【完結】クライカコ(丁度、文庫本一冊位の文章量です♪)

お互いの意思が通じ合っていても、必ず上手く行くとは限らないのが【恋愛】
殴り書き書店
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人生最大のミス

公開日時: 2021年8月5日(木) 00:20
文字数:2,440

「くっそっ!!いっ~~~てぇぇぇぇぇなぁぁぁ~~~……!!」


一瞬の出来事に、何が起こったのか全く理解出来ず、只、頭を押さえてアホみたいに転がり続けた。


それでも尚、そんな俺をあざ笑うかの様に電話は鳴り続けている。



「ったく!!何所の誰だよ!!休みの日ぐらい、ゆっくりさせろってぇの」


文句を口から垂れ流しながらも、嫌々、鳴り続ける忌々しい受話器を乱暴に取りあげる。


だが、電話口の先から聞こえてきた声の主は、思いも寄らない意外な人物からの電話だった。



「はいっ!!もしもし氷村ですけど。どなたですか?」

「もしもし、あぁ~~~、龍斗くん?憶えてる?井上のおばちゃんやけど?元気やった?」


井上のおばちゃん?

何処の井上だよ、ったく!!


頭の痛さから、イマイチ状況把握が出来ないまま、苛立ちが隠せない。



「あの~~~、失礼ですが。どちらの井上さんでしょうか?」

「なに言ってんのよ、龍斗君!!私よ私、ほら、近所の歩美のお母さん」


近所の歩美のお母さん?


って、歩美のお母さんじゃん!!


「あっ!!なんだ、おばさんじゃないかぁ。久し振り!!元気してたぁ~?所で、今日はどうしたん?」

「休みの日に、ごめんねぇ。実はね、うちの馬鹿娘が今日誕生日なのよ」


―――あぁなるほど、なるほど。


突然、なんの要件かと思ったら。

おばちゃん所の馬鹿娘が誕生日なんだぁ~~~。


そりゃあメデタイから、プレゼントの1つも持って行かにゃあならんな。



っておい!!

井上さん家のバカ娘って言えば、俺の彼女の事じゃないか!!


その俺の彼女の誕生日って事は……


しっ、しまった!!

これはまた、とんでもなく致命的なミスをしてしまったもんだ!!

自分の彼女の誕生日を忘れるなんて、俺はトコトンおマヌケさんだな。


そんな重要な事を、なに平然と忘れてるんだよ俺は!!


……あぁ、そう言う事か。

漸く、これで、今日の休みの謎と、親父の意図が読めたぞ。


大体、意味も無く、気の利く親父が、俺に無駄な休みなんてくれる訳ないじゃないか。



けど……クソ~!!あのアホ親父!!

それならそうと、もっと早く言えよな!!


なに考えてんだよ!!



「それでね。お祝をするんだけど。歩美が、どうしても、龍斗君に来て欲しいって、うるさくて、困ってんのよ」


おばさんは饒舌に話をすすめる。


その頃、後ろでは、歩美とおぼしき人間が、何やら怒鳴っていた。



「ちょっと、お母さん!!誰も、そんな事は言ってないでしょ!!ベっ、別に龍斗なんか、来れなかったら、来れないで、良いんだからね」


相変わらず素直じゃない歩美には、何故か安心した。

アイツは国民的なアイドルには成ったが、何も変わってないバカチンのままだ。


いや寧ろ、変わり様のないバカチンの様だ。



「あぁ~~~と、何時から始めるんですか?」

「一応ね。お父さんが帰って来たら誕生会を始めようと思ってるんだけど。それが大体8時位からになると思うわよ。どぉ、龍斗君は時間ある?」

「あっ、あぁ~~~、その時間帯なら、多分、大丈夫だと思うんで。お邪魔させてもらいます」

「じゃあ、8時くらいに家の方に来て貰えるかしら?」

「わかりました……じゃあ、またあとで」


誕生会に呼ばれて嬉しい反面、重大な問題が生じた。


プレゼントも、クソも、なにも買っていない!!


こりゃあ、どうしたもんかな?


……なんて、まどろんでも仕方がないか。

改めて、思考回路をフル回転させて、今後の事を考えるしかない様だ。


―――まずは、簡単に出来る事から始めよう。

こう言う場合だからこそ、無理しても仕方が無いからな。


なら、最初にどうするべきだ?


単純に考えるなら、まずはベタに『花』が良いだろう。

花を貰って喜ばない女性は、少ないという統計もある事だしな。


そんな訳で、受話器を即座にとり。

光速の速さでプシュを押し、俺が贔屓にしている花屋に電話を入れて、10.000円位の花束を注文した。


そして、花束の届く指定時間としてはPM7:30にしておいた。


こうする事によって。

恐らくは、俺が歩美の誕生日を完璧に忘れていた事に、アイツは気付くまい。


っで。

次に大事な事は本命のプレゼントの選択だ。


これが無いと始まらないし、それこそ買って無い事がバレたら、あの地獄のチョップで殺される。


だが、俺は間抜けではあるが、そこまで究極的な間抜けな訳じゃない。


此処で俺は、とある知り合いの服屋に電話を入れ。

前々から、歩美が欲しがっていたと思われる『冬用のコ-ト』を、実家まで持って来てくれる様に頼む為だ。


夏前に、冬物と思われるかもしれないが、勿論、これにはれっきとした意味が有る。

夏直前生まれの歩美の為に、今年の冬用に、前もって買って置いたと、言い訳する為だ。


う~ん、この当たりは、とても中学生とは思えない完璧な俺!!


…………ありがとう!!いつもTVで気の利く男を演じてる人。

アナタのお陰で、俺は窮地を脱する事が出来た。


***


 アホな1人ボケ・ツッコミを入れてる間に商品が届く。

勿論、店員の人には、無理を言って持って来て貰ったので『すいません助かりました。オーナーによろしく言っといて下さい。必ず、この借りは、お返しますんで』と、だけ付け加えて置いた。



「さてさて、これでなんとか、完璧に誤魔化しきれそうだな」


時間を見るとPM7:40。


家が近いだけに、今から出掛けるとしたら、やや早いが。

このままの勢いで歩美の家に行った方が、気持ちが先行したみたいに見えて、良いかも知れないな。


そんな結論に至った俺は。

普段通りの服のまま、愛車のチャリンコに跨がって、歩美の家を目指してペダルを踏み始めた。


『それにしても、梅雨前と言っても、暗くなるのも早いもんだなぁ』とかクダラナイ思考を巡らせながらも。

久し振りに、ゆっくりと見た様な気がする『見慣れた周りの景色を眺め』ながら、足に力を込めて自転車を走らせた。


普通なら、これだけ聞くと『風が気持ち良い』なんて事を言うんだろうが、実際は、生暖かいだけだ。


―――6月の湿気って、ホントやだよなぁ。


そうしている内に、井上邸が見えて来た。

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