●前回のおさらい●
歩美に対する苛めのメモが回ってきた当日から、早速、歩美の靴が標的に成り。
靴箱の中に『生ゴミがたっぷりと入れられていた』
そんな状況を一緒に居た奈々が見て、ドン引くが。
歩美は、どこ吹く風で、自分の鞄から予備の靴を出して、平然とそのまま立ち去ろうとする。
その行為を見た奈々は驚くが。
歩美は『苛めなんて相手にするからつけあがるだけ』と言い放ち、苛めに対するレクチャーまでする始末。
そして、その最後の締めとして、誰も居ない筈の階段の影の方に向かって声を掛けた。
「ねぇ、そこで隠れてる人。ずっと人の話を立ち聞きしてるなんて趣味悪いよ。いつまでもコソコソしてないで出て来たらどうなの?」
「なっ!!突然どうしたの?」
声に反応する事無く、その人物は出て来ない。
当然だけどね。
「うん?あぁ、大体こういう事をする奴ってさぁ。影に隠れて、虐めの結果を見てるものなのよ。これはね、体験論」
「これはまた、信憑性のある話だね」
「まぁ見ててよ。隠れてる奴の正体を教えてあげるからさぁ」
「また、なんとも探偵みたいな事を」
「これだったら、奈々の推理以上に当たるよ」
言葉通り、大体の見当は付いている。
恐らく条件から言って、この子達で間違ってはいない筈だ。
これも体験論だけどね。
条件1:あの馬鹿にフラレタ事のある女。
条件2:変にプライドの高い女。
条件3:自分がモテる事を自認してる女。
条件4:それらがツルんでる可能性が高い、交友関係のある女。
その条件を満たしてるのは……っと。
「C組の阪城ユキさん。E組の植田秋穂さん、F組の玖賀友里さんと橋田響子さんでしょ!!隠れてないで出て来なさいよ」
「「「!!」」」
まぁ当然、これを言ったからと言って、そんなもんワザワザ出て来る訳は無い。
自分が『犯人』ですって言う『苛めの犯人』なんて聞いた事も無いからね。
でも、今言った中に、誰か1人は居るのだけは確実。
さっきも言ったけど、こう言う『虐め』って、絶対、自分の目で『確認』したいものなのよ。
だから、腹が立つ相手の困った顔を見ないと気が済まないんだろうね。
それにもし、犯人の見当が違っていたとしても、そんなの大した問題じゃない。
虐めをしてる連中にしたら、自分が犯人になりたく無いもんだから、今度は、その人に罪を擦り付けたくなる訳よ。
んじゃあ、何をするかって事なんだけど。
多分、本人だろうと、違う人だろうと、絶対、私の『靴箱を綺麗』にする筈。
本人なら『ヤバイ』と思うし、違う人だったら『罪を擦り付けたい』一心で掃除する。
んで『虐め』が無くなったら、今、私が言った『本人』が犯人。
なくなる様子が無かったら『他人』って事になる訳。
それに私が、靴箱をそのままにして帰る訳だから、相当な馬鹿じゃない限り現状が『マズイ』事位は解るでしょうしね。
まぁそれでも、十中八九。
今、言った中に、1人は犯人が居ると思うんだけどね。
ほんとモテる女の子って、プライドが高くって面倒臭いよね。
「ふぅ~、まぁ出て来ないつもりなら、それはそれでも良いけどね」
「えっ?良いの?」
「良いよ。もう放っといて帰ろ。こんな事バレて内申書に響いて、困るのは、その子だもん」
私は、少し焦った奈々の手を引っ張って、その場をアッサリ後にする。
当然、彼女は、納得いかない顔をしながら付いて来る。
「ねぇ、本当に良いの?」
「良いの、良いの。こんな事で誰も傷つかないのが一番良いからね」
「自分を虐めた相手なのに?」
「だぁ~って、仕方ないじゃん。良くも、悪くも、相手の子も、あの馬鹿の事が好きだったんだからさぁ……そう言う気持ちも解らなくもない訳さ」
「なんともまぁ、お人よしだねぇ」
「慣れですよ慣れ」
あの馬鹿の彼女と言う余裕を見せながらも、内心はどうなる事やらっと言う不安。
取り敢えずは、来週の月曜日~火曜日辺りが肝になるんだるなぁ。
今日、金曜日だしね……。
***
3月14日 PM6:24 氷村邸前
『ピンポーン』
あの馬鹿の家の前を通った時、私は無駄にインターホンを鳴らしてみた。
アイツが居ない事位は重々承知している。
でも、今日から始まった『虐め』で、少し気が沈んでいたのも手伝って、試しに鳴らしてみた。
ただそれだけ。
奈々の前では気丈に振舞っては見たものの。
実際は、彼女に言った様な、そんな柔な話じゃない。
これからは、苛めが、もっと酷くなっていくだろう。
だから本当は、少し慰めて……うぅん、違う。
アイツの顔を見て、多分、安心したかっただけなんだろうな。
私は、アイツがいる事だけ確認出来れば、もぅ怖いものは無い。
どんな『虐め』だって、耐え抜いてみせる自信がある。
……でも、やっぱり、アイツはいなかった。
何でこんな時にいないかなぁ?
