【ABAWORLD MEGALOPOLIS 特設スタジアム 『王の御前』】
試合開始のアナウンスと共にミカは一気に駆け出す。
≪ミカ! 最初からスロットル全開だ! 作戦T!≫
「了解――来い! 防御軍刀【無銘】!」
ブルーの言葉に応じながら両手を広げる。
右手に光が集まりそれが武器を形作っていく。
既に自身の右腕も同然と化した軍刀【無銘】。
無銘から素早く鞘を引き抜き、その銀色の刀身を露出させる。
これまで多くの敵を屠り、多くの攻撃を捌いてきたその軍刀は今日も怪しく輝き辺りへ光を散らせた。
退路も既に無く、決死の構え。
鞘を走りながら落とし、もう一つの武器を呼び出す。
「武装召喚! 【三式六号歩兵銃】!」
左手に歪なほど長い木製の突撃銃を掴む。
シンプルながら多様なオプション武装で今まで自身を支えてきた銃。
銃口を前へと向け、長い銃身を活かして槍のように構える。
「――銃剣着剣!」
ミカの声に応じて銃口へ短い銀色の刀身が装着されていく。
右手に無銘を、左手に歩兵銃を構えたミカ。
その姿を見た獅子王は嬉し気に叫ぶ。
「はっ! 変則二刀か! 獅子王への備えは充分のようだな!」
ミカは特異なスタイルの二刀流の構えを取り、一気に獅子王へと突撃を敢行する。
「だがそれが通用するかどうかは――分からぬがな! 【獣王相反撃】!」
獅子王も応じるように両手を大きく開いて胸元を見せ、顔の横に両手を置く。
(カウンターの体勢に入った……! なら……!)
獅子王のバトルスタイルがカウンター主体である事は周知の事実だ。
だが……それを知っていても獅子王のカウンターを破る事は困難を極める。
彼のカウンター技【獣王相反撃】。
それはシンプルに相手から放たれた攻撃を相手に返すという物。
しかし通常のカウンター技と違ってカウンターを成功させるために非常にシビアなタイミングが要求される。
ほぼ完璧に、相手の攻撃へと合わせなければカウンターが発動せずただ一方的にダメージを受けてしまう。
その代わりにカウンターへ成功すれば攻撃を受けた距離、攻撃の強さ、
その他諸々を全てを無視して相手へ迎撃の拳を叩き込む事が出来る。
例え遠距離からの砲撃であろうが、至近距離からの爆発物であろうが全てにカウンターを発動させる。
これが獅子王の最強にして唯一の技だった。
本来ならばとても使いこなせず、扱えない技。
この男はそれを使いこなし、連覇を成し遂げた。
長年格闘技で磨いたその類まれな戦闘センス。
それが生み出した単純明快な戦術。
単純故に破るのは至難の業だった。
(こっちだって……無策で来たわけじゃない!)
ミカは銃剣を真っすぐに構え、軍刀を逆手に持ち替える。
「――吶喊!!!!」
殆ど叫びながら声を張り上げると銃剣突撃を獅子王へと行う。
「ハァッ!!!」
当然、獅子王はカウンターを繰り出す。
焔を纏った巨大な剛腕を繰り出し、右拳で銃剣の切っ先を受け止めた。
――ガギィッン!!!
やはり完璧なタイミングで放たれたカウンターは、銃剣を完璧に受け流し更にミカの身体を撃ち抜かんする勢いで拳撃が続く。
ミカは逆手に構えた軍刀【無銘】を縦に構え直すと軍刀の腹で拳撃を受け流す。
「ぐっ……!」
当然、無事では済まずに刀身で受け切れなかったダメージがミカを襲う。
軍刀【無銘】は受けた攻撃の重さに刀身を大きく歪ませた。
通常の武器ならそれだけで破壊されてしまいそうな一撃。
だが無銘は持ち主よりも堅牢なその頑丈さを発揮し、迎撃を受け切る。
「――まだまだぁっ!!!」
傷付く身体に構わず銃剣を再び突き出し、刺突を繰り出す。
無銘の異常なまでの耐久力を活かした攻防一体の構え。
これが対獅子王のために編み出した歪な二刀流だった。
「気勢は良いが! それではこの獅子王を突き破れないぞ、軍人娘ぇ!!」
再び獅子王は刺突に対し、完璧なカウンターを合わせ拳を返す。
ミカもその拳をダメージを受けながら無銘で受け止める。
それは奇妙な光景だった。
小柄な少女が激しく刀を振るい、自分より遥かに大柄な獣人を攻め立てる。
攻めている筈のミカはどんどん傷付いていくが、獅子王は未だ傷一つ無い。
歯を食い縛りながら攻撃の手を緩めないミカと対照的に獅子王は余裕の笑みさえ浮かべていた。
金属音と打撃音がバトルフィールド内へ何度も響き渡り、激しい攻防が行われていく。
何度も獅子王からのカウンターを受け流し、ミカの身体は少しずつ傷付いていった。
直撃を避けているとは言え、彼の剛腕を何度も無銘で受けているため無事では済まず馬鹿にならないダメージが蓄積している。
このまま攻防を続ければ先に倒れるのは間違いなくミカの方だった。
≪怯むんじゃねえぞ! 今は馬鹿正直、愚直に攻めるしかねえんだ! 猪武者らしいとこ見せてやれ!≫
「い、言われんでもぉ!! 後、誰が猪武者ですか!」
獅子王からのカウンターを必死にいなしながらブルーの檄にヤケクソ気味にそう応じる。
(俺はガザニアさんのような戦法は取れない……!)
