年がら年中お盆

田村 利巳
田村 利巳

年がら年中お盆

公開日時: 2022年6月19日(日) 02:19
文字数:14,749

海野はそんな同僚達に向かい


「皆んな…今までありがとう。

そしてゴメン!

俺、最後に

とんでもない事を

してもうた…」


と、口ではその様な事を言っている、

決して嘘を言って居る訳では無い、

本当にそう思って反省をしている。


しかし、

もう少し深い心の底では


(あぁ〜あ…死んじゃったよ

……ハァー……

結婚したかったなぁ…

俺って可哀想なくらい

本当にモテなかったよなぁ、

口では仕事一筋です!

なんて同僚に言ってたけど…

本当は彼女が欲しかった!

スっごく欲しかった!


後輩達が気を使って

合コンなんかも誘ってくれたけど、

気がつけば

いつも一人ぼっち。


クソー!

分かってるよ

女性が近付かない理由、

だって

見た目が怖いもん!


チクショウ、

力尽くで押し倒したりなんかしねえよ!

理性はちゃんと持ってるわ…

でも女性は

俺を見て怖がるんだよ、

見た目がゴリラみたいだから。

俺だって自分の顔が

男前だなんて思ってないよ、

だけど、

生まれ持った顔なんだよ…

ハァー……

彼女と言う存在と

遊園地に行ったり、

美術館に行ったり…

一度で良いから

腕なんか組んで、

デートなんて言うモノを

してみたかったなぁ…)


海野が今言った事は、

心の中で思ったつもりだった。

しかし、残念な事に、

今思った事は全部

口から漏れ出していたから、

ちょっと具合が悪い。


肉体から離れて

魂だけの状態に成った今、

海野には、

発する言葉と

心の中で思う言葉の

コントロールが

どうも難しい様である。


ちゃんと心の中で思える時も有るが、

今の様に

心の声が外に漏れてしまう事も

有る様で有る。


シマモトは利秋と顔を見合わせて

ニヤリと微笑んだ。

海野の風貌と人柄を見て、

おそらく、

同じ事を考えていたのだろう。


「利さん、今日はこれで終わりに

しましょう」


「そうですね、上の世界の事を

海さんに説明しませんとね」


三人は一気に「あの世」に上がった。


周りを見回す海野に、

シマモトが

「この世」の説明をしだすと、

海野は何の質問もせずに、

ただひたすら素直に

受け入れてくれた。


性格なのか?

職業柄なのか?

海野は決められたシステムを理解し、

守り、

実行する事が

大好きな様である。


利秋が海野に向かい


「海さん、住まいはどうしますか?

心に強く念じるだけで、

好きな家が手に入りますよ」


「はい…私は家よりも、

奥さんが欲しいです!」


もう、心の声がダダ漏れである、

しかし本人は

まだその事を気付いていないので、

腕組みをしながら


「そうですね…私の理想の家は…」

なんて言う事を言っている。

彼にとっては家なんて、

どうでもいいのだ!


真面目な顔で家の話しをされても、

貴方には

初めから家の理想なんて何も

無いのだ。

有るのは「奥様」に成って

下さる、

女性の理想だけなのである。

シマモトが嬉しそうな顔で


「実は海さんに紹介……

あれ?…

ゴメンなさい…

ちょっと待って下さい…

利さん、

もう一度下に降ります

良いですか?」


シマモトの

声のトーンだけで

ただ事では無いことが分かる、

下の世界で気になる

「何かが」

起こったのだ。


「分かりました、行きましょう」

利秋がそう答えると、

先ほど死んだばかりの

海野が


「私も一緒に、ついて行って良いですか?」


と言い出した。

隠す事など何もない。

ありのままを観て貰っても

何も問題は無いと思ったシマモトは


「もちろんです、三人で行きましょう!」

そう言って

三人は北海道、札幌市の

ある町内に

降り立った。


《 22…老夫婦 》


辺り一面、

焦げ臭い臭いが蔓延して居る。


住宅街から少し離れた一軒家が

火事になって居るのだ。


家の周りには

沢山の野次馬が集まって来ているが、

肝心の消防車は

まだ到着していない。

その時、

一人の婦人が悲壮な声をあげてた。


「加藤さんの御主人寝たきりなの!

さっきから周りを見てるけど、

奥さんも御主人も居ない!

きっとまだ中に居るのよ!」


誰もが(えっ!)と思ったが…

あまりにも

炎の勢いが凄いので、

誰も助けには入れない。


その光景を見ていたシマモトは


「正解です!

入ってはいけません。

ボヤ程度ならともかく、

これだけ大きな火事に成ってしまうと

助けに入った人も

死んでしまいます。

でも私達は幽霊だから大丈夫!

