【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
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歩美の誕生日に集いし者達

公開日時: 2021年8月6日(金) 00:20
文字数:3,239

 程なくして、井上邸が見えて来た。

いつの間にか改築したのか、以前よりも、少しだが家が大きくなっている様な気がする。


それを見た俺は……オイオイ、歩美って、家が改築出来る位に稼いでるのか?

すげぇな。

なんか久しぶりなのと、家が、やけにデカクなった事に、無駄な緊張が走る。


だが、この緊張に関しては、即座に却下する。

理由はシンプルに、家の前で、ズッとまどろんでいても仕方が無いからだ。


だからチャリンコを、彼女の家の前に止めて、呼び鈴を押す。



「は~い。どなた~?」


おばさんの声だ。

何故だか、この声も久し振りに聞いたのかして懐かしく感じる。


でも、いつも鍵を開けっ放しにして、歩美に怒られていたイメージのおばさんが、インタ-ホン越しに話す事にすら違和感を感じ得ずにはいられなかった。


―――また俺は、少しの不安が過った。


あいつが『芸能人』になってから、この辺に、変な奴でも増えたのかと心配になる。



「御無沙汰してま~す、氷村です」


インターホン越しに返事を返す。



「あら、龍斗君、早かったわね。開いてるわよ。ど~ぞ」


オイオイ、開いてるのかよ!!


……俺の心配した分を返して欲しいもんだ。



まぁ気を取り直して……



「お邪魔しま~す」


勝手知ったる他人の家。

前と変らない様に、いつも通り、ズカズカと家に上がる。


そこで、おばさんが出迎えてくれた。



「もぅ久し振りじゃない、龍斗君。アンタ、また男前になったんじゃない?」


おばちゃんは、相変わらずの俺のファンらしい。


……最高に見る目がある。



「そうかなあ。自覚は無いけど俺、元々、男前だし……それにオバちゃんの方こそ、どうしたの?前にも増して綺麗になってる」


なんて、歩美と一緒に通学していた時のノリで、おばちゃんと話す。


実は、そんな事を言ってるが、此処のおばちゃんって、滅茶苦茶若いんだよな。

顔も可愛いし、下手すりゃ歩美の姉妹とか言えば10代でも通るんじゃねぇのか?



「はははは……アンタは、いつまでも変わらない子ねぇ」


―――勿論、聞いての通り、喋らなければの話だが……


更に、言い終えると同時に、左手で自分の口を押さえて、右手で俺の肩口に『パシッ!!』と平手を喰らわせる。


これぞ関西のオバチャン・スタイルだ。


それにしても……この肩から脳髄に伝わって来るパンチ力は、どうやらオバサンからの遺伝らしい。



―――あいつと同じか。

いや、もしくは、それ以上に痛みが突き刺さる。


流石元祖、威力も、蓄積率もハンパねぇ!!


そうやって、玄関先で少しの間おばさんと歓談していると、奥から歩美が出て来た。



「なにそんな所で、人のお母さんとじゃれあってんのよ……早く、上がりなさいよ」

「おっ、そうだな、お邪魔するよ~」

「何処の飲み屋の客よ」


言いながら、歩美は奥に進んで行く。


その後ろ姿には、花束を抱き締めているのが良くわかる。


―――はは~ん、さてはコイツ。

俺様の愛情たっぷりなプレゼントのお礼を言う、タイミングを完全に逃したな。



「なぁ、ところで歩美。花束届いたか?」

「あっ……うん」


赤らめた顔で振り返って、可愛い反応をした。



「ほら、歩美も、一応、女の子だから『花束』……喜ぶかなって思ってさ」

「えっ……あっ……ありがとう。でも……アンタは、いつも一言余計なのよ」

「まぁまぁ、こんな所で立ち話もなんだし、龍斗君あがったら、どう?」


俺が見蕩れてるのを悟った様に、おばさんは部屋に案内してくれた。



ただなぁ……そうやってズカズカと上がって行ってはいるんだが、どうにも奥から、聞き慣れた2つの声が聞き取れるんだよなぁ。


……なにか、イヤナヨカンガスル!!のは何故なんだろう?


タラタラと、本気の嫌な冷汗が出て来た。


そして、意を決して、部屋に入ってみると。

案の定、そこは『パラダイス』……ならぬ『デス&ヘル』が待ち構えていた。



「よう、タツじゃないか。なんだオマエ、豪く遅かったな」


なっ!!オ~ヤ~ジ~!!

テメェなんで、此処に居やがるんだ!!


しかもそれ、俺の買ってきた新品のシャツじゃねぇか!!


なに勝手に着てるんだよ!!