ガザニアは獅子王のカウンターを破るためにフィールド全体へ毒煙を撒き散らし、持久戦を挑んだ。
流石の獅子王も毒煙に対してはカウンターをすることが出来ず、戦法を変えざるを得ず攻めに出ている。
だがこちらにはそのような持久戦が行える武装も準備も無い。
例え黒檜を出したとしても遠距離攻撃主体の黒檜ではカウンターで本体のこちらを撃ち抜かれるだけだ。
(だからこそ……! 俺は一匹で攻めずに"群れ"で攻める……!)
元より正攻法で勝てるとは思っていない。
仕掛けるにはタイミングを待つしかない。
今はただガムシャラに攻めてブルーからの合図を待つしかなかった。
少しでもこちらの考えを気取られぬように攻め続ける。
しかし――。
「ハハァッ! 軍人娘! 一見無茶苦茶に攻めているようだが――何やら悪い事を企んでいるようだな! そうは問屋が卸さんぞ!」
彼はこちらの考えを看破するように叫ぶ。
「――っ!」
獅子王はカウンターの構えを一気に解き、急に攻勢へと転じていく。
その丸太のような太い腕をぶん回し、力任せにこちらへと叩き付けた。
――パァッン!
乾いた音がフィールド内へ響き渡る。
シンプルなラリアット。
技とも言えないその単純な攻撃。
しかし隙を突く形で放たれたそれは近接格闘タイプのバトルアバの腕力と相まって凄まじい威力と化す。
直撃を受けたミカの身体はぶっ飛ばされ遥か後方へと吹き飛んでいく。
小柄な身体は風に飛ばされる木の葉のように舞い、近場にあった石柱へと叩き付けられた。
「がはぁっ!?」
衝撃と共に石柱の一部が砕け、破片が舞い散る。
凄まじい衝撃と共に視界へヘルスが大幅に減少した事を知らせるウィンドウが映った。
だが――。
「ぐぉっ!?」
攻撃を放った獅子王は自らの腕を押えて苦悶の表情を浮かべた。
その腕には一筋の切り傷が付いており、それが刀傷である事が直ぐに分かる。
石柱へと叩き付けられたミカの胸……そこにはしっかりと刃先を縦に構えた無銘が握られておりそれが鈍く銀色に輝いていた。
「す……隙が無ければ……自分から……作る……そうですよね、ブルーさん……」
ミカは相当なダメージを受けながらも不敵な笑みを浮かべ、息も絶え絶えにそう口漏らす。
≪よっしゃ! 良く受けた! 今のはファインプレーだぜ! ミカ!≫
獅子王から放たれたラリアットを敢えて無銘で受け流さず、正面から受け止める。
当然、受け流したのと違って拳撃のダメージは殆ど軽減出来ずにモロに喰らう羽目になった。
しかしその拳撃の威力で軍刀【無銘】の刃へ腕を叩き込めば――。
「ぐぅぅ! やるなぁ軍人娘! お前もカウンターで来たか! ワハハハッ!」
獅子王は自分の腕を痛そうに押さえながらも嬉しそうな様子で豪快に笑う。
剛毛に覆われたその太い左腕は無銘の刃によって切り裂かれ、傷付いていた。
「これでは左腕が暫く使えんなぁ! だが――」
彼は押さえていた腕を離す。
左腕は力なくダラリと垂れ下がるが、代わりに右腕を顔の前に構えしっかりと拳を握り込む。
「この獅子王! 右腕一本でも――打てる!」
再度カウンターの構えを取る。
その構えは片腕を失ったというのに隙は無く、凄まじい威圧感があった。
≪あんにゃろー。まだおバカの一つ覚えのカウンターかよ。普通に攻めりゃいいだろうに≫
頑なにカウンタースタイルを守る獅子王にブルーが通信越しに呆れている。
ミカは受けたダメージに身体を震わせながら石柱から身体を離す。
「……プ……プロレスって相手からの攻撃受けて……なんぼですもんね。お客さんに……見せなきゃですから……」
≪そりゃそうだけどなー≫
叩き付けられようがしっかりと離さず握っていた両手の武器。
それを構えながら再びこちらを迎え撃つ構えを取っている獅子王を見る。
左腕を使い物にされなくなったというのにその表情は明るい。
まるで遊園地へ行くことを告げられた子供のように屈託の無い笑顔を浮かべていた。
左右へ軽いステップを踏みながらこっちの動きを伺い次の手を待ち構えている。
「さぁ軍人娘! これで終わりでは無いよな!? もっとこの獅子王を……お前へ挑戦させろ!