利さん、海さん、

中の様子を観に行きましょうか」


そう言って

3人は、

炎渦巻く家の中に平然と入って行った。


今、三人の目の前で、

80代の奥さんが寝たきりの夫を

外に運び出そうとして居る…


夫は既に煙を吸い込んでいるのか、

意識がもうろうとして居る。


「ノボルさん、外に行くわよ!」


「フサエ、ありがとう、

もういいよ、

一人で逃げなさい」


「なに言ってるの

何時も一緒に居るって

約束したじゃないの…」


二人の部屋に炎が入って来た。


奥さんは助からないと

悟ったのか…


「フサエ、一人で逃げてくれ!」

と言う夫の言葉に、

奥さんは

小さく微笑みながら


「ノボルさんと一緒に逝く、

いいでしょ…」

そう言って、

寝ている夫の胸に

しがみついた。


「フサエすまない、

ワシが寝たきりに成らなければ…」


「いいのよノボルさん、

今度生まれ変わっても、

お嫁さんに貰ってね…」


夫は妻を

力の限りに抱き締めると


「ズッと一緒だよ…フサエ…」


二人はあっと言う間に

煙に包まれて

気を失ってしまった。

其れで良かった。

炎に包まれ

八熱地獄のような恐怖と苦痛を

味わう必要は無い。


炎の中から二人の魂が出て来た。

お互いにしっかりと

手を握り合って、

燃え盛る自分達の家を…

野次馬の後ろからソッと

見つめている。


そんな夫婦の前に

三人の男性が現れた。


「今晩は、今生の御勤め

ご苦労様でした。

私はシマモトと言います、

隣は利秋さん、

その隣は海野さん,

お互いに、

シマさん、利さん、海さん

と呼び合っています」


アロハシャツを着た

青年と、

白髪頭の壮年。

その後になぜか

背の高い警察官が立っている。


自分の孫の様な青年に

挨拶して貰った二人は

満面の笑みを浮かべ


「私は加藤ノボルと言います。

隣は妻の妻のフサエです。

三人の死神さんが居ると言う事は、

私と妻は、

死んだんですね?」


すると

シマモトは微笑みながら


「御二人が亡くなられたのは

事実ですが、

私達三人は、

死神とか言う

怖いモノでは有りませんよ。

私自身、

けっこう長く

あの世で暮らして居ますけど

今まで

そういった方に

会った事がないですね」


老夫婦は見つめ合い

(へぇ〜死神って居ないんだ…)

と思いながら

小さく微笑んだ。


シマモトは更に


「ご主人、

もう魂が肉体から離れましたので、

歩けますよ」


ノボルは自分の足を見つめ


「本当だ、ワシ立ててる、

フサエ…ワシ、歩けてる!」


そう言いながら

ノボルはフサエの

周りを歩き出した。


フサエの嬉しそうな顔。

夫の力強い歩き方を見て


「ノボルさん、

40歳ぐらいに戻った見たいよ!」


「そうかい、84歳の爺さんが

40歳に見えるなんて

嬉しいね!」


シマモト達三人は顔を見合わせ


(本当に仲の良い夫婦なんだなぁ、

80歳を超えても

お互いに名前で呼び合って

いるんだもんなぁ…)

と思った。


シマモトはノボルの前に進み


「ご主人は何歳ごろの自分と、

何歳くらいの奥様が

お好きですか?」

と、尋ねた。


唐突な質問に、

二人は顔を見合わせて困惑している。

そして6秒ほどの沈黙の後に、

先にフサエが口を開いた。


「私は…40歳ぐらいの

ノボルさんが大好き、

若い時はカッコ良かったけど、

少し怒りっぽい所が有ったの、

でも40歳からスっごく

優しく成って…」


するとノボルは焦りながら

「ゴメンよフサエ、

ワシ、嫌な奴だったんだね!」


「そうじゃないのよ、

若い頃の私達って

子育てで

気持ちがいっぱいに

成って居て、

お互いに

心に余裕が無くて。

でも、

ノボルさんに

かまって貰いたくて、

ワザととぼけた事をしたら

叱られちゃって」


「ゴメンよフサエ、

ワシ、クソ野郎だったんだね!」


「いいのよ、40歳ぐらいから

スっごく優しく成ってくれたもの」


「良かった!

ワシ、ズッと嫌な奴だったら

どうしようかと思った。

実はワシも、

40歳のフサエが

大好きなんだ。

今も大好きだけど、

あの頃のフサエの優しい言葉、

優しい抱擁、

あの頃のワシ、

家庭を守るんだって

一人で気負って居て、

イライラしている時に

フサエに優しく包まれて…

どんな苦労もフサエの為に

乗り越えられる、って

心の底からそう思ってたんだよ」


そんな事を言い合いながら、

2人は

お互いを

見つめ合って居る。


シマモトは二人の間に入り


「ノボルさん、奥様の頬を

両手で包んで下さい…

フサエさんもご主人の頬を

両手で包んで下さい…」


二人はシマモトの言う通りにした。

なにせ「死後の世界」の先輩なのだ、

きっと

儀式の様なモノが

有るのだろうと思った。


二人は黙って見つめ合っている…


するとシマモトが急に大きな声で


「あの頃!」と叫んだ。


フサエが目をつむりながら


「お願い、ビックリさせないで、

心臓が止まるかと思ったわ」

ノボルも驚いたのか目をつむって居る。


すると利秋が、


「大丈夫ですよ奥さん、

ここに居る全員、

心臓が止まってますから、

もう動いてないんですよ!

