3月7日 PM3:53 2-A教室
6時限目の授業が終わって放課後になった。
先程の事もあって、授業には一切合切身が入らず、ただただ時間だけが無駄に過ぎていった感覚だ。
それを証拠に、授業内容が書かれたノートには。
自分で書いたにも拘らず、訳の解らない絵や、変な事ばかり書いている。
―――龍斗の奴、上手くやってくれたかな?
勿論、こうやって、那美の件が気になってるのもあるんだけど。
実際の私は、彼女の事より、昨日の奈々との喧嘩の事が気になって仕方が無かった。
別に、那美の件が気にならない訳じゃないけど。
あの件に関しては、龍斗に任せておけばある程度大丈夫だろうという保証がある。
アイツは、なんだかんだ言ってても、いつも上手く話を纏めてくれるから……
だから今は、那美の件より、奈々の件の方が私の脳は気になっているらしい。
それにしても、昨日の件……なんであの子には、こうなる事を予想出来たんだろうか?
―――その辺については、謝り序に聞いてみよ。
私は意を決して、奈々に謝りに行く事にした。
3月7日 PM3:59 2-D教室
「あの、すみません。奈々居ますか?」
帰宅準備を終わらせて、家路に付こうとしている生徒を捕まえて聞いてみた。
「あ~、ちょっと待てよ。アイツなら、まだ居たと思うぞ……お~い、沢木、井上来てんぞぉ」
「あぁ、ちょっと待ってもらって」
「だそうだ」
「ありがと」
感謝の念を伝えると。
男子生徒は、何故か、顔を赤らめて足早に去って行く。
―――なんかあったのかな?
彼が去った後、2-Dの教室を覗き込んでみると。
奈々は、やけに、ゆったりとした動作で帰り支度をしていた。
あの様子じゃ……あんまり、私と話したくないんだろうな。
やっぱ、昨日の事、大分怒ってるんだろうな。
私は、教室内に入ろうかと思ったが。
足が上手く進んでくれなくって、結局、その場で奈々を待つ事にした。
『ガラッ』
「っで?何か用事?」
教室の扉に凭れていると、背後から奈々が声を掛けてきた。
しかも、かなり突き放した様な言い方だ。
「あっ、あの、きっ、昨日は、ごめん」
「それだけ?じゃあ、私行くね」
取り付く島も無い。
まるで私が、そこに居ないかの様に無視して何処かに行こうとする。
必死に、彼女の手は捕まえる。
「なに?」
「ごめん……本当に、ごめん」
「はぁ……もぅ、だから、あれ程『やめとけ』って言ったでしょ」
「ごめん」
「もう良いよ。怒ってない」
奈々は頭を掻きながら、少し微笑んでくれた。
「許してくれるの?」
「許すも何も、アンタも良かれと思ってやった事なんでしょ」
「そうだけどさぁ……結果、奈々の言う通りだった」
「だろうね。誰がどう見たって、氷村の奴は、那美には靡かない。……なんかさぁ、あんなに不器用な迄に一途な男ってカッコイイよね。ハハッ、何言ってんだろ。私も、やっぱ、まだ未練があるのかな」
「……奈々?」
「あぁ冗談。冗談」
奈々の顔は、一瞬、真剣だった様に思える。
けど、そんなにアイツって良い男かなぁ?
まぁ確かに、悪い男ではない事は、確かなんだけど……
『ガラッ!!』
そんな時に限って、必ずと言って良い程、アイツは空気を読まず現れる。
風船ガムを膨らましながら、2-Cから龍斗が現れた。
あれ?でも、龍斗ってB組じゃなかったっけ?
「よっ」
タイミングが最悪だったのか、奈々の顔が一気に紅潮していくのが解った。
それこそ夕焼けみたいだ。
さっき下手に、あんな事を言ってしまったから、気恥ずかしいのかな?
