●前回のおさらい●
歩美ちゃんの口から齎された『真犯人』の正体。
だが此処では、龍斗との意見が合わずに、少しだけ口論になってしまう。
なので、お互いのクールダウンを図る為に、少し休憩を挟む事になった。
「ところで龍斗、話の途中で悪いんだけど、少し喉が渇かない?さっきは無駄にエキサイトしちゃったしね」
「えっ?……あっ、うん」
話の流れが急に変わった事に、龍斗は対応しきれずにいる。
此処で少し解った事なんだけど。
龍斗って、一見すると何でも出来る様に見えたけど、意外と自分の思惑と外れた事象に成ると少し弱いんだね。
こんな姿、初めて見た。
でも、これってコッチの龍斗だけなのかなぁ?
私の知ってる龍斗は、どんなに自分の思惑から外れても、対応してきたもんね。
同じだと思ってたけど、意外と違いが有るのかも。
私は、そんな事を思いながら、勝手に飲み物を入れて戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「あぁ……ありがとう。悪いな」
声は出すけど、コッチの龍斗は、完全に頭を抱えてる。
「情けないなぁ」
「えっ?何がだよ」
「うん?アッチの龍斗は、そんな情けない顔を、私に見せた事なんて無いよ。同じ龍斗ならシッカリしなさいよ」
「そんな事を言われても、俺は、俺でしかないんだぞ」
「だったら、今からシッカリして。私は、どの世界であっても基本的に馬鹿なんだから。アンタがシッカリしないと、結婚したら家庭崩壊するわよ」
「家庭崩壊って……」
「別に、そこまで考えてないんだったら良いんだけどね。……でも、男なら、簡単に女に弱い所なんか見せちゃダメだよ。もっと意地を張りなさいよ。格好をつけるのが信条。それが氷村龍斗ってもんでしょ」
「ぷっ……ほんとだよな。確かに、その通りだ」
「うん、それで良いの。それでこそ龍斗だよ」
「ありがとう歩美。惚れ直したよ」
「だからダメだって。今の私は、コッチの歩美じゃないんだから、そういうの浮気とみなすよ。コッチの歩美だけを見てあげてて欲しいな……ふふっ、なんてね」
これで少しは場が和んだ。
これで良い。
これで龍斗も冷静になれる筈。
本人も、自分の顔をバシッっと叩いて気合を入れ直した様子。
「さて、どうしたもんかな」
「提案ならあるよ」
「ほんとか?」
「うん。でも、かなり危険性を孕むし。この体は、私のものじゃないから、この意見自体なんとも言えないんだけどね。それに龍斗に何か有っても、コッチの歩美に申し訳が立たない」
「因みに、どう言う提案なんだよ?」
「繭を、此処に呼ぶ……ただそれだけ」
私の答えは、最初から出ていた。
こうなる事は予想出来たし。
繭に直接、話をするのが、今の時点では一番手っ取り早い。
但し、先程も言った様に、それには、それ相応の危険が付き纏う。
『今の繭の心理状態が解らない』
これが最大のネック。
それだけに、なんとも言えない状況だ。
でも、これ以上の提案を、今の私は持ち合わせていない
「いや、それ……どう考えても、危険だろ」
「うん。多分、危険だろうね。でも、これ以外の解消法は、恐らく、そんなに多く存在しない」
「確かにな」
「でも、この体は、先刻言った通り、私のものではないの。だから決定権がない」
「じゃあ逆に、俺が1人で行くって言うのは、どうだ?」
悪くない。
話の経過を考えたら、提案としては悪くない。
龍斗が1人で行けば、私が居ない以上、龍斗自身守るものがないし、女1人の攻撃力なんか高々知れている。
それになにより龍斗は、そう言った事に慣れている。
気さえ抜かなければ、なんて事はない話だ。
だから決して、この話は、悪い話ではない。
でも……
「悪くはないけど。多分、コッチの歩美は、話を聞いてる以上、納得しないでしょうね」
「話を聞いてるだって?」
「うん。これは私の推測でしかないんだけど。私が、この体に入るまで、私自身が、そんな状態で、コッチの歩美の心理状態も解る位だったもん。だから多分、この意見は間違ってないと思うよ」
「そっか……困ったな。勝手が出来無い以上、無茶も出来無いか」
「うん、ごめんね。私が入っちゃったバッカリに、話がややこしくなって」
「悪ぃ。別に、お前を攻めてる訳じゃないんだぞ」
「うん。大丈夫。解ってるよ」
助ける為に体を借りて、足枷になってたら意味がない。
なにやってんだろ私?