お前の力を見せてみろ! 獅子王はその上で――それを超えてやるっ!」
挑発するように上げた右手でこちらへ来てみろとジェスチャーをしてきた。
(……この人は……本当にバトルが好きなんだな……)
考えてみれば獅子王がカウンタースタイルを固辞する理由もそこにある。
バトルを楽しみたいと考えている以上、相手の技を見てみたいと思うのは当然だ。
だからこそ敢えて受ける。
そして……お返しと言わんばかりに拳を叩き込み、打ち倒す。
そうやって彼は幾多の敵を屠り、ここまで昇り詰めたんだろう。
(……気持ちは、分かるな)
自分も……最近はバトルが楽しいと感じ始めていた。
最初は悲鳴を上げていて逃げ惑っていた筈なのに……。
死力を尽くして相手を倒す快感。
勝利の高揚感。
その全てが甘い快楽となって脳を刺激する。
自身の昂ぶりに応じて無意識の内に口元を舌で撫でる。
目の前にいる今までの相手の中で間違いなく最強のバトルアバに対し、恐怖するのではなく心が躍るのを感じる。
自覚していなかった自分の中の戦闘欲が戦いを求めているのをはっきり分かった。
忌み嫌っていた誰かとの闘いを。
お互いを傷つけ合う闘争を身体が求めている。
相手を打ち倒し、打倒するのを――自分が望んでいるのを感じた。
本来ならば表に出すべきではない本性。
それがアババトルという闘争を続ける内に露わになったのかもしれない。
(結局……人間って戦いが本質的に好きなのかもしれない、な……)
ミカは右手のグローブに力を込める。
革素材の厚手のグローブはギチギチと音を立てた。
ある意味でこれも対話の一つの形なのかもしれないとミカは戦闘態勢を整えながら思う。
言葉に出さなくてもこうして闘(や)りあえば獅子王の事を少しずつ理解出来てきている。
恐らく彼もこちらが闘争を望んでいることを察しているだろう。
お互いに相手を理解し合い、分かり合う。
傍目から見れば酷く暴力的だし、ロクでも無い対話だったが当人たちにとってはこれ以上にストレートな"対話"は無かった。
犬耳をピンと張り、再び意識を戦いへ集中させる。
こちらが臨戦態勢を取ったのを察したのか優秀なオペレーターは情報を的確に伝えてきた。
≪ミカ。パワーリソースは溜まってる。ヤツが幾ら気合入れたとしても片腕じゃカウンター能力はガタ落ちだ――
相手の泣き所に付け入るなら……最高のタイミングだよなぁ?≫
相変わらず悪戯を考えた子供のような無邪気さで邪悪な戦術を話すブルーにミカも口元へ笑みを浮かべて応じる。
「……分かりました。ここからは一匹じゃなく……二匹で征きます!!」
ブルーが伝えてきた言葉を受け取り、ミカは軍刀を天高く掲げる。
「――パワーリソース! 召喚!! 十九式蒸機軍用犬【浅間】!!!」
その招集に応じ、ミカの頭上へ機械仕掛けの魔法陣が出現する。
――アォォォォォォォン。
高らかな遠吠えと共に頭上から一気に水蒸気が噴出し、それと共に鋼鉄の四脚獣が舞い降りた。
地面へ抉り込む四つの鋼鉄の爪。
耳まで裂けた口から覗く銀色の鋭い牙。
各部を覆う鋼鉄の装甲とその隙間から見える躍動する灰色の人工筋肉。
その機械の獣は主人を守るように寄り添い、警戒するように橙色のカメラアイを水蒸気の中で発光させた。
狩人の瞳は正面にいる燃え盛る獅子の獣人を捉え、喉を鳴らし威嚇する。
「くくっ! やはり映像で見るのと生で見るのとでは違うなぁ! だがやっと召喚タイプらしくなってきたな、軍人娘!
