたに恋、できるように……なれば、楽に、なる……かなぁ……」
泪は泣いた。
拓也はただキツく泪を抱きしめた。
そして、泪は拓也に春樹と洵が想いあっていることを伝える。
応援したい。2人を。『普通の恋愛』を出来るあの2人を、応援したいと泣きじゃくった。
拓也はつらい恋をしているもの達をもう1組知ってる。あと1組はつらい恋だけど本人達が幸せにしてるから除外した。
「ボクの周りはつらい恋ばかりしています」
「……まだ、いるの??」
拓也は幼なじみ達の禁忌を伝える。
泪は、「そう……」と、そう呟いて、また涙を流した。
その涙が何の涙かは分からない。
ただ、綺麗だと、思った。
この女の瞳に自分だけを写したいと、思う。
2人はそれからちょくちょく会うようになった。
ただ、出かけて、ご飯を食べて、買い物をして、そして、抱き合う。
ただ、それだけ。致してはいない。
拓也はそれだけでは、足りなかった。
泪を想って独りで何度もシた。
妄想であの女を犯した。
「……アホか……ボクは、」
虚しい。
その涙声は、一人暮らしの部屋に静かに響いて、溶けて、消える。
つらい恋は、自分もじゃないか。
……ボクは、馬鹿だ。
ある日、泪は電話で、あの2人がギクシャクし始めたとポツリ。
拓也は「……今、漬け込んだらいいのでは?」と唆した。
泪は「馬鹿じゃないの?!!舐めないでよ!!!」と乱暴に電話を切る。
そして、しばらく独りで誰にも頼らず泣いて、拓也にLINEした。
『もう、バカバカしい何もかも、もうバカみたい。……疲れた』
それからLINEは既読にならない。
通話も出ない。
ああ、失敗した。でも、遅かった。
拓也はデリヘルを呼んだ。
泪によく似た、悲壮感の漂う女だった。
イけなかった。
いや、勃たなかった。
拓也は女に罵倒の言葉と平手打ちをお見舞され、虚しくなった。
「もう、ボクも、バカバカしいよ。何もかも」
泣いた。
泣いて、泣いて、泣いて、泪の連絡先を消そうとして、でも、出来なかった。
「……好きです。泪……」
涙声はまた自室に響いて、消えた。
それからはぼーっと生きた。
«ジェミニ»の面々に怒られ、心配された。
拓也は、「ただの恋煩いですよ。タチの悪い、ね」と力なく笑う。
そんな日々か虚しく続いた3月。
«sins»は大阪に逆輸入されるらしいと実架から聞いた。実架はバイトが同じ、洵から聞いたという。
泪は、バイトを増やしたらしくなかなか会えない。実架は寂しく呟く。
つらい恋をしている実架と琉架はギクシャクしながらも、幸せそうだった。
「(……ボクのこの恋もなんとかならないんでしょうか)」
椅子の背もたれにもたれて天井を眺める。
泪は今頃、«sins»と、笑ってるのだろうか。
ああ、切ないな。
また、涙が流れそうになる。
〜〜♪
拓也は慌てて電話に出る。
「はい?泪、どうしました?」
しまった。
声が上擦った。
『相変わらずお早いことで』
「それは貴方だからですよ」
憎まれ口を叩くその声は少し、鼻声で。
「……泣いてるんですか??」
『……泣いてない』
「泣いてるでしょう。どうしたんです?」
『……失恋、したの』
分かりきっていた失恋に、はー、はは!と、力なく笑う声が切なくて、すぐにでも抱きしめてやりたかった。
ボクにしなさい。と、唆したかった。
「貴方を振るなんていい身分ですね」
『まあ、あの人だから』
「はぁ……、全く貴方も無謀な恋をしたものだ」
恋が成就したであろうあの2人が、幸せであれと願いつつ、羨ましく、そして、狂いそうなくらい、
妬ましい。
「もう、ボクにすればいいのに」
『……そうしようかな』
ーガタガタガタっ!!