「でもな。1つだけ解ってる事が有るんだ」
「うん?」
「お前が、そう思ってるんなら。アイツも、そう思ってると思うんだが……どうかな?」
「理屈ではね。でも『本人が直接関われない』って言うのは、女の子としては、ちょっと無理があるかな。多分、私がそうだったら、そう思うから」
「それじゃあ袋小路だな」
「うぅん。そうでも無いよ。今日1日だけ2人で何もせず、様子を見て。明日改めて2人で話し合ってみたらどうかな?問題はハッキリ定義されてるんだし」
「その言い分だと、明日には、お前は、もぅ居ないって事か?」
「多分ね」
そう言いながらも。
私は、この時、2つ、自分が卑怯な事を言ってるのに気が付いた。
1つは『この一件を、自分の責任にしたくない事』
そしてもう1つは『この少し意思の弱い龍斗と、一緒に居たいだけなのではないか』と、考え始めていた。
体を失ってなお、厚かましい話だ。
なら、どうしたら良い?
行動にも出れず、何も言えなくなっていた。
「どうしたんだよ?顔色悪いぞ?」
「あっうん。ごめん。なんでもない」
「お前、本当に大丈夫か?」
「うん……多分」
私は今、何の為に、この体に居るんだろ?
これじゃあ、現実逃避をしてるだけで意味がない。
きっと、このまま居たんじゃ。
折角、神様がくれた、このチャンスを逃すだけだ。
ならば、四の五の考えず、行動に移すのが吉。
その為に、私は此処に居るんだから!!
「……ねぇ。ヤッパリ、繭を呼んで貰って良いかな?」
「なんだよ。どうしたんだ急に?」
「コッチの歩美には悪いけど。この一件、私がケリをつける」
「オイオイ、なんで又、急にそう思ったんだ?」
「私が、コッチに居る理由が、ハッキリ解っちゃったから」
「理由?」
「うん。私の方が、今のコッチの歩美より、繭に対応出来るから居るんじゃないかな」
こんなのは、ただの自分の思い込み。
主導権を返せるものなら。
今直ぐにでも、この世界の歩美に返すつもりだけど、今現時点で返せない。
なら、私が対応するのが好ましい。
それに私は、何所まで行っても私だ。
コッチとかアッチとか、ややこしい事を考えても仕方がない。
今の主導権は、私なんだから!!
「判断しかねるな」
言うと思った。
やっぱりコッチの龍斗は、少し優柔不断だ。
「うん。じゃあ聞くけど。龍斗って、そんなに私に甘えたっけ?いつも私が甘えるばかりだったんじゃないかな?」
「確かにな。けど、それだけじゃあな」
「だったら、どうするの?戻った歩美と解決出来るの?」
「いや、そうかも知れ無いけど。一概に、そうだとも言えんだろ」
「じゃあ、戻った私を守る方法を言ってみてよ。私は、もう1人の自分が死ぬのを見るのも、アンタの悲しい顔を見るのも御免だよ」
「……あぁそうだな。確かに、お前の言う通りかもしれないな。俺に、お前以上の代案が無い以上、考えても埒が明かない。けど、なにがあっても、俺が、お前を守ってやる。俺だって、お前みたいに生意気な歩美のまま死なれたら、堪ったものじゃからな」
「クスッ。だよね。ほんと……そうだよね」
「そんな、お前も好きだけどな」
「浮気しないの」
「だな」
取り敢えずではあったが、話は纏まった。
それで龍斗は、直ぐに行動に移し。
繭にメールを送って呼び出す事に成功。
まぁ命令を聞くって話だったから、多分、大丈夫だとは思ったけどね。
ただ、問題が有ったのは、彼女の来る時間だ。
仕事から抜け出せずに、夜になると言う事だった。
時間までどうしよう?
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