●前回のおさらい●
親友である高井田那美に、幼馴染の氷村龍斗と付き合ってるのか?と聞かれ。
照れ隠しと、付き合っていない事実が重なり合い、龍斗の悪口を言って、その場を切り抜けようとした歩美だったが。
言葉が過ぎてしまい、那美に、少しだけ怒られてしまう。
ただそこで、もう一人の親友である奈々のフォローが入り事なきを得るが。
部室の鍵を職員室に返しに行った奈々が居ない間に、馬鹿な歩美は、那美から『龍斗に渡して欲しい物がある』と言われ、その受け渡しを受諾してしまう。
更に、そこに……
そんな心境の時に限って、奇妙な現象は起こるもの。
近くの神社の方から、用も無いのに、アイツが自転車に跨ってやって来た。
「よっ、高井田。今日は、もうクラブ終わりか?」
敢えて、私を完全に無視する様に、アイツは那美に話しかける。
そぅそぅ、コイツは、いつも、そう言う奴なんだよね。
いつも私だけ、こんな扱いをするんだよね。
「うっ、うん。いっ、今終わったところ……氷村君は?」
「俺?……俺は、ちょっくら親父の用事で神社までな」
「そうなんだぁ。いつも大変だね」
「まぁね。親に食わして貰ってる内は、肩身の狭い身分なんでね」
「偉いね」
「そっかぁ~?」
なんか2人の空間が出来てるみたいで、中に入り辛い。
それに、さっきの那美との話もあるだけに邪魔するのも悪いしなぁ。
―――私、何やってんだろ?
みっともないなぁ。
そんな折、奈々が、漸く鍵を返して校門に姿を現した。
そんで、この光景を見るなり、顔が『あっちゃ~』って表情になる。
「おっ?1人足りねぇと思ったら、漸く、現れたな」
「氷村……アンタ、何やってんの?」
「メンドくせっ。高井田と同じ質問すんなよ。……親父の用事の帰りだよ」
「あっそ、じゃあ、さっさと帰れば……シッ、シッ」
「おっ?なんか、やけに辛辣だな。クラブでしごかれたか?」
「大きなお世話。早く帰れ」
「そっかそっか。悪ぃ悪ぃ。お疲れの所申し訳ないこって。んじゃあまぁ、俺帰るわ」
「帰れ帰れ。さっさと帰れ」
「おっ……じゃあな」
龍斗は笑顔を振り撒きながら、自転車を走らせ始めた。
結局、私には一言も懸けずに……
それでも、それを見た奈々は『はぁ~』と安堵の溜息をついた。
でも、その安堵は、あっけない程、直ぐに打ち消される。
アイツは何かを思い出したみたいに、自転車を反転させて戻ってきた。
「な~に?まだなんか様なの?」
「まぁ、そう邪険にすんなって。ほれ、お前等に、これやるよ」
そう言って、私達3人に、何かを放り投げてきた。
「これ、何よ?」
「見ての通りの『必勝祈願のお守り』……大会近いんだろ。モノの序に、お参りして来てやったんだよ」
そう良いながら、悪戯っぽく笑ってよこした。
私も、那美も、奈々も、それを見て顔が赤くなった。
私達、中学生女子は情けない事に。
こんなワザとらしいチープな贈り物でも、過剰に反応してしまうものだ。
何所で大会の事を知ったのかは知らないが、アイツは、そう言った事には、異常なまでに敏感だ。
ほんとに、この男だけは……
「こっ、こんなもんで勝てるんだったら、私は、毎日でも、あの神社に通うつぅ~の」
「まぁまぁそう言うなって、そのお守りには、俺の愛情注がれてるんだから」
「だから?だからなによ?」
「だからだな。俺の愛情一杯のお守りにはな。とんでもなく『何かしろの効果』が有るって噂なんだぞっと」
「そっ、それって、どっ、どんな効果が有るって言うのよ?」
「うん?そんなの決まってるだろ……『気休め』って効果だよ」
「……気休め?」
「そぅ、気休め。所詮、お守りなんざ気休め程度のもの。だったら、その気休めを上手く使うのが必勝法ってもんだろ。考えてもみ。大会中に、そんなツマンナイ事を思い出したら笑えるだろ。それがリラックス効果を生み出す気休めって効果だよ。……まぁ勿論、効果は未知数だけどな」
「ぷっ!!なにそれ?アンタ馬鹿じゃないの?ワザワザその気休めを言いに来たって訳?」
「まっ、そう言うこった……んじゃまぁ、そう言うこって、用事途中で忙しい俺は、お暇するわ。大会頑張れよ」
「大きなお世話だつぅの」
そう言いながらも、頬を染めたままの奈々は。
あの馬鹿の渡したお守りを、大事そうに鞄にしまっている。
勿論、那美に至っては、それ以上に、大事そうに握り締めている。
はぁ~、それにしても、アイツって、なんで、そう簡単に女の子の心に入ってくるのかなぁ?
