●前回のおさらい●
繭に呼び出された龍斗だったが,ホテルの部屋に入った瞬間、後頭部を殴られ気絶。
その後、なにも解らないまま椅子に縛り付けられ。
身動きが取れないまま、一番見たくない惨劇を見せつけられる。
「なっ、何のつもりだよ、お前!!こんな事して、只で済むと思ってンのか!!」
「何怒ってるの?良いじゃない、愉しそうよ彼女。もう昨日から、ずっとあんな調子なんだもん。嫌になるわ。ホント、スキモノなんだから……あの娘」
「いっ、いつからだよ……」
なにかがある。
「前々から、こう言うのはあったけど。昨日は、龍斗君に逢った、あの後かな……頭おかしいよね、あの娘?……だって、結婚を約束した直後に、こんな事して……ねぇ~~~。龍斗君、私なら、あんな事、絶対にしないよぉ~~~。だから、あんな浮気者の変態女なんか辞めて、私と付き合お。付き合ってみようよぉ~~~」
何……言ってんだコイツ?
コイツ……完全に頭がイッてやがるな
オマエが歩美を、こんな目に遭わせておいて、自分は俺と付き合いたいだと?
発想が正気じゃないな。
まぁコイツが、こうなった経緯は全然解らないが。
この女は、俺の知らない所で何かがあって、頭がヘンになったみたいだ。
―――兎に角。
こんなマトモじゃない奴に歩美が捕まってる以上、早急に、なんとかしないといけないのだけは、確かな事だな。
ただ、こう言った類いの人間には、普通の精神じゃ通じない。
だから此処は、怒りをぐっと堪えて、コイツの波長に合わせてやるしかない。
「あぁ~~~、もぅいいや~。こんな茶番は、もぅ結構だ。悪いけど、縄を解いてくれよ、繭ちゃん……痛くて適わない。それに、あんな奴の為に、痛い目をみるのも御免だ」
「ダッ、ダメよ!!龍斗君、そんな事、言って逃げる気でしょ」
「この状況で、俺が逃げてどうすんの?大体さぁ、あんなもん見せ付けられて、逃げる理由なんかあんの?大丈夫。俺は、何処にも逃げないよ、繭ちゃん。今、俺は、此処に居るよ」
「ほんと?ほんとなの、龍斗君!!絶対に逃げない?」
嬉しそうな顔をして、抱き着いてくる。
―――胸糞が悪い、コイツのこの行為には吐き気がする。
「逃げないよ。だから、この縄を外してくれないかな」
「…………キス……そうよ!!キスしてくれたら、外してあげる!!」
「ハハッ、なんだ、そんな事ぐらいなら、いいよ」
俺がそう言うと、繭は嬉しそうに。
それに泣きながら、何度も何度もキスをして来た。
『これで龍斗君は、私の物だ』とか『歩美の馬鹿は捨てられた。自業自得よ』とか言いながら、何度もキスをして来た。
「もういいかな?縄、ホントに痛いんだ」
「アッ、ゴメンなさい、龍斗君。今すぐ縄を外してあげるね。ごめんね、ごめんね」
スルスルと縄が外されて行く。
全ての縄が外れた瞬間。
俺は素早く椅子から立ち上がって、一言だけ繭に言った。
「これで歩美とはオアイコ様だな。ダメだな俺。誘惑に負けちゃったみたいだな」
「へっ?なにが?龍斗君……何言ってるの?」
「ハハッ、どうも俺、浮気しちゃったみたいなんだ」
「へっ?」
素頓狂な声を出して、目をパチクリしている。
「だ~か~ら~、わからない奴だな。これから、浮気の事を、歩美に謝りに行くって、言ってンの」
「なっ、なんで?なんでそうなるの?あの子は、あんな事してるのに!!」
「仕方ないだろ。どんなアイツであっても、俺はアイツが『好き』なんだから……でも、アイツにも謝って貰う。それで全て『チャラ』だ」
「バッ、馬鹿じゃないの?頭おかしいんじゃないの?あの子、貴方の目の前であんな事してるのよ!!」
「ハハッ、バレたら仕方が無いな。俺、馬鹿だよ……救いの無い位、馬鹿だよ」
俺の言葉に、項垂れてピクリとも動かなくなった。
本来なら、このまま思い切り殴りたかったが。
敢えて繭を、そこに置き去りにして、俺は部屋を後にしようとする。
この壊れたクソ女には、それが一番堪える筈だからだ。
――― 一生そこで、そうしてろクソ女!!
「ねぇ……教えてよ。……なんであの子だけ、こんなに恵まれてるのよ?こんなの不公平じゃない。仕事ではチヤホヤされて、プライベートでは、龍斗君と上手い事行って………こんなのおかしいじゃない。……だから、だからね、あの子が妊娠した時は『ザマーミロ』と、思った。初めて挫折を味わうんだって……けど、それも違った。アナタは……龍斗君は、それすらも喜んで受け入れた。…………こんなの不公平過ぎるよ!!……私には何も無いのよ……あの子は、あの子は、私にない物を全て持ってる。おかしいよ、こんなの……おかしすぎるよ……」
泣き出したが、同情の余地は無い。
言ってる意味は理解出来る。
が、お前が思ってる以上に、みんな、見えない所で、もっともっと努力をしている。
だから今、お前が言ってる言葉は、単なる嫉妬や僻みでしかない。
だからもぉ、こんな奴に声も掛ける必要性すら無い。
―――オマエは、人としてしちゃいけない事をしたんだ。
だからオマエは、此処で自分の人生を悔いて、悲観しながら、勝手に死んじまえ。
オマエなんぞ、俺の知った事か。
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