この決戦のリングで召喚タイプとやり合うのはこの獅子王も初めての経験! どんな攻めを見せてくれるかワクワクしてきたぞ!」
獅子王は現れた異形の機械獣と相対しても怯むことなく、寧ろ更に楽しそうに気分を上げていた。
ミカは再び変則二刀流の構えを取ると敢えて浅間へ騎乗せず、命令を下す。
「浅間ァ! 目標【獅子王】! "攪乱挟撃"!!」
『バウッ!』
命令に忠犬はしっかりと応じ、それに合わせて"二匹"は一気に駆け出した。
ミカと浅間は石柱の間を無造作に駆け抜けていき、獅子王の元へと走る。
浅間は四足の利点を活かし、複雑なステップを踏みながら。
ミカは小柄な身体を活かし、石柱などの障害物に身体を潜ませながら。
二匹は着実に獅子王の元へと迫っていった。
「ほう……! "手数"を増やしてくるか、軍人娘ぇ!! 合理的だな! 嫌いじゃないぞ!!」
獅子王はその緑色の瞳を忙しく動かし、ミカと浅間の動きを警戒している。
流石にその場で立ったまま受けるのは危険と判断したのか摺り足で後退を始めた。
一方、二匹は時に別れ、時に合流して相手を惑わせるようにして少しずつ迫っていく。
「――パワーリソース! 小銃擲弾装着!」
石柱の影から石柱の影へ飛び移りながらミカは叫んだ。
左手に持った歩兵銃へ丸い緑色の擲弾が装着される。
飛び出すように石柱の影から出るとその銃口を獅子王の少し前――足元へと向けた。
カウンターをされないように敢えて狙いを外し、その爆風で攻撃を行おうとする。
「――発射ぁっ!!」
掛け声と共に擲弾が放たれ、それが白い煙の尾を引いて緩い軌道を描きながら飛翔していく。
「爆風狙いか! だが――甘い!」
当然、獅子王もその攻撃の意図に気が付いている。
その巨体から想像も出来ないほどしなやかな動きで彼は摺り足を行った。
――スススッ。
どうみても摺り足の範疇を超えた距離を彼の巨体が滑るように移動していき、一メートルほど後退る。
榴弾が地面へと着弾し、派手な爆発と共に抉られた石床の破片が辺りへ飛び散った。
衝撃波が周囲を襲い、獅子王の身体もビリビリと揺れる。
尋常ならざる動きで爆発を回避した獅子王にブルーが通信越しに声を上げた。
≪キモっ! 何だあの動き!?≫
「元よりあれは撒き餌です! 今だ! 浅間ァ!」
ミカの指示に応じて後退した獅子王の背後から一つの影が飛び出す。
『ガァウウウウウゥ!!』
唸り声と共に浅間が獅子王へと飛び掛かり、その牙で喉元を食い破ろうとした。
「ぬぅぅぅ!」
流石の獅子王も爆風の衝撃でまだ硬直しており、カウンターの体勢には入れない筈だった。
だが――。
「――受け切れないと思ったかぁ!!」
強引に右腕を浅間へと向け、カウンターを行う。
この土壇場であろうと獅子王の幾千もの戦いの経験が完璧なタイミングを取らせた。
――ガギィィンッ!!
浅間が突き立てようとした牙を完璧に弾かれる。
弾かれた浅間は体勢を崩し、鋼鉄の身体が揺れ動いた。
当然の如く獅子王は迎撃の拳撃を姿勢を崩した浅間へと叩き込もうとする。
「させるかぁっ!!」
「――っ!?」
カウンター成功と迎撃の間隙を縫ってミカも獅子王へと飛び掛かっていった。
歩兵銃の銃剣を突き出し、獅子王の腹部を狙う。
獅子王はカウンターを中断すると咄嗟にその太い足の爪先でミカの歩兵銃を蹴り飛ばした。
ミカの手から歩兵銃が弾き飛ばされ、空へと飛んでいく。
蹴りを受けた歩兵銃は空中でバラバラになり、木片を散らす。
「ぐっ!! ――おぉぉぉぉぉっ!!」
手へ感じる衝撃に動きを止めそうになったミカだったが気合で耐え切り、右手の軍刀【無銘】による突きを繰り出す。
狙うは獅子王の足。
そこへ向けて銀色の刃先を突き立てた。
銀色の刃先がその太い毛むくじゃらの足を突き立てる。
――ギィィンッ!!
「――なっ!?」
無銘の刃先が弾かれ、ミカの身体もそれに合わせて弾かれた。
何とか無銘は握ったままだったが、それでも弾かれた勢いで無防備な姿を晒す。
(カ、カウンター!? 足で!?)
驚愕するミカを余所に獅子王は動いた。
「ガハハハァッ! 獣王相反撃が拳だけだと――誰が言ったぁ!!」
獅子王の笑い声と共にその太い足から凄まじい威力の迎撃の蹴りが放たれる。
ゴウっと迫ったその剛脚は空気を切り裂きながら、ミカへと迫った。
『ワンッ!』
主の危機と判断した浅間が独自の判断で動く。
各部に備え付けられたパイプから水蒸気を噴出させ、それを獅子王へと浴びせた。
ダメージも無く、目くらまし程度にしかならない一撃。
それでも獅子王の"脚"を止めるには充分だった。
「ぬぉっ!? 毒霧かぁ!?」
獅子王が水蒸気の勢いに押され、一瞬動きを止める。
ミカは浅間のファインプレーに感謝しつつ、命令を叫んだ。
「浅間! 口部火炎放射器! 噴射!!」
命令に従い浅間が口部を開く。
その口の奥に隠された気化燃料噴射ノズルが伸縮し、露出していった。
ノズルから黒色の液体が吹き出し、それと同時に口内の着火装置から火花が散る。
浅間の口部から噴き出した燃料へと引火し、それが焔の渦となって獅子王へと襲い掛かった。
――ゴォォォォォォ!!