彼女が困っている時ぐらい、傍に居てくれても良いのに……
なんてね……
アイツに逢う事を諦めた私は、肩を落としてながら1人トボトボと家路につく事にした。
「何やってんだよ、歩美?ピンポンダッシュなんて、今時、小学生でもしねぇぞ」
「えっ?」
「『えっ?』じゃないだろ……どうしたんだ、なんか用事か?」
「べっ、別に」
相変わらず、素直にはなれない。
本来なら、今、完全に甘える所なのに、それすら出来無い有様。
なんでなんだろうな?
もぅ彼氏彼女の仲で、みんなにも付き合ってるって事が知れてるのにさぁ。
馬鹿みたい。
「はぁ~、そっか」
溜息をしながら、近づいてくる。
龍斗は、相変わらず、優しい。
私がツンケンした態度をしても、こうやって優しくしてくれる。
なのに、なんで私は、こんなにも素直に出来無いんだろう?
ほんの少しで良いから、素直になりたいよ。
「なによぉ」
でも、出て来るセリフは、こんなのバッカリでしょ。
もぉなんで……?
「別に……ただ、俺の大事な彼女は元気かな?って思ってさ」
ヤッパリ、コイツには隠し事をするのは、中々難易度が高い。
私の小さな感情の起伏にさえ、直ぐに気付く。
「元気も、何も、告白して、イキナリ放ったらかしにした奴のセリフじゃないと思うんけど」
「悪ぃ」
「別にぃ~、どうせ仕事が忙しいんでしょ」
文句を言いながら、龍斗の顔を見る。
この3日間、何があったか知らないけど。
目の下に隈を作って、少しどころか、かなりやつれている。
恐らく、凄いハードな仕事をしてたんだろうな。
「悪ぃ」
「別に良いわよ。……っで、何してるのよ?」
「いや、なんつ~かさぁ。ちょっと時間の空きが出来たもんだからさぁ。歩美に逢いに来ただけ」
「なっ!!馬鹿じゃないの?たったそれだけの為に、何時間も掛けて、ワザワザ新潟から戻って来たって言うの?」
「悪いかよ」
馬鹿だ。
龍斗は、本当に馬鹿だ。
そんなの悪い訳ないじゃん。
私だって、滅茶苦茶逢いたかったんだからさぁ……嬉しすぎて涙が出そうになってきた。
でもね、そんな無茶したら体壊しちゃうよ。
私は泣くのを我慢して、文句を言う事にした。
「悪いに決まってるでしょ!!そんな事する暇が有ったら、休憩すれば良いじゃない」
「まぁそうなんだけどさぁ……なんってぇ~か、逢いたかったんだから、しょうがないだろ」
「馬鹿ぁ~!!体壊したら、どうするのよ!!」
流石に、この言葉には我慢出来なくなった。
無理に抑え様としていた感情が一気に噴出して、涙が止めど無く出てきた。
だって、高々それだけの為に、こんな無茶をしてくれる奴なんて、絶対居ない。
それをコイツは平然とやってのける。
どれだけ私は、コイツに大事にされてるんだろう?
私は、力無く龍斗の体をポカポカ殴った。
「良いの、良いの」
「何が『良いの、良いの』よ。こんな事で、龍斗が倒れたら、どうするのよ」
「なんだよ?心配してくれてるのか?」
「当たり前じゃない!!心配してない訳がないでしょ……無茶ばっかりして」
「良いんだよ」
「良くない!!」
「良いんだ!!」
珍しく龍斗は、感情を表に出して怒鳴った。
私は、あまりの事に言葉が、少ししか出なかった。
「……何が良いのよ?」
「アホか?良いか歩美。俺の体は、昔からお前のものだ。だからな、お前が困ってるのに仕事なんかしてられるか、バカチン」
「龍斗……」
あぁやっぱり。
コイツは、私の現状を、多分、奈々か、影山辺りから聞いたのだろう。
それで慌てて新潟から帰ってきたんだ。
「それで大丈夫なのかよ?」
「……馬鹿ッ。そんなの心配いらないよ」
「本当に大丈夫か?」
「心配ないよ。私は、アンタのお陰で『虐め』には慣れてるから」
「そっか」
気丈に振舞うとか、そう言った馬鹿げた感情じゃない。
私は、自分の不甲斐無さに愕然としていただけの事。
高々『虐め』位で少し凹んだからって。
直ぐに龍斗に頼ろうとしていた、自分が情けなくて仕方が無かった。
でも、もう大丈夫だ。
私は、龍斗から元気を貰った。
それだけで十分だ。
不意に私は、この馬鹿にお礼がしたくて『キス』をしようとした。
けど……
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