って言うか、

皆んな、幽霊ですから!」


ノボルとフサエは

その通りだと思ったのだろう、

思わず

噴き出してしまった。

シマモトは微笑みながら


「はい、二人で「あの頃」と

復唱して下さい、

恥ずかしがらずに、大声で!」


二人はチョッピリ頬を紅く染め


「あの頃!」と、

叫んてみた。


「ノボルさんの手が温かい…」

「フサエの手も温かいよ…」


次の瞬間、

84歳の

爺さんと婆さんが、

40歳の体に若返った。


何も知らない海野はドン引きである。


「マジかよ…?」


フサエとノボルの嬉しそうな顔、

お互いに抱きしめ合って

泣き出してしまった。


シマモトは二人の顔を見つめ


「あの世と、この世は

何回でも行き来が

出来ますよ。

子供さんの顔を見たいとか、

お孫さんの顔を見たいとか、

好きな時に好きなだけ

会えますから

ご心配なく」


二人が喜ぶだろうと思って

伝えたのだが、

なんだか少し様子が変である。


フサエはノボル手を握りしめ、

寂しげな表情を浮かべた。


「シマさん…ありがとうございます。

何時でも皆んなに会えるなんて

本当に嬉しいです。

ただ…二人の息子も、

二人の娘も忙しいらしくて、

その…

ここしばらく

顔を見て無いんですよ、

だから

孫達も大きく成って

いるでしょうから、

その…顔が…

もう分からないと思うんですよ」


フサエの台詞だけで、

いかに長い間

会えて

居ないのかがよく分かる。


すると横から海野が…


「子供さん達にも色々な

事情があると思うんやけど、

産んでくれた!

育ててくれた!

自分達の親やないか、

兄妹四人で話し合って

月に一回

順番に親の家に遊びに行く、

4ヶ月に

一回の親孝行も

出来んかったんかなぁ…

自分達もいずれ

歳をとるのになぁ…

絶対あとに成って

後悔すると思うんやけどなぁ…

お喋りして、

一緒に

ご飯を食べれるのは…

生きている時だけなんやけどなぁ…」


そう言いながら目頭をおさえた。


フサエとノボルは

海野の優しい言葉が嬉しかった。


ただ、自分達が育てた

子供なので、

性格はよく知っている。

きっと、

年金暮らしでカツカツの

生活をして居る自分達は、

子供達からすれば

何のメリットも無い

ただの

お荷物だったのだろう。


無理もない、

孫達は私立高校や

私立大学に通っている。

ただでさえ

お金がかかるのだ。

親の事など

かまっては居られない、

その通りである。

其れでも

年に一度くらい

子供達の声が聞きたくて、

こちらから電話をかけて

しまう事がある。

しかし、

何だか面倒くさそうな

話し方で、

早々に電話を切られてしまう。


たぶん子供達は、

もしも

一緒に暮らしたいと

言われたらどうしよう。

お金を貸してと

言われたらどうしよう。

そんな懸念を

いだいて居たのかもしれない。


ましてやノボルが歩けなくなると、

子供達からの電話は、

一切かかってこなく成った。

だから、

シマモトから

いつでも子供達に会いに行けますよ、

そう言って貰ったが、

何とも複雑な気持ちだった。


ノボルとフサエは

見つめ合いながら


(一緒に死ねて、本当に良かったね。

どちらかが残ったら、

きっと

良い顔はされなかっただろうし、

邪険にされるのは

目に見えて居るよね。

自分達の愛情のかけ方が

間違っていたんだ、

子供達が悪いわけじゃないよね…)

二人はそう思いながら

淋しげに微笑んだ。


シマモトは二人に向かい、


「私達三人は「あの世」に帰りますが、

お二人で良く相談をされて、

気持ちの整理がつきましたら

「あの世」と

口に出して言って下さい、

するとお二人の体は

パッと上に

上がって来れますので!

でわ、

また後日、

お会いしましょう」


そう言ってシマモト達は

二人の前から

フワッと消えて行った。


三人が居なくなると

ノボルはフサエを

強く抱きしめ


「大丈夫だよ、子供達はきっと

直ぐに駆け付けてくれるさ…

本質的には

優しい子供達なんだから」


フサエは頷いては見たものの、

心の中では


(ノボルさん…あの子達は、

本当は優しい子供達なんだけど、

今はとにかく

子育てに追われてて、

塾のお金、

私学の授業料、

制服代、

其れらを払う為に共働きで

頑張って、

だからもう疲れてて、

気持ちが

いっぱい、いっぱいなのよ…

だから、

直ぐには来てくれないわ)

そう思っていた。


消防車が来る前に屋根が落ちた。

炎は更に勢いを増した。

ただ、

有り難い事に、

加藤家の周りは

畑に成って居たので、

他人に迷惑をかける事だけは

免れた。


家が完全に焼け落ちた。


消防士、

警察官、

救急隊、

沢山の人達が2人の家を踏んでいる。

当然である。

もう家の原型は跡形も無いのだ、

現場検証が必要なのである。


ノボルはフサエを

抱きしめたまま…

自分達の焼け落ちた家を

ズッと眺めて居た。


「フサエ」


「なぁにノボルさん」


「33歳でこの家を建てて…

アッと言う間に

51年が過ぎたんだね」


「ノボルさん、

色々な事が有ったわね、

時間って本当に経つのが早いのよね」


「…今でも、

小さな4人が走り回っている

姿を思い出すよ…」


「皆んな可愛かったわ…」


「…うん可愛かった。

四人とも頑張って

立派な社会人になって…」


「素敵な人と巡り合って結婚して、

子供が産まれて、

一生懸命に自分の家族を

護っているわ」


「ワシ…フサエと一緒になれて

本当に良かった!

