●前回のおさらい●
向こうの世界での新犯人・白石繭との話し合いが始まった。
話が始まって以来、終始イニシアチィブを取り続ける歩美ちゃんだったが。
そろそろ、繭の勘に袋の緒が切れかねないと判断して、最後の言葉を発する事にした。
「言いたい事?」
「ワザワザこんな所に呼び出して、私を晒し者にして、なにがしたいのよ?結果的には、アンタは、私をどうしたいのよ?」
「ふっ……別に何もない。敢えて言うなら、たった一言だけ言いたかったのよ」
「一言だけ?何が言いたいのよ?早く言いなさいよ」
「……私、今の仕事が終わったら【芸能界を引退する】。だからもぅ、それ以降は私達に関わらないで……仕事上以外では、龍斗との縁を切って……それだけよ。それ以上は望まない」
「やっ、辞める?……それ、どう言う事なの?なんで人気絶頂のあゆちゃんが辞めるの?」
私は、コッチの私が芸能界に入った理由を知っている。
だから彼女が、芸能界を辞める事に躊躇しないのは、十分に理解出来ている。
私は、最初から、これを賭けの対象にして、繭から自分達を守る事を思い付いていた。
でも、それは所詮、相手の反応次第。
「私は、龍斗だけ居れば何もイラナイ。芸能界に入ったのもその為。だから、芸能界に未練なんて、これっぽっちもない。……ならば、アナタにとって邪魔な私は、そこから去れば良い。それだけの事よ。……但し、私達に関わらない。それが条件」
「あゆちゃん……馬鹿にしてるの?」
「冗談でしょ。馬鹿にするだけで、こんな事は言えない……それに」
「それに?」
「私も、繭ちゃんが嫌いだけど。友達でしょ。友達の為なら、これ位どうって事ないわよ。……それに知らず知らずの内に、龍斗も、私も、アナタを傷つけていた。だからこれは、その謝罪の意味も込めたつもり。だから、お互いの嫌な思いは、もぅお仕舞いにしたいの」
「本当に、そんな理由で後悔しないの?」
「うん、しない……っで、改めて2人の友達になってよ」
「あっ、あゆちゃん……」
「ダメ……かな?」
私の芸能界引退は、龍斗にとっては、凄くショックだったかも知れない。
けど、これで良いと思う。
こうする事が、一番の解決策だと思われる。
「ごっ、ごめんなさい……私、ツマラナイ嫉妬ばっかりして……あゆちゃんが、そんな気持ちで居てくれたなんて思ってもいなかった……それなのに私は……私は……うわ~~~ん」
……届いた。
私の言葉がキッチリと繭ちゃんに届いてくれた。
だから彼女は泣き出してしまった。
良かった。
向こうでも、こんな風に出来れば良かったのにね。
……少し残念な気持ちだけが残る。
でも、コッチだけでも、上手くいったのは良かったのかな。
……なんだろ、もぅこれで思い残す事は無いや。
龍斗が居て。
繭ちゃんが居て。
お母さん・お父さん。
それに龍斗のおじさんに、佐伯さん。
後、私は、逢った事は無いけど奈々に、那美。
こうやって、みんな幸せになれば良いなぁ。
そしてコッチの私には、死んでしまったであろう私の分まで、幸せになってくれれば最高。
そう思っていると……私の意識は急速に失われていった。
この様子じゃ、どうやらもぉ、この『理想の世界』での私の仕事は終わったみたいだね。
さよならの様だね。
だったらバイバイ、コッチのみんな。
いつまでも元気でね……
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