【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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何物にも代えがたい幸福が始まった

公開日時: 2021年8月3日(火) 00:20
文字数:2,919

「ねぇ、それだけ……なの?本当に幼馴染なだけ?」


そう言いながら、歩美は俺を見詰めてくる。


なにこれ?


歩美は、少し釣り上がった大きな瞳をこちらに向けて、そんな事を口走った。


オイオイ、急になにを言い出すんだ、お前は?

そんな事を言われたら、つい、本音を口走ってしまいそうになるじゃないか。



「それだけって、お前……」

「なんだ、それだけなんだ。……所詮、私の事を、幼馴染みとしか見てないんだ」

「クッ!!お前……それ……絶対に解ってて言ってんだろ!!」

「そう思うなら、ちゃんと言ってよ。ホントに、それだけなの?私と、アンタは、ソレだけの関係なの?」

「グッ……あぁっそ。じゃあ、言ってやるよ…………言うぞ。良いんだな」


確信犯だ。

絶対、確信犯だコイツは……


こんな風に、男の純情を弄びやがって………


だが、此れは、正にHIDEの歌にある『惚れた方の負け』の定義じゃないか。

俗に言う、完全に俺の負けの方向じゃないか!!



「言うぞ……ホントに良いんだな。言っちまうぞ」


脅すつもりで再確認した。



「はいはい、なにが言いたいのかな、龍斗くんは?」


俺の虚しい抵抗は。

こうやって、冷静克つ悪戯な顔をして、からかう様にジッと俺を見つめる目によって、終末を迎えた。


この小悪魔め!!



あぁそうですかい、そうですかい。

こうなったら、恥も外聞も捨てて言ってやる!!


―――でも、俺は、ただでは死なんぞ!!


こうなったら、お前も巻き添いじゃあぁぁぁ~~~!!

俺と一緒に、恥をかけ~~~!!


でも、結局は、俺も恥をかく羽目になるんだよな。



「おっ、俺……氷村龍斗は、井上歩美の事が、誰よりも好きだぁ~~~!!誰よりも愛してるぅ~~~!!付き合ってくれぇ~~~!!」


朝礼中の校門前だと言うのに、ヤケクソ気味に勢い良く大声で叫ぶ。

これぞ、俺の生き様だぁ!!


って、全然格好良くねぇし。

………………みっともないなぁ。


多分、俺のク-ルな生き方に反する、この恐ろしくもミットモナイ雄叫びを、今、校庭に朝礼に集まった(月曜日の全校集会中)全校生徒に聞かれてるんだろうな。


やっぱ、こんな無謀な真似は止めりゃあ良かった。



……もう死にたいよ、俺。


なんで、こんな事になっちまったんだろう?


―――しかも、歩美からの反応無しって……地獄だな、オイ。



「えっ?……ちょ……龍斗……なんで大声なのよ」


うん?

あれあれ、なにやら歩美の反応がおかしいぞ。


これってひょっとして、思いがけない俺の行動に、歩美の奴は照れてるんじゃないのか?


これは、俺が全く信仰していない神様のサプライズってやつか?



クックックッ、なら面白い事になった。

形勢逆転の可能性が、少なからず見えてきたぞ。



「なぁ、歩美。これだけ心を込めて言っても、ダメなのか?実は、俺の事、嫌いとか……」


ポケットに手を入れて、少しカッコを着けてみる。

これがカッコが良いのか、悪いのかは、よくわからないが、取り敢えずしてみる。


TVで、誰かがやってたしな。



「えっ?わたっ、わたしは……」


意外な出来事に、対応しきれていないのがバレバレ。

それに動揺も隠せないのか、歩美の言動はシドロモドロになっている。


馬鹿め!!男の純情を弄んだ罰じゃ!!



