”昼 日の光#9”
ジムは双子と別れたあの日、廊下でホリーに殺されかけた将校、パナガリスが言うには “転がるように消えたジョーンズ” が言っていた言葉を思い出していた。
「ジョーンズと言う男のところにもいたんだな?」
「ジョーンズ? ああ、元Bilのお守か。あそこにも君たちみたいなベビーシッターを付けようとしたんだけど、あの若造が断ってきたんだ。手駒に卑しい動物はいらないとかなんとか。で、いつも直接ビルを使っていたけど。落とされたでしょ? 生きてるかな?」
♪Humpty Dumpty sat on a wall♪
(♪ハンプティ ダンプティ 塀に座った♪)
♪Humpty Dumpty had a great fall♪
(♪ハンプティ ダンプティ 転がり落ちた♪)
ウィステリアは口ずさむ。
「さぁな。俺は、パナガリスから『ここには居ない』 と聞いただけだ」
「ふうん。・・・・・・ああいう連中は落ちると分からず、壁に座るんだろうか? それとも、自分が卵だって知らなくて、落ちても大丈夫だと思っているのかな? なんて身の程知らずなジョーンズ。レスターの不評を買って、きっとそうとはわからないうちに突き落とされて転がったんだろうな。割れた中身は、愚かな過ちを犯す人間の典型。今更サンプルにもならないのに。あ。卵の殻は粉砕すれば、肥料になるか・・・・・・」
ウィステリアはまた組んだ手の上に顎を載せ、ジムの前に置かれた空の皿辺りを見ながら誰に話すでもなく呟いた。
「不評・・・・・・」
「そう。双子に手を出したから。言ったでしょ。君たちは、あいつが目をかけてるって。エリックとフレッドは特別。どうして双子だってこと、考えたことある? リスク回避なんだよ。Aが消えてから、特にね。EとFは、特別に大事」
Aが消えてから。
消えるはずのないA。
そして現実として、消えたA。
死んだ人間を追えと、前の変人は言う。
「あんたの探し人は、死んでるんだよな」
「そう。間違いなく肉体は死んだ。僕が確認した」
「肉体が死んだのなら、何だ。魂でも探せと言うのか」
「そう。その通り! 言ったでしょ。幽霊の君なら、探せるかもって。僕には、彼が死んだとは思えない。あの粉々に砕けた頭部を見た時、ぞっとした僕は、無性に感じたの。気配ってやつを。彼は老いた肉体から解放されて、今頃はメフィストフィレスでも従えて悠々自適に過ごしているかもしれない」
どうかしてる。俺は、変人の話に耳を傾けている。
口をつけた紅茶に、やはりクスリでも入っていたんだろうか。
あの声が脳に浸透してくるようだ。
『何が、聞きたい』
『ジム何が聴きたい?』
「あんたは、その死人の博士を見つけてどうする気だ」
「僕はね、訊きたい事があるんだ。尋ねられて、答えられずじまいで終わっているからね」
『何が、聞きたい』
『ジム何が聴きたい?』
「ほらね。探したくなった。狩りは得意でしょ?」
目の前の変人は、目を細めて、にぃ、と本当に化け猫のように笑った。
「ジム、スナーク狩りの始まりだよ。ベルの音が聴こえるかい?」
♪For Whom the Bell Tolls(♪M#1)
♪Time marches on…
「あんたの謎々や、消えた何かだけじゃ追えない」
「君に手紙が届くようにするよ」
「俺には仕事がある」
「よく耳を澄ませてよ。仕事の合間にもね。きっとスナークたちは、軍靴にでも紛れて消えたんだ」
王様の馬をみんな集めても
王様の兵隊をみんな集めても
ハンプティは元には戻らない
何でかって?
それは簡単な話だよ。お姫様たち。
戻す必要がないからだよ。
愚かな過ちを犯す人間は、必要ないからだよ。
♪M#1:For Whom the Bell Tolls
メタリカの楽曲。1984年、セカンド・アルバム『Ride the Lightning』に収録。
アーネスト・ヘミングウェイの同名の小説『For Whom the Bell Tolls(誰がために鐘は鳴る)』から
インスパイアされた楽曲。
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