美しい歌 #2
何すんだよ、やめろよ! と吐きかけられた煙を手で払いながら騒ぐトニーにジムは続きを促した。
「俺、この前見たんだ。仕事してる最中に、運悪く戦闘が始まっちまったんだ。俺、巻き込まれないようにいつものように隠れてたんだけど。ひどい戦闘でさ、なかなか終わらなくて。そしたらどこからともなくあの村の連中がやってきたんだ。そんで、何しにきたかと思えば次から次へと兵士を殺していくんだ。俺たちと同じで、逃げるか隠れるかが精一杯、戦うことなんて出来なった村の連中なのに、なんでもないみたいに、どっちの陣営とかも関係なく、近くにいる奴を手当たり次第殺していくんだ。しかも……」
その日のことをなぞるように喋るトニーは次第に足元の赤茶色の乾いた土のどこにも焦点を合わす場所はないとでもいいたげな目をしていた。一度言葉を切ったトニーは慣れた手付きで煙草を口に運び、小さな肺に目一杯の煙を吸い込むと溜息のような息を吐き出した。
「あいつら……あの村の連中、撃たれても平気なんだ。村の一人が何人かの兵隊に囲まれて、ああ、こいつはもうダメだろうなって思って見てたら案の定、撃たれて俺の隠れたそばまで転がって来た。そいつ奪った銃を持ったまま死んでたから、隙見てそれ頂こうって近付いたら……動き出したんだ……あいつ、腹ぶち抜かれてて、絶対死んでるはずなのに、動き出して手に持ってた銃ぶっ放して……」
トニーは吸い口まで火が届いた煙草を乾いた地面へ放った。土を巻き上げた赤い風がトニーとジムの間をすり抜けていく。風を見送ったトニーはジムの顔を見た。
「マルコもおんなじなんだ。あいつ、とっくに死んでるんだ」
少し前にマルコは戦場で死んだと言う。それがしばらくしてひょっこり村へ帰って来た。だがまるで人が変わってしまっていた。村人は囁いた。マルコは死んだまま生きている。そうじゃなきゃ、やっぱりマルコは死んでいて、あいつじゃない何かが体の中に蠢いているのだと。
辺りが薄暗く静かな夜を迎え始めた頃、ジムは村を離れることにした。
「また、会える?」
珍しくトニーが俯きがちにジムに訪ねた。
「わからん。だが俺は……お前に村を出てほしいと思う」
「……」
「……乗るか? それ以上の面倒は見てやれないが、戦場から離れた場所でおろしてやることなら出来る」
トニーは俯いたまま、静かに頭を横に振った。ジムからはその表情は見えなかった。
「……そうか」
またな、とジムは少年の頭に手を置いて、昔、ここではない場所で何度もそうしたように、髪をくしゃくしゃと撫でてやった。下からは小さく「ありがと」と声が聴こえた気がした。
ジムが乗ったジープが土煙を上げ鈍く光る赤い星のようなテールランプが遠くの丘に消えるまでトニーは見送っていた。
「ジム……俺、もう、ここから離れられないんだ……」
トニーの目から大粒の涙がこぼれ、水に飢えた土はほんのわずかな間だけそこに濃い染みを作ったがすぐにそれは見えなくなった。パタパタと何度もその痕は出来ては消え、その湧き出ては零れ落ちる水の小さな二つの水瓶は、天上で見逃してしまいそうな微かな星の淡い光を湛えていた。
トニーは淡く光るその眼で泣きながら、そこにしばらく立ちつくしていた。
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