(実質)異世界みたいなメタバースで行方不明の姉を探しちゃダメですか!?

雲母星人
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第39話『――だから言ったじゃねえか。お前らは"真面目過ぎ"って、さ――』

公開日時: 2021年11月28日(日) 00:00
更新日時: 2021年12月28日(火) 00:52
文字数:12,576



「黒檜! 征くぞ! 目標【軍神鬼『暁』】!! 全砲門開け!」

 主の命令に応じて全ての砲門が軋みを上げて駆動し、それによって生まれた"鋼鉄の咆哮"がリゾートエリアへ轟いた。

 遂に現れたミカの"最終兵器"にレストランで観戦していた片岡ハムチームの面子も否応が無しにテンションを上げている。

「よっしゃぁ! 待ってたでぇ!」

「クロベちゃーん! がんばってー!」

「ミカくん! 今時二足歩行とかいうポンコツロボに現代戦ってモンを教えてやりなさい!」

「大艦巨砲主義の本懐を小日向にも見せたれ!!」

 応戦するように向かいのテーブルに座っていた大鬼も勢い良く立ち上がり、

声も張り裂けんばかりに眼前の衛とアカツキを鼓舞する。

「衛ー!!! アカツキー!!!! そんな仮想戦記から来たみたいな張りぼて珍兵器に負けるんじゃないっ!! 

お前たちなら……お前たちなら勝てる!! 絶対勝てるぞ!! ウォォォォン!!」

 次々に届く声援の中、ミカへブルーの指示が飛んでくる。

≪ミカ! あの鬼ロボの脚部に砲撃を集中しろ! 無駄にトップヘビーなのを後悔させてやれ! 跪かせてごめんなさいさせろ!≫

「了解! ――黒檜! 前進しながら五番六番砲塔に【五号弾】装填! 仰角十二度へ調整!」

 ――ギャリギャリギャリ!!

 雪原を抉り取りながら黒檜の巨大履帯が稼働を始める。

 それと同時に各排気口からもうもうと水蒸気が噴き出した。

 黒檜の前部三連14サンチ砲二門が目標に対し、狙いを定めるように砲身を上下させる。

 砲塔内部の装填機構が稼働し、独特な円錐型をした対装甲用特殊砲弾【五号弾】が装填されていく。

 ミカは右手を振り下ろして射撃を命じた。

「――撃ぇっ!!」

 殆ど爆発と変わらない発射炎と共に六発の砲弾が砲口から撃ち出される。

 暁へと放たれた砲弾は緩い放物線を描き、音を置き去りにしながらその脚部へと殺到した。

≪衛! 回避行動!!≫

「オッケー! うぉぉぉぉ!!」

 アカツキの言葉に合わせ、コックピット内で衛が操縦桿を思いっきり手元へと引き寄せる。

 その動きに連動して、暁の巨体が大きく前へと踏み込んだ。

 雪原に深い足跡が残るくらいの強い踏み込みで地面を蹴る。

 そして――。

「と、跳んだぁっ!? あの巨体で!?」

 まるでスローモーションでも見ているかのように暁の巨体が空へと浮き上がる。

 黒檜の撃ち出した砲弾はその巨体の足下を通り過ぎ、遥か先にあったビーチの屋台村の区画へと直撃した。

 五号弾は衝突の運動エネルギーによって周囲の建造物まで巻き込んで破砕していく。

 遅延信管によって数秒遅れて内部の榴弾が弾け、大爆発が起きた。

 それと共にその近くにいたアバたちが爆風と爆炎に巻き込まれたがそれを気にしている余裕はミカには無い。

 そのまま暁は凄まじいジャンプ力でミカの乗っている黒檜さえも空中回転しながら飛び越えていった。

 ミカは呆気に取られながらその姿を目で追う。

 暁はそのまま黒檜の背後へとキレイに両の脚を揃えて着地した。

 凄まじい振動が起こり、地面全体が揺れ動く。

≪ミカ!! ボーっとしてんな!!≫

 ブルーの声で正気に戻り、ミカは咄嗟に黒檜へ指示を行った。

「くっ……! 近接防御起動!! それと超信地旋回!!」

 黒檜の背部近接防御兵器群が稼働し、自動的に暁の姿を捉える。

 更に各々の履帯が高速回転を始め方向転換をしようとした。

「――【鬼神金棒】! セット!! オォォォォォガァァァァァァ!! ホームラァァァァァン!!」

 だが衛の方が先に動いており、暁の手にとても痛そうなトゲトゲの一杯付いた超巨大金棒が握られる。

 それを素早く一本足打法で構えるとフルスイングで黒檜の後部へと叩き込んだ。

 ――ゴアァァァンッ!!!

