【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
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第一章 2003年の僕達は……

毎朝の日常

公開日時: 2021年7月31日(土) 00:20
文字数:4,382

 2003年3月10日 AM8:12 氷村邸前



「おじさん、おはようございます。今日も寒いですね」


寒風が吹く、この厄介な冬と言う季節には合わない様な元気の良い声が、俺の家の前に響き渡った。


この無駄な元気な声の主は、恐らく俺を迎えに来た幼馴染の『井上歩美』だろう。



「おっ、歩美ちゃん、おはよう!!確かに、今日も寒いねぇ。……にしても、今日も元気だねぇ」


こちらも負けず劣らず、玄関前で元気な声を張り出すオッサン。


……非常に残念な事だが、コチラは俺の親父だ。


傍から見れば、こんな朝も早くから、ハイテンションな変な親父だが、この姿は仮の姿だ。

この親父、実を言うと、芸能界、つまりは業界では引っ張り凧の1~2を争う程のスタイリスト。


……で、俺のコーディネーターの師匠でもある。


まぁ早い話が、普段は、どうしようもない、ただの変なオッサンなのだが。

事、仕事に関してだけは、俺の頭が上がらない人間の1人ってな訳だ。



「へへぇ~~~。まぁ、私なんて、元気だけが取り柄ですからね。………ところで、おじさん、龍斗は?……まさかアイツ、まだ寝てるんですか?」


おいおい、なんて事を言うんだ君は……

オマエのそんなアホな発言は、ハッキリと家の中まで聞こえてるぞ、このバカチンが!!


こんなにも長い付き合いなのに、俺に対して、なんちゅう認識で生きてるんだ、オマエわ?


あのなぁ、歩美。

俺はね。

毎朝のAM6:00前には、髪のセットする為だけに起きてるんだぞ。


そんな俺を捕まえて、まだ寝てるって、なんだよ?


『身だしなみは男の基本』って言葉すら知らないのか、このバカチンわ?


ったく!!朝から失礼な奴だ!!


何が寝てるだよ、ボケ!!



「いや、多分、さっき洗面所でゴソゴソしてたから、起きてるはいる筈なんだが……朝から、何やってるんだろうなぁ、アイツわ?こんなに可愛い娘さんを、この寒空で待たせて」

「へっ?……ってもぉ嫌だなぁ、おじさん!!可愛い娘だなんて……」


ハハン、この口調は。

普段、言われ慣れない事を言われて、恐らく歩美の奴は照れてやがるな。


ただオマエさんさぁ、世の中には、社交辞令って言葉が有るんだぞ。

そう言うのは知らないのか?


良かったら、今度、国語辞典を貸してやるぞ。



まぁでも、この辺で俺が出て行かないと埒が飽きそうにないな。


……と、出て行こうとした瞬間、親父が新たに話し始めた。



「いやいや、歩美ちゃんこそ、何を言ってんの?君は、そこら辺のアイドルなんかより、ずぅ~~~と可愛いよ。おじさんが言うんだから間違いない。太鼓判押しちゃうよ」


ドアを開け様としてるのに、馬鹿親父が、又、イラン事を……


クソッ!!完全に出るタイミングを失ったじゃないか!!



「もぅ~~~、おじさんたら~~~本気にしちゃいますよ」


『バシッ!!』


「うぐっう!!」


どうせ歩美が、思い切り、親父の肩辺りを平手で叩いたのだろう。


地味に、親父の悲鳴が聞こえたのが、その証拠だ。


だが、茶番は此処までだ。

このまま話が続いたら、親父の身体が持たなくなりそうだし……なにより学校に遅刻しちまう。


第一アホらしくて、これ以上はマジ付き合いきれんしな。


故に、此処で、タイミング良く出る事にした。


『ガチャ』



「はいはい、なんか朝っぱらからウチの玄関口が騒がしいな。一体、俺ん家の前は、どうなってんだよ?それに……その見るに見兼ねる朝の援助交際的なスキンシップ。ホント、近所迷惑だから、マジで勘弁してくんねぇかな?」