四人のお父さんになれて

本当に良かった!

家…

ワシらの家よ、

51年間家族を守ってくれて

本当にありがとう!

ワシら夫婦と一緒に死んじゃったな、

すまなかったな…」


「ノボルさん、

私達が居なくなったら、

遅かれ早かれ、

子供達はこの家を壊すと思うの、

だから…

私達と一緒に死ねて、

この家もきっと喜んでいると思うわ」


「そうか…フサエの言う通りだね…」


そう言って

ノボルは小さく微笑んだ。


消防士が手を上げた。

警察官と救急隊が走って行った。

皆んなで一点を見つめ…

手を合わせている。


今、ノボルとフサエの遺体が

救急車に運ばれた。


子供達が来てくれたのは、

フサエの想像していた通り、

其れから

三日後の事だった。


四人とも

誰かが行くだろうと思っていた

様である。


警察に呼び出され

渋々集まると言う有り様だった。


遺体の確認、

火葬の手続き…

子供達は親の死を悲しむより、

親が残してくれた

土地を売り払って、

一人頭いくらのお金が入るのか、

気持ちはそちらの方に

むいていた。


ノボルとフサエは

顔を見合わせ

寂しげに微笑むと


「其れでも…

子供達の顔を観れたから…

私はもう

思い残す事はないわ…」


「フサエの言う通りだね…

皆んな…

元気そうで良かったね…」


そう言ってノボルは

四人の子供達を順番に

抱き締めに行った。


子供達には

父親の姿は見えないし、

声も聞こえない。

なので…

いくら顔を見つめても、

子供達と目が合う事はなかった。

其れでも


「顔を見れて良かった…

皆んな元気そうで良かった…

立派なお父さんに成ったね…

素敵なお母さんに成ったね。

お前達…

四人のお父さんになれて

本当に

幸せだったよ…ありがとう」


ノボルは心の底からそう思った。


フサエも

四人の子供達を順番に抱きしめ…


「今までアリガトウ…

これから先…

色々な事があると思うけど、

無理をしない程度に頑張ってね…

体には気をつけてね…

さようなら…

私から産まれてくれて…

私をお母さんにしてくれて…

本当に

ありがとう…

幸せだったわ…」


そう言い終わると、

ノボルと

二人で見つめ合い…

もう一度子供達の顔を

見ながら…

「あの世」に昇って行った。


初めて見る…あの世の景色。

ノボルとフサエは

嬉しそうな顔で

周りを見回して居る。


二人は

何かが吹っ切れたのか?

お互いの顔を

見つめ合いながら

微笑み出した。


40歳の若さに戻れたせいだろうか?

其れとも二人して、

二回目の新婚生活の始まりだと

思っているのだろうか?

いずれにしても

二人の胸は、

若い頃の様に熱く高鳴り、

得体の知れない力が、

体の底から湧き上がって来る事を

感じていた。


ノボルはフサエを抱きしめ…


「あのね……」


「なぁに?どうしたの?」


「ゴメン、急に抱きしめたく成って…」


フサエは嬉しそうにノボルの

胸に頬を預け…


「ねぇノボルさん…

左側は住宅地で

右側は草原なのね」


「そうだね、左側の

素敵な住宅街…

何だか立派な家も有れば、

キャンピングカー…

テントなんかも有って、

「この世」でも

貧富の差があるのかな?」


「もしそうだとしたら

働く所もあるのかしら?」


そんな事を話して居る二人の前に、

シマモトと利秋が、

突然、パッと現れた。


ノボルは、

満面の笑みと会釈をもって


「シマさん、利さん、

この間は本当に

ありがとうございました。

家内と二人して

若返らせて頂き、

もう嬉しくて嬉しくて」


「もう主人ったら

ズッと私を

抱きしめたまま

放さないんですよ!」


すると利秋が笑いながら


「おっ、いきなりノロケ話ですか?

良いですね、

受けて立ちますよ!

ドンドン聞かせてください!」


四人は声を上げて

笑い出してしまった。


シマモトも利秋も、

二人が子供達の事で落ち込み、

悲しい思いをしている事は

百も承知である。

しかし、

その部分の事は

自分達で乗り越えるしか

ないのである。


シマモトはまず、

「この世」の仕組みを二人に

説明した後、

とりあえず手始めに

二人の

家を手に入れる事をすすめた。


「御二人で話し合って

住みたいと思う家を想像して下さい」


二人で相談する事10分…


その家の構造は、

フサエの口から

具体的な形として

発表された。


すると

目の前の草原の上に

フサエが言った通りの

平家建ての家が現れた。


想像を遥かに超えた現象に、

ノボルとフサエの

嬉しそうな顔!


「ノボルさん!何だか夢みたい!」


「そうだね!