 金属同士が凄まじい衝撃でぶつかった事により、鐘の音を数百倍にしたような爆音が響く。

 金棒は黒檜の後部装甲ごとミサイルサイロや発射機を圧壊させた。

 更にそれでも余ったパワーによって前方に逃走を図っていた黒檜の巨体が雪原をドリフトでもするかのように滑り、揺れ動く。

「どわっちゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 甲板上のミカはとてつもない振動で吹っ飛ばされそうになるのを何とか黒檜のレーダードームにしがみつき、

尻尾を巻きつけ、必死に堪える。

 一瞬でも気を抜けば身体ごと遥か遠くへぶっ飛んでいきそうな衝撃。

 巨体故の重量のお陰か、辛うじて横転だけはせずに済んだのは幸いだったが、

それでも交通事故でスピンする自動車の如くクルクルと雪原で黒檜は回転した。

 無茶苦茶な力に強引に動かされたためか、黒檜の左履帯は千切れるようにして外れていく。

 結局五百メートル近く雪原を滑り、やっと黒檜の巨体が停止する。

 ミカはフラフラしながらレーダードームからその身を離した。

「うぇぇ……」

 先程の爆音で犬耳もおかしくなり頭がガンガンと揺れている。

 そんなミカへブルーの顔の映ったウィンドウがフヨフヨと寄ってきた。

≪ありゃーケツバットされちゃって……後部の武装はみんなおしゃかだな……≫

「そ……損傷表示……」

 揺れ動く頭を抑えながらミカは黒檜の状態をチェックする。

 次々に情報ウィンドウが表示されていき、かなりの損害を知らせてきた。

 【背部誘導弾投射機:全損】【背部誘導弾発射口:全損】【近接防御兵器群:全損】【近接補助:全損】【左履帯:破損】

(クソッ……。サポート系武装は全部ダメだ……! しかもキャタピラも逝ってる……動けないぞこれじゃ!?)

≪ミーカー≫

 ブルーが妙に間延びした声で呼び掛けてくる。

 ミカはそれどころではないと言った様子で情報ウィンドウへ目を走らせていた。

「何ですか! 今、確認で忙しいんです! 後にしてください!≫

≪――鬼さんこちら……≫

「え――ギャッ!?」

 ――ズシンズシンズシンズシンズシンッ!!!