「なっ!!……ちょ!!誰が援助交際よ!!」


赤面しながら、ムキになって全面否定をする歩美。



「はいはい。オマエだよ、オマエ、井上歩美さん、オマエの事だよ」


だが面倒臭いから、適当に受け流す俺。



「もう、人を待たせといて、なによ、その態度わ!!アンタ、頭おかしいんじゃないの!!」


そして、その反応に、頬を膨らましながら、異論を唱える歩美。


うん……オマエって、ほんと色んな意味で可愛いな、色んな意味で(笑)



「そうだぞ、龍斗!!父さんは、歩美ちゃんと話すのに、お金なんて払ってないぞ!!俺は、そんな情けない男じゃない!!」


話をどう勘違いしたのか、理解不明な事を言う馬鹿親父。


俺が言える事は……コイツ等……とんでもない馬鹿だろ!!

いつまでも、クスリとも笑えない様なコントばっかり、ぶっ放してんじゃねぇぞ!!


ホント、親父だけでも、サッサと死ねば良いのに。


なので、そんな面倒臭いだけの親父は無視。

ここはもぉ、もう1人のバカチンだけを集中して相手にしよう。


……にしても、朝から疲れるやちゃなぁコイツ等。



「はいはい、お待たせして申し訳ありませんでしたね。……噂の『そこら辺のアイドルよりも可愛い歩美さん』今日も、お綺麗なこって」

「なっ!!ちょ!!聞いてたの、アンタ?もぉ最低!!」


自分達の話を聞かれていた事に、顔を真っ赤にする。


兎に角、感情を隠せない典型的なタイプ。


単純バカチン。



「オマエは、アホなのか?最初から、全部、家の中まで丸聞こえだったよ。まぁ、普通、あんなに大きな声で喋ってたら、ご近所さんにも聞こえるわな」

「うっ!!」


地声が大きな彼女にとっては、仕方がない事なのだろう。


少しだけ可愛そうになったので、ほんの少しだけフォローしてやる事にした。


―――なんて慈悲深いんだ俺は。


まさに神の領域だな。



「……とは言っても。可愛い可愛い歩美さんに、この寒空の中お待ち頂いたのだから、優しい俺様は、この恥ずかしい事実を、学校では内密にしといてやるよ。ありがたく思えな」

「ばっ、馬鹿じゃないの!!もぅいいわ。別に、あんたを待ってた訳じゃないし。近所のよしみで誘いに来てあげただけなんだからね!!……まぁ、アンタのおじさんと話が盛り上がったってのだけは、認めてあげても良いけどね」

「さいですか、所で歩美さん……」

「なによぉ~?まだ、何か言い足りないの?」

「あぁ言いたいねぇ。オマエさぁ、時間……今、何時だか御存じですかねぇ?」


因に、俺の時計ではAM8:30位だ。


この時間は、絶対に間違いない。


なんせ毎朝、日課的に起きた時に、時報で時間を合わせるんだから、狂い様が無い。


さて、こうなると、何が問題かと言うとだな。


学校までの登校時間だ。

もう歩きだと、既に、間に合わない時間になっている。


俗に言う、このまま普通に通学したんじゃ確実に『遅刻』だ。


それ故に、バスに乗らないと間に合わないと言う意味合いでもあるな。



「もう、なんで、もっと早く出て来ないのよ~、アンタって人は!!」

「しらんがな」

「おじさん、もぉ遅刻しそうなんで行って来まぁ~~~す」


怒りながらも、綺麗にカットされた、やや長めセミの髪を靡かせて走り出す。


俺は、その後ろ姿を、毎日の様に見ている。


日々、毎日繰り返される光景だ。


アイツも実際、俺なんかを誘いに来ず。

普通に登校していれば、遅刻せず済むものを、歩美は懲りもせず、毎日の様に迎えに来てくれる。

俺は、そんなどこか律儀で、スットコドッコイな彼女を見ていると放っとけない。


早い話、俺は、なんだかんだ言ってても『井上歩美』の事が好きなのだろう。


―――ホント、親父の言う通り『オマエさんは、そこら辺のトップアイドルなんかより可愛いよ』



「オイ、タツ。オマエも、いつまで歩美ちゃんのバックスタイルを追っ掛けてるつもりだ?さっさと行かないと、オマエも遅刻するぞ」

「うっせい、大きなお世話だよ。って、ヤッベェ~~~。マジ、こんな時間だ。じゃあ行ってくんな、親父」

「おう、気を付けてな……いやいや、青春だねぇ~~~青い春してるねぇ」


親父が、何か気持ちの悪い事を言っている様だが、此処は無視!!


