●前回のあらすじ●
昔の友達に囲まれて盛り上がってしまう龍斗。
その間、暇になった歩美は、ミノルママの『自信を持たせてあげる』と言う言葉を信じて、店の奥で化粧や綺麗なドレスを着てみるが。
龍斗に褒められたのは……胸の大きさのみ!!
そんなデリカシーのない龍斗にはチョップ!!
引き摺られながらボックス席に連れていかれた龍斗は、さっきのチョップのせいか、やや不機嫌な様子。
その心境を見事に表すかの様にドカッとボックス席に座る。
―――そんなにするほど不機嫌なの?
「ねぇ、話、始めたいんだけど」
「どぉ~ぞぉ~お好きに」
―――正解、ヤッパリ不機嫌だ。
でも、さっきのチョップって、そんなに強くしなかったんだけどなぁ。
一応は褒めてくれた分だけは、手加減したつもりなんだけどなぁ……
「なに怒ってんのよ?あんたが悪いんでしょ」
「へいへい、全~部、あっしが悪いんでげすよ」
「もぅ」
「だぁ~ってよぉ……」
「だってなによ?」
「……なにもない」
反論してくるから。
接近して言い分を聞こうとしたら、顔を赤くしている。
なんなんだろうか、コイツは?
龍斗って、ホントなんか良くわかんないや。
でもさ、話が進まないのもなんだし、ちょっと謝ッとこ。
「もぉチョップして、ごめんって」
「いっ、良いよ。もぉ怒ってないよ……んで、どうしたんだ?」
龍斗は、昔から感情のコントロールが上手い。
今しがた私が謝った事で、もう先程の怒りは収まってる。
もう不機嫌な様子なんてどこにもないし……
一体、何所をどうやったら、あんなに上手く感情がコントロール出来るのだろうか?
私なんか一回怒ったら最後、そう簡単には、機嫌が直らないのにさぁ。
「ほんとに、もう怒ってない?」
「はぁ……あのなぁ、いつまでも俺が怒ってたら、全く話が進まないだろに。もう、さっきの話は終わり。……俺も悪かったしな、んで、どうしたよ?」
「……うん、実はね」
私は、やや煙草のヤニがこびり付いたテーブルの上に、那美から預かった綺麗に包装されたプレゼントを置いた。
「うん?なんだよこれ?」
「はい……これも」
そう言って、可愛らしいキャラクターが描かれた手紙を渡す。
「だからさぁ、俺にゃあ、全く話が見えないんだけど」
「ちょっと待ってよ。今、説明するから……」
「おぉ」
「実はね、那美がさぁ」
「うん、那美?ちょ、ちょっと待て、那美って、歩美の友達の高井田の事か?」
「そぅ……」
「はぁ、大体想像はつくけど……それで?」
「なんでか知らないけど、アンタの事が好きなんだって」
「あっそっ」
なにその態度?
「『あっそっ』てなによ。那美、真剣なんだから」
「あ~~~そっ」
「なっ!!なんで、そんな投げ遣りな態度なのよ。那美だよ。一年男子に絶大な人気を誇る那美だよ」
「はぁ~……悪いんだけどさぁ。全く、その話に興味ねぇわ」
「へっ?はっ、はぁ~~~?うっ、嘘だよ……そんなの嘘だよ。そんな筈無いでしょ。あんな可愛い子に告白されて、嫌な訳無いでしょ」
龍斗の反応は、異常なまでに興味が無い事を示している。
まるで『ブス』な子に告白されたみたいな反応だ。
「なっ、那美の何が気に入らないのよ?」
「別に~~~。気に入るとか、気に入らないとか以前に、興味が無い。ただそれだけ」
「なんでよ?那美良い子だよ」
「あんなぁ。オマエに、イチイチそんな事を言われなくても知っとるわ。確かに、オマエの言う通り、高井田は可愛いし、良い奴だ。……だからと言って、男子全員が全員、アイツが好きな訳でもないだろに。俺も、その1人だったってだけの話だよ」
「でっ、でもさぁ。そんなの付き合ってみないと解んないじゃん」
「あぁもぉメンドクセェな、オマエ。じゃあ聞くけどよぉ、オマエさぁ、好きでも無いのに付き合って楽しいか?」
「楽しいか?楽しく無いか?は、お互い歩み寄れば良いだけの話じゃないの?」
「まぁな。確かに、オマエの言い分も一理あるかもしんないけどよぉ。俺は嫌だな、そう言うの。……それにな。高井田は、俺にとっても小学校からの友達だ。そんな適当な気持ちで付き合えるかってぇ~の」
「でも……それじゃあ、那美が、あんまりにも可哀想だよ」
龍斗は頭を掻きながら、次の言葉を模索して、瞬時に言葉を返してくる。
「はぁ……じゃあさっ、再度オマエに聞くけどよぉ。俺の気持ちは、どうでも良いのかよ?俺の気持ちは無視か?」
「それはそうだけど……」
「そうやってな。お節介するのも結構だけどな。これは、高井田と俺の話だ。オマエ、ちょっと入り込みすぎてないか?」
「……」
龍斗の言っている事は正しい。
私は知らず知らずの内。
昨日の奈々との事があって、何時の間にか意地になっていたのかも知れない。
奈々の言ったセリフが心に沁みる。
『私は警告したよ』
彼女の言葉通り『警告』を無視した私には、それ相応の罰が降りたみたいだ。
「……ごめん、龍斗」
「ハハッ、なに神妙な顔してんだよ、オマエは。もう良いよ。この件は、俺が何とかするから、オマエはもぉ気にすんな」
「でも、それじゃあ……」
「良いから、良いから。それにさぁ。オマエだって、別に嫌がらせで、こんな事した訳じゃないだろうしな。高井田の事を、本気で想ってしたんだからさ。まぁ、結果はどうあれ、これは、別に悪い事じゃない」
「龍斗……」
涙がポロポロと零れ落ちてきた。
「泣くなって~の。心配しなくても、ちゃんとするからさ」
「ありがと……ごめんね」
「ったく、人の気の知らないで……」
ボソッと龍斗が何か言ったみたいだけど、キッチリとは聞き取れなかった。
「なに?」
「なんでもない。『泣く歩美には誰も勝てんな』って言っただけだよ……っと、そうと決まれば。膳は急げって言うし。取り敢えず、学校にいかねぇとな」
「うん」
「んじゃまぁ、俺は先に学校に行くから。オマエも、俺のチャリで、後から来いよ」
「うん」
「それと……ちゃんと化粧落とせよ。そのまま来たんじゃ、生徒指導に怒られっからな」
「……うん」
この日、私は、少し龍斗から遅れて、午後から授業に出る事になった。
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