 地響きと共に雪原を猛然と暁が爆走してくるのが右手に見えた。

 金棒を横手に振り被り、こちらへ向かって強烈な一撃を見舞おうとしているのは明らか。

 所謂大ピンチだった。

≪おっ! ミカ! やっこさんキルゾーンに入るぞ! 災い転じてなんとやら~!≫

 ブルーの言葉にミカは暁の進行方向を見やる。

 そこには黒檜を呼び出す前にコソコソと作業を行った【ブービートラップ】があった。

 表層には新たに積もった雪が重なっており、そこだけが少しだけ浮いているのが分かる。

 これ幸いとばかりにミカは黒檜へ命令を下した。

「く、黒檜!! 一番砲塔を右へ! 【四号弾】装填!! 水平射用意! 総員対閃光防御!」

≪ほい、閃光防御っと……≫

 ブルーがウィンドウの中でどこから取り出したのか黒いサングラスを掛ける。

 安全エリアのレストランで黒檜の動きを見ていたムーンがミカのやろうとしていることに気が付き声を上げた。

「あっ! ヤバい! あいつら"アレ"使う気だわ!」

 ムーンは慌てた様子でどこに用意していたのか幾つものサングラスを取り出すとそれをトラさんたちへ投げ付けた。

「社長たちもこれ付けて!! 早く!」

「え? 何やこれ?」

「ミズキちゃん、これ何使うねん」

 困惑するトラさんやラッキー★ボーイにムーンが焦った様子でサングラスの着用を促す。

「良いから付けなさいって言ってんの! ほら! 虎児ちゃんも!」

 隣で座っているマキにもムーンが無理矢理サングラスを着用させる。

 いきなりそれを付けられたせいでマキもビックリして声を上げた。

「わぁっ!? な、何!? 暗いよ!?」

「これでよし――あと序にあんたも使っときなさいよ!」

「――へ? あっ、どう……も?」

 ムーンは隣のテーブルで座っている大鬼の方へもサングラスを投げ付ける。

 彼も困惑しながらそれを受け取った。

 一方、何も知らない"哀れな犠牲者たち"はこれから起こる事も知らずに呑気に観戦を続けている。

 ミカのバトルが色々周囲を巻き込みやすいのは既に周知の事実だったが、

それでも彼らは充分に距離を取っている事で油断していた――。

 黒檜の右主砲、45口径36サンチ単装砲が軋みを上げながら側面を向く。

 内部の装填機構に真っ赤なファイヤーパターンが描かれた特殊砲弾が装填された。

「――撃ぇっ!!」

 甲板へ屈みこみ、自らの軍帽の鍔に手を掛け、自身の目を覆うように隠したミカが殆ど絶叫しながら発砲を指示する。

 砲口から火炎が吹きあがり、それと共に衝撃波がミカの身体を襲った。

 砲口から吐き出された巨大砲弾は距離が近いこともあり真っすぐ目標へと飛来する。

 自身へ向かって飛んでくる砲弾を見てアカツキが衛へ迎撃を指示した。

≪衛! ピッチャー返し!≫

 コックピットの衛の操作に応じて暁がバットを振り被る。

 その両の瞳が砲弾を正確に捉え、それを撃ち返そうとした。

 ――カチリ。

「――え!?」

 衛の表情が驚愕の色に染まる。

 向かってきた砲弾は目標である【軍神鬼『暁』】のかなり手前で突如、赤い炎を迸らせて炸裂した。

 爆発の衝撃と熱によって内部に収められていた燃焼材が一気に加圧沸騰し、空中へ噴霧される。

 そして――炎に導かれるようにそれらは発火した。

 撒き散らされた燃焼材は連鎖的に発火していき、まるでその場で太陽が創り出されたような熱と閃光を発する。

 その激しい閃光によって暁の巨体も目標を見失い、ミカとブルーの用意したキルゾーンへと足を踏み入れた。

≪きゃぁっ!?≫

「モ、モニターが!?」

 視界全てを覆う強烈な閃光によってオペレーターのアカツキも悲鳴を上げる。

 更にコックピットのモニターも焼き付き、衛の視界を隠す。

 そのあまりにも強烈過ぎる閃光は戦場の当事者たちだけでなく、リゾートエリア全体を照らし、