「ぐぉぉぉぉぉ!!!?」
火炎の渦に飲み込まれた獅子王は苦悶の表情を浮かべ、炎の中で悶える。
「だがぁぁぁ! だが! こちらも燃える闘魂! 燃える獅子! 熱さ勝負では負ける気がしないぞっ!」
炎に包まれながらも獅子王は右腕で地面を叩き付け、石の床を吹き飛ばす。
その床の破片が壁を形成し炎を遮る。
壁に遮られ炎が二股に分かれ、周囲を真っ赤に染め上げていく。
(――今……!)
ミカはその間に体勢を立て直すとブーツで地面を蹴って浅間の元へと向かっていった。
移動しながら獅子王の姿を確認する。
浅間の口から放たれる火炎に対し、カウンターをせず防御の構えを取って耐えているのが見えた。
最初の火炎は受けたが既に完璧な防御をしており、見た目ほどダメージは受けていない。
だが重要なのはそこではない。
その姿を見てミカは一つの確信を得る。
(やっぱり……。毒や炎のような連続した攻撃には……カウンターは出来ない……! そうなれば……!)
自分たちの事前の予想通り、あの戦術こそが獅子王を破る手段になる。
そう確認したミカはブルーへと呼び掛けた。
「ブルーさん! 行けますか!?」
≪いけるぜ! 大召喚! きっちりパワーリソースマックスだ! さぁ!
観客共に召喚タイプらしい"数の暴力"ってヤツ――見せてやろうぜ! ハハッ!≫
彼から直ぐに威勢の良い返事が来る。
ミカは隣で火炎放射を続ける浅間にも視線を送った。
その橙色のカメラアイと目が合う。
何時でもいけるぜと言わんばかりにそのカメラアイが収縮を繰り返した。
ミカは無銘を左手に持ち替えると今だ炎に包まれる獅子王へ向けて右手を向ける。
「武装召喚! 【八式信号拳銃】!」
右手へ太い筒の付いた拳銃が握られる。
直ぐにその引き金を引いた。
――パシュゥ……。
間延びした音と共に大きめの光弾が銃口から放たれ、それが辺りを白色の閃光で包む。
「浅間! 俺ごと後退!」
『バウッ!』
ミカは閃光によって辺りが真っ白になっている内に浅間へと指示を送った。
浅間が火炎放射を中断し、ミカの首根っこへ噛み付く。
少々どころか、かなり乱暴な掴み方にミカは思わず呻いた。
「ぐぇっ!? そ、そう言う持ち方は――あ~ぁ~……」
主の命をしっかりと守り、浅間はミカを咥えたまま跳躍する。
金属の四脚が石畳を削っていき、そのまま遥か後方へと移動していった。
「――目くらましか! 仕掛けてくるようだな! 軍人娘! ガハハッ! そうだ! どんどんぶつかって来い!」
自らの作り出した壁に身体を隠しながら獅子王は危機的状況にも関わらず豪快に笑う。
彼は自身を拘束していた炎が途切れた事のを確認すると自らを守っていた壁へ左拳を叩き込んだ。
――ベギィッ!!