ってか、なんでもぅ出来上がってるんだよ、オマエは!!

少しは自重しろ!!



「おぉ龍坊、何してた?また、どっかで悪さでもしてたのか?俺を待たすなんて良い度胸だな」


げっ!!カメラマンのサ~エ~キ~ジジィ、オマエもか!!


だから、なんで始まる前から出来上がるんだオマエラは……

それと、その無駄にデカイバックには何が入ってんだ?


変な事を考えんじゃねぇぞ、糞ジジィ!!



「初めましてかな?龍斗さん」


…~…~…~~~??!!


……誰?


……いや、マジで誰だ?

全く見た事もない知らない女の子がいるぞ。


……ダレダコイツハ?


それにしても、何処かで見た様な気がしないでもないな。

何所だっけ?


まぁいいか。

どうせ歩美の友達かなんかってオチだろ。



「あぁ~、ひど~い。繭の事を憶えてないんだぁ~。私、あゆちゃんと一緒に『国民性豊かな美少女コンテスト』に出てた『白石繭』ですよぉ~」


はい?『国民性豊かな美少女コンテスト』に出てた『白石繭』さんねぇ?


??…………はて、ダレダっけ?


記憶にねぇなぁ。


だったら、少しあの時の事を思い出してみるか……


・・・・・・


……あれ、ワカンネ?

でも、解らないなりに、思い出したフリだけでもしとこ。


こんなツマラナイ事で、歩美に怒られんのも嫌だし。



「あっ!!あぁ~~~!!」


取り敢えず、この程度の反応で良いだろう。


別に、俺と仲の良い友達でもないんだから、この程度で十分だろ。



「思い出してくれましたぁ~♪でも、なんかショック~。『知名度』低いのかなぁ~私ってば」

「龍ぅ~斗ぉ~!!あんたねぇ、繭ちゃんはコンテストで優勝した子だよ!!わざわざ私の誕生日だから来てくれたのに、失礼な奴!!」


ハハッ、ありがとう。

実にナイス・フォローだ、歩美。

君は、なんて良い彼女なんだ!!


惚れ直したぞ。


歩美のお陰で、記憶の彼方から、漸く、彼女の事を思い出す事が出来た。


あの、まぁまぁ可愛いけど、どこか『華の無い子』って、俺が言ってた子だ。


しかしなんだ?

歩美と仲が良いのかコイツ?


まぁどうでも良いや、全然興味無いし。



「いやぁ~~。ごめん、ごめん。実は、あの時さぁ。ずぅ~と、歩美に付きっ切りだったから、他の子の事、全然知らなかったんだよ。いや~、こんな可愛い娘がいたなんて気付かなかった。そりゃあ、優勝するわ、繭ちゃん」

「本当ですかぁ~。繭、可愛いですかぁ~?」


クッソ~~!!

面倒臭い、ヤナ質問して来るなぁコイツ!!


これじゃあ『あっち立てばこっち立たず』じゃないか。


しかも、此処は歩美の家。

当然の事ながら、歩美の両親もいる。


そんな状況下で、俺に何を求めてんだろコイツは?

馬鹿じゃないのか?


もう少し空気ってものを読めよな。



「まぁまぁ繭ちゃん。あんたの方が、ウチの馬鹿娘なんかより、ズゥ~と可愛いわよ」

「ほんとですか。おばさま、うれしい~♪」


喜んどる。


アホなの?

馬鹿なの?

空気読めないの?


大体、正直に言えば、お前なんか、歩美の足元はおろか、地面にも到達しておらん地底人だよ。


なんて、腹立たしかったので言い過ぎてみる。


それにしても、特筆すべきは井上親子だ。

俺も含めて、馬鹿の扱いにも慣れてるな。


素晴らしい。



「……じゃあ、時間も、そろそろ良い頃合だし。誕生会を始めたら、どうだ、母さん」


少し不機嫌そうに、誕生会の開始を促す歩美の父親。



「おじさん、ご無沙汰してます」


歩美の父さんは、なんかカッコイイなぁ。


親としての威厳も有るし、誠実そうだし。

当たり前なのだが、つい挨拶するのにも丁寧になる。



「あぁ、久し振りだね、龍斗君。元気にしてたかい?」

「お陰様で、なんとかやってます。おじさんは、どうですか?」

「元気でやってるよ。……まあ、それはそれとして、時間も時間だから始めようか?」


やっぱり、歩美のお父さんは理想の親父だ。


落ち着いてて、渋さがあるし、兎に角、カッコイイ。


に、くらべて、ウチのは……


……はぁあぁぁぁ~~~、誰がどう見ても、只の酔っ払い。


死んじまえ!!

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