観戦していたアバたちから一斉に悲鳴が上がる。

「ひょわぁぁ!?」「目、目があぁぁぁああ!?」「ぎにゃぁっ!? な、何が起きたの!?」「あぶねえ! 誰か踏んだぞ!!」

 事前にムーンから対策を施されていた片岡ハムの面子はサングラス越しに感嘆の声を上げていた。

「おぉ……太陽が二つ昇っとる……」

 トラさんが頭上にある燦燦と輝く太陽と地上にある地獄の業火のような太陽を見比べる。

 ある意味その地獄を作った張本人のムーンは鼻高々と言った様子で胸を張っていた。

「ふふんっ。これぞ燃料気化弾頭搭載……【四式弾】よ。本来は対空用だけど……流石、ミカくん応用力あるわね」

「しっかしこれ大丈夫なんか? あんま強い光見ると人間はショック症状あるやろ」

 ラッキー★ボーイが阿鼻叫喚の地獄絵図と化している観戦者たちを見て心配そうにそう漏らした。

「バカね、店長。そんな危ない武装、デルフォの許可下りるわけないじゃない。ちゃんと影響でない程度に減光されてるわよ、あれ」

「じゃあなんであんなにあいつら騒いでんねん……」

「さぁ? プラシーボ気のせいじゃないの」

 首を傾げるムーンを余所に彼女から貰ったサングラスを掛けた大鬼がテーブルから戦場のアカツキたちへ向けて叫んだ。

「マ、衛―!! そこから逃げろー! 罠だぁぁ!!」

 彼が気が付いたようにマキも雪原で動きがあることに気が付き、声を上げた。

「あっ! あのデッカイロボット! 倒れそうだよ! 落とし穴に落ちてる!」

 その声に導かれて全員の視線が再び雪原へと集中した――。







「アカツキ! 大丈夫かい!」

≪こ、こっちは平気! それより衛! 機体が――≫

「――ぐぁっ!?」

 コックピット内が大きく揺れ、衛の身体も揺れた。

 衛は先程の攻撃で損傷を受けたと思い、咄嗟に無事なモニターで暁の状態をチェックする。

 しかし軽微なダメージはあれどそこまでの損害は無い。

 しかし暁の機体はどんどんバランスを崩していった。

「一体何が……――まさか!?」

 衛は無事なモニターを使い、機体の下方を映す。

 そこには何時の間にか巨大な湖が出来ており、暁の巨体がその水流に飲み込まれ、段々と沈んでいた。

 既に下半身は完全に水中へ没し、上半身も飲み込もれるのも時間の問題だろう。

「さっきの熱量弾で雪が融けた!? でもそれにしたってこの水の量は――くっ!?」

 衛は操縦桿を動かし、何とかその湖から這い出そうとする。

 だが本体の重量も相まって中々抜け出せなかった。

≪ケケケッ! こう、上手く行っちゃうと笑いが止まらねえよなぁ、ミカ!≫

 ウィンドウに映ったブルーが黒檜の甲板上から悶える暁の巨体を見て、満面の笑みを浮かべながらケタケタと笑う。

 ミカもその声に静かに応じた。

「……浅間のお陰ですね」

 ミカは閃光から目を守るために深く被っていた軍帽を正すと甲板上で

立ち上がって即席で作った湖へと沈みゆく巨大鬼へ目を向ける。

 浅間と共同作業で必死に掘り抜いた【トラップゾーン】は確かに獲物を捕えていた。


 ――浅間! 口部火炎放射器でここの雪を融かしてくれ! ――

 ――バウ……――

 ――よっしゃっ! お犬良く頑張った! ミカ! 凍ったところに雪掛けろ! 雪! ――

 ――はい! ――

 ――クゥゥン……――


 火炎放射で雪を融かし、簡単な水入り落とし穴を作る。

 融けた水は外の冷気で薄く水面が凍り付き、そこへミカが必死に雪をぶっかけて雪原があるように偽装する。

 あまりに子供染みた戦法。

 だがそれ故にこの切羽詰まった状況での看破は難しくこうして見事に穴にハマってしまった。

≪さぁて! 解体ショーの時間だぜ! 止め刺してやれ!≫

「言われなくても! 黒檜! そのまま右砲塔に【零号弾】装填! 目標――うわぁっ!?」

 ――ガァンッ!!