凄まじい破砕音と共に辺りへ破片が飛び散る。
その威力が刀傷によって傷付いた左腕のダメージは既に抜けており、両腕が再び復活した事を伝えてきた。
獅子王は浮き飛ばした破片を右腕で軽く振り払い、吹き飛ばす。
そして両腕を天へと高く掲げ、全身の筋肉を躍動させて力強く胸を張った。
「――それを正面から打ち破る! 残念だがそれしか知らない男だ! この獅子王はなぁ! オォォォォォ!」
その巨大な口を大きく開き、雄たけびを上げる。
一方ミカは浅間によって運ばれ、かなり離れた位置へと移動させられた。
浅間が主を口から離し、解放する。
「うわぁっ! と、と……」
ミカは少々足元をふらつかせながらもブーツでしっかりと着地した。
「あ、ありがとう浅間」
一応(乱暴とは言え)命令通りに仕事を熟した浅間を労う。
浅間は一度鼻を鳴らしてから、今度はその橙色のカメラアイを今だ健在の"強敵"へと向けた。
「オォォォォォォ!!」
獅子王は本物の獅子のように咆哮し、こちらを威圧している。
遥か遠方からでも届くその咆哮を犬耳に捉えたミカは改めて相手の強大さを意識した。
(……かなりダメージを稼いだつもりだったけど、あの様子じゃまだまだ万全って所か……。
それに両腕カウンターも復活したし、こっちが攻めてる――って気分じゃないな)
幾つかの攻撃を成功させ、パワーリソース的にもこちらが有利に立っているのは間違いない。
それでも獅子王は王者らしく、しっかりと臨戦態勢を取ってこちらの次の行動を待っている。
ひたすら受け身。
余程の事が無ければ自分から絶対に攻めたりしない。
その受動的なスタイルは獅子王にとって明確な弱点とも言える。
実際、こちらからの攻め手に対応し切れなくなれば先程のように傷を負わせることが出来た。
彼も完璧なバトルアバではない。
それは確かだ。
しかし……そこまでに辿り着くまでが……。
ミカは自身の視界に映るウィンドウを見て唇を噛み締める。
今までの獅子王との攻防でかなりのダメージを負っており、ヘルスはもう直ぐ危険域だった。
動きに支障は無いが、次にまともにカウンターを喰らえば……。
(それで、終わりか……)
多分、あっさりとこちらの敗北が決定してしまう。
そう考えれば下手な攻めは出来ない。
寧ろ自分から近付くことさえ危険だろう。
≪ひゅー。流石世界一。声も世界一デカいな! ハハハッ!≫
ブルーが獅子王の雄たけびを聞いて相変わらずの調子で笑い声を上げた。
この土壇場でも変わらぬ彼に思わず笑みを浮かべてしまう。
「良くもまぁこの状況下でそんな事言ってる余裕ありますね……」
≪ハハッ! オレはお前と違って色々頭悩ませる必要無いんでね! 寧ろ楽しんでるぜ?
生で獅子王のバトルが見れるなんてさぁ。オタク冥利に尽きるだろ?≫
「そりゃ良かった……」
本当に相変わらずな彼に呆れを通り越して感心してしまった。
(ホンット……。とんでも無い人と組んだな、俺も……。大物だよ、この人……)
≪それにさ……≫
「え?」
≪オレ、まだまだ色々バトル見たいんだけど。海外勢とかさ?
そのためにはミカくんにまだまだ頑張って頂きたい――そう思ってまーす≫
「ア……アハハ……。それはまた無茶振りをしてきましたね……」
非常に身勝手且つ他力本願なその"お願い"を聞いてミカは苦笑いを隠せなかった。
でもそのあまりにもアレなお言葉に少し行き詰った心が軽くなる。
(そうだ。躊躇していても仕方が無い。ここが"通過点"くらいの気持ちで攻めなきゃ……ダメだ)
ミカは覚悟を決めたように重々しく口を開く。
「……決めに行きます。終わらせましょう」
≪ヒヒヒッ! 後は野となれ山となれってとこだな≫
ミカは右手に持っていた拳銃を腰のホルスターへ納め、空いた手を前に出した。
「――パワーリソースマックス!!! 大!! 召喚っ!!!!」
全身全霊を込めて力強く叫ぶ。
観客へ。
今まで自分を応援してくれた人たちへ。
そしてこの隠し剣を作ってくれた『m.moon』や『リンダ・ガンナーズ』たちへの感謝を込めて。
自らの声を届ける。
「クハハハッ! デカブツの登場かぁ! 軍人娘!」
大召喚を行おうとするミカに気が付いた獅子王は警戒するように左右へステップを開始する。
どこから攻撃が来ても、どんな攻撃が来てもその全てを受け止めお返しするために。
黒檜の砲撃への対応を準備し始めていた。
ミカはその姿を見据えながらほくそ笑む。
(悪いですけどね……獅子王さん。思い通りには行きませんよ……!)
「むっ!?」
獅子王が異変に気が付き、眉がピクリと動く。
ミカの背後には普段の大召喚と違い、幾つもの魔法陣が現れていた。
大小九個の魔法陣。
そこに描かれた歯車が回転を始め、駆動していく。
それに合わせてミカの右手へ光が集まり、それが銀色の小さい笛を形作った。
"司令官"はその笛をしっかりと握りしめ、自らの"群れ"を招集する。
「来るんだ! "蒸機犬部隊!!! 【ケ-九號】!!"」
――ウォォォォォォン!!!