「いってぇ!!」
『どうしたの?』
また零れた無謀に、突然のデレを受け、拓也は、
「……椅子から落ちた」
『はは、バカじゃん』
泪は初めて拓也にも笑った。
腹が捩れるくらい、一頻り笑い、またデレる。
『ねぇ、今すぐあんたに会いたい』
「ボクが何処にいるかわかってます?」
わかってるよ。
でも、会いたいんだよ。
ねぇ、また抱きしめてよ……。
泪は続けて熱を吐き出す。
拓也は久しぶりに疼いた。
「ちょっと待って下さい」と拓也は通話をスピーカーにして、スマホを操作する。
『……なに?』
「夜行バスを取ります」
『……あんた、馬鹿よね。なんで私なんかに』
貴方だからだ。
そう告白すると、泪はバーカと笑った。
チケットはギリギリ取れた。
今から出ても、間に合うか絶妙なそれに拓也はスマホとサイフ、家の鍵だけをポケットに押し込んで、乗り込んだ。
眠い。
眠れない。
少しだけうとうとして、大阪に着く。
拓也はバスを飛び出て、地下鉄に乗る。
愛しい彼女は憑き物が落ちたような、スッキリした顔で、笑ってた。
あのお騒がせの2人と、彼の兄と、4人で駅でいた。
あれ?あのつらい恋の2人は??
どうせまた愛を紡ぎあってるんだろうな。
泪は拓也を見つけると、駆け寄ってきて抱きつく。
夢かと思い、自分の頬を抓る。痛かった。
「馬鹿なの?」開口一番可愛くない。
いや、それすら可愛い。
拓也は3人に頭を下げ、泪の肩を抱いて路線図を見る。
「何処か行きたい所はありますか?案内しますよ」
「んー、心斎橋」
何となく、泪のファッションを見ているとその理由がよく分かった。
拓也は2人分の切符を買い、ご機嫌な泪を抱き寄せ、改札を潜る。
心斎橋に到着すると、泪は子供のようにキラキラと目を光らせる。
死んだような目をしていた彼女が、早く早くと目を輝かせる。
生きていて、よかった。
少し、心斎橋で買い物して、お昼を食べ、また、ブラブラ宛もなく歩く。
「他は?」
「……あんたの、家」
「……また貴方は無茶を言う」
でも、拓也は、泪の要望に答える。
すぐに帰りの新幹線のチケットをとる。
また難題だったけど、なんとか連番でとれ、2人はずっと寄り添っていた。
言葉はいらなかった。
お互いの存在だけで、よかった。
部屋に着く。
2人は、玄関で抱き合う。
「……あとは?」
「……抱いてよ」
「……お姫様の仰せのままに」
拓也は泪の靴を脱がせると、お姫様抱っこで泪を抱え上げ、寝室まで運ぶ。
この日をどれだけ待ち望んだことか。
「……びっくりした。意外とチカラあるんだね」
「……ボクも男ですから」
「……ん、」
唇を塞ぐ。
何度も重ね合わせ、舌を絡ませあう。
ん……ふっ……。吐息が漏れる。
「……経験は?」
「……一時期、寂しくて、取っかえ引っ変えしてたから」
使った事がある様で、ああ、少し酷く抱いても大丈夫だなと安堵すると同時に、泪を暴いていた男達を潰してやりたくなった。
酷くすると言っても愛はある。ただ、拓也に余裕が無い。
「あっ……はぁ、ん……ふっ……んっっ!」
「はあっ、くっ……るい……、る、い……ぁっ」
拓也が泪を愛おしく切なく呼ぶと泪は拓也を思い切り、締め付ける。
拓也は思わずイキそうになるが、歯を、食いしばる。
「……締め付けすぎ、ですよ」
「うるさ、い……んっ、あっ、ひっ、あっ、あっ、ダメっ、や、ムリっ、ヤダっ!!あっ、あっ、あっ、」
拓也はいやらしく笑うと、酷く激しく泪を打ち付ける。
いやらしい水音が寝室に響き泪は耳を塞ぎたい。
……もう、分からない。
「あっ、や、や、むり、たく、たくや、ヤダっや、」
「……るい、るい、るい、る、い、」
「あっ、あっ、あっ、んっ、ふぁっ、も、もう、クる、キちゃうからっ、ダメ、もう!!!あぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「……くっ……」
泪はキツく拓也を締め付け絶頂し、拓也はその締めつけに促されて泪のナカとモノを隔てる避妊具の中に果てた。
はー、はー、はー、
2人は荒く息を繰り返す。
そして、どちらかともなく笑い出す。
「はー、ほんとにバッカみたい」
「……勘弁してください。その言葉はトラウマだ」
じゃあ、もうひとつトラウマになる事をいうね。
拓也は身構える。
泪は微笑んで、「もっかい、シよ」と拓也を唆す。
拓也は「また貴方は無茶を言う」と呆れながら、「1度ゴムを変えてからですよ」と笑い、2人はまた、愛し合った。
拓也が泪に高価な贈り物をするのはこの2日後である。
ー番外編ENDー
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