 黒檜へ命令を下そうとしたミカは突然の振動と衝撃音で悲鳴を上げた。

「一体何――げぇっ!?」

 何事かと慌てるミカの視界に黒檜の前部分をしっかりと掴んでいる一本の赤く巨大な"手"が映る。

 その手は鋭い爪を黒檜の装甲板へ食い込ませ、絶対に離さない鬼の執念がそこから感じられた。

 更にその手から太いケーブルが伸びており、それが胸元まで水中へ没した暁の右腕と繋がっている。

 オペレーターのアカツキが衛へ叫んだ。

≪死なば諸共ォ!! このまま地獄へ引っ張り込んでやって!! 衛!!≫

「オッケー!! ――鬼操巨腕オーガアーム!! パワー全開!!」

 衛もそれに応じ、操縦桿のトリガーを引く。

 撃ち出された手を奪い返すように鋼鉄のケーブルが回収されていき、それと連動して黒檜の巨体も雪原を滑り始めた。

 そのケーブルを引き込む力は想像以上に強く、あっと言う間に暁の方へ黒檜は引き寄せられた。

 接近してくる黒檜に対して巨大鬼は左手に金棒を携える。

 明らかに手元まで引き寄せて一撃を加えるつもりだった。

≪あ、あの野郎! ロケットパンチの癖に有線かよ! 無線にしろよ! 無線に!≫

 流石のブルーも動揺しているのか声に焦りがあり、訳のわからないことを言っていた。

「それ今重要ですか! 仕方ない……こうなったら――やられる前にやるだけです!」

 キャタピラが稼働しないこの状況では逃げることは無理と判断し、ミカは背後の黒檜のカメラアイへ振り向くと命令を下した。

「――黒檜! 一番、二番、【零号弾】装填! 狙わなくて良い!! 前向いてれば当たるっ!!」

 前部が引っ張られたことに黒檜の巨体が正面を向く。

 自然と二門の主砲の砲口は暁へと向けられた。

 遂にコックピットの衛と甲板上のミカがお互いをはっきりと視認出来る距離まで近づく。

 どちらも目を逸らさずに黒檜の砲塔が装填を終え、暁が金棒を頭上へ振り上げる。

 二人のバトルアバは同時に――叫んだ。

「――撃ぇっ!!!」「――ぶち込めっ!!」

 黒檜の主砲から砲弾が放たれコックピットの衛を狙い、暁の金棒が甲板上のミカへ振り下ろされる。

 両者の攻撃はお互いに相手へ致命傷を与えるに充分な威力があり、それを二体の巨大機に備え付けられたAIは理解していた。

 だから二機は同時に行動へ移る――。

「――っ!? 黒――」

 黒檜のカメラアイが収縮し、主の姿を捉え、勝手に転送を行う。

 ミカは金棒が直撃する瞬間にその姿を甲板上から消した。

 同じく暁も自らの胸部のコックピットを右手の爪で抉るようにして取り出す。

 予想外の出来事にコックピットで衛が驚愕の声を上げた。

「暁!? 何で――うわぁっ!?」

 それは衛の操作した事ではなく、暁自身が勝手に起こした行動だった。

 自動操縦モードでもないのに動いた事に衛が驚愕し、何事かと理解する前に、赤鬼は掴んだコックピットを乱雑に放り投げる。

 そして――。

 黒檜の巨大榴弾が暁に直撃し、暁の巨大金棒が黒檜の甲板上へ叩き込まれた――。






 巨大な爆発音と閃光。

 そして破滅的な破壊の暴風。

 それが雪原から観客たちの方まで届く。

 最前列にいたアバたちは次々に爆風で吹き飛ばされていった。

 一方、レストランなどにも爆風が届いたが、安全エリアとしての設定通り、中で観戦しているアバたちは無事だった。

「うひゃぁっ!?」

 見えない壁に爆風が触れ、ビリビリと震える。マキが思わず悲鳴を上げた。

「ど、どうなったんじゃ!? ミカちゃん、生きとるんかこれ!? それとも相手倒したんか!?」

 トラさんがテーブルから身を乗り出して、何が起きたのか見極めようとしていた。

 雪原での巨大な二機の超ド級召喚モンスター同士の死闘は見るも無残な被害を周囲へと与えている。

 爆心地には巨大な湖が出来ており、熱で溶けた周囲の雪が濁流と化してそこへ流れ込んでいた。

 そして――その湖の中心に物言わぬ巨像となった【黒檜】と【暁】が鎮座していた。

 金棒が黒檜の甲板を突き破り、二つの巨大砲塔も根本から砲身が折れている。

 先程まで確かな輝きを見せていたカメラアイは吹き飛び、雪原の上に置かれていた。

 更に無残にひび割れ、内部のレンズが露出している。

 湖に胸元まで没した"赤鬼"は頭部が喪失しており、雪原にその巨大なそっ首を転がしていた。

 あれだけ敵を威嚇していた鋭い二つの眼は光を失い、もう動くことも無い。

 雪原では相変わらず軽い吹雪が起きており、その二機にも少しずつ雪化粧が施されていった。

 黒檜の生みの親であるムーンはテーブルからその姿を眺め、死力を尽くした二機へ呟くようにして、その労をねぎらう。

「――良く頑張ったわ、黒檜。それにあちらさんも――」

 それからデザイナーらしく冷静にバトルの状況を分析し、トラさんたちへ告げた。

「……まだよ。バトル終了のアナウンスが鳴っていない以上、どっちもヘルス残ってるわね」

 ラッキー★ボーイが心配そうに雪原を見つめながらムーンへ問う。

「ならどうなるんやこれから……? どっちも壊れてもうたで……乗り物」