さっきも言ったけど那美は、男子人気一番の女の子。
それに奈々だって、運動神経が良くって陸上大会じゃあ、いつも上位ランクに食い込む実力者。
その上、アッサリとした性格で、女子男子構わず人気も高い女の子。
そんな2人の心に、意とも簡単に入る……
イヤ、それだけじゃない。
アイツは上級生の女子にも人気が高い。
告白された数だけだったら、それこそ那美の比ではない。
それだけ聞いたら、男子が全員敵になり兼ねないんだけど。
アイツの人の良さと、気の利く性格で、それさえも許されてしまう。
多分、男子も『アイツにゃ勝てねぇ』と思ってるのか、仲良くした方が『得』なんて打算でもあるんだろうなぁ。
嫌だ。
嫌だ。
まぁアイツは、私には意地の悪い事ばっかりするけど『氷村嫌い』なんて話は聞いた事が無い。
結局アイツは、誰にとっても良い奴なんだろうなぁ。
それに引き換え私は……陸上大会じゃあ、大した成績も収めらないし、勉強もそこそこ。
顔も猫みたいな吊り目のせいで可愛っ毛の欠片も無い。
奈々の様に運動神経もなきゃ、那美ほど可愛い訳ではない。
私が幾ら好きだと言っても、アイツとじゃあ、明らかにバランスが悪すぎる。
少し気分が下に向く。
「……歩美!!歩美ってば」
「へっ?……あっ、うん……なに?」
「別に。那美がバスで帰るよ」
「えっ?……あっ、うん」
ボケッとしている内に時間が経っていた様だ。
反対車線のバスに乗った那美が、窓から手を振っている。
私は、ただそれに反応する様に、出来の悪い作り笑顔で手を振り返す。
***
彼女が去って、奈々と2人きりになった。
少し沈黙が有った後、奈々が怪訝な顔をしながら口を開く。
「ねぇ、歩美さぁ」
「んっ?なに?」
「少し気になったんだけど、その包みは何?」
「あぁこれ?那美が、龍斗に渡して欲しいんだってさ」
奈々は、再び『あちゃ~』って顔をする。
ただ今度は、少しだけ呆れた様子も見受けられる。
「あのさぁ、歩美さぁ、ホント、それで良いの?」
「なにがよ?」
「なにがよって……もぉ~、那美、本気だよ」
「うん、そうだね、知ってる。あの子、小学生の時から龍斗の事が好きだしね」
「なら、尚更」
「まぁそうなんだけどさぁ。どう考えても、私じゃ龍斗と吊り合わないじゃない」
「なにそれ?そんな程度の理由で、氷村を諦めるって事?」
「まぁ……ね。それにさぁ、今のまま『幼馴染』って立ち位置も、そんなに悪くないしね。変に意識してるのがバレんのも、今更、格好悪いしさ」
「そっかっ……じゃあ、もう何も言わないけどさぁ。変に、私達の仲を拗らせるのだけはヤメテね」
「はぁ?なにそれ?どこをどうやったら、そんな話になるのよ?」
「あぁそう。そういうボケをかましちゃうんだ。……じゃあもぉ良いよ」
奈々は、ふてくされている様にも見えるが。
どちらかと言えば、私に態度に呆れ返っている方が、かなり大きく感じられる。
でもさぁ。
さっきから、何をそんなに呆れてるのか解らない。
何ともハッキリしない気持ちの悪い態度だ。
「なによ。気持ち悪いなぁ」
「私は、アンタの馬鹿さ加減にホトホト呆れてるのよ」
「だから、なにがさぁ?」
「アンタねぇ、本気で気付いて無いの?」
「だからね。何の事よ?」
「氷村の奴、間違いなく、アンタの事が好きだよ。私がアイツを諦めたのって、それが理由だもん」
はい?
読み終わったら、ポイントを付けましょう!