「氷村……」
「んっ?なにやってんだ?……あぁ、なるほどな。その構図からして、歩美が、沢木に怒られてんだな」
「ちがっ、違うってぇ~の」
「まぁさっ、歩美も悪気があってやったんじゃないんだから、勘弁してやってくれよ」
そう言って近づいて来て、奈々の頭を撫でる。
奈々は、何も言えず俯いているだけで、抵抗する気配は無い。
ほんと、この男だけは……
普通、この年代の女の子って、誰かに、こんな姿を見られたら恥ずかしいから、どんなに自分に美味しい状況であっても、即座に抵抗するもんなんだけど……
奈々の様子から見ても解るように。
この男だけは、それすらも許さない何かを持っているみたい。
嫌だ。
嫌だ。
確かに私も、龍斗に頭を撫でられたら、そう簡単には抵抗出来無いかも……
『ガラッ!!』
「おっ、おい、おい、氷村。オマエ、何やっちゃってくれてんの?」
満の悪い事に、今度は奈々の彼氏の影山が2-Cから出てきた。
……それにしても。
男共って、なんで、こんなに間が悪いかなぁ?
「んなもん決まってんだろ。オマエの彼女に、ちょっかい出してた」
「おいおいおい、オマエ、マジ勘弁しろよ」
「キヒヒッ、冗談だよ冗談」
「いや……オマエが言うと、全然冗談に聞こえネェよ」
「おいおい、こりゃまた、豪い言われ様だな」
「あんなぁ、氷村。オマエは、もうちょっとだけでも自粛しろ。大体、オマエは、ワザワザ人の彼女取らなくても、選り取り見取りじゃねぇか。この天然女誑しが」
「アホか。誰が天然女誑しだ!!それによぉ、大体にして、んなもん関係ないだろ。好きでも無い奴になにか言われても、なんも感じネェよ。俺は好きな奴以外からの好意には不感症なの……なっ、歩美」
えっ?えっ?
えぇ~~~!!なんで此処で、急に私に振るかなぁ。
答え、答え。
せめて、何か言わないと!!
「しっ、知らないわよ」
「ハハハ……龍斗沈没『女を振り続けた報いを受けるの巻』だな。無様龍斗」
「ちょ待て!!ふられたも、何も、なんでよりにもよって歩美なんだよ。……まぁせめて、今年卒業した松浪先輩なら納得も行くけどよぉ。歩美じゃあなぁ」
オマエ、後で校舎裏に来い。
ゆっくり話し合おうじゃないの。
「それ、オマエがフッてるじゃん」
「!!」
「余計な事を……」
ちょ、ちょっとマジなの?
松浪先輩もフッてたの、コイツ!!
信じられない。
何考えてんだろ?
松浪先輩と言えば。
今年、渋谷でスカウトされて、芸能界入りした先輩だよ。
すごい美少女だよ。
馬鹿じゃないのコイツ?
「それに、校内でもC組の阪城ユキだろ。E組の植田秋穂、F組の玖賀友里と橋田響子他数人。そう言やぁ~、オマエ、街の高校生のおネェ様方にも人気だったよな。まぁ、告白された数だったら、それこそ、天文学的数字だな」
はぁ?
「ちょオマっ!!だっ、黙れ、黙れ~。モテるのは俺様の運命だ」
「なにを今更焦ってんだよ。んなもん誰でも知ってるだろうに……人の彼女に手を出した罰だ」
「いや、ほんま、さ~せんした」
知らなかった……のは、ひょっとして私だけ?
「はぁ~、馬鹿共は放ッとこ、歩美」
呆れ果てたのか。
今まで黙っていた奈々が口を挟んだ。
「そうだね。女をフッた数を自慢するなんてサイテー。那美も、こんな奴と付き合わなくて正解だよ」
「ほんと、有り得ない位サイテー」
「嫌あぁね、不潔よ、龍斗君サイテー」
「お前も来んな!!」
「グハッ!!」
影山は、瞬時に、こっち側に寝返ろうとしたが、奈々の鉄拳制裁によりアッサリ撃退される。
私達は、そんな無様な男の骸を残して立ち去る事にした。
「「置いてかないでくれ~」」
「「馬ぁ~鹿~っ」」
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