「……昔から決まってるじゃない。矢折れ弾尽きたらやることなんて一個しかないわよ」

「そ、それは……?」

 ムーンは少しだけ間を置き、それから言った。

「――……"白兵戦"よ」

 ムーンの言葉を証明するように、雪原で二人のバトルアバが動き出した――。








 雪と水の混ざったぐちゃぐちゃの地面にミカは横たわっていた。

 身体には少し雪が積もり、白く染まっている。

 黒檜の転送機能によってギリギリの所で爆発から逃れたがそれでも余波によるダメージは防ぎ切れず、その身体は傷付いていた。

 軍服ワンピースは所々焦げ付き、スカートから突き出た尻尾も弱って丸まっている。

 トレードマークだった軍帽はどこかへ吹っ飛び、普段ならそこに収まっている灰色の髪が地面に垂れていた。

 苦し気な表情を浮かべたままミカは動かない。

 微かにその口元から呼吸音が聞こえ、まだ力尽きていないのだけは窺えた。

≪――ミーカ~。生きってかぁ~?≫

 オペレーター用のウィンドウからブルーが相変わらず軽い調子で横たわるミカへ話し掛ける。

 そこ声に応じてミカの身体が少しだけ震えた。

 へたり込んでいた二つの犬耳がゆっくりと起き、再び力強くピンと立つ。

 それに合わせて身体をプルプルと震わせながらミカは身を起こした。

 立ち上がるミカをマジマジと眺めつつ、ブルーが場にそぐわぬ呑気な言葉を吐いた。

≪……お前の犬耳って帽子にくっついてたんじゃ無くて、ちゃんと頭から生えてたんだな≫

「……アホ……言ってないでください。当たり前……じゃないですか……身が入ってるんですから」

≪そんだけ口答え出来りゃ充分さね、嬢ちゃん……ヒヒヒッ……≫

「高森おばちゃんの真似は止めてください。未だに夢に出るんです……」

≪……タイミングはオレが指示するからな。忘れんなよ≫

「――分かってます――ふんっ!」

 ブルーといつも通りのバカなやり取りをしながら、犬のように激しく身震いを一度した。

 服などに付いていた雪や何かの破片が弾き飛ばされる。

 それから自身の背後へ目をやった。

 そこには半壊し、物言わぬ黒檜の姿がある。

 巨体の殆どが融けた水に沈み、甲板も少し水没している。

(ありがとう……黒檜)

 ミカは心の中で自らの【要塞フォートレス】への感謝を告げ、今度は正面へと振り返り、少し離れた先を見据えた。

(……まだ。終わってない)

 その視線の先にはこちらと同じように脱出した『衛』の姿があった――。






 衛は雪原に半分埋まったコックピットから這いずる様に脱出していた。

 ヘルメットのバイザーも半分砕け、そこから右目が露出している。

 ミカと同じくらいズタボロの状態だったがそれでも二本の足でしっかりと雪原を踏みしめ立ち上がった。

 少し頭を押さえつつも周囲を見渡し、自身の背後で転がるアカツキの頭部を見つける。

「ありがとう……アカツキ。ここからは人間同士で……決めるよ」

 衛が静かにそう言うと傍を漂い、オペレーターウィンドウから周囲の様子を窺っていた

アカツキがミカの姿を見つけ、忌々しいと言った様子で口を開く。

≪あの犬……! まだやるつもり!? ほんっとしぶとい……!≫

「……同じ召喚タイプだからね。耐久力は僕と一緒だよ――武装召喚……【レーザー・ブレード】」

 右手へ赤色に輝く光剣を握る衛。

 降り続ける雪がその剣に当たって蒸発し、白い水蒸気が上がった。

≪……はぁ≫

 長時間且つ張り詰めたバトルの連続に流石のアカツキも披露の色を見せて溜息を吐く。

 彼女にとっても衛にとってもこれだけ長い間戦い続けるのは初めての経験だった。

 だが疲れ果てているアカツキと対照的に衛の表情は明るい。

 正面にいる犬耳の軍服少女は自分と同じように武器を呼び出し、装飾の施された日本刀を抜刀していた。

 景気良く鞘を雪原へ投げ捨て、下段で刀を構える。

 あちらだって無事では無い筈なのに。

 その立ち振る舞いは未だ力強く、強い意志を感じる。

 彼女のその横ではあの青髪のアバの顔が映ったウィンドウがふよふよと漂っていた。

「……ここまでやって、まだ立つんだから彼女は凄いよ。初めてじゃないかな……。

暁と正面からやりあってまだダウンしてない相手は……」

 衛の言葉にアカツキもミカの姿を注視する。

 ミカは尻尾をブンブンと振り回し、意気揚々と戦闘態勢を整えていた。

≪何か怪しい……あの犬女。妙に荒っぽいし……≫

「ハハハッ……。でも僕嫌いじゃないな、ああいう子」

≪はぁっ!? 何言ってんの!?≫

「――来るよっ!」

 アカツキの戸惑う声を余所に衛が声を上げる。

 その視線の先には雪原を猛然と駆け出し鬼神の如き表情で突撃してくるミカの姿があった――。








「でりゃぁぁぁああ!!」

 雪原を走り出したミカ。

 首に巻いた真っ赤なスカーフを翻し、ブーツで雪を蹴り飛ばしながら一気に距離を詰める。

 衛の顔が見える至近距離まで接近すると雄たけびと共にその横っ腹に向かって横凪に刀を叩き付けた。

 ――ガギンッ!!

