東京へ戻る朝、リクは出会ったときと同じ開襟シャツとネイビーのハーフパンツ姿であらわれ、アミとわたしのスーツケースを車に積み込んで送ってくれた。
空港についてからアミがお手洗いへ行くと席を外したとき、また何度もにらめっこをするみたいに視線があったけれどお互いに口を開くことはなく、短い別れの言葉とともに帰りの飛行機へ搭乗した。
手荷物だけを抱えて乗り込んだ機内で一息ついた頃、アミが言った。
「何も言わなくてよかったの」
その言葉が意味することがわかって、戸惑いながらも言う。
「アミの初恋だって、言ったじゃない」
「それは関係ないでしょ」
ぴしゃりとたしなめるような口調に閉口する。もう「すき」という言葉は喉をつかえていなかった。
「ひと夏の恋なんて、わたしはそんなの絶対に嫌。だからミホにも、そうなってほしくなかったのに」
彼女の目の下には薄く隈ができていて、昨夜よく眠れなかったことがわかる。アミは何を思ってひとりで夜を過ごしたのだろう。誰もいない布団のとなりで、じっと、待っていてくれたのかもしれない。
わたしはアミのそういうところが、すきだった。
そのうち眠たそうにする彼女を見ていたらわたしにも睡魔が訪れてきて、轟音とともに飛び立つ飛行機の座席の背もたれに身体を預ける。
せめて東京タワーを見せてあげたかった。わたしの生きている場所を見てほしかった。それでふたりの視線が重なることがなくても、波間でもがくことに意味があったと思えて仕方がなかった。
睡魔に襲われて閉じかけた瞼から何粒か滴が零れ落ち、それからしばらく眠った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!