ミカの号令に合わせて浅間もその顔を天高く上げ、遠吠えを行った。
『ウォォォォォン!!』
その遠吠えに答えるように魔法陣から次々に遠吠えが鳴り響く。
水蒸気が一斉にそこから吹き出し、大小八"機"の影が飛び出した。
その影たちは水蒸気を纏いながら主であるミカの周囲へと集まっていく。
纏った水蒸気によってミカと浅間もその姿を隠し、周囲は白煙に包まれた。
流石の獅子王も状況の異常さに表情を少し固くし、二つの拳を握り込んでこれから起きる事を警戒している。
白い水蒸気の中から様々な色の"瞳"が見え、その九個の瞳が獅子王を見据えた。
「――全機集合」
ミカが自らの"部下"に囲まれながら静かに呟く。
右手に持った犬笛を口元へと当て息を吹き込んだ。
――ィィィィィィン。
人間の可聴領域を超え、動物にしか捉えられない音が辺りへ鳴り響く。
『ワンッ!』
犬笛の音に合わせて部隊の"チームリーダー"である浅間が軽く吠える。
それに合わせて八機の"鋼鉄の猟犬"たちがミカの前へと進み出てきた。
赤、青、緑、黄、茶、桃、紫、黒……それぞれ違う色のカメラアイを装備した浅間と同じ姿をした九機の蒸機軍用犬たち。
各々で微妙にサイズが違っており、かなり大きいサイズの物から中型犬くらいのサイズの物までいる。
それらはミカの犬笛による指示へ従い、完全な統率が行われた動きで綺麗に横一列へ並ぶ。
全機が興奮したように牙をカチカチと打ち鳴らし、次の命令を今か今かと待っていた。
「……一匹より二匹、二匹より……。沢山という訳か……!
この獅子王のためにこんな隠し玉をちゃんと用意しているとは――カカカッ! やはり軍人娘ぇ! お前は期待通り……!!」
獅子王は一斉に威嚇を行っているその軍団を見て、不敵に笑う。
その緑色の二つの瞳はどこからでも掛かって来いと強い光を放った。
ミカは左手の軍刀【無銘】の切っ先を獅子王へと向けると声高らかに号令する。
「全機! 目標『獅子王』! 攻撃を開始せよ! 喰い――破れっ!!」
『ウォォォォォン!!』
その号令に従い、九機の鋼鉄の獣たちが咆哮し目標への攻撃を開始した。
リーダーである浅間を先頭に集団での"狩り"が始まる。
ミカは突撃していく"部隊"に対し、再び犬笛を咥え指示を送った。
(釜山、黒斑、蛇骨は右翼へ! 剣ヶ、牙、氷妻は左翼へ! 浅間と小浅間たちは正面から突撃!)
犬笛から発せられた"敵"には聞こえない命令が軍用犬たちへ届く。
瞬く間に三つの小集団に分かれた犬たちは三方から獅子王へと迫った。
(全機! 【腹部格納式超硬化ブレード】展開!)
犬笛から指示が飛び、全犬が一斉に腹の横から半月上の銀色の鋼鉄の刃を展開する。
その銀色の刀身は辺りの光を散らせながら鈍く輝いた。
「……来るか!」
さしもの獅子王も今までに経験の無い集団戦法を受け、口数が少なくなる。
鋭い眼差しで自らの周囲に集り始める犬たちの動きに注視していた。
『ガァウゥゥゥ!!』
正面から突撃した浅間たちの小集団がまずは仕掛ける。
三匹は腹部から露出させた刃で獅子王を切り裂こうと飛び掛かっていった。
同時に三匹が飛び掛かり、獅子王の巨体へと迫る。
「ふんぬらぁぁぁぁ!!」
獅子王は驚くべきことに左足を地面へ食い込まようにして叩きつけ、右足を持ち上げた。
片足立ちという不安定な姿勢の筈だがそれを感じさせない力強さで両腕を構える。
――ガギィィンッ! ガギィィンッ!! ガギィッ!
尋常ならざる反応速度で飛び掛かった三匹の刃を右腕、左腕、右脚で受け止めた。
弾かれたように三匹が空中で体勢を崩す。
「フハァッ! カウン――」
攻撃を受けた部位が発光し、空中で体勢を崩した三匹へ向けて同時にカウンターを放とうとする。
ミカもそれを予想しており、笛を使わずに素早く命令を叫んだ。
「――剣ヶ、牙、氷妻! カウンターカットォ!」
左翼から迫っていた三匹は命令を受け、嬉々としてその口元を開き、鋼鉄の牙を剥き出しにする。
即座に側面から獅子王へと喰らい付きその牙を茶色の毛皮へと突き立てた。
「ぐぅっ!?」
流石の獅子王も身体の各所へ突き立てられた牙に毛皮を抉られ、表情を歪める。
力任せに腕を振るい纏わりつく獣たちを振り払った。
『ギャンッ!』
噛み付いていた三匹は短い悲鳴を上げながら地面へと転がる。
ミカは三匹が吹き飛ばされるのを苦々しく見ながらも犬笛を咥え命令を続けた。
(釜山、黒斑、蛇骨! そのまま偏差追撃! 絶対に休ませるなぁ!!)