 衛は正面から赤く輝く光剣でその刀を受け止める。

 激しい火花と共にお互いの刀同士が衝撃で反発し、弾かれた。

≪怯むなよっ、ミカ!≫

「言われんでも!!」

 ブルーの声に応じつつミカは即座に二の太刀へ移り、下から斬り上げる。

 衛も素早く光剣を持ち直し、それを受け止めた。

 ただただ吹雪く雪原の中、金属音が鳴り響き続ける

 何度も何度も刃を交え合い、何度も何度も火花がお互いの間で散った。

 既に体力気力共に限界の近かった二人のバトルアバ。

 精彩を保っていたのは最初の数回の打ち込みまで。

 そこからはガムシャラに、乱雑に、乱暴に……打ち込み合っていた。

≪これじゃ子供のチャンバラじゃない……≫

 技術もクソも無くひたすら力任せに剣を交え合う両者にアカツキが呆れるように声を漏らす。

≪よぉ! 鬼女! こっからはタイマンだぜ! オレとあんたの代理戦争もケリが付きそうで良かったな!≫

 ブルーはワザとオープンチャンネルで相手に聞こえるよう煽りを入れる。

 アカツキも敢えてそれに反応し言い返した。

≪小賢しい! これで負けたら二度とあたしの前にその面見せるなっ!≫

≪ハハッ! 勝てたら考えてやるよ!≫

 言い争う二人のオペレーターを尻目にミカと衛は必死の攻防を続けていた。

 同じ召喚タイプ。

 同じ反射能力。

 同じパラメーター。

 しかしミカの持つ軍刀【無銘】はダメージ軽減能力が低いという弱点があった。

 決定打はお互いに受けてはいないがダメージ的にはミカが圧倒的に不利であり、ヘルスが少しずつゼロへと近づいていく。

 このまま打ち合えば最終的に立っているのは衛の筈だった。

 衛のオペレーター、アカツキもそれを把握しており、敢えて何も口を出さずにいる。

 対してミカのオペレーターであるブルーもそれを重々承知しており……"奇襲"を仕掛けた。

 鍔迫り合いの末、二人のバトルアバがもう一か所の【ブービートラップ】へ近づいたのを確認し

、ブルーがワザとオープンチャンネルで叫ぶ。

≪――ミカ! 今だ!!≫

 その声に応じてミカは力の限り叫び、"忠犬"へ合図を送った。

「……っ!! 浅間ぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ――ウォォォォォォォン!!

 何処からか大型犬の遠吠えが聞こえ、更に衛の背後で雪が弾ける。

 完全なる奇襲。

 タイマンという名目を反故にする卑怯極まる戦法。

 しかし――それを衛とアカツキの二人は予想していた。

≪――イキリ屑野郎!!! あんたを信じなくてホント良かった!! 衛! カウンタァァァァ!!≫

「――【ダブル・ブレード】!!」

 アカツキの叫び声と共に衛は自身の持っていた【レーザー・ブレード】の反対側にもう一本の赤い光剣が展開される。

 彼はそれを槍のように構え、振り向かずに背後に迫る浅間へと突き刺す。

 真っ赤な閃光が雪原を照らした。

 ブルーはその鋭く、完璧で、見事なカウンター攻撃を見て――ほくそ笑んだ。

≪――だから言ったじゃねえか。お前らは"真面目過ぎ"って、さ――≫

「――えっ!?」

≪――なっ!?≫

 衛とアカツキの表情が驚愕の色に染まる。

 赤い光剣は飛び掛かってきた浅間の鋼鉄のボディを――貫く事は無かった。

 そもそもそこに浅間の姿は無く、刃が空を切る。

 少し離れたところで雪の下から顔だけ露出させた浅間の姿があった。

 最後の力で咆哮し、雪を散らせて"完璧"に詐称という仕事を熟した"忠犬"は役目を終える。

 ゆっくりとコウベを垂れ、その姿を消滅させた。

 そして――"完璧"なタイミングで放った【ダブル・ブレード】を空振りしてしまった衛は硬直してしまった。

 浅間を切り捨て、返す刀でミカも切り伏せようとした必殺の一撃。

 当然、それを失敗すれば……大きな隙が生まれる。

 その隙を見逃す筈も無く、ミカが動く。

「これで――おさらば!!」

 たっぷりの予備動作をしながらブーツで雪原を踏み締め、大地に身体を根ざすと目標に対し

高く、とても高く……軍刀【無銘】を上段に構えた。

「――チェエエスゥゥゥゥトォォォォ!!」

 ――ザンッ!

