●前回のおさらい●
多くの謎を持ったまま、とうとう『思い出の最終日』に到達してしまった歩美ちゃん。
だが、思念体のままでは、なにも出来ない事実に焦りが生じ始める。
「どうしたら良いんだろ?」
何か、少し暖かいものに包まれながら、そう呟いた。
それでもまだ諦めきれず、私は思案する事をやめない。
先程も言った様に、今は、兎に角、時間がない。
そんな中でも、唯一救いが有るとすれば。
昨晩もう1人の私が、繭の家に行かなかった事ぐらいだろう。
もし、アイツの家に行ってしまっていたら最後。
それだけで、もう取り返しがつかない事になり兼ねない。
だからっと言って、これだけじゃあ、安心も出来無い。
もし、運命なんて物が存在するなら、恐らくは、そんな些細な事では、なにも揺るがないだろうから。
どこかで、採算を合わせて来る筈だ。
だとすれば……どうすれば良い?
私の思考が思いつく事。
それは、今日1日、龍斗を誰にも逢わせない事位だ。
でも……それは不可能。
何故なら、私には、この世界に於ける体がない。
幾ら思考をして所で所詮は、何の意味も持たない。
口惜しいが、それが現状。
そんな風に私は、1人で気焦りから。
少し体が熱くなってきたのを感じ、その少し暖かな物を払いのけた。
―――払い除けた?
体を持たない意識体の私が、一体、何を払い除けたと言うの?
目を見開いて、周囲を見回した。
2004年08月19日 AM06:50 井上邸
「なにこれ?……どう言う事?」
おかしな事に、それは見慣れた私の部屋。
今までの様なまどろんだ空間ではなく、ハッキリとした世界。
まるでその感覚は、1年と数ヶ月、全く感じられなかった自分の体が、そこに存在する様な感覚。
「……なんで?私が、私の体を奪ったとでも言うの?」
この辺は、良く解らない事では有るが。
恐らく思念体であった私が、意志の強さで、この世界の私を上回り、体を奪った。
そうとしか考えられない。
じゃあ、この体の本当の持ち主は、何所に行ってしまったの?
―――消えた?
―――私が、今まで居た場所に飛ばされた?
―――それとも、私が、その意思を飲み込んだ?
兎に角、解らない事ずくめだ。
かと言って、そこに集中ばかりもしていられない。
いつまでも悩んでいる暇なんか、何所にもない。
今は、私が知っている、過去の知識を使ってでも、何とかしなければいけない優先事項がある。
自分勝手な言い分かもしれないけど、今はソッチの方が優先すべき事だ。
きっと、もう1人の私も、それを望んでいる筈。
―――自分勝手な考えかも知れないが、今は、そう思い込むしかない。
覚悟を決めて行動する。
私には時間が無いので、着替えを早急に済ませ、下に降りていく。
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