右翼に展開していた三匹がカメラアイを光らせながら縦に一列に並ぶ。
そのまま腹部の刃を獅子王へと向けた。
今度は同時ではなく、一匹ずつがコンマ数秒遅れて獅子王へと斬り掛かっていく。
「――ちぃっ!」
獅子王はその偏差攻撃の意味を察したのかカウンターせずに大きく後方へと摺り足を行おうとした。
「小浅間! 高峰! 足を止めろ!」
ミカの命令に応じて二匹の蒸機犬が白い水蒸気の尾を引かせながら獅子王の足元へと迫っていく。
他の軍犬たちよりサイズが小さめの二匹はその小ささを活かし、彼の足元へと潜り込み、駆け抜け様にブレードで足を切り裂いた。
サイズ故ブレードの刃が小さくダメージはそこまで大きく無い。
それでも獅子王の足を止めるには充分なダメージがあった。
彼の動きが一瞬固まる。
そこへブレードを構えた別の三匹が連続して切り掛かった。
獅子王はカウンターの構えに入り、最初の一匹が繰り出した刃に対し右腕を向け、カウンターを合わせる。
――ギィィィンッ!!
当然の如くブレードを弾き返すが、間髪入れずに次の軍用犬のブレードが獅子王の右腕に向けられた。
――ザンッ!
「ぐぬぅっ!!」
カウンターの際の僅かな硬直を突かれ、獅子王は動きが取れず右腕にブレードが一閃される。
迎撃によって筋肉を固めていたためブレードの刃は浅くしか入らない。
だが三匹目が流れるように獅子王の胴体部へ向けて飛び掛かり、その腹部へブレードを叩き付けようとした。
獅子王はその攻撃に対し敢えて防御の構えを取らず、左腕を頭上へと振り上げる。
(――っ!? 不味い!)
「――全機! 回避行動!」
遥か遠方から冷静に状況を観察していたミカは獅子王のしようとしている事を理解し直ぐに部隊へ回避を命じた。
主の命令を受け、九機の軍用犬たちは即座に攻撃を中断し、獅子王の周囲から飛び退いていく。
「ウォォォォォォ!!」
獅子王は雄たけびと共に左拳を石の床へと叩き付けた。
その拳の破壊力は凄まじく衝撃波によって足元の床が円形に剥がれ、辺りに石床の破片を撒き散らす。
すんでのところで回避した九機の軍用犬たちだったがそれでもその爆発から無傷で逃れる事は出来ず、装甲に微細な傷が付いていた。
しかし部隊は未だ鼻息荒く獲物である獅子王をそのカメラアイで睨み付け、唸っている。
司令官の次なる命令を待ち、待機していた。
ミカは全機が無事な事に胸を撫で下ろしながらも犬笛を使って隊列を整える。
(――全機再編! 次は四の五で分かれ挟撃!)
『ワン!』
その命令はリーダーである浅間から他の部隊"犬"たちへと伝えられ、一糸乱れぬ動きで隊列が組み直された。
二つの集団に分かれた軍用犬たちはまた獅子王へと向かっていきその身体へと喰らい付いていく。
獅子王も黙ってやられるままでは無く、適切にその攻撃を迎撃する。
既にその表情には余裕が無く、どんどん闘争心剥き出しの戦う男の表情となっていた。
その獅子と九機の軍用犬たちはお互いに少しずつ傷付いていき、いつ果てぬと言える戦いが続いていく。
ミカはその戦いを遠方から見て、逐次指示を出していた。
だが目の前で目の前で傷付いていく浅間たちの姿を見て、思わず歯を食い縛る。
(くっ……)
この戦術を取った以上、自分は前線に出る訳にはいかない。
離れた場所で冷静に獅子王の動きを観察出来るからこそ、的確で正確な指示が行える。
折角ムーンとリンダが用意してくれた獅子王対策の部隊と作戦だ。
それを台無しにしてしまう事は出来ない。
頭の中でそう理解していても実際に目の前で行われている戦いを見ていると心がざわつく。
左手に構えた軍刀【無銘】を強く握りしめ、必死に逸る心を抑える。
≪ミカ……焦るんじゃねえぞ。この作戦はお前が動いたら台無しだ。
お犬たちが傷付くのは仕方ねぇ。それ込みがあいつらの仕事なんだから≫
焦燥感に駆られたミカを察したのかブルーが通信越しに話し掛けてくる。
ミカは獅子王と激戦を繰り広げる九機から目を離さずにその言葉を黙って聞いた。
≪高森の婆さんも言ってただろ? お前は召喚モンスのおまけ……って。おまけは大人しくそこで踏ん反り返ってろって≫
オペレーターらしく、彼らしく、ぞんざいな言い方でこちらを諫めてくる。
「……はい」
ブルーの言葉に頷きつつも、ミカは心中穏やかでは無かった。
目の前で傷付いていく自分の"群れ"を見て、妙に胸がざわつく。
最初は安全な後方から見ているだけの自分に苛立っているのかと思っていた。
しかし……段々と別の何か……黒い感情が湧いてくるのを感じる。
その感情の正体が分からず、ミカは胸がつっかえるような気分を味わい続けていた。
(きょ、今日は何なんだ!? なんでこんな……胸がざわつくんだ……!?)
今までに感じた事の無い奇妙な感覚にミカは動揺していたが、動くわけにも行かずただその場で戦いを見守る事しか出来なかった――。
――後編へ続く……――。
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