フサエの理想の家が現れたね、

嬉しいね,

素敵な家だね!」


「ノボルさん…死後の世界って

悪くないかも」


二人は

そう言い合いながら

喜んでいる。


するとシマモトは急に真面目な

顔になり


「お二人に聞いて頂きたい

事が2つあります。

難しい事ではありません。

まず、

この世で他人に迷惑をかけると

その魂は

ストンと地上に落ちて、

しばらくの間

サマヨウ事に成ります。

しかし、

自分自身、

深く反省すると

またコチラに上がって

来る事が出来ます。


そして次は、

楽しいお話しです。

御夫婦で

旅行に行きたいと思ったら

行きたい場所を口に出して

言って下さい。

瞬間移動で

その場所に行けます。

でも

バス、電車、船、飛行機に

乗りたいと思えば

幾らでも乗れます。

乗りたいと思った乗り物を

まず思い浮かべ、

次に

駅やターミナル、

港や空港を思い浮かべると

その場所に行く事が出来ます。

例えば、

飛行機に乗って

九州に到着、

バスに乗り換えて長崎に着きました!

なんて、

素敵だと思いませんか?


ホテル、旅館も泊まり放題、

御二人で計画を立てて

沢山楽しんで下さいね!」


「なんて素敵な「あの世」なの、

ノボルさん私、

新婚旅行で行った

九州に行きたい!

宮崎、熊本、長崎…

もう一度観たい!」


「良いね、ぜひ行こう…」

そう言って喜びながら、

シマモトと利秋に

お礼を言おうとした時、

ふと…

(あれ…そう言えば、

もう一人、

私達の事を気遣ってくれた

背の高い警察官の方がいない?)

ノボルは周りを見回しながら…


「あの…シマさん、

この間

私達夫婦の事を慰めて下さった、

警察官の方は…

今日は居られないんですか?」

と尋ねた。


するとシマモトは


「多分…もう少しで

コチラの世界に上がって

来られると思うんですけどね、

色々な事が気になって、

見守って…

居るのかなぁ」


ノボルとフサエが首を傾げると

利秋が


「海さんがコチラに来たら

きっと

自分の口から色々な事を

聞かせてくれると思いますよ、

隠し事が嫌いと言うか、

出来ないと言うか、

もう、サバサバした性格の人ですから」


「そうなんですか…」

と、フサエが頷いて居る時に

突然!

四人の前に海野が、

フワッと現れた。




《 23…個人マスコミ 》




噂をすれば何とやらである。

海野は満面の笑みを浮かべ


「皆さん、お久しぶりです。

わたし海野!

やっと気持ちの整理がつき、

この世に、

上がってまいりました。」


海野は、

アッと言う間に四人に囲まれた。


「この間は優しい言葉をかけて下さり

ありがとうございました…」

御礼を言う

ノボルとフサエ。


「お疲れ様でした。

色々と大変だったでしょう」

気遣ってくれる

利秋。


「全てが上手くおさまって

本当に良かったですね!」

結果を既に知っている

シマモト。


海野はこの三日間、

自分がしてしまった軽率な

行動に対して、

警察がマスコミから

どの様に叩かれるのか、

気になって

しょうが無かったのである。


とにかく

冷静になって考えてみると、

自分がしてしまった行動は、

軽率以外のナニモノでもないのだ。


「もう、取り返しがつかない…」

何度その言葉を使って

自分自身を責めた事か…


海野が心配して居た通り、

次の日から大阪府警は

一斉にマスコミから

叩かれ出した。


ある評論家は


「警察官が発砲して、

なおかつ

犯人の両眼をくり抜くなんて、

やり過ぎ以外の何ものでもない。

そんな事が許されて良いはずがない。

まったくもって

常軌を逸している!

其れは殉職された

海野警察官一人の

問題で、

済まされる事ではない!」

と、捲し立てた。

言っている事は正論である。


テレビの情報番組は、

海野警察官プラス

警察全体を

非難し出したのだ。


世間には警察官の

捜査ミスで、

無実の人を逮捕してしまい、

後日

誤りと分かり、

釈放すると言うケースもある。

間違われた方は

「冗談じゃない」と烈火の如く

怒り、憤りを感じる。


警察は

ただただ謝りに徹して

頭を下げる事しか出来ない。


中には警察官の謝り方が足らずに

相手の方が憤慨して居る

ケースもある。


マスコミはそういった事も踏まえて

報道して居るのだが…

ただ、

時間が経つにつれて

被害者の

女性の事よりも、

警察官の行動とは如何なるものなのか!

と、言う様な報道に

片寄だしてしまい、

世の中の女性達から


「おやぁ…?どうゆう事…?

女性を

護ってくれると言う様な、

提案的な報道はないの…?

其れに二人の犯人には、

他にも余罪があるとか…?

