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あなたは私の天使だった 明日の空へ

公開日時:2024年11月10日(日) 18:38更新日時:2024年11月10日(日) 18:38
話数:1文字数:666
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 グラウンドの上でピストルが鳴る。


 地面に敷かれた白線と、0コンマ1秒のストップウォッチ。


 時刻はAM11時。


 その針の下で、ほんのわずかな静寂が訪れる。


 スタートダッシュを切るタイミング。


 地平線へと続く、12秒フラットの境界線。



 焦りだした1つの心が、白線の上で静止できない。


 2007年6月の陸上選手権大会。


 あの日。


 あの夏の季節からだった。


 かつて私の背中にあったはずの翼を、この心に取り戻すことができずにいた。


 視線のおぼつかないカメラワークが、いつも、明日の世界を探してた。



 キミは、あの日公園のベンチに座る私の後ろで、尻尾を曲げたまま動かない。



 日はすっかり暮れてた。


 夜の向こうに見えた満天の月明かり。


 まるで、すべての時間を止めるレースの直前の合図のように、

 


 「これからどうすればいい?」


 って、虚ろな瞳で。



 目を覚ませば、いつもと変わらずに朝が来る。


 瞬きもできないほどに進んだ時間の端で、地面に足を着けたまま動かないのは、きっと、明日に託したいものが、今日という1日の中にあったから。



 キミになにを言えばよかったかな?


 白い吐息が漏れるほどに冷えきった街の公園。


 草むらの中を掻き分けて、破れかけの段ボールの中にいるキミの体を掴む。


 キミは少し怯えながら、歌を歌うわけでもなく。



 翼の折れたその体を拾い上げて、これからどこに行く?って、私は尋ねた。


 「キュゥ…」と声を挙げるキミを連れて、どこかへ——



 きっといつか、空の向こうに行こう。



 壊れた足を持ち上げて、そう呟いた。


 わからなかったんだ。


 まだ、その時は。



 キミが、私の知らない世界へと、連れていってくれることを。





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