●前回のおさらい●
繭を家に呼ぶと言う方向で決定した2人。
その時間までの、ほんの少しの2人だけの時間。
あの後、2人で遅い朝食をとってリビングで寛いでいた。
本当の事を言えば、こんな風にゆっくりしてる暇なんてないんだけど。
実は私には既に、龍斗に話した以外にも、繭に対する対応策を考え付いている。
これは多分、女であれば、誰でも思い付く方法だ。
でも、残念ながら、龍斗に依存しきっているコッチの歩美では、恐らくは、この案は思いつかないかもしれない。
彼女は、私と同じで『龍斗に好かれたい&嫌われたくない』が行動原理。
それが故に、龍斗と繭との関係にも目を瞑った節があるしね。
でも、今の私には、そんな蟠りは微塵もない。
何故なら、私自身が死に直面して、そんな事を考えるのも烏滸がましい様な1度死んでしまっているも同然の状態だからだ。
それに、この龍斗は、私の好きな龍斗ではない。
これは正確な言い方ではないのかもしれないが、この表現で強ち間違っていない筈。
それに彼も、私が好きな訳ではなく。
この体の、本当の持ち主である歩美が好きな筈だ。
だから、お互いにそこまで深い関係には成り得ない。
それ故に、私は、ある種の開放感がある。
絶対に普段なら有った『龍斗と言う呪縛』が一切無いのだ。
変な言い方をすれば、好き勝手言える立場な訳で、相手もそれを認識している。
だからこそ、私はこうやって寛いでいられる訳だ。
それに、この私の思考も、この体の持つ主である彼女に伝わっている。
なので安心して、いつでも入れ替わってくれても構わない。
コッチの歩美も、その辺は、良く理解している筈だ。
「なぁ、所で歩美B」
「なによ、そのBって」
「いや、なんて言って良いのか解かんねぇからさぁ。取り敢えずBって感じで」
「Bねぇ。なんかセンスないね……んでなに?」
「いやな。ズッと気に成ってたんだが……そっちの俺って、どんな奴なんだ?」
「コッチの龍斗?」
「おぅ」
なにか気に成る節があったのか、こっちの龍斗は、徐にそんな質問をしてきた。
「パーフェクト超人」
「俺よりか?」
「うん。妥協しない。無駄な遊びはしない。真面目。成績優秀。運動神経バッチリ。計画にハズレ無し。不言実行。情けない顔はしない。ハッキリ言って化け物だよ、アイツは……まぁ顔と、私を好きでいてくれるのだけは、アンタと同じだけどね」
「なんかすげぇんだな、そっちの俺って」
「まぁね。だからアンタも、そうやって精進して、コッチの歩美を大事にしてあげてね」
「あぁ……しかし、なんで、そんな完璧な奴が、お前を死なせる様な真似をしたんだ?」
「誰だって、人間なんだから隙ぐらい出来るよ。偶々それが、その時だったってだけなんじゃない」
「なんか納得出来無い答えだな。俺なら歩美の事で、絶対そんな下手は撃たない」
「解んないよぉ~。だって、私が言うまで繭の事も気付いてなかったでしょ……その可能性は、私達サイドよりも高いと思うよ」
「あぁそっか、確かにな」
あらら……凹んじゃった。
それにしても、なんかコッチの龍斗って可愛いな。
完璧には近い状態ではあるんだけど、どこか抜けてる様な感じがしてならない。
コッチのお母さんの下着を見た時も、鼻血を噴き出す様な失態を演じてたしね……(笑)
「まぁ男だったら、普通、気付かないから。こう言うのって、女特有の性質だしね」
「それって、フォローしてくれてるのか?」
「半分はね。でも、半分は忠告。女の子は扱いを間違うと豪い目に会うよ、ってね。だから、これからは、そういうのにも気をつけてね」
「ご忠告痛み入ります」
「クスッ。なによそれ?おかしい」
「なんでだよ?」
「だって、向こうの龍斗……絶対に、そんな事は言わないもん」
「そっか……じゃあ俺も、ソイツを目標にして頑張るよ」
「良いと思うよ。そう言うの」
流石、龍斗。
どっちも悪い所は、直ぐに反省して。
逆に良い所は、直ぐに自分に取り入れようとする。
この辺だけは、無駄な位にそっくりなんだけどね。
そんな感じで、此処から更に歓談が続きつつも、やがて、コチラ側の2人の運命が左右される繭との会合の夜になった。
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