”昼 日の光#3”
「サプラ〜〜〜〜〜〜〜〜イズ!!!」
博物館にあるM110A2の砲身のような筒を手にした男が叫んだ。
その砲口から発射され、俺の体に当たったのは、正確には、筒からぴょんと下へ降りて(落ちて)辛うじて、俺の膝下辺りに体当たりしたか、蹴りを入れたか、或いは床への落下後に、俺の足を踏んづけてどこかへ散らばっていった、白や茶色の柔らかい何か。兎に角、M201榴弾砲ではない。
「って少しは感動してよ。君の為に、飾り付けまでしたんだからさ。大変だったんだから」
目の前には、ハロウィンのような、タキシードにシルクハットを小脇に抱えた男。
何故だ。
周囲は、オフィスとは名ばかりの、花や草木や鳥が飾られた壁。
な・ぜ・だ。
感動? 感動どころか、目眩を覚えている。気のせいじゃない。気が遠くなりそうだ。
俺は、生きて帰れるのか?
・・・・・・落ち着け、俺。
出掛ける前に悲痛な顔をしたブライアンは――むしろその顔は俺がするべきではないか? ――『気を確かにな』と、俺の肩に手を置いた。その横でウミガメの箱を抱えていたホリーは(仕事の指令が出たので広げていた卵を仕舞い込んでいる最中だった)眼鏡の奥から真剣な眼差しで『隊長、気持ちを強く持って』と言った。
教えてくれ。
どうやって、この状況で “気” を、確かに、強く、持つんだ?
その時、口達者を自負するロンはと言えば、二人の意見に乗り遅れまいと『チェシャネコだけに、消されないように注意っす』と、変人との邂逅を知らないくせに意味深なことを言いやがった。お前の口を消してやろうか、と、ちらと過ぎったことを伝えずに来たことに、今少し後悔している。
「うーーーーーん。君は、本当に、表情ってものから何も読み取れないね。まあいいや。わからないんだから、心から驚き喜び感激し、そしてこの招待に感謝している。そういうことかもしれない。さぁ、どうぞ」
頭を大きく左右に振りながら、俺の顔をあらゆる角度から覗いた男は一人納得すると、黒い砲身のツバをくるりと回転させて頭へ乗せ、パーティ会場へと俺を案内した。
テーブルクロスが敷かれた上には、きちんと折られたナプキンに、ナイフ、フォーク、スプーン、ストレナーが行儀良く並び、ティーポット、ティーカップ・ソーサー・ティースプーンのスリーピース、三段のケーキスタンドには下からサンドイッチ、スコーン、そしてケーキが載っている。その横には、シュガーとミルクだろう。
ティーポットが置かれた側の椅子に手を掛けた男は、反対側の椅子の前で立ち尽くす俺に、どうぞ、と掌で示した。
「座ってよ。それとも君は、座れ、と命令されないと座れないの?僕は別に君の上司でも何でもないけど」
俺が椅子を引くと満足したように変人は座り、両肘を机について手を組みそこへ顎を乗せた。
「さあ。お茶会を始めようじゃないか。わんちゃん?」
組まれた手の上の顔は、まさにチェシャネコそのものだった。
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