亡くなられた警察官は、

襲われた女性のカタキを取って

くださったんでしょ…?」


と首を傾げさせてしまったのである。

女性の「おや〜??」を、

ほとんどのマスコミが

気付けなかった。


海野が所属して居た警察所長は

当然の事ながら、

大阪府警のトップまでもが

記者会見の席上で、

テレビカメラに向かって

深々と頭を下げている。


幽霊の海野は、

会場の片隅で首をうなだれ


「俺はホンマに

後先考えへんアホや…

自分の命が終わる事で

頭に血が上ってしもて

上司、先輩、同僚

そして後輩までに

迷惑をかけてしもた。

全部…俺のせいや」


海野の

反省の言葉や

後悔の涙は

警察やマスコミに届く訳もなく、

評論家の言葉を交えながら

更に、

日本全体の警察が叩かれる

羽目になってしまった。


マスコミのマイクは

無差別に海野の同僚達にも向けられた。


唇を噛み締め

一言も発さない同僚達…

海野は、

同僚の前に立ち

頭を下げて回ったが、

そんな

海野の姿は誰にも見えない。


ところが、

事件から3日目の夜、

事態が大きく動いたのだ。


被害にあった女性が、

マスコミにではなく、

自らがSNSに画像を

投稿したのだ。


映像は

始めに全裸に近い状態の

自分の姿、

顔は叩かれた為に

腫れ上がり、

唇を切ってしまっているので

アゴは血まみれである。

犯人は

こんな事をした後に

女性を犯したのだ。


斜め下には

腹部と胸部を刺されている

二人の警察官が

倒れて居る。


犯人達の捨て台詞も

ちゃんと声が入っている。


海野警察官が震えながら

立ち上がると


「俺は…助からへんやろなぁ…

せめて、アイツらが

二度と…女性を襲えん

様にせな…」

海野警察官は

直ぐに銃を構え

二人の犯人の膝を

撃ち抜いた。


悲鳴を上げて倒れ込む犯人…

海野は更に

先輩の警察官の銃を取り、

犯人の近くまで行き、

両ひじを撃ち抜いた。


そして

犯人からの報復宣言!

海野はそれを受けて、

今度は犯人の上に

馬乗りになり

両眼をくり抜き…

銃のグリップ部分で

眼球を潰した。


そして最後に

倒れて居る先輩に向かい…


「江藤先輩…今まで…

…ありがとう…ございました…」


そう言いながら

口から血を流し…

倒れて行った。


遠くから聴こえる

パトカーと

救急車のサイレンの音…

先輩警察官の

「…海野…頼む…返事をしてく…」

と、言う声。


被害者女性は泣きながら

メッセージを打ち込んだ。


「…お巡りさん…海野さん…

ありがとうございます…

これから先…

アイツらの目に脅えずに

生きて行けます…

海野さんは

私にとってのヒーローです…」


そう書き終わった後にまた

女性の泣き声が入り…

その後に

パトカー、救急車の到着。

駆け寄る警察官、救急隊…

海野警察官の死亡確認…

泣き崩れる同僚達の姿…


その後に一回画面が止まり、

女性の声が…


「次の日に、

マスコミの人達から

なんで遅い時間に歩いて居たのかと

言われました。

何も好きで残業をしてる訳では

有りません…」


そこで動画は終わっている。

この映像を何百万の人が観てしまった。


「えっ〜何だよこの犯人!クソじゃん!」


「海野って言う警察官カッケーじゃん!」


「いやいや海野さんって凄くね!

ヒーローじゃね!」


この動画は、

シマモトと彼女の共同作業で有るが、

彼女はその事を

「私…いつの間に動画を撮ったんだろう?

