シャーロック・ホームズ(♀)の冒険

~美少女に転生しても初歩は初歩~
ゆづき。
ゆづき。

シャーロックという男 2

公開日時: 2021年3月13日(土) 20:48
更新日時: 2021年3月16日(火) 20:31
文字数:1,179

「……え、今、なんて……?」

目の前の少女は何事も無かったかのようにくるりと身を翻した。

「……それで?事件は?」

ありません。と友人は呆れながら言い、本郷さんはつまんないの、と作業に戻った。

「暇潰しになるか分かんないけど、僕のこと……推理してみる?」

ピクリと彼女の肩が揺れた。

「それは、愉しそうだ。令官、君は出ていいよ」

友人は戸惑っている。僕の方を不安そうに見た。僕は彼に微笑んで言った。

「心配要らないよ。こんな素敵な子と同室なんて、僕はツイてる」

ツイてなんかない気がしたけれど。

「そ、そうか…………じゃあ……」

達者でな……とこちらをチラチラと見ながら部屋を出て行った。

「ふぅ……では、始めるとしようか」

彼女はその鋭い目を不敵に光らせて、こちらを見る。

久々の感覚に胸が踊った。

ホームズの推理が、始まる。


「君は前の学校で恐らく運動部……いや、クラブチームか。ラグビーの」

「よく分かったな」

「部活ではないとわかったのは、君の出身校。君の出身校の私立明観学園にラグビー部はない」

「なぜ、ラグビーだと?」

「君はやたらとガタイがいい。その上、肌は黒い。その黒さが日焼けだと分かるのは、手首に……リストバンドかな。そこだけやたらと白い肌が見えている」

「なるほど。それから?」

「それから、君には兄弟がいる。名前は周。『周る』と書いて『しゅう』だ。恐らく兄だろう。ジャージに彼の名が記されている。しかし、仲はあまり良くない。というのも、家族からの土産か何かの袋が1つ足りない。君の家庭は父が医者、母は恐らく専業主婦、そして兄の四人家族。わりと裕福らしい。でなければ、そんな高級な、しかも新しい靴を履いたりしない。その桃色の袋は母からの、そして高級そうな箱……それは、万年筆かな。を持っているが、兄の物と思しきものはそのジャージだけ。ジャージは母が『勿体ないから』とでも言ってお下がりにしたのかな?君のお母さんは、お金の使い所がちゃんとしている。そう、それに嫌気が差したのだ、君は。兄が通っていたこの学び舎で学ぶということは、『あの周の弟』というレッテルが貼られてしまう。それで、兄の土産だけは貰ってこなかった。違うか?」

圧巻、だった。呆気に取られてしまった。

「君、君は…………本当に……」

彼女はそのアーモンド型の瞳を細めて言った。

「最後に。君がワトソンだと言ったのは、賭けだった。その反応は…………賭けに勝った、ということで間違いないな?」

異論を認めなさそうな不敵な笑み。昔も、こんな風に彼に推理された。

まさか、まさか……とは思った。

「じゃあ、君は…………」

「挨拶が遅れてしまったね。私……いや、僕は、ホームズ。シャーロック・ホームズだよ。

……よろしく。ワトソンくん」


血の気が引いた気がした。

また、僕はあの傍若無人な男(今は女)と平穏とは程遠い生活を送らなければならないらしい。

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