雪原脳花

AIは夢を見たいと願うのか
Hatter
Hatter

05.07.04:attacca #4

公開日時: 2021年9月10日(金) 08:10
文字数:1,805

“楽章の間を切れ間なく演奏する#4”


 備品として双子を受領したあの日から、俺たちはすぐにチームとして高いレベルで機能したわけじゃない。

 人間の姿をしているが、なかみはAIに寄生されて制御され、超能力者じみたことまで出来ると言ったそんなSF的要因より、突然現れた子供とそうそう簡単に打ち解けるはずがない。今まで触れ合ってきたことなどないのだから。

 だが、大人の穏やかでない胸中など子供には関係ないのか、二人は最初から子犬のように懐いてきた。無邪気な双子を前に、ブライアンは面倒見の良さを発揮してはいたが、本心から彼らと接するにはしばらく時間がかかった。ロンは会話で全てを解決しようとしていたが、その実、相手をくまなく観察する為に喋り続けていた。最後にホリーが彼らと話すようになったのは、だいぶ時間が経ってからだ。

 子供と日々接すると言う、俺たちにとって今までにない異質な時間の中で、命令オーダーを繰り返し実行するたびに、自分たちではなく、備品の彼らに対する説明のつかない思いは、澱のように俺たち大人の中に少しずつ貯まっていった。彼らが無邪気な笑顔を見せる時、今までに感じたことのないストレスを意識するようになったのはいつのことだったか。


 他のAZとその子守り達はどうなのだろう。

 ジムは、ウィステリアが話していた残された5人のうち、3人のことをふと考えた。

 Aに続くBの、Bilビル。その後に、CとDがいる。

 

 3人の子供たちにどんな能力があり、どんな任務に使われているのかはわからないが、Eだから、Ericエリック、Fだから、Fredフレッドと名付けられていた彼らは、最初に説明された通り、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、あらゆる感覚器で通常の人間より遥かに多くの情報を得ることができた。また、得た情報の全てを記録し、特殊な帯域で送信する事ができる、特殊送信機能を備えた生きた高性能センサー付きのカメラであり、生きたストレージだった。彼らの脳から送られる情報は、送信の際、絶対に解読されることがない。情報の暗号化は古い時代から必ず問題になってきたが、現在でも解けない暗号は実用化されていない。

 何故なら、暗号コードは、手にする者が必ず解読デコードしなければならないからだ。


 エリックとフレッドが送る情報は、解読する必要がなかった。簡単に言えば、俺が今脳内で抱いているイメージを、誰かが受け取ることはできないだろう。俺が何を考えていようが、それは絶対に見えることはないし、伝わらない。

だが、双子はそれが出来る。フィクションで言うところのテレパスを、脳に寄生しているSAIと呼ばれるAIが可能にしていた。

 

 ビルと、名を知らないCとDにも同じような能力が備わっているのか。

 そう言えば、エリックやフレッドから、彼ら以外のAZの話を聞いたことがなかった。会ったことはないのだろうか。

 ウィステリアは、5人の子供と言っていたから、恐らく姿は子供の形をしているんだろう。

 双子はともに異常な治癒力と回復力を持ち、その仕組みシステムのせいなのか、二人は成長することがなかった。しないようにコントロールされているのかもしれない。

 行動を共にする時間が流れ、ホリーが彼らと喋り始め、そしてチームとして高いレベルで機能し始めても、彼らはいつまでも初めて出会った時の子供の姿で、恐ろしく綺麗な容姿のままで、1ミリも身長は伸びなかった。

 その能力を最大限に活かせと、与えられる命令オーダーは囮、潜入の為の餌。そして、獲物ターゲットが彼らを飲み込んだその後は、内部から侵食し、その全ての情報を頂く。


 俺が、彼らを手に掛けたのは今回が初めてじゃない。


 彼らが殺されかけるギリギリまで情報を収集するのは、何も特別なことじゃなかった。

 取得した情報と、インタフェースふたごを回収し持ち帰れとの至上命令を受けているが、その優先度は、圧倒的に情報が最高位にあった。


 AZは備品。

 最悪な状況となった場合、脳さえ持ち帰れば良いとさえ命令オーダーされている。首を切り落とし、頭を持ち帰れと。


 上から出されるオーダーに、僅かずつだが、俺に嫌悪という感情が生まれ始めたのはいつだったか。それは、命令を下す飼い主に対してだったのか、自分自身へだったのか。そうはさせまいと、考えるようになったのは。


 ジムはホリーの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「大丈夫か?」

「問題ありません」


 揺れていた不安な瞳は落ち着き、覚悟を一つ決めたようにホリーは強くジムを見た。ジムは自分が、この強い眼差しを気に入っていることを、いつかホリーに言ってやろうと思った。




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