 渾身の力で振り下ろされた刃は鈍い輝きと共に衛の身体を一閃し、勢い余って雪原へ大きく刃先を潜り込ませた――。






【ABABATTLE WIN MIKA CONGRATULATION】










 戦い終わり、雪を踏みしめながら雪原から皆の元へ帰る二人のバトルアバ。

 先程まで敵だった二人だが、戦い終われば(オペレーターたちと違って)争う理由も無い。

 お互いに疲労感と奇妙な満足感を得て、ただ静かに並んで歩いていた。

 そんな折、不意に衛がミカへ話し掛けてくる。

「……ミカさん、これ。僕の方に落ちていました」

「あっ……。私の帽子……! すみません、拾って頂いて……!」

 衛から手渡された軍帽を受け取り、ミカは嬉しそうに犬耳をパタパタと動かした。

 右手でその軍帽を頭に乗せる。

 犬耳が自動的に帽子を貫通し、何時ものように軍帽IN犬耳のスタイルになった。

「いやーやっぱりこれ被ってないと何か落ち着かないんですよね。ちょっと重いのが落ち着くというか何というか……」

 あるべきところに戻った自らの軍帽にミカは上機嫌だった。

 そんな様子を見て衛が突然言った。

「ミカさんって――何か可愛いですよね」

「――へ? うぇっ!?」

 予想外の発言にミカは思わず横へ飛び退いてしまった。

 彼はその反応を見て楽し気に続ける。

「フフッ。そういう反応が一々可愛いというか……。でも不思議ですね。

正直、僕は女の子と話すの苦手なんですが……ミカさん相手だと気楽に話せます」

(そりゃ俺の中身は男だからな!)

 衛に自身が男と話していなかった事を今更ながらに思い出すミカ。

 声と姿はどう見ても少女なんだからあちらが分からなくても仕方ない。

(この少年は盛大に勘違いしておられる!! 変な期待を抱かれる前に弁明しないと……!)

「いや私はですね――ぐぇっ!?」

 不意に後ろからスカーフを引っ張られ、ミカは最後まで言えずに言葉を途切れさせた。

 慌てて振り返ると何時の間にかブルーが近づいて来ていた。

 ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべながらスカーフを引っ張っている。

 ミカはその行動に戸惑った。

「え!? なんですか、急に……」

 ブルーはそっとミカの肩に手を回し、自身の方へ引き寄せると衛に聞こえないように耳元へ小声で囁く。

「……おもしれーから、お前が男って事黙ってようぜ」

「……ちょっ……何言ってんですか!?」

 ミカが抗議するとブルーは悪戯を思いついた子供みたいな表情でどこかを指差す。

「お前が女と思ってた方が、あの鬼女の反応が楽しめるだろ? ほれ――」

 彼の指差した方向から一匹の"赤鬼"がミカへ向かって突進してきていた。

 その表情はまさに鬼神の如く、仁王のように顔を赤色へ染め上げ、激怒している。

「衛ー! その泥棒"犬"から離れて!!! そいつやっぱり危険だ!」

 衛へ怒鳴りながらアカツキは彼の前へ立ち塞がるように仁王立ちする。

 それからミカとブルーへ向かって喚き散らした。

「この屑共!! 下種! やっぱり屑の仲間は屑! 何考えてるの! バトル終わった瞬間に相手のバトルアバ口説くなんて!」

「い、いや……私は別に口説くつもりなんて……」

「ア、アカツキ……彼女はそんなことしてないよ」

「衛は黙ってて!」

「……はい」

 ぴしゃりと言い放つアカツキ。

 衛はその勢いに押され、しゅんと小さくなる。

 一連のやり取りを見て、ブルーが心底楽しそうに笑う。

 更に火に油を注ぎ始めた。

「ハハッ! でもお二人は割とお似合いだよなぁ? バトルアバ同士だしよぉ。悪くねえよ。いやホントさ!」

 ミカと衛を手で押し、無理矢理くっつけるブルー。

 それを見てアカツキは殊更に激昂した。 

「がぁぁあぁ!! あ、あんただけは! 一度殴らないと気が済まない! いや殴る!」

 もう我慢ならんと言った様子でアカツキがブルーへと殴りかかる。

 彼はそれを軽い身のこなしで躱しながら爆笑していた。

「ハハハッ! いや鬼女、お前ホント面白いわ! こうやって顔突き合わせてみて良かった! やっぱ食わず嫌いってダメだよなぁ?」

「(ピー)す! (ピー)してやる!!」

 激しくやり合い始めるブルーとアカツキの二人を呆れながら見つつ、ミカは衛へと話し掛ける。

「……戻りましょうか。皆さんも待っていますし」

 衛はその言葉に黙って頷く。

 そして二人は騒がしいオペレーターたちを雪原に置いてきぼりにして皆の待つレストランへと歩き出した……――。


 








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