「あぁわかった。もうそれ以上は言わないでくれ。これ以上は、俺も、流石に立ち直れない。…………明日からは、また元の幼馴染みに戻るから。今日だけは、もぉ勘弁してくれ。……あぁそれと、恥かかして悪かったな。ホントごめんな」


そう。

『自分が全て悪い』みたいな言い方をすれば、女は、自然と素直になるもんだ。


『此れぞ、大人の必勝パターンだ!!』

……って、これも、こないだテレビで言ってた。


俺は、徐に、止めて置いた自転車の方に、肩を落としながら移動。


そして、歩美の方を振り向いて、力無く微笑んだ。



「ちょ、ちょっと、自己完結しないでよね。……私だって、龍斗の事……好きなんだから」


また、顔が真っ赤になっている。


―――でも、これが、コイツの本音だったら嬉しいなぁ。



「もぉイイって。そんな気を使わなくても良いんだ、歩美。無理しないでくれ。そう言うのって、フラレタ奴には、一番堪えるからさぁ……」


気落ちした男の振りは、損失感を演出してくれる。


こういう場面では、なによりシュチュエ-ションって奴が大事だ。

………って、これもまたテレビで言ってた。



「……もぅ、わからず屋なんだから…………」


そう言った後、歩美は。

何も言わず、モジモジしながら俺の方に歩み寄って来た。


目の前に背伸びをして立つ歩美の姿が、一瞬にして俺の視界は奪った。


次の瞬間、俺は、頭の中が真っ白になった。



歩美は、不意打ちで俺にキスをしてきた。


柔らかい唇からは、甘い吐息が混じり。

歩美の髪からは、朝のシャンプーの匂いがした。


今迄に体感した事の無い空間と、時間が俺の中で流れる。



少しすると、歩美の唇は、俺から離れて行った。


……名残惜しい。



「ファースト・キスなんだから、きっちりと、この責任は取ってよね……龍斗」


喜びよりも何よりも、なにが起こっていたのか、理解出来ずに立ち尽くしてしまう。

アイツのファ-スト・キスの相手が、俺自身だったと言う事にすら自覚がもてない。


我に帰る迄、かなりの時間を要した。


気が付いた時には、歩美は校門をくぐる手前だった。



「なっ……なぁなぁ、歩美!!此れって、OKって事かぁ~~~~!!」


自制心が利かずに、また、大声を出してしまう。


………ここら辺は、果てしなくガキな証拠だ。


まぁ餓鬼なんだけどね。



「そんな事、イチイチ口に出して聞かないでよ!!そう言うのは、自分で考えなさいよ……ばか」


照れた表情をし。

口に手を当てながら、元気に校門をくぐって行く彼女を見守る。



「や……やったのか、俺?……これって、やったんだよな?いや、やったんだよ!!やっ、やっ、やった~!!やったぞ~~~俺♪」


今になって、感動が押し寄せて来る。



……だが、世の中は、そんなに甘くは無いのは言うまでもない。


誰かに教えて貰った『幸せは、永遠には続かないもの』だと言う言葉すら、すっかり忘れていた。


不幸は、駆け足でそこ迄、確実にやって来ていた。



「なぁ~あ~、氷~村~君?遅刻の上に、朝礼までサボって、何が『ヤッタ~』なのかなぁ?その辺を、じっくり聞かせて貰おうか?……『生徒指導室』で、タップリとな……」

「あっ……はっ、はい。そうっすね、そうなるっすよね」


良い事の後には、必ず、不幸が付きまとう。

此れも『人生楽有りゃ苦も有るさ』の方程式なんだろうな、きっと。



それでも、この比率を天秤に掛けても、俺は、今、絶対に世の中で一番幸せだろう!!


これだけは断言出来る!!


……筈だったのだが。

実は、この後、もう1つの悪夢がオマケで付いてきた。


そう、不幸は、こんな小さな事じゃなかった。


今の大声の告白は、全校生徒に見られ、聞かれていた訳だろ。

だから、要するには、さっきの行為が1つの『伝説』として祭り上げられる羽目になったんだよな。


今日と言う日を境に、此れからズ~と永遠に『登校時に告白すると結ばれる』なんて、この学校の生ける伝説にされてしまったんだよな。


……トホホっと、しか言い様がない無様さだ。


比率は、矢張り、間違っていなかった。



……ホント不様だな、俺様。


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