俺は、愛車のチャリンコに跨がり。

瞬く間に、先行して走っていた歩美に追い付く。



「HEYHEY、お急ぎだったら、俺の愛車に乗ってくか~~~?『アイドルより可愛い歩美さん』」

「うっ、うっさいわね!!アンタになんか乗せて貰わなくても、まだバスに間に合うわよ」

「ふ~ん、間に合うねぇ。間に合うんだぁ。……オマエの言う『間に合う』ってのは、出発したバスも込みの話なのか?ある意味、スゲェなオマエ」


やや下り坂な道をブレーキを掛けながら、歩美の真横を平走し、指でバス指しながらの動向を実況してやる。


そう、此処から見えるバスは、今ゆっくりプシューと言う音と共に扉が閉まり。

早々とタイヤの回転数を上げ始めている。


この状況では、どんなマーベェル・ヒーローが急いだ所で、間に合う事はないだろう。



「もう、なによ!!なんなのよ~~~」


それを見た歩美は、走っていたスピードを緩め、息を切らせながら苦言を垂れる。



「ついてなかったな、歩美。……じゃあな。俺はチャリだから、まだ間に合う時間なんで、お先に学校へ行くわ」

「へっ?」

「……ってか、遅刻はいけないなぁ、歩美さん」


意地悪くスピ-ドを上げて立ち去ろうとする。


勿論、そんな気は更々無いが、歩美の反応が面白そうなのでやってみる。



「ちょ、ちょっと待ってよ、龍斗……」


思い切り焦っている声が聞こえたので、思い切り急ブレ-キを掛けて止まる。



「はい?なにか?ワタクシ急いでるんですが」

「そんな意地悪言わないで、チャリ……私も乗せて行ってよ」


訝し気な顔でお願いして来る。


不本意だろうが、これも毎日の事だ。


歩美が迎えに来て、俺が遅刻寸前で出て行く。

バスに間に合わずに、俺の後ろに2人乗りをして学校に行く。


これも、毎朝繰り返される出来事だ。



「へいへい、言うと思ったよ。ってか、そう思うなら早く乗れよ。マジで遅刻すんぞ。因に、後ろはステップしかないけど、大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


素直に返答して来た。


まぁ、そりゃあ大丈夫だろ……毎日乗ってんだから。



「ごめんね、また2人乗りする羽目になっちゃって……」

「なになに、いつもの事だし気にしてないよ。……まぁ、お前が太ってなかったら間に合うだろうしな」


こんな事を言ってるが。

決して、彼女は太っている訳ではない。

いや寧ろ、歩美が太っているなんて思った事すらない。


そして、それ故に、俺の通学用のチャリには、いつも2人乗り用のステップが装備されている。

軽い歩美をチャリに乗せて走る位、なんて事はないからな。


なので此れは間違いなく、俺が意図的に着けたものだ。


―――そぉ、これは、某赤い人もビックリな『歩美専用ステップ』な訳だ。


当然、今迄、他の女を、此処に乗せた事等無いし。

これからも、歩美以外の女性に、此処を使わせる気なども微塵も無い。


これこそが、正に『惚れた弱味』の証明と言え様……笑えねぇ。



「ねぇ、ねえってば。アンタ、なに悦ってんのよ?早く行かないと、本当に遅刻するでしょ!!早く行きなさいよ」

「へいへい。了解了解っと……ご要望通り、飛ばして行くぜ。歩美、落ちんなよ」

「うん」


歩美の、こう言う素直な所も好きなんだよな。


こうやってコイツと一緒に居るだけで、マジで幸せだわ(笑)

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