●前回のおさらい●
那美からの用事を済ませる為に、龍斗と学校をサポタージュした歩美。
その際に、奈々の「氷村が歩美に気がある」と言う言葉が気になって。
2人乗りで坂を下る自転車の後ろから「……大好き」と小さく告白してみるが、龍斗には、その言葉が届くはずもなく。
相手の気持ちを考えずに自己完結して、龍斗の事を諦めようと考えていた。
3月7日 AM8:47 喫茶ミノルちゃん
高速で走る龍斗の自転車の後ろに乗って、連れて来られた店は。
繁華街の路地を入った、その又、奥の路地を入った怪しげな店が立ち並ぶ裏商店街の、とある喫茶店。
この辺は不良のたまり場として有名で、危険性からして一般人はあまり近づかない。
そんな中、連れて来られた店の看板を見てみると『喫茶ミノルちゃん』ってお店。
どう転んでも、名前からして怪しい。
そんな店に龍斗は、物怖じ無しに堂々と入って行こうとする。
私には、普通の中学生は出入りする様な店じゃない様な気がしてならない。
それに私は、こんな店じゃなくて、普通の喫茶店にすらも入った事がない。
そんな心境から、再び彼の袖を引っ張った。
「んっ?なんだ?」
「ちょ、ちょっと龍斗。このお店って大丈夫なの?」
「んっ?あぁ此処か?此処の店は名前も、店主も、かなり怪しい人物だけど、それ以外はなんら普通の店と変わんネェから、心配すんなって」
龍斗の言う通りなんだろうけどさぁ。
店の名前と、店主が怪しかったら、それは既に、普通の店じゃない気がするんだけど。
「でも」
「ハハッ、嘘だよ嘘。昔さぁ、よくタムロってた店。それにな、此処だったら……」
「それに此処だったら?」
「こんなトコに店があるなんて補導員も思わないから、意外と安心って奴な訳」
「そう……なんだ。あぁなるほど、そう言う事。龍斗は、此処で小学校をサボってたんだ」
「まぁそう言うこった」
少しだけだが、心配が解消された。
幾ら怪しげな店だからと言っても。
龍斗が店主と知り合いなら、どんな怖い店でも、何か悪さをされる事も無いか。
まぁ、それになにより龍斗もいるしね。
『カランコロン』
「いらっしゃ~い」
「!!」
そんなやや濁声を出して、w他紙たちの来店を迎えてくれたのは明らかにオッサンの声。
そして、視線を上げて顔を見てみたら、ヤッパリ、パンチパーマの強面のおっさん。
それでも格好は、顔とは、アンバランスなまでの派手な女物の着物。
物腰も、やけにクネクネしている。
この人……ひょっとして、俗に言う『オカマ』って奴なのかな?
テレビ以外で生まれて初めて見た!!
「やほぉ~~~、おひさ」
「あらあら!!珍しいタッチャンじゃな~い。なになに~、今日はどうしたの?サボり~?」
「まっ、大体、そんな感じかな」
「そう、あんまりサボりは褒められたもんじゃないど、ゆっくりしていってね……あれ?そちらの『かわい子ちゃん』は、タッチャンのお連れさん?」
「うん、ママ。俺のね、大事な『幼馴染』な訳さ」
『大事』って言われたのは、ちょっと嬉しいけど。
ヤッパリ『幼馴染』って言われると、少し悲しい気分。
「はっ、初めまして龍斗の『幼馴染』の井上歩美です」
頭をペコッと下げる。
先程のアイツの『幼馴染』が気に入らない私は『幼馴染』を強調する。
「あら、最近の子にしては、折り目正しいのね。ママ、気に入っちゃった」
「ダメだよママ。あげないよ」
「あら、タッチャンは意地悪ねぇ」
「ハハッ、そんな事を言ってもあげないよ」
「ケチッ」
ママと、龍斗がそうやって歓談していると。
店内を騒がしく想ったのか。
いつの間にか、怖いおにぃさん達が、周りにゾロゾロ集まってきた。
それはもう、如何にもって人達が、龍斗と、ママを取り囲んでいく。
そしてサングラスを掛けた……んで序に、前歯の抜けた特徴的な強面のおにぃさんが、全員の前に立って口を開いた。
「YOYO-YOYOタッチャン、久しぶりじゃん!!なになに、最近は何やってんの?」
「おぉ、誰かと思えば、ゼ~ンちゃんじゃん。元気してた?」
この後、このゼンちゃんと言われる人を皮切りに。
龍斗の周りには、いつの間にか人が集まってきている。
正に、不良のタマリ場に相応しい面子だ。
それでも、どの人を見ても、龍斗を囲んで楽しそうにしている。
私の知らない龍斗がそこには居た。
龍斗は昔……って言っても、小学6年生の頃。
母親が亡くなって、一時期、酷く荒れていた時期があった。
小学生で単車を乗り回したり、暴行事件を多く起こして、警察沙汰になった事も少なくは無い。
多分、この人達って、その時の仲間なんだろうな。
そんな状態になっている龍斗は、みんなに話しかけられて身動き取れなくなっている。
私は、その光景を、ただ呆然と見つめるしかなかった。
そんな折、ミノルママが声を掛けて来てくれた。
なんだろう?
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