真ん中辺りからは

覚えているけど、

初めの方は

覚えてない…

落とした時に…スイッチが

勝手に入ったのかしら?」


シマモトの粋なサプライズである。


マスコミの不作法な取材が

被害者女性の心を

傷つけていたのだ。


世論はその動画によって

一瞬にして

ひっくり返った。


警察にではなく、

マスコミがネットで

叩かれ出したのだ、

とくに

「警察官から銃を取り上げた方が

いいんじゃないか、

怖くてしょうがないよ!」

そう言っていた評論家達は、

その日から

テレビに出なく成った。


しかし事態は

其れだけでは収まらず、

「マスコミは、警察を悪者にしすぎ!」


「マスコミはテレビ業界から消えろ」


「テレビ局はドラマだけで良い」


などと言われ出し、

もう収集が付かなくなって

しまった。


更に、今まで二人の犯人から

暴行を受けた被害者の女性達が

次から次からSNSに

投稿し出したのだ。


其れでもマスコミは鷹を括っていた。

内輪だけの会議で…


「…まぁ…ネットに上がった事なんて、

時間がある程度経てば、

世間なんて言うモノは

直ぐに忘れますよ。

またマスコミに

擦り寄って来るでしょ…

お気楽な民衆は

噂話が好きですから」


しかし、

それは大きな見当違いである。

民衆が好きなのは、

より真実に近い話しが好きなのだ。


スポンサーである大手企業は、

会社のイメージダウンを恐れて、

報道番組から

一斉に手を引き出した。


代わりに台頭して来たのは

ドラマだった。

しかし、

急にドラマ番組の数が

追い付く訳も無く…

まさかの再放送で

歯抜け状態の時間帯を埋めると言う

異常事態と成ってしまった。


面白い事に、

此処ぞとばかりに

年配の視聴者層から

「時代劇をもっと増やしてよ!」

などと言う意見が

飛び出してしまった事が、

いささか笑いを誘う事と成った。


もうこう成って来ると

警察が悪いとか、怖いとか、

そんな意見は完全に

吹き飛んでしまった。


亡くなった海野は一夜にして

ヒーローに祭り上げられ、

警察官に対しての信頼度も

一気に上がる事と成った。


初めから海野警察官の事を擁護し、

なおかつ被害者女性に

救いの言葉をおくっていた

数少ないワイドショーと、

報道番組だけは

新聞のテレビ欄に残っているが、

その他の番組は、

残念ながら、

一斉に消えて無くなる事に成った。


海野は胸を撫で下ろしながら、

自分が所属して居た

警察所に向かった。


誰の顔にも笑顔が戻っている。

海野は順番に皆んなの顔を見回し、

そして…


「この度は本当に

申し訳ありませんでした。

あの世に行きます。

…皆さん…

お体にはくれぐれも

無理をされませんように…

お元気で…

さようなら…」


そう言って

深々と頭を下げ、

その場から

ゆっくりと消えて行った。


あの世に上がって来た海野を、

シマモトが、利秋が、

そして新しく友達に成った

ノボルとフサエが

出迎えてくれたのだ。


「海さん…気持ちの整理が

ついたんですね?」


シマモトの問いかけに、

海野は微笑みながら


「被害者の女性の方に

助けて頂きました、

本当に助かりました。

私の軽率な行動で

警察全体の信用を落として

しまい、

もう、生きた心地がしませんでした。

って、私もう死んじゃって

幽霊なんですけどね!」


利秋は吹き出しながら


「海さん凄い、

一人でボケとツッコミが

出来るんでね!」


すると海野は頭を摩りながら


「はい、大阪人のサガですね、

人に話す限りは

笑って貰いたい!

そう言った気持ちがありまして」


海野のユーモアは最高である。


ノボルとフサエも嬉しそうに

笑って居る。


二人はこの後に、

昔、新婚旅行で行った

九州に

行く事に成っている。


フサエが

「ノボルさん、何だか胸がドキドキする!」

と、言えば

ノボルはフサエを抱きしめ


「今夜から君を寝かせないよ!」

と、言った。

かなり古臭い言い方である。

しかし

フサエは頬を赤く染め


「もうやだ〜ノボルさんったら!」

そう言ってモジモジして居る。


良いではないか!

84歳だった夫婦が、

40歳に成ったのだ。

きっと感情がたかぶり、

お互いを

求め合って居るのだろう。

何でもすれば良いではないか。

あんな事や、

こんな事、

どうぞ、いっぱいやって下さい!

大ベテランの

夫婦なんですから。


3人はそう思いながら、

新婚旅行に出かけて行く

ノボルとフサエを見送った。




《 24…嫌ですよ 》



海野は、

ノボルとフサエを見送りながら、

内心、

腹の底から羨ましかった。


(…愛し合うと言うのは…

あの様な御夫婦の事を

言うんだろうなぁ、

良いなぁ…

理想だなぁ。

独り者の俺には関係ないか)


そんな事を思っている時に、

シマモトと利秋の後ろに、

一人の女性が

立っている事に気が付いた。


(えっ?誰?…いつの間に…?)


海野が小さく首を傾げていると

女性は

右手で口元を隠しながら

小さく

笑って居る様に見えた。

海野の顔は一気に赤く成り


「えっ〜誰なの?

何だか恥ずかしいなぁ…」


海野はその様に

心の中で思ったつもりだったが、

やっぱり

口から漏れていた。


海野の声を聴いたゆかりは、

思わず

口元から手を離した。


すると海野が更に、


「えっ〜なに、

スっごく綺麗な女性なんですけど!

こんな美人見た事がないよ!

あっ〜どうしよう

胸がドキドキしてるよ、

一目惚れだよ!

どうすれば良いんだよ、

…あぁ…俺がカッコいい男ならなぁ…

いま直ぐにでも

お嬢さん、

僕と結婚して下さい

って言うんだけど。

見た目の悪い俺が言ったら

犯罪になるんだよなぁ…

でも、綺麗な女性だなぁ、

本当に可愛いなぁ…

お嬢さん、

僕と結婚して下さい!

もう何回言ってるんだよ俺は、

無理に決まってるだろう!

すみませんお嬢さん、

嘘ですよ、

ごめんなさいね。

どうか素敵な男性と、

お幸せに成って下さい」


そう言って

寂しげに

ゆかりの顔を見つめている。


しかし、

ストレートに

告白されて居る

ゆかりは

たまったものでは無い。

今まで男性と付き合ったと言えば

騙された時だけである。

ましてや

綺麗だとか、可愛いとか、

美人などと言う

キーワードを言って貰った事など

一度もないのだ。


だから今のゆかりは、

顔を真っ赤に染めて

下を向く事しか

出来なかった。


しかし、

海野自身は

心の中で

思っているつもりなので、

ゆかりの赤面の意味が分からない。

だから


「まいったなぁ…

赤く成って下を向いちゃったよ、

怒っているのかなぁ?

俺が

見つめているから気分が悪く

成ったんだな、

すみません、

なんかゴメンなさいね。

俺…

下を向いてますね」


何だか本当に不器用で、

せつない男である。


シマモトと利秋が事前に

ゆかりを呼んで居たのだ。


海野にゆかりを紹介して、

四人で

たわいの無い話しをして、

次の約束を取り付けて…

徐々に二人の距離が

縮まって行く、

そんな御節介をするつもりだったのだ。


ところが、

海野からの

いきなりの告白!

自分の身体を上手く

コントロール出来ないのだから

しょうがない。


シマモトは、

海野とゆかりを交互に見ながら…


(もう〜絶対に夫婦として上手くいくよ!)

そう思いながら

利秋の耳元で


「予定を変更して、

一気に話を進めましょう」

と提案した。

利秋は

「了解しました!」

そう小さな声で返事をすると、


今度は自分が海野の耳元に

近づき


「海さんは生前、

女性に告白とかしなかったの?」

と尋ねた。


すると海野は小さな声で


「利さん…告白さえし無ければ

昨夜見たドラマの話や、

お笑い番組の話し何かが

普通に出来るんですよ。

でも、

たとえ一回でも

好きです!

みたいな感じの話をしたら、

口をきいて貰えなくなり、

なおかつ

無視をされるんですよ。

それって、

結構こたえるんですよ。


学生時代に三回

経験が有るんで、

警察官に成ってからは、

もうなんか…

告白そのものが怖く成って」


「海さんは社会人になってから、

ズッとそうやって

告白もしないで

自分を

抑えて来たの?」


「いや…心の中で告白はするんですけど、

まぁ…相手には永遠に届か無い

告白ですね」


「海さん、其れは

告白とは言いませんよ、

あちらに居る女性は

ゆかりさんと言います、

33歳で事故に遭い、

最近

亡くなられたばかりの方です。

実家のズルイ親兄妹に

毎月仕送りをする為に

必死で働いて、

苦労ばっかりして、

可愛い服を買う事も出来ず、

友達も出来ず、

結婚も出来ませんでした。

海さん!

一目惚れしたのなら

告白してみませんか?」


「えっ?利さん!

なんで

俺が一目惚れしたって

知ってるんですか?」


「だって海さん、

口に出して言うもんだから、

ここに居る三人は知ってますよ」


「えっ?俺って口に出して

言ってました?

あの方…

ゆかりさん…も

知ってるんですか?」


「はい、めちゃくちゃ聴いてましたよ!」


「えっ〜…じゃあもう

口をきいて

貰えないですね、

俺って本当にダメな奴だなぁ…」


そう言って、

頭をさすりながら下を向くと…

海野の視界に

ゆかりの足の、

つま先が入って来た。


海野がゆっくりと視線を上げると、

目に涙を浮かべながら

ゆかりが

微笑んでいるではないか…


海野は真っ赤な顔で…


「あの!…すみません…

はじめて会った女性に

いきなり

プ…プロポーズするなんて…

その、ドン引きですよね、

馬鹿野郎ですよね…

本当にごめんなさい…

でも…

ダメもとで…

もう一度言わせて下さい、

私と…結婚して頂けませんか?

必ず、幸せにします!」


そう言いながら海野は頭を

深々と下げた。


すると、ゆかりから

こんな言葉がかけられた。


「海野さん、

次に生まれ変わっても、

私を…奥さんにして頂けますか?」


海野は顔を上げ


「えっ?はい!もちろん喜んで、

此方こそ

宜しくお願いします!」


すると

ゆかりは、

更に前に進んだ。

二人の足のつま先が当たった。

ゆかりは

背の高い海野を見上げながら


「私は甘えっ子なんです。

何時も私の側に居て欲しいです。

頻繁に抱きしめて欲しいです。

貴方がイスに座る時、

私を膝の上に抱っこして

「ゆかり愛してるよ」

そう言って、

キスをして欲しいです。

背中もかいて欲しいです。

嫌な顔をしたら

嫌ですよ…

私…泣き出しますよ。

一回泣くと

なかなか止まりませんよ。

こんな面倒くさい女ですけど…

嫌じゃないですか?」


海野はこの段階で

既に泣き出している。


(ゆかりさんは、

たった一人で、

どれだけ…

淋しい思いをして来たんだろう…)

そう思うと、

涙が止まらなく成って

しまったのである。


だから…

いきなり

ゆかりを強く抱きしめ


「…これくらいの力で良いですか?

抱きしめます!

いっぱい

抱きしめます!

ゆかりさんが嫌がっても、

いっぱい抱きしめます!

膝の上に抱っこします。

なんなら何時も

ゆかりさんを

抱っこしたり、

おんぶして歩きます。

俺、けっこう力が強いですから、

大丈夫なんです。

キスもいっぱいします…

愛してる!

大好きって、

いっぱい言います…

ひつこい位に

いっぱい言います…

ゆかりさん…

ズッと大事にします!

結婚して頂けますか?」


「こんな私で良いんですか?」


「はい!とても良いです。

こんなデカイ男で…良いですか?」


「はい!海野さんに…

一目惚れしてしまったんです!」


そう言って

海野の胸の中に顔を埋め…

海野にしがみ付いた。


183cmの海野に対して、

150cmのゆかり。


シマモトと利秋は

満面の笑みを浮かべて

親指を立て合った。


真面目で、強くて、優しくて、

周りに対して

常に気配りの出来る

海野。


我慢強くて、優しくて、

甘えっ子で…

常に大好きな男性から

愛されたいと願っていた

ゆかり。


とっても

お似合いの二人であり、

絶対に幸せに成って貰いたい

二人である。

御節介な

シマモトと利秋は、

心の底からそう思った。




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